※この作品はR-18です。

ありふれっ!   作:ゲーマーN

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第19話 オルクス大迷宮(2)

 一行は二十階層を探索する。

 

 迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てをマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが通常である。

 もっとも、現在では四十七階層までは完全に探索されているので迷うことはない。

 

 二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のように氷柱状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先に進むと二十一階層への階段があるらしい。

 そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。神代の魔法の一つである転移魔法のような便利なものは現代には無いので、また地道に帰らなければならない。その転移魔法を当たり前のように使用できる問題児が4人もいるのは密に、密に。

 

 一行は、若干、弛緩した空気の中、迫り出す壁のせいで横列を組めないので縦列を組み、今回の最終目的地である階段に向けて歩みを進める。

 すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が急に立ち止まる。他の生徒達が訝しむのを尻目に光輝達は戦闘態勢に入る。その様子を見て、他の生徒達も事の次第を悟った。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

 メルド団長の忠告が飛ぶ。

 その直後、前方で迫り出していた壁が突如として動き出した。壁と同化していた体は褐色となり、屈強な二本の足で立ち上がる。そして、両腕で胸をウホウホと叩き出した。

 ドラミングである。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 柔よく剛を制す。ロックマウントの豪腕を永山重吾が柔軟な体捌きで受け流す。光輝と大介が追撃するため取り囲もうとするが、足場が悪いせいで思うように囲むことができない。

 重吾の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がると仰け反りながら大きく息を吸った。

 

 直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアア―――!!」

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぬぅっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「なぁっ!?」

 

 体にビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。

 ロックマウントの固有魔法”威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 まんまと咆哮を浴びた光輝達前衛組は硬直してしまう。

 

 ロックマウントはその隙に突撃するかと思えば、傍らにあった岩を持ち上げ、動けない前衛組を無視して後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで!

 天職”結界師”を持つ谷口鈴が一歩前に出ると、魔法陣が施された杖を迫りくる岩に向けた。

 

 しかし、結界術を発動しようとした瞬間、鈴は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

 何と、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて鈴へと迫る。その姿は、まるで怪盗紳士を祖父に持つ神出鬼没の大泥棒のようだ。

 何処からか「す~ずちゅわ~ん」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。鈴は思わず、「ヒィ!」と悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

「私のダチに何してくれるのよ!」

 

 影を身に纏い、生徒達の間を縫うように瞬間移動と見紛うばかりの超高速度の移動(メルゼナワープ)で飛び出した恵里が、ダイブ中のロックマウントの顔面に自らの拳を叩きつけた。

 鈴は、「あ、ありがとう」と感謝の言葉を口にしたものの、ロックマウントの姿が余程気持ち悪かったようで青褪めた顔をしていた。

 そんな様子を見て怒りに震える若者が一人。正義と善意の勇者、天之河光輝である。

 

「貴様……よくも鈴を……許さない!」

 

 どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。

 女の子を怯えさせるなんて! と何とも微妙な点で怒りを露わにする光輝。純白の魔力が噴き上がり、それに呼応するように聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ、”天翔閃”!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろす。

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が地を這い空を裂く極太の斬撃となって放たれた。

 曲線を描く光の斬撃は僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断して、そのまま奥の壁を破壊したところでようやくその輝きを消失させた。

 

「ふぅ~」

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。

 光輝は息を吐き、イケメンスマイルで鈴達へ振り返る。そして、「鈴達を怯えさせた魔物は俺が倒した。もう大丈夫だ!」と声をかけようとして。

 

「へぶぅ!?」

 

 青筋の浮かぶ笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を脳天に食らった。

 

「この馬鹿者が。気持ちは分かるがな、こんなところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

「うっ……す、すみません」

 

 メルド団長のお叱りに声を詰まらせた光輝は、バツが悪そうに謝罪の言葉を口にする。

 すると、後衛の3人が寄ってきて苦笑いしながら光輝のことを慰める。

 

「うーん、ゴブリン退治の依頼を受けた時のことを思い出すなあ……」

 

「あー、エレミアのアンデッドが洞窟を壊したアレか」

 

「……懐かしいのう。あのアンデッド、大きすぎて天井を崩しておったわい」

 

「そこの3人! あれは貴方達が攻撃の加減を間違えたせいでしょうが!」

 

 その光景を見て、前世のやらかしを思い出した4人は互いに責任転嫁を繰り返す。

 友情の美しさである。優花は頭痛を堪えるように片手で額を抑えつつ、もう片方の手にどこからかいつものお盆を取り出した。

 

「それ、あんた達の全員が原因でしょうが!」

 

 バコーン、と気持ちのいい音が響き渡り、4人の問題児は地面に沈み込んだ。

 

 

 

 その時、ふと雫が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かしら? キラキラしてるけど……」

 

 その言葉に、全員が雫の指差す方へ目を向けた。

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。

 雫を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 メルド団長曰く、グランツ鉱石とは宝石の原石のようなものである。

 特に何か特殊な能力を秘めている訳ではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族の御婦人御令嬢方に大人気であり、指輪等のアクセサリーに加工して贈り物にすると大変喜ばれるらしい。

 求婚の際に選ばれる宝石としてもトップスリーに入るそうだ。

 

「素敵……」

 

 雫が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりする。そして、誰にも気付かれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。

 もっとも、トラブルメーカーズの3人と香織、優花、そしてもう一人だけ気が付いていたが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って、唐突に動き出したのは大介だった。

 グランツ鉱石に向けて、崩れた壁をヒョイヒョイと登っていく。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 それに慌てたメルド団長が声を上げるが、大介は聞こえないフリをして壁を登っていく。

 そして、とうとうグランツ鉱石の場所へ辿り着いてしまった。

 メルド団長は、止めようと大介を追いかける。それと同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

 しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 大介がグランツ鉱石に触れた瞬間、グランツ鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。

 美味しい話には裏がある。世の常である。

 

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり輝きを増していく。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

 部屋の中に光が満ち、一行の視界を白一色に染める。と同時に、一瞬の浮遊感が彼等を襲った。

 一行は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 尻の痛みに呻き声を上げながら、生徒の一人が周囲を見渡した。クラスメイトの殆どは彼と同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、問題児四人組、光輝達など一部の前衛組の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

 どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能なことを平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 一行が転移した場所は、ざっと百メートルはありそうな巨大な石造りの橋の上だった。

 橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっている。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

 橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。

 生徒達はその巨大な橋の中程にいた。

 橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら生徒達に指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、生徒達はワタワタと動き出す。

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済ませるわけもなく、撤退は叶わなかった。

 

 階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。

 更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

 その巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻くような呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……?」

 

 そして、それを見守っていたハジメの反応はと言うと。

 

「うっひゃー、コイツはでっかいな! すっげー、見ろよ、恐竜だぜ恐竜!」

 

 これである。

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