※この作品はR-18です。

ありふれっ!   作:ゲーマーN

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第1章:元救世の英雄一行、オルクス大迷宮を攻略する
第2話 勇者召喚(誘拐)


 気が付けば、生徒達は巨大な広間の最奥にある台座のような場所の上に立っていた。

 素材は大理石かなにかだろうか。美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物の中のようだ。

 美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。

 

 生徒達は周囲を呆然と見渡す。

 どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようだ。

 全く理解の及ばない現象に殆どの生徒が困惑する中、はしゃぐバカが一人。

 

「おおーっ、すげー! まさに召喚の間って感じだなっ!」

 

 前世に続き、今生でも異世界転移を経験することになったハジメは、大聖堂という言葉が自然と思い浮かぶような荘厳な雰囲気の広間に大興奮だった。

 

「余が保証する。貴様は頭がおかしい。これは明らかに厄介事だぞ」

 

 馬鹿に付ける薬はない、とはまさにこのことだろう。

 或いは、馬鹿は死んでも治らない。

 一度、天命を全うして安らかな死を迎えたはずなのに前世から何一つとして変わらない。

 遠藤康介は、そんな前世からの仲間の姿に呆れの色を隠せない。

 

「同意だわ。ヤリチン、貴方イカれてるわよ。こんな悪趣味なものを目の前に興奮できるなんて」

 

「俺の名前はハジメだ。ヤリチンじゃない。それと悪趣味なものって……?」

 

「あれよ、あれ」

 

 恵里が指差したのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い、長い金髪を靡かせて、薄っすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

 背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むように、その人物は両手を広げている。

 

「支配者然としたあの面が気に入らないわ」

 

 どうにも恵里はこの壁画が気に入らないようだった。より正確に言うと、壁画に描かれた人物のことが気に入らないようだった。

 恐らくは目の前にこの人物がいれば、何も考えずに全力で殴りかかることだろう。

 それほどの不快感を、恵里は、目の前にある壁画に描かれた謎の人物から感じ取っていた。

 

「それより、じゃ。まずは……そこにいる者達を気にするべきではないかのう」

 

 龍太郎は台座の周囲を取り囲む者達に視線を向けた。

 少なくとも三十人の人々が、生徒達の立っている台座の前で祈りを捧げるように跪いている。

 それも、両手を胸の前で組んだ格好で。

 

 彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い、傍らに錫杖のような物を置いている。

 その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。

 

 その内の一人。

 法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチはありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 もっとも、老人と表現するには強すぎる覇気を纏っていたが。

 顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

 

 そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音で生徒達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

 

 

 

 こんな場所では落ち着くこともできないだろうと、彼は混乱覚めやらぬ生徒達を促し、落ち着ける場所――幾つもの長テーブルと椅子が置かれた別の広間へと誘った。

 案内されたその広間も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだとわかる。

 上座に近い方に愛子先生と光輝が座り、後はその取り巻きが適当に座っている。

 

「ほう、中々の部屋ではないか」

 

「ま、確かに、こんな部屋は(今生では)映画の中でしか見たことがないわね」

 

 当然、問題児たちは正反対の下座の方に座っていた。

 その傍には、白崎香織・八重樫雫・園部優花といった交友関係を持つ面々が揃っている。

 

 この異常事態に平然と会話をしているのはこの問題児達くらいのものだ。

 それ以外の生徒は未だ現実が追いついていないのか、案内されるがまま椅子に腰を下ろしていく。

 もっとも、生徒達が誰も大して騒がなかったのは、イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせたことも理由だろう。

 教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。

 

「お、おー……!」

 

 全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさんが入ってきた。

 そう、生メイドである!

 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。

 正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!

 

「あーあ、ヤリチンが反応したわ。女と見たらすぐ手を出す、その悪癖をいい加減に直しなさいよ」

 

「う、うっせーやい! 二人共、責任は……というか、二人にしか手を出してないやい!」

 

「その、二人にしか手を出してない、って思考がほんとヤリチンよね」

 

「……ぐぬぬ……」

 

 前世、何十股もかけた下半身ヒュドラ状態と比べれば、確かに二股程度ならまだ常識の範疇と言えるかもしれないが、それでも二股をかけている時点で十分にヤリチンである。

 なお、男子生徒の大半がメイドさんを凝視していたので、今回の件に限ってはハジメだけが責められるような話ではない。実際、飽くなき探究心と欲望のままに活動する男子生徒を見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していた。

 

「さて、あなた方におかれましてはさぞ混乱されていることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し出した。

 

 

 

 この世界、トータスには大きく分けて三つの種族がある。

 人間族、魔人族、亜人族。人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと暮らしているらしい。

 

 この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に対して人間族は数で対抗していたそうだ。

 数と質、人間族と魔人族の戦力は拮抗している。そのため大規模な戦争はここ数十年起きていないが、ここ最近、異常事態が多発していた。それが、魔人族による魔物の使役だ。

 

 魔物とは、通常の野生生物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。

 この世界の人々にも正確な魔物の生体は分かっていないらしい。

 それぞれ強力な種族固有の魔法を使用できる、厄介で凶悪な害獣とのことだ。

 

 今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんどいなかった。

 使役することができたとしても、精々が一、二匹程度。その常識が覆されたのである。

 これの意味するところは、人間族側の”数”というアドバンテージが崩れたということ。

 つまり、人間族は滅びの危機を迎えていた。

 

 

 

「あなた方を召喚したのは”エヒト様”です。

 我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。

 おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。

 それを回避するためにあなた方を喚ばれた。この世界よりも上位の世界の人間であるあなた方は、この世界の人間よりも優れた力を有しているのです」

 

 そこで一度言葉を切ったイシュタルは、「神託で伝えられた受け売りですがな」と表情を崩しながら言葉を続けた。

 

「あなた方には是非その力を発揮し、”エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我等人間族を救って頂きたい」

 

 イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

 彼によれば、人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位につくらしい。

 老翁の恍惚な表情という気色悪いものを見せられた恵里がうげえと視線を逸らすと、その先で難しい表情をするハジメという世にも珍しい光景に出会し目を丸くする。

 

「どうしたのよ? いつもなら、すっげーお約束じゃん! とか言って騒ぐのに」

 

「うーん。お約束はお約束なんだけどさ。今回のはかなり面倒臭いパターンっぽいんだよなー」

 

「うむ、これは余にもわかる。かなり厄介なパターンだぞ、これは」

 

「やれやれ、これは面倒事になりそうじゃのう」

 

 遠藤康介。地球世界に転生した彼は、厨二病を極めると同時に創作物の理解を深めていた。

 それ故、今回の異世界召喚がかなりの厄介事であることをいち早く認識していた。

 恵里と龍太郎が揃って、面倒なことになったぞ、という顔をする。

 

「ふざけないでください!」

 

 突然、愛子先生が立ち上がると猛然と抗議の声を上げた。

 

「結局、この子達に戦争させようってことでしょ!

 そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ!

 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです!

 あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。

 百四十センチ程の低身長に童顔。ボブカットの髪。所謂、合法ロリというやつである。

 生徒のためにとあくせく走り回る姿は何とも微笑ましく、その何時でも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒も多い。

 

 生徒達からは”愛ちゃん”の愛称で親しまれているが、本人はその名前で呼ばれると直ぐに怒りの声を上げる。本人曰く、威厳ある教師を目指しているとのこと。

 

 今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。

 ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場に静寂が満ちる。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!」

 

 愛子先生が叫ぶ。

 

「先程言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。

 我々があの場にいたのは、単に勇者様方を出迎えるためと、エヒト様への祈りを捧げるため。

 人間に異世界へ干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」

 

「そ、そんな……」

 

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。

 周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

 

「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

 

「なんで、なんで、なんで……」

 

 パニックになる生徒達。

 で、問題児の4人はというと。

 

「見よ、これが常識的な反応というものだ。異世界ひゃっほう! と喜んでいる貴様はイカれてる」

 

「えー。だって、異世界だぜ? どんなワクワクする冒険ができるか楽しみじゃん」

 

「ないわ。エリザとミランダのことを思い出しなさいよ。普通は家族と引き離されたことを泣き喚くに決まってるじゃない」

 

「うむ。満場一致でハジメがおかしいということで決定じゃな」

 

 シリアスな空気が家出をしていた。こいつら、本当に空気が読めない連中である。

 他の生徒達が狼狽える中で、当たり前のように騒いでいる。

 

 イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。

 しかし、優花はその目の奥に侮蔑の感情が込められているのを確かに感じ取っていた。

 海千山千の怪物を相手にしてきた元エルフの姫君の目は誤魔化せない。

 なお、ここで相手にしてきた怪物とは、貴族などではなく醸造所の酒造主である。

 

 未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。

 その音にビクッとなり注目する生徒達。

 光輝は全員の注目が集まったのを確認すると徐ろに話し出した。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。

 ……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。

 それを知って、放っておくなんて俺にはできない。

 それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。

 ……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから明日からが漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。

 ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。

 俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる」

 

 ギュッと握り拳を作り、そう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

 

 同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。

 絶望の表情だった生徒達が活気を取り戻す。彼等の光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。

 女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

「……はあ。台詞だけなら、そこのボンクラよりも余っ程勇者っぽいんだけど……」

 

 ただ一人、優花だけは光輝に冷めた眼差しを向けていた。

 下半身はだらしがない。直ぐに鼻の下を伸ばす。何も考えていないただのアホではあるが。

 それでも、本当に世界の救済を成し遂げた勇者を知っている身としては。

 天之河光輝という人間が、世界を救うという偉業を成し遂げるとはとても思えなかった。

 

 とはいえ、他の生徒達にとっては深淵に宿る一筋の光そのもので。

 当然の流れというように光輝の言葉に賛同していく。

 愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前には無力だった。

 

 結局、生徒達は全員で戦争に参加することになるのだった。

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