※この作品はR-18です。

ありふれっ!   作:ゲーマーN

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これが第1章の最終話となります。次回より、第2章に突入します。

ユエの口調を三百年前のモノに訂正しました。


第29話 吸血姫の追憶(1)

 地下空間の奥の壁は一面が滝になっている。

 翌日、トラブルメーカーズの四人が転移魔法で地下空間を後にするのを見送ったリリーは、滝の傍特有の清涼な風を全身で受けながら、魔法のトリガーと共に右手を振り払った。

 

「――”波城(はじょう)”。――”風壁(ふうへき)”」

 

 すると、滝と滝壺の水が、紅海に於けるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。

 高圧縮した水の壁を作る水属性魔法”波城”と風属性魔法の”風壁”である。

 魔力も無限ではないので、早々に、滝壺から奥に続く洞穴のような場所へ踏み込んだ。

 

「ふふっ、久々にいい報告をすることが出来そうだ」

 

 洞窟の左右の壁には、等間隔で緑光石が埋め込まれているので視界に困ることはない。

 迷宮上層のように整備された、しかし縦横三メートル程のそれほど広くはない通路を真っ直ぐに進んでいくと、天井の高さが五メートルくらいのドーム状の広場に出た。

 その広場には二枚の石碑が立っている。石碑の前には花束が置かれており、リリーはその花束を取り除くと、新しい花束をまずは左の石碑の前に置いた。

 

 その石碑には、

 

《解放者 オスカー・オルクス ここに眠る》

 

 と記されていた。

 

 そう、この石碑は三姉妹が用意したオスカー・オルクスの墓石である。

 初めて彼女達がこの空間を訪れた時、オスカーの骸は三階の部屋の椅子の上に座していた。

 既に白骨化した状態の彼は、黒に金の刺繍が施された見事なローブを纏っていた。

 そのローブが、記録映像の中の彼が着ていたものと同じものであったため、彼女達はその骸の主こそがオスカー・オルクスであると察することができた。

 尤も、この空間を最初に訪れた時は、叔父の指示で、リリーのみで此処までやって来たのだが。

 

 この七大迷宮が一つ――【オルクス大迷宮】を攻略した切欠。

 

 三百年前。三姉妹は国の内外から畏敬の念を込めて”王域三姫/王域三鬼”と呼ばれていた。

 

 吸血鬼族――他者の血を取り込むことで、身体を強化し、魔力を増幅させ、尋常ならざる回復能力を発揮し、寿命すら伸ばす特殊な種族。

 全種族の中で最も少数でありながら、その力は破格。吸血というおぞましい行為と相まって、誰もが畏怖の念を抱かざるを得ない。故に、小国ながら”小さな鬼神の国”と呼ばれていた。同時に、彼の国を支配した国こそ世界の支配者となれる……と考えられたのも、また必然の流れだった。

 そんな、誰からも畏れられ、誰からも欲望を向けられる国の王女こそ、この地下空間に暮らす三姉妹のかつての姿だった。

 

 当時から三姉妹は他と一線を画す規格外の能力を持っていた。鬼神の国――アヴァタールに於いて、否、その時代に於いて”最強”と称されるほどに。

 生まれた時より充溢していた魔力。幼くとも他国にまで轟く絶世の美貌。魔法でも知識でも、教えれば教えた分だけ吸収していく天賦の才能。

 

 極めつけは下の双子が十二歳の時に発現した幾つもの異常にして反則級の力。

 詠唱せずとも、魔力を直接操作できる能力。

 魔法陣をイメージのみで構築できる能力。

 そして、魔力がある限り不死身の肉体を与える固有魔法”自動再生”と、彼女達の存在そのものが王域に或ると証明する固有魔法”王域血統”。

 それはまさに、書物にのみ記される伝説級の力。遥か昔に生きた英雄達の如き、選ばれた者のみが有する能力だった。

 

 時は、騒乱の時代である。宗教、経済、資源、果ては種族の矜持などといったありとあらゆる理由が人々を闘争に駆り立てていた。大国小国が入り乱れ自国の台頭を狙っていた。

 吸血鬼族の国は元より閉鎖的な国。鎖国状態と言っても過言ではない。南大陸の最南西端の小国であり、自給自足で十分に国を回せる。

 つまり、大陸の動乱など「そんなに殺し合いが好きなら勝手にやってろ。うちは何一つ不自由していない。巻き込むな!」が、国の方針だった。

 

 とはいえ、先の理由にて侵攻は避けられない。吸血鬼族は、そして当代の王女達は、それだけ魅力的だったのだ。

 であるならば、王女達の尋常ならざる力を祖国防衛に使わない理由などない。

 王家の責務として。何より、王女達自身の愛する祖国と民、信頼する臣下に対する”守りたい”という意志において。

 終わらぬ戦争の中、圧倒的な力で祖国を防衛し続けた功績は国の内外から凄まじい名声と畏敬の念を集めた。その結果、二十二歳の若さでリリーは女王として戴冠することになる。

 

 十七歳の時から戦場に立ち続けた。人の死が蔓延る場所に立ち続けた。戦場の憎悪や怨嗟を存分に受けて、僅か五年後には国を支える支柱になった。

 普通の少女なら、心を病んでもおかしくない。当代最強の一角として、民から向けられる異常なまでの期待に、その重圧に、押し潰されてもおかしくなかった。

 それでも耐えて、戦い続けたのは、全て祖国を愛するが故。大切な人達の、家族のため。

 信頼できる家臣や宰相であった叔父の助けもあり、彼女達は国のために己の全てを賭けて自国を守り抜いてきた。そのまま守り抜けると、そう、信じていた。

 

 しかし……

 

 戴冠式の日、叔父が苦々しい表情を見せたのに気が付いたリリーは、叔父を秘密裏に呼び出すことにした。そして、叔父が自分達と距離を置こうとしている理由を聞き出そうとした。

 叔父がリリーの質問に答えることはなかった。それでも強引に事情を聞こうとすれば、叔父は【オルクス大迷宮】の完全攻略を、事情を話す条件として告げた。

 リリーは、単独で【オルクス大迷宮】を攻略して――そこで、この世界の真実を知った。

 

「叔父様、貴方は言いましたね。『曇天は晴れる。夜は明ける。永遠に続く闇などない。必ず、君達が自由と平和を掴み取る日が訪れる』、と。ようやく、その時が来たみたいです」

 

 もう一つの墓石、そこには彼女達の叔父の名が刻まれている。 

 

《ディンリード・ガルディア・ウェスペリティオ・アヴァタール 安らかにここに眠る》

 

 あの日、白銀の剣に胸を貫かれながらも叔父が遺した最期の言葉は彼女達の胸に刻まれている。

 神の使徒の軍勢を前に敗走を強いられた三姉妹を守るために、我が身を盾にした叔父の姿は今でも思い出すことができる。

 三百年……三百年だ。ようやく、自分達の未来を脅かす邪神に立ち向かう準備ができた。

 

 覚悟なら、三百年前のあの日からもうできている。

 

 リリーは、何となしに天井を見上げた。その先に、待ちわびた英雄達を思い描きながら。

 そして、静かに、けれど多大な熱と祈りを込めて、

 

「ボク達の、そしてこの世界の未来が、自由な意志の下にあらんことを……」

 

 そう、呟いた。

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