「昔話はこの辺りにして……それで、冒険に行くって具体的にはどうするつもりなのよ?」
「前にも言ったと思うけど【ハルツィナ樹海】に行くつもりだな」
「伝手はあるの? 樹海では、亜人族以外は必ず迷うって話だったわよね?」
雫の言う通り、【ハルツィナ樹海】は充満する濃霧により、亜人族以外では感覚を狂わされてしまい必ず迷うと言われているため、亜人族の案内が無ければまともに活動できる場所ではない。
一応、樹海に行く時には声をかけるようリリーに言われているので、彼女達には樹海を迷わず進むための対策があるのだろうが、前世を考えると全面的に信用することは出来ない。主に、何処ぞの青鬼様がラシル島でやらかしたことが原因で。
「伝手ならそこにいるじゃん!」
「え?」
全員の視線が、ハジメの指差す方向に集中する。
その先には頬をピクピクと引き攣らせ、自分の事を指差す優花の姿があった。
「私……?」
「優花なら行けると思うんだよな! ほら、優花の天職って”妖精姫”らしさ!」
園部優花。その前世は聖なるネメドの森のエルフ。王家第三王女という割と高貴な身分である。
前世がステータスにも影響したのか、優花の天職は”妖精姫”という特殊なもの。
元
普段の姿には神秘性の欠片もないが、彼女の前世は紛うことなきエルフの姫だったのだから。
「なるほどね、確かに優花なら【ハルツィナ樹海】でも普通に活動できそうだわ」
「うむ、余も同意見だ。ここは優花の力を借りるべきであろうな。……ここであのババアを頼っては、大笑いで樹海を焼き払いかねんからな。流石にそんな暴挙を見過ごすわけにはいかん」
康介のその言葉に、優花は思わず前世の故郷に伝わる恐怖の魔女伝説を思い出す。
子供の姿をした恐ろしき魔女が歯向かうエルフの戦士を薙ぎ払い、凄絶な笑みを浮かべて数多の族長達が放つ魔法をも吹き飛ばした。
この世界の同胞にまで、そんな悲劇を経験させる訳にはいかないと正義感が燃え上がる。
「はぁ……仕方ないわね。私もその樹海とやらに行くのに付き合ってあげるわよ」
というわけで、トラブルメーカーズの四人と優花、そしてキリカは転移魔法でオルクス大迷宮の最下層に移動したのだが、そこで待っていたのは金色の髪を靡かせる奇矯な少女だった。
「おや、愛しい人じゃないか! やっと、ボクに会いに来てくれたんだね……ああ、キミに会えない日々に、か弱いボクは胸が張り裂けんばかり……!」
「十日前に会ったばかりじゃろ!」
「お姉様がか弱い……? 流石にそれは冗談にしてもキツすぎます」
「はぁ、二人共辛辣だね。ボクだって、恋する乙女なんだよ?」
長女リリー・クラインの「か弱いボク」という表現に下の双子がツッコミを入れる。
下の双子は、リリーが世界最高硬度の鉱物であるアザンチウム鉱石を素材とした武装を使用しており、それを己の怪力で何度も壊していることを知っていた。
事情を知らないキリカは、見た目は可愛らしい美少女のリリーを擁護しようとするが、彼女の背負ったウォーハンマーを見て「あれっ?」と思った。確かに、か弱い乙女の使う武器ではない。
「久しぶりね、リリーさん。また貴女に会えて嬉しいわ」
「うん? おやキミは……もしやリーゼかい?」
「ええ、今の名前は園部優花よ。リリーさんは……相変わらずその調子なのね」
「当然さ! ボクはいつも、このボクだよ。ありのままの自分さ!」
旧知の友人と言葉を交わす。そして、六人目の客人へと視線を向けたリリーは、
「初めまして、嫋やかな人よ! ああ、それにしても、なんて凛々しくて美しい人なのだろう!
その輝く赤い髪、嫋やかで優美な立ち姿は――陳腐なようだが、薔薇の花のようだね」
何処からかすっと薔薇の花束を差し出し、まるで舞台役者のように気障な台詞でナンパした。
まさか、いきなり口説かれるとは思ってもなかったキリカは思考が停止してしまう。
「えーっと……」
「おっと、自己紹介がまだだったね。ボクはリリー・クライン。しがない吸血鬼の冒険者だよ。
そこの二人はユエとルウィ。ボクの双子の妹で、同じ冒険者仲間なんだ」
「ユエと申します。……ごめんなさい。お姉様のこれは、病気か何かと思っていただければ……」
「……驚かせてすまん。ルウィじゃ、よろしく頼む。リリーや、わしでも、あの挨拶はナシじゃと思うぞ」
「えー。今のは自信があったんだけどなあ……孤高の薔薇のような美女の心も、一瞬で溶かす決め台詞! だと思ったんだけど」
「いきなりあんな風に褒められたら、誰だって不審者かナンパ野郎だと思うのじゃ!」
最初は唖然とした様子のキリカだったが、直にその表情は苦笑いへと移り変わる。
「ハジメの知り合いって本当に個性的な人が多いよね」
「あ、アハハ……うん、それは否定出来ないかも」
むしろ、個性の暴力と言っても過言ではない。
トラブルメーカーズの四人を筆頭に、園部優花、白崎香織と前世持ちは言うに及ばず。
前世持ちではない八重樫雫に天之河光輝と、地球組だけでも十分に個性豊かだ。
これにトータスの面々が加われば、もはやソシャゲのキャラクター並に個性の大渋滞である。
「えー、おかしいなあ。康介、今の口上、そんなにダメだったかな?」
「そんなことはない!! 素晴らしいセンスであったぞ! 流石は余の好敵手だ……!」
「クソ坊主を当てにするのは止めるのじゃ。こやつ、暗黒大陸でも変人の部類じゃぞ」
「うーん。ボク達のセンスに、まだ時代が追いついてないんだね。
康介……やはり先駆者として、ボク達が時代を牽引するくらいの意気込みがないと……!」
「うむ。暗黒大陸の良き文化をこの世界にも広めねば……!」
「変なところで燃えなくていいのじゃよ……」
気炎を上げる厨二病二人を背後に、はぁ、と疲れたように溜息を吐くルウィ。
やけに老成した仕草だが、その姿は十二歳程の可憐な少女。そして、先程の自己紹介にあった”吸血鬼”というワードに、ライトノベル愛好家のキリカはピンと来るものがあった。
「もしかして……本物のロリババア?」
「そのまさかさ!」
「流石は異世界だね。まさか、ロリババアが実在するなんて……」
賢者ルウィ・クライン。水色の髪をボリューム豊かに伸ばした、その姿は。
年頃12歳くらいの女の子。しかしてその正体は齢300歳を超える神秘のロリババア。
合法ロリは見慣れているが、ロリババアを見るのはこれが初めて。
流石にハジメほど露骨ではないものの、奇跡の存在を目の当たりにしたキリカは、この世界に来てから何度目かになる、深い感動に打ち震えていた。
「ロリは嬉しいのじゃが……ババアは止めてくれぬかのう」
「あ、ごめんなさい。えーっと……」
「ルウィじゃが」
「いや、そうじゃなくて。名前分かんないとかじゃなくて。
ルウィさんだとしっくり来ないかなって。なんて呼べばいいだろう?」
「うーむ、『プリティ魔法少女☆ルウィちゃん』はどうじゃ?」
「それはちょっと」
「なんでなのじゃーーーーー!?」
ルウィからの無茶な要求を苦笑いで拒否するキリカ。彼女はNOと言える日本人だった。
「んー、でも……ルウィちゃんか。うん、ルウィちゃん、でどうかな?」
「むぅ……仕方あるまい。それで妥協するかのう」
「これからよろしく。私は報生キリカ。そこの五人と一緒に召喚された異世界人の一人だよ」
「ほほう! 道理でハジメ坊主と似たところがあると思ったわ! 召喚で来た客人か!」
「どちらかというと拉致被害者って感じかな? 一方的に召喚されたわけだし」
「……なるほどのう。そなたも、あの光の神の被害者というわけか」
神に故郷を奪われた、という意味では、ルウィとキリカの境遇にそう大差は存在していない。
片や、種族諸共に故郷を滅ぼされた。
片や、世界諸共に故郷から引き離された。
後者の方が、まだ故郷が存在するだけマシに見えるかもしれない。
しかし、転移魔法すら逸失している世界で、元の世界に帰る/別の世界に行く方法を見つけられる可能性がどれほど存在するだろうか。
実質的に、世界ごと故郷を奪われたと言っても間違いではない状況にキリカはあるのだ。
その事実は、同じ神の被害者としてルウィが共感するに十分な理由であった。
「キリカよ。もしそなたが大変な目に遭った時は、全身全霊を尽くすことを我が真名に誓おう」
「真名? もしかして、本当の名前が別にあるとか?」
「うむ。わしの真の名はアリューシャ・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール。きちんと覚えておくのじゃぞ?」
そう言って、ルウィ――否、アリューシャは、キリカにニコリと微笑みかけるのだった。
通名:ルウィ・クライン
本名:アリューシャ・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール
前世:ルウィ
天職:賢者
特記事項:固有魔法”自動再生”を所有
特記事項:固有魔法”王域血統”を所有
特記事項:王域三姫/王域三鬼/吸血姫三姉妹の一人