※この作品はR-18です。

ありふれっ!   作:ゲーマーN

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第42話 トラブルメーカーズ、冒険に出る(3)

 亜人族の国【フェアベルゲン】を深部に抱える【ハルツィナ樹海】。

 その外縁と平原の境界から馬車で数時間のところに、周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町が存在している。

 街道に面した場所に木製の門があり、その傍には門番の詰所らしき小屋が見える。

 町の方から目視できない程度の距離の場所に、金青色の魔力光と共に九つの人影が姿を表した。

 

「ふいー、到着到着……って、ここ樹海じゃないじゃん!」

 

「ハルツィナ樹海は広いからね。今日は、この町で食料とかの準備をしておこうと思ってね」

 

「あ、余は納得。この世界の魔物は食べることが出来ぬからな」

 

「あー、そうじゃった。それなら、樹海に入る前に十分な食料を確保しておかぬとのう」

 

 納得の表情で頷く康介。龍太郎も、直ぐにこの場所に転移した意図を理解した。

 前世では、無駄に食料を持ち歩かずとも魔物(ジビエ肉)の方から来てくれた。しかし、この世界の魔物は食用にはならない。故に、十分な食料を持ち歩く必要がある。

 幸いなことに彼等には”宝物庫”がある。九人分の食料を持ち歩いても何の苦にもならない。

 

「……お金は大丈夫なの?」

 

「ご安心を。これでも金ランク冒険者なので財力には余裕がありますから」

 

「私達も迷宮攻略の報奨金があるから問題ないわ」

 

「……このボンクラ共。本当に、実力だけはあるのよね。すんごい馬鹿なのに」

 

 金銭の心配をするキリカに、金ランク冒険者のユエと恵里が自信に満ちた表情で答える。

 【オルクス大迷宮】を完全攻略したトラブルメーカーズは報奨金として、王国と教会から人ひとりが一生をかけても使い切れないほどの金銭を受け取っている。

 そのため、九人分の食糧費程度では彼等の財布に痛痒を与えることはできない。

 

「では、行くとするかのう。なに、この面子ならば数分もあれば町に着くじゃろ」

 

 この場にいる面々は世界最高峰の実力者ばかりである。ステータス表記がエラーを起こすトラブルメーカーズの四人と吸血姫二人は言うに及ばず、この中で最もステータスが低いキリカですら敏捷のステータスに関しては王国最強の騎士メルド・ロギンスを超えている。

 そんな彼等の移動速度が遅いはずもなく、数分後には無事に門の前まで辿り着いた。

 案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身に付けているだけで、兵士と言うよりは冒険者に見える。その冒険者風の男が町に入ろうとする一行を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを……」

 

 門番の男はステータスプレートの提出を求めようとして、一行に視線を向ける。そして、先頭に立つリリーの顔を見ると……見事に硬直した。

 みるみると顔を真っ赤に染め上げ、ボーッと焦点の合わない目でリリーの顔を見つめる。口を開くと変人以外の何者でもないが、喋らなければ可憐で儚い妖精の如き美少女である。つまり、門番の男はリリーに見惚れて正気を失っているのだ。

 

「ごほんっ! ステータスプレートの確認でいいのかな?」

 

 リリーはわざとらしく咳払いをすると懐からステータスプレートを取り出した。それを見て、ハッと正気を取り戻した門番の男は、慌ててリリーのステータスプレートをチェックした。

 そして、プレートに記されたある情報を目にした門番の男は驚愕のあまりに目を見開いた。

 

「き、”金”の冒険者!?」

 

 冒険者ランク”金”。それはつまり、冒険者の中でも最上位の実力者であることを意味する。

 目の前の女の子がただの美少女ではなく、自分では足下にも及ばない格上であることを理解させられた門番の男は、それに注目するばかりにその違和感に気付くことはなかった。

 ステータスプレートには、ステータスの数値と技能を隠蔽する機能が存在している。冒険者等の戦闘を生業とする者にとって、戦闘能力の情報漏洩は致命傷に成りかねないからだ。しかし、その機能では年齢やレベル等の情報を隠蔽することはできない。

 エラー表示のレベルは言うまでもなく、普通の人間族では有り得ない年齢も他の人間には見せる訳にはいかない。なので、プレートを人指し指と中指で持つことでその部分を隠しつつ、”金”に注目させることで違和感を覚えさせないという手法をリリーは取っていた。

 

「し、失礼しました! それで皆さんがこの町に来た目的はなんでしょうか?」

 

「食料の補給がメインだよ。明日には、この町を出発する予定さ」

 

「……分かりました。それでは、他の皆さんもステータスプレートの提出をお願いします」

 

 その後も女性陣に見惚れるというアクシデントを起こしつつも、門番の男は全員分のステータスプレートを確認すると通門許可を出してくれた。見た目だけは美少女揃いの女性陣と行動を共にする三人の野郎に、羨望と嫉妬の入り混じった視線が向けられたが、鈍感勇者と愉快な仲間達がそれに気付くことはなかった。

 

 門のところで確認したが、この町の名前は【ブルック】と言うらしい。

 町中は、それなりに活気があった。二週間ほど前に訪れたオルクス近郊の町【ホルアド】ほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 こういう騒がしさは訳もなく気分を高揚させるものだ。特に、ホルアドを訪れた際は露店を見て回る暇がなく、王都以外の町を観光するのが初めてのキリカは、どこかワクワクテカテカとした雰囲気で彼方此方に視線を向けている。

 

「これが異世界の町なんだ……凄いなあ。やっぱり、私のいた所とは全然違うよ」

 

「ほう、そうなのか?」

 

「うん。私達のいた世界は、こんなに露店が並ぶのはお祭りくらいだからね」

 

「文化の違い、というものじゃな。うーむ、益々そなたの世界のことが気になってきたのじゃ」

 

「それなら、私達が元の世界に帰る時に一緒に来る?」

 

「なぬ!? よ、よいのか?」

 

 瞳に期待の色を宿す幼女の姿は、まるで母親に玩具を買ってもらった幼子のようだった。周囲を歩く御婦人の方々は、そんなルウィに微笑ましそうな目を向けている。

 

「ま、この世界と行き来する方法を見つけたらの話だけど」

 

「ふーむ……異世界と行き来する方法、か……」

 

「何か当てはない?」

 

「なくはないが……わしに、その方法を作り出すことができるかは難しいところじゃな」

 

「そっか……でも、完全に不可能ってわけじゃないんだ」

 

「うむ。異世界に移動するのが不可能ではないのはそなたらが証明しておるからの」

 

 むー、と腕組をして考え込むルウィ。

 見た目は小学生高学年の女の子。クリクリお目々が可愛らしいロリっ娘だ。それが如何にも『魔法使い』という、身の丈ほどの杖を背負う姿は、とてもファンタジー。

 だが、そんなファンタジーを目の前にして苦虫を何十匹も噛み潰したような顔をする男がいた。

 

「ぬぬう……あの凶悪ババアが、元の世界に付いてくるつもりとは……」

 

「まー落ち着け康介。ほら、ルウィだって何の理由もなく暴力を振るうわけじゃないしさ」

 

「そうね。王都でも普通に暮らしてたわけだし」

 

「ぶっちゃけ、酔っ払うと痛いポエムを歌い出す康介の方が傍迷惑じゃろ?」

 

「ぬぬっ、余の渾身の傑作に何という評価……やはり、天才とは理解されぬものなのか」

 

 そんな風に仲良くメインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。毎日のように見ている冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

 

 リリーは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

 ギルドは荒くれ者達の場所というイメージから、キリカは、勝手に薄汚れた場所だろうと想像していたのだが、実際のところ意外にも清潔さが保たれた場所だった。

 入口正面にカウンターがあり、左の方にはフードコートのような飲食スペースがある。何人かの冒険者らしき者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰一人酒を注文していないところからすると、元々、酒は置いてないのかもしれない。

 

 一行がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない集団ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線が恵里やリリー達に向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。

 中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーッと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

 

 テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったキリカだったが、これまた意外に理性的で観察するに留めているようで、少しだけ拍子抜けしてしまう。

 

 カウンターには大変魅力的な笑みを浮かべた……オバチャンがいた。恰幅がいい。横幅が吸血姫の双子を合わせたくらいはある。どうやら全ての受付嬢が美人というわけではないらしい。

 ニコニコと人好きのする笑みを浮かべたオバチャンは、吸血姫三姉妹の姿に気付くと僅かに驚いたような顔になった。

 

「おや、随分と懐かしい顔じゃないかい」

 

「やあ、聡明な人! こんなところで会うとは奇遇だね。そうだ、これも運命だと思って、久しぶりにボクとお茶でもどうかな?」

 

「その直ぐに女を口説くところも変わらないね」

 

「そういうキャサリンは……少し、太ましくなったんじゃないかい?」

 

「やっぱり、そう思うかい? あたしもちょっと幸せ太りしたからねぇ。いい加減に少しは痩せた方がいいかもしれないね」

 

 オバチャンと談笑するリリーに冒険者達の驚愕の視線が突き刺さる。その表情が、「あの少女、何者だ!?」と、彼等の心境を何よりも雄弁に物語っていた。

 

「それで一緒にいる六人は何者だい?」

 

「わしらはトラブルメーカーズ! 王都で今、一番ヒップな冒険者パーティーなのじゃ!」

 

「トラブルメーカーズ……なるほどね、噂に聞く例のパーティーかい」

 

 どうやら【オルクス大迷宮】を攻略したという情報はこの町にも届いているようだ。龍太郎の名乗りを耳にした冒険者達がにわかに騒がしくなる。

 

「それで、冒険者ギルドには何のようだい?」

 

「この町の地図が欲しくてね。トラブルメーカーズの皆はこの町に来るのが初めてだからさ」

 

「そういうことかい。なら、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。

 地球でも見かけそうな観光地にあるパンフレットのようだ。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。

 

「ありがとう。流石は”書士”の天職持ちだね。これだけで十分にお金を稼げるんじゃないかい?」

 

「そんな大したものじゃないよ。趣味で書いただけの落書きみたいなものさ」

 

 このオバチャン、天職を持っているらしい。地図の出来を見るにかなり優秀な人材だ。この人、なんでこんな辺境のギルドで受付をしてるのだろう? と疑問が湧く程度には、優秀なオバチャンだった。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。

 

「そんなことより、金はあるんだから、少しはいいところに泊まりなよ。治安が悪いわけじゃないけど、あんたたちならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

 オバチャンは気配り上手のいい人だった。リリーは苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとルウィも頭を下げて追従する。

 食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後まで一行を目で追っていた。

 

「……あれが、トラブルメーカーズ。【オルクス大迷宮】を攻略したという冒険者かい……ふむ、色んな意味で面白そうな連中だね」

 

 後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。

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