戦闘系天職、と一口に言ってもその種類は多岐に渡る。
魔法職に分類されるものだけでも、”炎術師”、”風術師”、”水術師”、”土術師”、”光術師”、”闇術師”等の各属性を得意とする天職が存在しており、更にその派生として”治癒師”、”結界師”、”降霊術師”、”付与術師”と言った特定分野の専門職に枝分かれする。
それ以外の戦闘職に関しては、これはもう、本当に数え切れない程の種類が存在している。大抵の武器には対応する天職が存在しており、更にその派生天職が複数存在している。
流石に、その全ての天職に対応する教官を用意することは不可能だ。愛子の”作農師”は下位互換の天職持ちが指導を担当すればいいが、光輝の”勇者”に関してはその下位互換を用意することすら不可能である。
そのため、生徒達は運用する武器種ごとに指導を受けるという形で別れることになった。勇者として聖剣に選ばれた光輝は、”剣士”の雫と共に剣の指導を受けることになる。
「まずは初心者向けの訓練からだ。そこの木剣、好きなものを取ってこい」
「「「「「はい!」」」」」
「よし、お前達。いいか、実は斬るっていうのはかなりの技術がいる。”剣術”の技能が多少は補助してくれるが、技術の有無で天と地の差が出る。それに比べりゃ、ぶっ叩くのはシンプルだし、誰がやったって効果がある。だからまずは、ぶっ叩くことから覚えるんだ」
現代日本では、競技としての剣道を経験したことのある者はそれなりにいるだろうが、相手を斬るための技術である剣術を身に付けている者は滅多に存在しない。それが西洋剣術となれば、尚更である。
そのため、メルド団長は剣術の基礎中の基礎から生徒達に叩き込むことにした。
「よし、最初は光輝だ。そこの藁人形をぶっ叩いてみろ。気を付けろよ、結構腕に響くからな。まずは、その反動に慣れることからだ」
「分かりました!」
光輝は木剣を大上段に構えると、力の限り藁人形に木剣を振り下ろす。
「おお! 流石は勇者様だ! まさか、いきなり藁人形を叩き切るとはな!」
「あはは、それほどでも……」
一刀両断。光輝の一閃は、藁人形を真っ二つに両断した。
それは、”剣術”の技能があるからと容易に出来るようなことではない。日本にいた頃から剣術道場で剣術の腕を磨いていたことと、”剛力”により強化された筋力があってこその結果だ。
まさに、勇者伝説の始まりを告げるに相応しい偉業と言ってもいいだろう。メルド団長の称賛の言葉は心からのものであり、それを受けた光輝は照れたように頬を掻く。
「次は雫だ! 準備はいいか?」
「大丈夫です」
光輝と入れ替わるように前に出た雫は、両手で光輝と同じ型の木剣を握り込む。
しかし、やはりその感触に違和感を覚えずにはいられない。彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、彼女自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。
その剣術道場で扱うのは西洋剣ではなく日本刀であり、西洋剣の形状をしている木剣は、絶妙に彼女の手に馴染まない。
故に、
「疾ッ!」
雫の剣閃が藁人形を断ち切ることはなかった。剣術技能の後押しもあり、藁人形の半ばまで刀身を食い込ませたものの、それ以上は進まずに反動が腕に返ってくる。
予想以上の反動に眉根を寄せた雫は、しかしそのまま木剣を藁人形から引き抜いた。
「今の太刀筋は……雫、もしや剣術の心得があるのか?」
「はい。使用する刀剣の種類は違いますが……」
「道理で違和感を覚えるわけだ。ならば、お前の剣術に合わせた得物を用意するべきだな」
「いいんですか?」
「ああ、知り合いの”錬成師”を紹介しよう」
「錬成師?」
「ああ、鍛冶職のことだ。アイツなら注文通りの武器を作ってくれるはずだ」
錬成師とは、この世界に於ける鍛冶職のことである。鍛冶を生業とする者の十人に一人はこの天職を所有しており、国お抱えの職人は全員がこの錬成師である。
錬成師は”錬成”という特殊な技能・魔法を使用することが可能であり、この”錬成”は鉱物の変形や圧縮、分離、融合等の加工をすることができる。土属性の魔法のように地面を直接操作することはできないが、加工や造形のような繊細な作業をするのに”錬成”以上の魔法はない。
「ありがとうございます」
後日、雫はメルド団長の紹介でこの国の筆頭鍛冶師と対面することになる。
最初は、”神の使徒”の一人である雫を前に畏まっていた彼は、しかし日本刀の話を聞いた途端に態度を豹変させ、雫の肩を掴みかからんばかりの勢いで怒涛の質問をしてくるのだが。
それはまた別のお話。
ファンタジー世界の夜は早い。
庶民は日が沈んだら眠る、という生活だ。現代の日本人が適応するのは難しい世界である。
幸い、王宮ともなれば魔石を使ったライトが据えられていた。ネットもゲームもないが、本は山ほどあるので、それを読み漁るのが前世で確立した異世界での夜更かし方法である。
現在、ハジメが読んでいるのはこの世界の魔法について記された魔導書の一冊である。
トータスに於ける魔法とは、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。
基本的に、人類には魔力を直接操作することは不可能であり、発動する魔法の効果に合わせて正しく魔法陣を構築する必要がある。
そして、詠唱の長さに比例して流し込める魔力の量は多くなり、その量に応じるように威力や効果も上がっていく。
また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる。それは必然的に魔法陣自体も大きくなるということに繋がる。
例えば、RPG等で定番の”火球”を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になる。
基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていくことになる。
しかし、この原則にも例外がある。それが魔法適性だ。
魔法適性とは、文字通り、魔法を発動するための適性のことである。
上記の例の場合、火属性に適性があれば、式に属性を書き込む必要が無くなり、その分魔法陣を小さくすることができる。
この式の省略はイメージによって補完される。式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加されるのである。
因みに、魔法陣には一般的に二つの種類が存在している。
特殊な紙に魔法陣を描く使い捨てタイプと、鉱石に魔法陣を刻み込む繰り返しタイプの二つだ。
前者は、バリエーションは豊かになるが一回の使い捨てで威力が下がる。
後者は嵩張るので種類は持てないが、何度でも使えて威力も十全というメリットがある。イシュタル達神官が持っていた錫杖は此方のタイプだ。
前世では、転移早々に既存の魔法体系を魔改造してオレオレ魔法を作り上げたハジメも、この世界の魔法体系には興味津々だった。
転移魔法等の前世の世界では使用者のいた魔法がこの世界では神代に失われた魔法であったり、逆にこの世界では一般的な魔法が前世では構築困難な魔法であったり。こんなところでも世界観の相違というものが浮き彫りになっていた。
例えば、この世界には水属性の中級魔法に”破断”という魔法が存在している。この魔法は空気中の水分を超圧縮して、ウォーターカッターとして撃ち放つというものだ。
しかし、前世の世界ではウォーターカッターは暗黒大陸の賢者以外に使い手の存在しない失伝魔法の一つであった。前世のハジメも開発に着手したことはあるのだが、どうしても拡散してしまうために独力では術式を完成させることができなかった。
実は、高校でも成績は学年上位に入る優秀な頭脳を持つハジメは頭をフル回転させていた。
この世界の魔法をそのまま自分のものにするだけでなく、前世の魔法体系の知識と合わせてより高威力・高効率の術式を構築していく。
今、彼の脳内は常人には理解できない数字や記号で満たされている。それこそ、その内の一つでも公表すれば、公に表彰されるような術式が幾つも浮かんでいる。
トントン
しかし、その思考は扉をノックする音によって阻まれることになる。
昨日一昨日と魅力的な女性と逢瀬を交わしたハジメは、今夜はリリアーナかな? それともヘリーナかな? と胸と股間を膨らませそうになり。
「南雲君、起きてる? 雫よ。ちょっと、いいかしら?」
予想外の訪問者に硬直したものの、直ぐに彼女を迎え入れるために扉へ向かう。
そして、鍵を外して扉を開けるとそこには、可愛らしいピンク色のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの雫が立っていた。
股間が、膨らんだ。