今回の敵の侵攻では前線へ出撃を命じられた艦娘の内、通常の戦闘以外に出たことのない艦娘が多かった。
つまり、乱戦や長期戦などを経験したことが無い者たちのほうが多かったのだ。
そして…
一番今回の戦闘で混乱を招いたのが、艦娘の深海棲艦化だった。
前線では負の感情が渦巻く。
そして、艦娘側は経験の浅いものからどんどんと海辺姿を消していった。
もはやどちらのものか分からない臓器や艤装の破片が海に浮かび、赤黒い血液が海を彩る。
雲まで赤く染まり、死臭が濃い。
生きている艦娘でさえ、気を抜くと意識が引きずり込まれそうだった。
目の前で妹や姉を貪り食われた者。
守れなかった後悔を持つ者。
戦闘に絶望し、自我を喪失する者。
普通に死ねた艦娘の方が運がいいほどだった。
元々、艦娘の深海棲艦化は十数年ほど前から報告されていた。
しかし、実際に目で見るとそれは…壮絶だった。
先程まで話していた艦娘が上半身をふっ飛ばされて沈んだ。
はずだった…
海中から手が伸びてきて私を引きずり込もうとする。
もがきながら見ると、先程死んだはずの艦娘が赤く光る目をして笑っていた。
突如浮上してきた腹部に穴の空いた艦娘に攻撃された。
妹が急に私を狙って攻撃してきた。
と、多くの混乱を招いた。
元々前線に勤務していた私を含める艦娘の精鋭たちは見慣れた光景だったが、やはり経験の無い者たちには厳しかったようだ。
「敵の機動部隊を潰します。数名ついてきて下さい。」
そう言いながら近づいてくる堕ちた艦娘の頭を容赦なく撃ち抜く。
その光景に一人の艦娘が声を上げた。
「何で…殺したの…ですか…」
「何故?冗談を。あれは敵です。殺さなければ…死ぬのは貴方ですよ…?」
そういいつつ歯を噛みしめる。
私だって仲間を殺したいわけではなかった。
しかし、引き金を引かなければ更に多くの仲間、そして私自身も死ぬ。
生きるために撃つしかなかったのだ。
数十年前の記憶が蘇る。
私の目の前に深海棲艦化しつつも、かろうじて意識のある死にかけた妹がいた。
妹は手を伸ばし私に、助けを求めていた。
しかし私は…
最愛の姉を自らの手にかけた。
あの時の姉の歪んだ、苦しそうで憎悪に満ちた表情は今でも忘れない。忘れたくなかった。
あれから何人も殺した。
自分には敵だと正当化した。
誰かに自分を許してほしい。
自分勝手な望みだ。
戦闘中に何を考えているんだ私は…
矢継ぎ早に入る通信に現実へと引き戻された。
しかし、通信は勝利ではなく敗北を告げるものばかりだった。
突如、姫級と対峙していた艦隊より通信が入った。
「アラタナ姫級ヲカクニン、至急増援ヲオクラレタシ」
更にその姫級が増援を大量に連れてきたことにより、艦娘側に絶望の雰囲気がながれた。
しかし立ち止まってはいられなかった。
私は前へと進んだ。
一つ一つ確実に潰す。
まずはあの機動部隊からだ。
乱戦において航空攻撃は圧倒的に優位なため最初に敵も味方も航空母艦が狙われる。
これ以上被害を出さないためにも優先的に倒さなければならなかった。
数名が私に着いてきた。
多くは戦闘歴の浅い者だったが、皆何かを守るために必死なようだった。
あまり手こずるような相手ではないはずだが、私は早々に息切れし始め、体に違和感を覚えた。
なんとか連携で倒すことはできたが、私の中で不安が大きくなった。
と、同時に笑いがこみ上げてきた。
あれだけ死んだほうが良かったなどと考えていたが結局死ぬのは怖い。
自分はただの強がりをいっていた臆病者だったのだ。
無数の敵の奥に見たことがない姫が現れた。
新型だ。
今の私達の数では倒せない。増援を呼ぶべきだった。
だか、何故か私は自分の身体に鞭打って立ち上がり砲身を敵に向けた。
やってやろうじゃないか。
臆病者、いや、死に損ないの底力見せてやろう。
薄く微笑んだ私は大量の敵艦隊へと歩み始めた。
まぁあともう少し死にます