最近忙しすぎてすぐ寝たので…
暗闇の中から声がする。
私を呼んでいる。
段々と近づいてくる「それ」は私の足を掴む。
そして
引きずられ、黒い何かが私を包み込もうとする。
あぁ、また私は夢を見ている。
気づくと暗闇の中で一人立っていた私は思った。
この夢は前線基地で姉たちが死んでから見始めた。
最初は怖くて夜眠れなかった。
前線基地の提督から指輪を貰ったときからずっと見てなかった夢だ。
だが、今日の夢はいつもの夢とは少し違った。
何かが声を出しながら近づいてきたのだ。
最初は小さくて聞こえなかったが段々と大きくなり、はっきりと聞こえるようになった。
それは姉だった。
いや、姉ではない。
姉の形をした何かは
「お前のせいだ…お前のせいで…お前も…」
と念仏のようにつぶやきながら何も写っていない虚ろな目をこちらへ向けていた。
それと同時に姉の死に顔が目の前に浮かぶ。
私は耳を塞ぎしゃがみこんだ。
足を掴まれた。
引きずられる。
何かが心を蝕んでくる。
「やめて!」
私は叫んだ。
でも通じるわけがない。
必死に抵抗した。
だが、徐々に力が入らなくなっていき、もうそろそろ力尽きようとした時、後ろから光が差した。
次の瞬間私は目を覚ました。
ここが医務室だと気づくのに少し時間がかかった。
そうか…私は倒れて…
横には提督が手を握りながら寝ていた。
呆然としていると、明石さんが医務室のドアを開けて入ってきた。
「あ!目を覚ましましたか?大丈夫ですか?」
「はい…大丈夫です…」
「それと、大本営へは連絡しておきましたから安心して休んでくださいね!」
「ありがとございます…すいません…あの…」
「ん?」
「なぜ提督が私の手を握って…」
「貴方が、とても魘されてたからよ。大丈夫?凄く辛そうだったけど…」
「はい…もう大丈夫だと思います…」
私はあんなに酷いことをしてしまったのに、彼は私を見捨てず救ってくた…
私は…
謝らなければならない。
そして起きたらちゃんと向かい合って話そう。私のことを。
私の背負ったものも。
そして…姉とも…
また疲れが襲ってきた。
深い海へと沈み込んでいくように私は眠りへと落ちていった。
今度は、ぐっすりと眠ることができるような気がした。
カーテンから差し込む日が顔に当たり、私は目を覚ました。
08:00ー
いつもとは違い、賑やかな鎮守府に私は違和感を覚えた。
明石さんは居ない…
ひとまず外に出てみる。
室内から室内に移動しただけだったが、何故かとても新鮮に。
いつもより視界がはっきりとしていた。
執務室の前まで来た。
この通路では誰とも出会わなかったが、執務室の中からは大勢の声がした。
入りづらく感じた私はその場を立ち去ろうとした。
その時、思わず脇に転がっていた清掃用のバケツを蹴って大きな音がなってしまった。
自分でも驚いた私は急いでその場をあとにした。
特に行く宛も無く、鎮守府の敷地内の岬へと向かった。
ここは、私が来たときからのお気に入りの場所だった。
心が、落ち着く。
林の中の上り坂の小道を数分歩く。
前方の林の木々の間から光が見えてきた。
もう少しだ。
やっと登りきれた。
しかし今日は先客がいた。
見ない顔だ。
階級は私より上のようだ。
こちらを振り返った。
さっと敬礼をする。
向こうも敬礼を返してくれた。
「君は会議に出なくてもいいのかい?」
「はい。呼ばれてませんのでおそらく。」
「そうか。」
それだけ言ってまた海の方へと視線を戻した。
何となく私も横に立って海を見る。
「綺麗だよな。海は。いつまで経っても変わらない。」
はい、と返しつつも気になったことを聞いてみる。
「貴方は…会議に出席されなくても?」
「あぁ。君の提督が今回の演習の企画者だからね。今は出席する艦娘たちへの説明さ。」
「見た感じ、全員があそこに居ましたがどのくらいの規模で行うんでしょうか…?」
少し驚いたような顔をしていた。
「聞いてないのかい?全国の合同演習だよ。」
今度は私が驚く番だった。
「な…先程目覚めたばかりなもので…」
「そうか。君が例の娘か。」
そう言って彼は腕時計を見た。
「そろそろ時間だ。私は戻るよ。会えて良かったよ。それと、金剛が宜しくだとさ。」
そう言って颯爽と立ち去っていく。
私は驚きのあまり暫く目を見開いたまま動けなかった。
「金剛…」
何故あの人がこの名前を…
そして…宜しくとは…
あの人は死んだと聞いた。
まさか…
まだ生きて…?
私は走り出した。
かすかな期待を胸に。
忙しすぎて遅れました…