日曜日の午前中。
私・黒鉄武蔵は現場の引き継ぎを済ませ、我が家…海神警備・岩川台営業所に帰還するため、地下鉄を利用していた。
目的の駅までは40分程。
その間、スマホをいじっていても良かったかもしれなかったが、私は車内を観察することにした。
…と言っても、私のいた車両は客の姿も疎らだったし、観察するものと言えば車内広告ぐらいしかなかったのだが…。
しかし、ふと左隣を見ると、高校生ぐらいの若い男が、スマホで動画を視聴していていた。
その動画は…所謂「ハメ撮り動画」というやつだった。
こんな場所で…とも思ったが、よく見ると、動画内で女とまぐわっている男には見覚えがあった。
先月の半ば頃だったか、私とセックスした行きずりの男だった。
確か…猿田だったか、猿畑だったか、そんな感じの名前だった。
休日、N駅近くをブラブラしていたら、私とセックスがしたい、と急に声をかけてきた。
私は自他共に認める好色淫乱な艦娘だ。
だから誘い方が少々雑であっても、セックスの誘いを拒むことはあまりない。
それこそ本当に都合が悪くなければ、応ずることにしている。
…だが、この時はどういうわけかあまり気が進まなかった。
私を誘うこの猿田だか猿畑だか―――ここからは
拒もうかとも思ったが、ここで私が拒めば猿男は他の女性に迷惑をかけるのではないか。
そんな考えが浮かび、私は猿男の求めに応じることにした。
ホテルで、私は猿男と三時間ほどセックスしたのだが、その快楽は凄まじいものだった。
それに精力の方も凄まじく、猿男は三時間の間に少なくとも七度は私をイかせ、私の中に射精した。
セックス自体は満足すべきものであった…セックス自体は。
しかしどうにも猿男の言動には、何処までも違和感を感じた。
猿男はしきりに、また私とセックスがしたいとせがんだが、私は「縁があったらな」とだけ言って、猿男とは別れた。
猿男とのセックスは何もかもが初めてのことだらけで、異例であった。
誘われて気が進まないと思ったのは初めてだった。
拒んだら誰かに迷惑がかかると思って誘いに応じたのも初めてだった。
セックス自体は満足だったのに、またこの男とヤりたいと
猿男とのセックスは、悪い意味で、何もかもが初めてのことだらけであった。
帰宅してから姉さん(大和)に「許せない、上書きしてやる」と言われ、私は一晩素晴らしい悪夢を見ることになった。
悪夢と言ったが、姉さんが見せてくれた悪夢は、私の心身を満たしてくれた。
翌朝目を覚ましてから、昼前まで床から上がることが出来なかったけれども。
幸福感に満たされた私は、猿男のことなどすっかり忘れてしまっていた。
しかし猿男のことは、顔を見れば思い出す程度には印象に残っていたようだ。
「…何ですか?」
動画を視聴していた男は、覗き込んでしまっていた私に気づき、私に声をかけた。
人が視聴している動画を覗き込むというのは、確かに無作法だ。
「ああ済まない、見知った男の姿が映っていたのでな…。」
私は言い訳を交えつつ、無作法を詫びたが…。
「ああああ!」
男は急に絶叫した。
そしてスマホを放り出し、両手で私の胸ぐらを掴み、座席に私の体を押さえつけた。
「アンタも!アンタも俺を弱いオスだって言うのか!負け犬だって言うのか!」
「!?」
「わかってるんだよ!そんなことは!でも!でもどうしようもなかったんだ!どうしようもないんだ!それなのに!アンタは!アンタまで!ああああ!」
…わけがわからない。
私は左手で男の右手を掴み、男の動きを制した。
運良く…あるいは運悪く、車両はそこで停まった。
私は男を制しつつ、男が放り出したスマホを拾い上げ、男と共にその駅で下車することになってしまった。
車両から出た途端に、男は大人しくなった。
あっさり大人しくなるくらいなら、最初から暴れないでくれと言いたかったが…。
男はホームの床にへたり込み、地面を見つめて何事かブツブツと呟いていた。
顔を覗き込んでみたが、男の目は死んでいた。
「…こんな所でへたり込んでいたのでは、他の客に迷惑だ。…場所を移そうか。」
私は何とか男を立たせ、駅を出た。
駅を出たところには大きな公園があった。
私とその男は、公園のベンチに腰を下ろした。
私が拾い上げたスマホを手渡すと、男は力なくそれを受け取った。
「…無作法にお前のスマホを覗き込んでいたのは悪かったが、急に掴み掛かられる覚えまではないぞ。」
「………。」
「俺を弱いオスだと言うのかとか、負け犬だと言うのかとか言っていたが…お前とは初対面の私がそんなこと言うわけがないだろう。」
「アンタも…。」
「?」
「アンタもこいつと…猿男とヤったんだろ?それでアンタもこいつと比べて俺を、弱いオスだって、負け犬だって思ったんだろ?」
何故私が猿男とセックスしたことを知っているんだ…と思ったが、さっき私は「動画に見知った男が映っている」と言った。
おそらくこの男は猿男の知人で、私の言葉から私も猿男とセックスしたことがあると推測しただけなのだろう。
(当たっていたとは言え、私の一言だけから私が猿男とセックスしたと推論するのは論理が飛躍しすぎているのだが。)
「まあ確かに、私はこいつ…猿男とセックスしたことはあるが…。それでもお前が負け犬かどうかなんてことは、私にはわからないぞ。」
そして私はまた余計なことを言ってしまった。
「お前の身の上に、一体何があったと言うのだ?」
…そして私は男の話を聞くことになってしまった。
男の名は、仮に
先に高校生ぐらいの男と描写したが、実際高校二年生と言うことだった。
そしてこれも先に私が推測した通り、哮は猿男の知人だった。
知人、という以上に二人は親友だった…親友
二人とも性的な事柄への関心は強く、二人は顔を合わせてはセックスの話題で盛り上がる仲だったと言う。
猿男はどこからかエロ動画を収集して、哮とその動画を共有して楽しんでもいたと言う。
二人とも性欲は強い方だったが、特に猿男の性欲の強さは尋常ではなかった。
ところで哮には好いた女が何人かいた。
幼なじみ、後輩、同級生、先輩。
哮はこの四人を好いていたが、この四人も哮に好意を寄せていた。
哮はこの四人と好意を交わし合い、絆を深め、いずれは四人の内の誰かと結ばれることになるのだろうと信じていた。
しかしその未来予想図が実現することはなかった。
哮の親友であるはずの猿男が、彼女たちを次々とレイプし、堕とし、自分のモノにしてしまったのだ。
親友に裏切られ、好いた女達を奪われた哮は打ちのめされてしまった。
それだけではない。
猿男は彼女たちとの「ハメ撮り動画」を、哮に送って寄越したのだ。
それは哮に対して勝利宣言をするためとか、己の優越性を誇示するためとかではない。
私には…というより、私ですら理解に苦しむ話だが、猿男は『打ちのめされ、打ちひしがれている哮を元気づけるために』このハメ撮り動画を送って寄越したのだと言う。
「お前の好きな女のエロ動画だぜ!これ見て元気出せよ!」…と、言うことらしいのだが…。
哮のスマホでいくつか動画を確認したが…猿男はどうも本気で、この動画で哮を元気づけられると信じ切っているようだ。
これらのハメ撮り動画で、彼女たちもカメラ目線で哮に対してメッセージを送っているが…。
彼女たちのメッセージは『字面だけは哮を励ましているが、実は哮を侮蔑し、嘲弄するメッセージ』になっていた。
さらに言わせてもらえば、もし彼女たちが正気であんな台詞を言っていたのなら、私は彼女たちの人間性を疑う。
彼女たちは、猿男とのセックスで完全に「快楽堕ち」し、知性や理性、人間性を完全に破壊されてしまったのだろう。
残酷な話だが、おそらく彼女たちは、もうまともな人間には戻らないだろう。
…私が猿男に感じた違和感は、気のせいではなかったようだ。
話はこれだけで終わらなかった。
猿男は…哮の妹と母親も犯し、堕とし、モノにしたのだ。
ここに書くことは憚られる話だが、哮の妹は…まだ中学生にもなっていないようだ。
そして猿男は例によって『哮を元気づけるために』、妹と母親とのハメ撮り動画を撮って、哮に送って寄越した。
動画に映る哮の妹と母親も、明らかにおかしくなっていた。
…この一連の過程において、哮は彼女たちと妹、母親を守ることが出来なかった。
そして彼女たちと妹、母親を快楽堕ちさせた猿男の「オスとしての力」を目の当たりにし、オスとしても完全に打ちのめされた。
猿男は彼女たちと妹、母親を快楽堕ちさせ、完全に自分のモノにした。猿男は強いオスだ。自分よりも遙かに優れたオスだ。
それに比べて自分は、彼女たちを快楽堕ちさせるどころか、ちょっと悦ばせることすらできない。自分は弱いオスだ。猿男の足下にも及ばない劣ったオスだ。
そして哮は、生きながらにして死んだ。
彼女たちは、そして哮の母親は猿男の子を孕んだと言う。今、猿男は哮の妹を孕ませようと励んでいるらしい。
猿男は引き続き『哮を元気づけるために』、彼女たちと母親、妹とのハメ撮り動画を哮に送りつけてくる。
生きながらにして死んだ哮は、その動画を見ながら自慰に耽るだけの日々を過ごしていた…生ける屍のように。
「猿男は彼女たちを快楽堕ちさせ、自分のモノに出来た強く優秀なオスで、自分は彼女たちをちょっと悦ばせることすら出来ず、彼女たちとの絆を保つことも出来ない弱く劣ったオス…か。」
「バカなことを言うんじゃない。あの猿男のどこが優秀なオスだと言うのだ。」
私がこう言うと、哮は顔を上げた。
「私も猿男とセックスはしたが、こいつのセックスは言うなれば乳幼児にジンやウォッカを飲ませるようなセックスだ。女の心身を蝕み、壊すセックスだ。」
「こんなやつを優秀なオスだと、最高のオスだと認めると言うことは、女を蝕み壊すようなセックスが最高のセックスだと認めると言うことだ。」
「だからお前が自分を劣ったオスだと認め、猿男を優秀なオスだと認めると言うことは、自分自身を貶めるだけではなく、知性や理性、人間性を破壊されることが女にとって最高の悦びだと言うようなものだ。」
「お前は自分を何だと思っているんだ、女を何だと思っているんだ。」
…私は一気にまくし立てた。
「で、でも…。」
哮は弱々しく、自分の股間を見た。
「自分のモノが粗末だから、自分は猿男より劣っているとでも言うつもりか。」
「だって…俺のモノ…なんて…。」
「お前は自分だけを卑下しているつもりなのか?自分だけを卑下しているのだから誰にも文句を言われる筋合いはないと言うのか?」
「でも、俺の…だけのことだから…。」
「お前は自分のモノが粗末だからオスとして劣っていると言うことで、私の伴侶のことを侮辱したんだぞ。」
「え…?」
「私の伴侶は女だ。女の肉体を持った存在だ。モノが粗末どころか、そもそもモノ自体がない。」
「あ…そ、それは…。」
「それでも私の伴侶は毎夜毎夜、私を満足させてくれている。それこそ身も心も蕩けそうになるほどにな。私の伴侶は私にとって最高の伴侶だ。お前はそんな私の伴侶を、粗末なモノすらないから劣っていると侮辱するのか。」
「そ…そんなつもりは…。」
「猿男のモノなら、私も見た。まあ確かにご立派なモノだったな。」
「………。」
「あれほどのモノを持っている男などそうそういるものではない。だがあれほどのモノなどなくとも、世にいる大抵の男達は自分のモノで女と楽しみ、女と愛を交わし合い、女を悦ばせている。」
「………。」
「お前は自分のモノが猿男のモノに比べて粗末だから自分はオスとして猿男に劣っていると言うことで、殆ど全ての男達を侮辱したんだ。」
「だから自分は劣っている、などと考えるのはやめろ。自分で自分を侮辱することは、結局殆どの人間を(そして私たちを)侮辱することになる。見聞きしていて実に不愉快だ。」
「あ…でも…。」
「やめろ。お前が猿男より劣っている、と言う料簡はただの錯覚だ。」
哮は沈黙した。
実のところ、私の台詞にはツッコミどころがあるような気もしていたが、哮の方から指摘されることはなかった。
私はさらに畳みかけることにした。
「お前は猿男を優秀なオスだと思っているようだが、一体猿男の何処が優秀なのか。」
「そもそも優秀な生物とは…とか、優秀な遺伝子が…といった話は、見聞きしている私が恥ずかしくなるような話だ。私だって生物学については素人だが、素人目から見てもこんな話には生物学という学問に対する無理解に溢れている。」
「それでも強いて優秀な生物とはどんな生物かと問われれば、それは環境に適応して生き残ることができる生物だ、ということになるだろう。」
「そこでお前に問うが。」
「女をレイプし、その様子を動画に撮って、その女を好いている男に送りつけ、しかもそれが『善行』だと信じ切っているような男が、
「猿男には周囲の環境が、現実が見えていない。そんな生物は環境に滅ぼされるだけだ。そんな生物が本当に優秀だと言えるのか?」
「しかも猿男は交尾によって女の知性や人間性を破壊し、女を『人間の女』から『猿男のメス』に変えてしまう。…『猿男のメス』が、
「猿男は優秀なオスどころか、日本という環境に適応できずに滅びるだけの生物に過ぎないのだ。」
哮に対しては、もう一つ言っておかねばならないことがあった。
少し間を置いて、私は話を切り出した。
「一つ検討してもらいたいことがある。」
「な、何ですか?」
「この動画を持って、児童相談所に駆け込むんだ。」
「えっ?」
「そして『母がこんな動画を自分に送りつけて、自分に著しい精神的苦痛を与えている』と申し出ろ。妹のハメ撮り動画も提出して、『母は猿男に犯されている妹を放置している』と申し出るんだ。」
「ちょ、ちょっと待ってください、そんなことしたら…。」
「そうだ、おそらくお前は母を失うことになるだろう。…妹が猿男に犯されている決定的証拠を提出すれば、警察も動くだろう。そうなれば、猿男や彼女たちの社会的な立場は無くなる。」
「な、なんでそんなことを…。」
「猿男と彼女たちに、日本という環境、現実をしっかり認識してもらった上で、お前の人生から消えてもらうためだ。」
「俺に母さんを、みんなを捨てろって言うんですか!」
「そうだ。」
「そ、そんなこと…っ、お、俺には…。」
「…彼女たちがハメ撮り動画の中でお前に言い放った言葉を思い出せ。彼女たちは既に『猿男のメス』だ。お前が好いて、愛した女達じゃない。」
「でも。」
「好きだったから、愛していたからと言って彼女たちと繋がり続けていたら、お前はこれからも悍ましい侮蔑と嘲弄を受け続けることになる。その侮蔑と嘲弄はお前の心と命を蝕み、お前を死に至らせる。」
「………。」
「彼女たちは最早お前にとって害毒以外の何物でも無い。切り捨てられなければ、お前は死ぬだけだ。…余計なお世話かもしれないが、見過ごすわけにもいかない。」
「………。」
「…残酷なことを言うが、お前は彼女たちが猿男に犯されているとき、するべきことをしなかった。」
「……!」
「結果、彼女たちはいずれ環境に滅ぼされるしかない『猿男のメス』に成り果て、お前自身も生ける屍に成り果てた。」
「…………。」
「お前は母も妹も彼女たちも救えなかった。ならばせめて、お前はお前だけでも救わねばならない。」
「!!お、俺だけ助かれって言うんですか…!母さんや妹は…みんなは…どうでも良いって言うんですか…!」
「自分自身を救えないでいるくせに、偉そうなことを言うんじゃない。」
「そ…それは…!」
「母を救いたいとか、妹を救いたいとか、みんなを救いたいとか…そんなことはまず自分自身を救ってから言え。」
「………。」
「他の誰かを救おうとする前に…まずは覚悟を決めて自分自身を救え。」
「お前は……まず、そこから始めなければならないんだ。」
…哮は黙り込んだ。
私は自分のスマホで、周辺の情報を検索した。
それから私は哮を誘った。
「…ついて来い。」
…そして…。
「…ここは…。」
「見ての通り、ラブホテルだ。」
「なんで…。」
「お前は猿男より劣ってなどいない。それを今から証明するんだ。」
「証明って…。」
「お前は今から私とセックスするんだ。」
「でも。」
「来い。」
「…はい…。」
哮はこの時まで生ける屍同然で、私の誘い方も拙かったこともあり、奮い立つまで手間も時間も掛かった。
…それでも哮はどうにか奮い立ち、私を二度イかせて、私の中に精を放った。
「演じる」必要などもなく、私は本当に満足した。
私が心地よい気怠さに浸っていると、哮は不安そうな面持ちを私に向けていた。
「ん……感想でも、聞きたいのか……?」
哮は答えなかったが、その沈黙は肯定を示していた。
「ああ…普通、だったな…。」
私は敢えて「普通」と言った。
哮の沈黙は、落胆の色を帯びた。
「勘違いするんじゃない…。」
「私が普通、と言ったのは…お前が猿男より、猿男なんぞより…ずっとマトモなセックスが出来ている、と言うことだ…。」
哮は顔を上げた。
「…お前は普通で、マトモなセックスが出来ている。…だからお前は猿男なんぞより、ずっとずっと優れているとも言えるんだ…。」
「私は…猿男ともヤった上で、こう思っているんだ…。間違いは、ない…。」
「…それより…。」
「私は今、本当に良い気分でいる…。暫く余韻に浸っていたいんだ…。あまり会話に頭を使わせないでくれ…。」
「…それとも…。」
「…もう一度、私をイかせてくれるのか…?」
哮はまた奮い立ち、私の肉体に情欲をぶつけた。
生ける屍は、もうそこにはいなかった。
哮は黄泉がえり、私は満足を得てホテルを出た。
最後に私は、これからのことについて述べた。
「児童相談所に駆け込む件だが。」
「もしも決心がついたなら、まず海神警備・岩川台営業所敷地内にある甘味処『間宮』を訪ねると良い。」
「そこで大淀さん…司馬大淀、と言う艦娘に会いたいと、店主に伝えるんだ。」
「司馬…大淀さん、ですか?」
「児童相談所への話の仕方、証拠などの提出方法について、念のため彼女に相談することを勧めておく。…
それだけ話して、私たちはそこで別れた。
数日後、海神警備・岩川台営業所、提督執務棟内の廊下。
私は大淀さん―――司馬大淀に呼び止められた。
「武蔵さん、困りますね…こんな風に話を持ち込まれるのは。」
どうやら哮は大淀さんに会ったらしい。
大淀さんは岩川台営業所の実質的なトップだ。
業務に関しては提督でさえ大淀さんには頭が上がらない。
それだけに大淀さんは日々多忙だ。
私的に相談事を持ち込まれるのは、確かに迷惑だったかもしれない。
「…済みません。」
私も仕事の上では、大淀さんには頭が上がらない。
「哮さん…でしたか。事情は伺いましたし、私も何とかする必要はあるとは思いますが…営業所としては何とも出来ませんよ。」
「もし武蔵さんが哮さんを助けたい、と言うのであれば、あくまでも武蔵さん個人として動いてください。」
「…はい。」
まあ、もとよりそのつもりではいたのだが。
だが、大淀さんは続けた。
「でもまあ…私も武蔵さんの友人として、個人的に意見ぐらいは出しましょう。」
「…目的は猿男さんと『彼女たち』を哮さんの生活圏から完全に排除することと、哮さんの権利等を保護すること…でしたね?」
話の切り出し方とは裏腹に、大淀さんはこの話には乗り気のようだった。
「今夜鳳翔さんのお店で、金剛さんも交えて話しましょう。金剛さんにも声をかけておいてください。…それでは。」
…金剛もこの話には乗ってくるだろう。
これで猿男と「彼女たち」の運命・末路はほぼ決まったと、私は確信した。