バフォメット村長が病弱ショタ気味青年に無知ゆえに好き放題してしまい、最終的に好き放題されて、ぐちゃぐちゃに混ざり合って最終的に二人で幸せになる話 作:五角ちくわ
けど面白く出来たので見て下さい!
三章 悪魔の計画
柔らかな日差しが事務室に差し込む。窓を開けると、夏前のカラっとした空気が流れ込んできた。
抱えていた書類が舞ってしまい、慌てて拾う。
港町でもないのに漂ってくる潮の香りに、郷愁のようなものが浮かんできた。
「そうだ、検品の確認に行かなきゃいけないんだった」
頭の片隅にずっと残っている、昨日のとろかされるような搾精。
また、してほしいな、と夢見心地で考えていたせいか、予定の時刻ギリギリで屋敷を出る羽目になった。
最近になって舗装された、屋敷前の石畳を小走りで進んでいく。
しかし、石畳がまばらになっていくにつれ、足をとられやすくなってしまい、走りなれていない僕の呼吸はどんどんと乱れていった。
このままだと、辿り着く前に倒れてしまう。
それに気づいた僕は、あぜ道の端に座り込み、少し休憩をすることにした。
すぐ側で香る草の匂いと、遠から聞こえる子どもたちの笑い声。
そして想起される、爽やかなハーブの香りと、甘ったるい蠱惑的な体臭とが混じり合った、バフォメットさんの匂い。
妖しく振りまかれる、彼女の匂い。
「ボフマン! お前、大丈夫か!」
またも呆けていたところに、急に呼びかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまう。
顔をあげると、そこには検品する予定の馬車に、相乗りしている村人の姿があった。
行き倒れたと思わせてしまったかな。
勘違いさせた事を謝罪し、急ぎ検品場まで走る。すると、病弱なのを心配してか、一人が馬車の隅を空けてくれた。
「ありがとうございます……ついでなんで、このまま検品してもいいですか」
「まあ焦るなって、昨日の晩のこともあるし、疲れてるだろ?」
休んでおけと言われ、胸を撫で下ろす。
そして、撫で下ろされた胸は、すぐさまドクンと跳ね上がった。
首をたがえるほどの速度で、周りを見回す。
そこには僕に向かって、好奇の視線をおくる村人たちの姿があった。
「童貞卒業おめでとう、ボフマン」
「バカ、手扱きのやり方だけをウチの母ちゃんに聞いてたって、さっき言ったろうが」
顔が燃えるように熱い。体温が急激に上がり嫌な汗が湧いてくる。
「あ、あの……」
「だから搾り取るってことはよ、村長のマンコにがっつり出させられたんだろ?ボフマン」
「いや、昨日の定時報告の時に聞いた話じゃ、交尾はしてないって言ってたぜ」
「交尾って……相変わらず何考えてるかわかんねえなぁ、うちの村長は」
頭が重くなり、視線が下がっていく。
彼らが大開で座る様子を涙目で見ることしか出来ない。
それでも、村人たちの会話は止まらなかった。
「てことはよ、ヤらせてもらえなかったって事か!? 村長もひでえことしやがるぜ」
「まあでもよ、村長のことが大好きなお前さんからしたら、手扱きだけでもめちゃくちゃ嬉しかったろ?」
「あ、あは、はぇ……」
まるで全裸にされたような辱めに晒され、気の抜けた声しか出せない。
勘弁してほしい、もう帰りたい、どこか遠くへ逃げたい。
そんな想いも、口に出さなければ伝わらず、村人たちの会話は止まるどころか、どんどんと白熱していった。
「いつか実験台にでもされるんじゃないかと思ってたけど、まさかこうなるとはなぁ」
「あ、いやーそうですねえ……」
「お前よお……そうやってナヨナヨしてっから好き放題されんだぞ、男として悔しくないのかよ!」
「まあまあ、朴念仁で変人の村長と、ナヨナヨしてっけど優しいコイツなら案外あってんじゃねえの」
まるで交際しはじめの友人か、新婿をからかうように、僕を責めたて、おだて、ひとりごちる村人たちに、僕はとうとう降参の白旗をあげるが、
「うう……お願いします……もう勘弁し──」
「おっとお喋りはここまでだ、検品に取り掛かるぞ」
ちょうど検品場に着いてしまい、僕は涙目を拭いながら、一目散に馬車から飛び降りた。
転びそうになりながらも、算盤を弾く隣町の商人に挨拶をする。
「……おはようございます。今日も天気がいいですねえ」
「よお色男! 相変わらず細っせえなぁ。そんなんじゃいつか村長とヤってる最中に腹上死しちまうぞ。栄養つけろ、栄養」
「…………」
彼女が、この場にいなくて本当に、本当によかった。
今頃、バフォメットさんは何をしているのだろう。
震える手で書類をめくり、震える声で読み上げながら、僕は今後暫く、羞恥に晒され続けるのだろうと、ここにいない彼女に少しだけ恨む念を送った。
§ § §
「べぇーっくし! ふむ、こっちは少し冷えるな」
ここは、ヴァイガルドを掌握しようとしているメギドたちとは決別し、世界を救うために活動するメギドたちが集う砦、通称「アジト」
王都からの支援で貸し出されたこの砦に、昼ごろ早馬で到着したバフォメットは、
「大丈夫ですか?バフォメットさん。このあいだ調合した風邪薬の残りがありますけど」
ソファに座り、タロットカードを広げていた預言者メギド、オリアスと対面していた。
サファイアブルーの巻き髪を揺らし、視線をバフォメットに向ける彼女は、どこからか、マゼンタピンクに発色する薬を取り出しバフォメットに渡す。
引きつった顔でそれを貰い受けたバフォメットは、入れ替えるように、白濁液で満たされたワイン瓶をテーブルに置いた。
「……なんですか? それ」
「これはな、我の従者の精液なのだが──」
刹那、オリアスの耳をつんざくような叫び声が響く。
彼女はソファから飛び退き、背もたれに隠れ、バフォメットを睨みつけた。
「なな、な、なんで精液の入った瓶なんか持ち歩いてるんですか! やだやだこっちに近づけないで下さいぃ!」
情けない声を上げるオリアスを、ジトリと睨めつけるバフォメットは、ざんばら髪を掻きあげ怪訝な顔をした。
「ええい、魔女なら精液くらい素材にしたことあるだろう!」
「私は預言者です! それに、人の精液なんか素材にしたことありません!」
ソファの周囲を逃げ回るオリアスと、彼女の後ろを追従するバフォメット。
ネズミがネコに追われるように、ぐるぐると周っている。
「ええい、そんなことはどうでもいい! 我はこれを経口摂取して、力を引き出せるか知りたいのだ!」
「知らないですよそんなこと! 勝手に飲んで試せばいいじゃないですか!」
そんな彼女たちの騒ぎを聞きつけ、二人のメギドが駆けつけてきた。
彼らに囲まれたバフォメットは、神妙な面立ちで成り行きを話す。
腕組みをして説明を聞く妻帯学者メギド──フォラスは、掻き揚げられた茶色い髪を撫でつつ、
子供を叱る父のように、彼女に優しく説教をした。
「その……なんだ、ここにはまだ子供のやつもいるから、あんまりそういう言葉を出さないでくれよ」
「そういう言葉は、僕らの年代の、思春期真っ只中の連中にも聞かせたくないからね」
自分はもう過ぎたけど、という黒髪の学徒らしきメギドは、頭頂部からぴょんと跳ねる毛をなでつけ、肩をすくめる。
「すまんなマルファス、そこらへんに疎いのでな」
「まあ、駆けつけたのが僕らでよかったね」
マルファスと呼ばれた彼は、すくめた肩を収め、眉間にシワを寄せながら、精液の入った瓶を眺めた。
蓋を開けようとするバフォメットを諌め、彼は精液の主のことを訊ねた。
「我の村で召しとった奴隷がいてな、そいつの──」
アジト内の一瞬空気が張り詰める。
メギドラルから追放され、人間として生まれ変わった彼ら──追放メギドにとって、奴隷と言う単語は、それぞれに思うところがあり、
無頓着なバフォメットにも、それが伝わったらしく、彼女は少しバツが悪そうに弁明した。
「……我の従者として育てあげた。なんなら他の村人より高待遇だ……これでいいか?」
「よかった……バフォメットさんが奴隷商とつるんでなくて」
「いやまあ、買った時点で……って話がそれたな。ちょっと気になることがあるから、聞いてもいいか」
どうぞお先に、とマルファスが促すと、フォラスは顔を逸らしながら瓶を持ち上げ、眉間にシワを寄せ、中身を覗く。
その場にいる全員が見守る中、革手袋の軋む音だけが響いた。
「バフォメット、お前これ、どれくらいの期間で採取した?」
「五日間で絞った」
「そいつ、本当に人間? ウマか何かなんじゃないか?」
人間のはずだ、とバフォメットが訂正すると、それぞれがそれぞれで腕を組み、アゴに手を当て、額を指でリズムよく突く。
本当に人間か。
過去の事例や、研究、そして経験の記憶を引き出し、どうにか答えを導き出そうとするが、
「……駄目だ、なんにも思いつかん」
「僕も、というかフォラスがわからないなら誰もわからないんじゃないか?」
「長きを生きている私でも、ちょっと、その、この量は……」
皆が望む回答は、得られなかった。
八方塞がりを打開するために、バフォメットからさらなる情報を引き出していく三人。
いつから、なぜ、どうして、どこから。
彼らからの質問攻めを遮り、彼女は今までを思い返していく。
「でだ、そいつの精……体液を経口摂取したらな、体の底から力が……」
「本当に飲んだんですか!?」
また、素っ頓狂な声を上げたオリアスを、しかめっ面で睨む男性陣。
そして彼らは視線を瓶に移し、白濁液を飲むような状況を想像し、咳払いをした。
バフォメットは持っていた杖でオリアスを小突き、鼻息を荒くする。
「我はただ、手で扱いた時についたのを舐め取っただけだ!」
「やっぱり飲んだんじゃないですか! えっち! ふけつ!」
そんな彼女らの、再び執り行われる喧騒を横目に、男性陣は、白濁瓶を挟みながら自論を展開していた。
フォトンが見える種族の末裔か、実はメギドなのか、何者かに改造されたヴィータなのか、
或いは、或いはと、考えを巡らせていく。
「やっぱり、ただのヴィータの体液にそんな効力があるとは思えねえな」
「そんな性質がヴィータにあるなら、とっくのとうに全員攫われているだろうしね」
「あるいはもう攫われているのかも」
彼らの会話に割って入ってきた男は、鋭い眼光のまま微笑を浮かべた。
二メートル近い長身を屈め、テーブルに置かれた瓶に顔を近づけた彼は、一切表情を崩さずに観察をはじめた。
いつの間にかに応酬をやめたバフォメットも、その様子をじっと見ている。
「サタナキア、どうしてあやつの体液にこれだけのフォトンが内包されているかわかるか?」
「わかるわけないじゃないか、情報が少なすぎる」
暁鼠色の長髪から尖った耳を覗かせるメギド、サタナキアは、明け透けな物言いで現状を報告する。
彼の歯に衣着せぬ発言に、眉一つ動かさない一同。つまりそれは、常日頃からそのような言動をとっていることを示していた。
彼は、そうだねと一言呟き、祈るように組んだ手を口元に当てる。
(この瓶の精液に内包されているフォトン量、成人男性が体内に有する量の二倍近くあるな)
(これだけの量のフォトンを体外に排出したとすれば、病弱程度では済まないはずだ。それこそ、死んでいるほうが自然と言えるだろう)
(無意識下で放出しているのか、もしくは意図的にか)
彼の手が開かれ、現状で考えうる、ボフマンの正体の可能性を探っていくために、
少し鼻にかかるような、響く声で、彼は滔々と自論を語った。
サタナキアの話が終わり、またそれぞれが、自分の世界に入り込む。
バフォメットも、アゴに指をかけ、自分の世界に入り込んでいった。
ソファの周りをぐるぐると回り、持っている杖をこつこつと鳴らし、情報を噛み砕いていく。
そして、思考の帰結として出されたのは、
「つまり、ボフマンの正体はメギド、或いはメギドラルと密接に関わるなにか……と言いたいのだな」
彼が場合によっては敵対するのでは、というものだった。
「確信はないけどね。それこそ、フルカスやアラストールにでも拷問させて正体を──」
瞬間、彼の喉元に、鋭いものが突き立てられる。
対面には、杖の石突を穂先にみたて、剣呑な目つきで彼を睨むバフォメットの姿があった。
明らかな敵対を向けられているにも関わらず、微笑を浮かべ微動だにしないサタナキア。
二人の間に漂う仄かな殺気に、緊張感が走る。
「……我の大事な従者だ。なにも不審なところはない」
「どうだか。聡明な君が我を忘れる程、深いところまで潜り込まれている可能性も否めないよね」
静寂。
応接間を照らす明かりが、隙間風で揺れる。
ややあって、フォラスとマルファスがにらみ合う両者の間に割って入り、どうにか場は丸く収まった。
「……もう大丈夫だ。離してくれ」
「あんたが手を出すなんて、らしくないよ」
そう言われ、つば広の三角帽子を目深に被り直すバフォメット。
そのままソファにどさりと座り、すまぬ、とひとこと言葉を放つ。
対面に座り直したサタナキアに、ひとつ飴を渡し、彼女は眉頭を下げた。
「さて、話を戻そう。あやつの体液を経口摂取して、メギドの力を発揮できるのではと考えているのだが……どう思う? サタナキア」
彼は、しばし考えた後、首を横に振った。
瓶を手に持ち、右から左から、眺めては離し、何かを確認するように頷く。
フォトンの状態が不安定であること、
体液の性質的に、劣化が早いだろうこと、
それを告げた彼は、瓶に指を当て降ろし、中程でその動きを止めた。
「ここから下のフォトン濃度が、かなり薄くなっている。出来るかどうかは置いておいて、何かに使うのであればここから上までがラインだね」
「ふむ……そこから上は昨日絞った分だな」
「一日中絞ってたのかい? 大事そうに子飼いしてる、しかも病弱なヴィータから?」
「我なりに生薬を飲ませたり、色々と気を遣っている。その日も二回ほどで止めるつもりだったが、あやつがもう一度なら大丈夫と言ったのでな」
彼らのやり取りを見ていた三人が、ハッと息を飲んだ。
尋常でない精力の持ち主だが、病弱で華奢。そのチグハグさに彼らは違和感を覚える。
「生薬に変なものでも入っていたんじゃないか?」
「ヴィータが普段使っているものしか使っておらんが……組み合わせが悪かったかもしれぬな……」
繰り広げられる議論も、現状では情報が足りず、すぐに堂々巡りになってしまう。
ヴィータか、メギドか、
味方なのか、敵なのか。
「射精量でどうこう考えるのも馬鹿らしいからさ、そいつがヴィータかどうか、僕らとソロモンで一度見たほうが良いんじゃないか?」
トラブル解決に奔走する毎日ではあるが、ここ最近は珍しく何もない日々が続いていた。
暇つぶしがてら、とマルファスが鈍く沈殿していた空気を軽くする。
バフォメットはにこやかな表情を見せるが、ボフマンに対する信頼に重きを置き、
心配には及ばぬ、と提案を断った。
「また話を聞かせてよ。僕も、そいつのことが気になるからさ」
帰路につくバフォメットは、彼らに背を向けたまま手を振った。
彼女の革靴の、たしたしと床を踏む音が遠のいていく。
フォラスは、欠けた一人の座っていた場所を見ながら、ずり落ちかけていた眼鏡を上げた。
ロウソクの火に照らされ、レンズがゆらりと輝く。
「何もなきゃ良いんだけどな」
彼が呟いた言葉は、おやつ時に集まった子供たちの喧騒に掻き消された。
§ § §
「ということで、とりあえず返す」
「いや……いらないです」
バフォメットさんが用事から帰ってきたのは、ちょうど夕飯の準備が終わった頃だった。
帰ってくるなり僕の精液の入った瓶を手渡され、思わず落としそうになる。
そのまま彼女に瓶を突き返し、処分をするように言い渡した。
従者だろうが、好いていようが、言わなければならないこともある。
しぶしぶ瓶を受け取った彼女が、窓から中身を捨てようとするのを止め、作り終えたメインディッシュに最後の仕上げをした。
鶏の半身焼きと、マッシュポテトのチーズソース掛け。
香草と鶏の織りなす、旨味を凝縮した肉汁の香りと、芋のでん粉と、チーズの濃厚な匂いが漂ってくる。
人に会うたびに栄養をつけろと忠告され、市場で店を除く度に、精力が付きそうなものを渡され、
強制されたように作った料理ではあるが、やはり今日も上手くできた。
戻ってきた彼女にマッシュポテトを運んでもらい、鳥の香草焼きをワゴンに乗せ後ろをついていく。
どこに捨ててきたかは怖くて聞けなかった。
「でだ、鮮度がたりぬならな」
「何の話です?」
塩の鮮度についてなら、幾度か対策を話し合った記憶がある。
けど、恐らく今回は違うものについてだ。
今が旬の魚が、この村の市場にもならぶ頃だから、そのことについてだろうか。
そう思っていた矢先、彼女はチーズが付いてしまっている指で、僕をびしりと指した。
「貴様から直接絞っていけばよいではないか! と思ってな」
僕から、直接。
何を絞るのだろうと、逡巡するまでもなく出た予想は、
「明日から、我が直接口で搾り取ってやる」
当たっていた。当たってしまっていた。
彼女は、僕に向けていた指を舌先でチロチロとねぶり、接吻のような音をたて吸い付く。
ぷくりとした唇をすぼめ、指を口奥へと挿入する。
口の端から、空気を含んだ水音が響き、
ちゅぴ、と出された指には、てろてろと光るものがまとわりついていた。
「こんなものかの、まあ詳細は明日女衆に聞くとして……」
突然見せつけられた疑似口淫に、釘付けになってしまった僕へ、彼女は、今日の分の強壮薬を差し出した。
しかし、それでは終わらず、彼女は懐から、もう一本、
ドロドロとした、真緑色の液体の入った小瓶を出す。
「こっちはより精力がつくように作った。そしてこっちはいつもの、普段貴様が飲んでいる薬だ」
どちらを取る。
そう、彼女から迫られ。
前者を受け取れば、また彼女に狂わされる日々が来る。
また、狂うことができる。
僕は震える手で、彼女が持っている薬を、
真緑色のそれを受け取り、一息に飲んだ。
晩を食べ終わってしばらくした後、薬の副作用か、僕自身の期待と緊張か、
鼓動が治まらず、小一時間、夜ふかしをして、
僕は、冴える目を無理やり瞑り、夜の帳に身を委ねた。
体が、疼く。