少年王
■二幕
一面の血吹雪だった。雪の上にごとりと落ちた生首は、切断面が凍る前に次々と槍の先にかけられた。強風の中、白い雪にまた血が飛び散るのを、王女は最後まで見ることが出来なかった。
「その女は?」
雪と血を踏んでやって来た少年は、兵士が介抱している若い女のところで足をとめた。
「王の兄の姫で、王の兄が早世するのに合わせて、王太后の許で育ったとか」
「王族の女か」
侵略者の母国には雪はない。あまりの寒さに兵士たちは空を睨み上げては呪詛をはいた。
少年だけが動じなかった。この寒さもおのれの灼熱の野心で溶かしきってみせるとでもいうかのように、少年は日焼けしたその手足を、誇らしく雪にさらしていた。
王族と将がことごとく斬首されている処刑の場だった。血生臭さは戦場の常である。少年の鼻腔はその年ですでにそれに慣れていた。それが勝利の証ならば、幾らでも血を流したいと願うほどに。
少年の眼は、雪の上に気を失って倒れている女の上にそそがれた。
雪風に女の長い髪が力なく舞い上がり、美しい顔立ちには血の飛抹がついていた。
兵士はわざと女を気絶させたままにしているようだった。そのまま首を斬られるほうが恐怖を感じずにすむという、男たちの情けだった。
兵士たちは現れた少年を見て、直立不動となった。銀の鎧をはいた十四歳の少年は、先年病に倒れた王よりも残忍で怖ろしい。
青い外套を肩から羽織った少年の目は、最初は無関心に、それからある注意をもって、目を閉じている若い女の肢体の上を這った。
下着姿にされて後ろ手に縛られている女の肌は雪から生まれてきたかのように白く、その顔立ちは優しげで、少しひらかれた唇は、少女の無垢のままだった。
ちらつく雪が、王子のまつげの上に音もなく落ちた。女の顔の上にも白く散った。
「この女を」
少年は鞭の先で王女を指した。
「この女を連れて帰り、予の後宮に入れよ」
それは征服者の持つ権利であり、少年はそれを行使した。
「ちょうどいい、言うがままに動く人形が欲しかった」
雪に落ちた血の色は、ほどなくして後宮に連行された女の股からも流された。宦官と神官に囲まれて半死半生の心地となっている異国の姫に、王子は奴隷の名を与えた。
王女の目じりから零れた涙を、王子はその白い肌や破瓜の血ほどには見なかった。
東国大使の尽力により、めでたく、少年王と東国の姫の婚姻は成立した。
「父王の容態がおもわしくない」
実質的にこの国の支配者である王子は、王座から大使に云った。灼熱の国らしく
風とおしのよい膝丈の白い衣をまとい、飾り紐で腰を結んだ王子は、朝の砂漠を駆ける若い狼の化身のようだった。
「医師の話では、年内か、もって来年早々とか。挙式はその葬儀が終わりしだいにしたい」
「そのように」
「大使。伝言を」
「はい」
少年は椅子の腕に肘をつき、酷薄に整った顔を傾けた。
「お国とは同盟を結んだ仲。姫もやすんじて嫁いでこられるようにと」
「ありがたきお言葉。王も姫も、王子のお心に深く感謝をいたしますことでしょう」
「大使」
「はい」
「何か言いたそうだ」
鋭い。
大使は内心で舌をまいた。この王子は聡明だ。大使はちらりと目を上げた。少年はすぐに、大使の視線の先をとらえた。そこには王座の柱があった。
「後宮の奴隷たちのことか」
「ご明察でございます」
「先日の宴に出した女のことか」
「王子は、たいそう美しい女奴隷をお持ちです」
「心配はいらぬ。北の国の王女とはいえそれは昔。奴隷女は奴隷のまま後宮に閉じ込めて、王妃の目障りにはならぬようにする、もっとも」
少年は特徴的な笑いをうっすらと浮かべた。
「后がルデアを見たいというのならば、止めはせぬ」
「……」
「王と王妃が並んだ王座のその柱に、奴隷となった王女を鎖で繋いでおくのも他国へのよい見せしめになることだ。飾りにするにはちょうどよい女、はだかで芸でもさせれば余興になる」
「わたくしは他国者。王子の御心のままに」
「ルデアには、性奴隷としての調教をほどこしているところだ」
王子は脚を組みなおした。
「覚えの悪い女で、てこずらせる」
「おそれながら」
白い花のようだった女の姿を思い浮かべつつ年長者として、大使は口を挟んだ。
「おそれながら、女は愛してやりませんと。つまり可愛がってやるほうが、よりいっそう房事の興も深まるものかと。もとは高貴な女人を相手にする場合には、なおさらのこといたわりが必要になるかと存じますが」
「あれを可愛がる?」
大使の進言に、少年王はのけぞり、哄笑でもって応えた。
「可愛がってやっているとも」
蒼穹に高々とのぼる太陽神の如く、それは何の迷いもない笑いだった。
「奴隷とは、牛馬のように鞭うって扱うものだ。もちろん、ルデアにはそうしてやっている。あのように弱々しい女ゆえ、手加減してやっているがな。予のものを口で猛らせ、その後に尻を差し出させて『どうぞ』と、これだけ言わせるように躾けるだけでも、何度も鞭をふるい、何夜もかかったのだ」
少年王は笑い、それから急激に笑いやんで、横を向いた。
(おやおや)
大使は王子のその変化を心に書きとどめた。
(ご執心とみえる)
誰ひとりとしてルデアを羨んだりはしませんとも。
懇意となった女官は、乳房の間に汗を浮かべつつ、大使に請合った。ご寵愛といったって、あれは苛みですもの。王子の残虐性の矛先が他にそれてむしろ後宮の女たちは安堵しているくらいです。
王子の許には、いろんな秘密の玩具が献上品として贈られてきますのですが、王子はそれをまずルデアを使ってお試しになるのですわ。そう、女のあの孔に入れたり出したりよ。
女官はくすくすと笑い声を上げた。大使が指を使って女官にそれをしてやると、女官はますます尻も口も軽くなった。
王子が、ルデアを気に入っておられるのは確かですわ。専属の医師もつけて、ルデアが弱らぬように死なぬように、気を配っておられますもの。
「確かに、ひ弱そうな姫だった」
「お姫さまは本当に、一度は死にかけましたのよ」
他の女たちの許には一時間留まるかどうかという王子が、ルデアの許へ訪れた夜は
篭もりきりになり、一晩中でも時をかけることを、知らぬ者はいなかった。しかし、翌日のルデアの泣きはらした顔や、気絶して黒人の宦官たちに引き出されてくるぐったりとした様子、使われたと思しきあやしげな器具、女のからだに刻まれた鞭傷を見ては、それを羨む者は誰一人としていなかった。
後宮の女たちは暗黙の了解のうちに、もっとも王子が通う回数の多い女であるところのルデアの存在を無視した。
あれは王子のおもちゃ。
そのうち手足をもぎ取られて、路上に捨てられることでしょう。
「そうは言っても、ルデアがもし懐妊などしたら」
「ご安心を」
すっぱだかで大使の膝に乗りあげ、女官は大使に耳打ちした。
「ルデアは半年前に、王子のお胤を堕ろしておりますの。その時の悲惨な手術がもとで、もう子を生めぬだろうという噂ですわ」
「王子は、ルデアの子を要らぬと?」
大使は首をひねった。
ルデアは北国の姫である。もし王女が男子でも生めば、後々その王子を占領地に戻して傀儡の支配者にさせるという手もとれる。むしろ子を孕ませたほうが、南の国の利益ではないのか。
「ルデアが連行された当初は、誰もがそう思いましたの。加えてお姫さまのあの美貌でしょう。姫の方が年上ながら、これで子でも生めば、後々宮廷内に確固たる一大勢力を築くのではないかと危惧する者もおりましたわ。でも、そんなものはすべて杞憂にしか過ぎませんでしたの」
「堕胎させよ」
ルデアの懐妊を知った王子はすぐにそう命じた。
「まだ腹が膨らまぬうちがよい。下からイチジクの枝で突け」
イチジクの枝とは、堕胎用の鉄棒である。先がイチジクの実のように膨らんでおり、女の体内にそのまま押し込む。仕掛けをひくと鉄球が開き、中にひそんだ鉤爪が子宮から胎児を掻き出すという医療器具だった。
「懐妊したルデアは、棘のついたイチジクの枝を怖れるあまり、錯乱して自殺をはかりましたの」
女官は大使の肩に手をかけ、その耳に唇をつけるようにした。
「敵国の王子のお種ですもの」
「自殺を」
「露台から身投げをしようとして果たせず、宦官たちに取り押さえられたルデアは
麻薬を大量に投与されたそうですの。そのせいもあってか堕胎措置の間に容態が急変し、一時は危篤におちいったとか」
女の舌と唇が大使の耳朶をはみ、くすぐった。
「王子はたいそうお怒りになり、女奴隷が死ねばお前たちも極刑に架けると医師団を
脅したそうですわ。一命をとりとめたルデアは、それ以来、窓に鉄格子のはまった檻部屋に入れられております」
大使の手が膝にのびるのに合わせて、女官は脚を開いていった。女のからだを下にしながら、大使は思った。
もしも王子がルデアを愛しているならば、子を生ませたはずである。イチジクの枝で体内を突く堕胎方法は、命の危険をともなう上に、卑しい奴隷へ施す堕胎の方法とされている。王子は年上の美しい姫君を石女に変えさせて、つまり、いつでも気兼ねなく使える玩具として、後宮に飼っておきたいのだろうか。
(さもなくば、あの細腰の奥をイチジクの鉄枝で突くような酷いことはさせるまい)
それを否定も肯定もしない、王子のつめたい横顔が、ちらりと大使の脳裡を横切った。
寝所の灯りに、男たちに囲まれた白い裸体がのけぞり、小さなその唇からは悲鳴のような苦しい声がもれていた。
「大使に色目を使ったな」
寝所には、香のたてる紫の煙がほそく筋を描いて揺れていた。寝所に入ってきた王子を、ルデアは膝をつき、床に額をつけて迎えた。その両脇には黒い肌をした宦官が二人立っていた。
すぐに寝所の扉は閉められた。
入ってきた王子は立ったまま、その足をルデアの膝の上にのせた。ルデアはいつものように王子の足から金色のサンダルを脱がせた。片足ずつ、王子の肌を傷つけぬように。
ルデアはその白い肌を隠す薄物ひとつない、はだかの姿だった。伽役を命じられた女は、武器が隠せぬように衣をとられ、かんざしも外され、爪も短く切り揃えられて磨かれる。床にうずくまったルデアの白金の髪は、留める飾りもないままに、羽根のようにそのはだかの背に広がっていた。
「ルデア、脚をひらけ」
少年王は女の肩を軽く蹴った。
「後ろに手をつき、膝を立てて脚を開け。もっとだ」
黒い肌をした二人の宦官が、女の背後に回って女の膝を開かせた。王子は足指を女の内股へとすべらせ、女の股へともぐり込ませていった。
「東国の大使に色目を使ったな」
恥毛をかきわけた少年の足指は、女の暗がりをひらき、陰部を圧迫して、溝を往復した。時折、びくりと女のやわらかな内腿がふるえ、閉じそうになった。そのたびに宦官たちが女の膝を持ち上げ、外側に開いてもとに戻した。
「答えろ。大使に色目を使ったな」
いいえ、いいえ、と小さな抗いがそれに応えた。気品のある声だった。
「嘘をつくな」
女奴隷の張り詰めた小ぶりの乳房は白磁のような色艶で、その先だけが小さく赤かった。足の指で散々辱め、体液で濡れたその足をルデアの乳首にすりつけた後、王子は女を後ろ向きにさせて、肛門の具合を確かめた。
「罰として、浣腸をしてやる」
宦官たちがルデアのほそい手足を押さえた。天井を向いたつややかな女の尻に
王子は浣腸器の先を差し入れた。
「ああ……」
女はびくびくと苦しそうにふるえながら、肛門に注入される辱めに耐えていた。
ようやく許しが下り、脚の間におかれた桶にルデアがゆるいものを排泄をしている間、王子はルデアの切なくゆがんだその美しい顔から目を離さなかった。
「大使。お国に戻られる前に、餞別を与えよう」
王子に声を掛けられた大使はその晩、幾つもの門を通り抜け、幾つもの大門を
くぐりぬけて、さらには目隠しをされ、その室まで連れて来られた。
寝所には、香のたてる紫の煙がほそく筋を描いて揺れていた。
去勢された宦官たちが衝立を用意し、その裏に大使の姿を隠した。目隠しを外された大使は、衝立の隙間から、向こう側で行われていることをすべて盗み聴き、盗み観ることができた。
窓にはまった鉄格子さえなければ、第一級の賓客の部屋と比べても遜色ない、調度の整った女部屋だった。敷き詰められた絨毯、豪華な寝台。しかしそれは全て、この室をもっともよく利用する王子の為のものなのだ。
宦官たちはルデアのからだをたわめたり、腕を抑えつけたりして、王子の行為を
容易にさせるよう仕えていた。
「大使に色目を使ったな」のくだりでは心臓がとび上がったが、大使は衝立の後ろで息を殺し、ルデアのあえかな喘ぎ声や「いいえ、いいえ、何のお話か分かりません」という懇願に耳をすまし続けた。
王子はルデアの乳房を鷲掴み、その尻を犯し、その美しいからだを存分に扱っていた。四つん這いにされて後ろから突き上げられている女の喘ぎが苦しいものになっていった。
「大使」
唐突に名を呼ばれた。宦官たちが衝立を取り外した。
「大使。そなたの番だ」
まだ荒い息を吐いたまま少年は後ろに下がり、場所を譲っていた。大使はそこへ導かれた。ルデアは、王子の放った残滓をまだ陰部から滴らせたまま、尻をあげた格好でいることを求められ、そのままの体勢で床に顔を突っ伏していた。
宦官たちが女の腰の位置をなおした。白く丸い女の尻がぶるぶるとふるえて拒み、そしてすらりとした脚に挟まれたその花色の粘膜は、雨に打たれたようにしっとりと濡れていた。
宦官が大使の前に盆を捧げ持ってきた。そこには各種の淫具が揃えられていた。征服された国の女は辱めを受けるものだ。征服者が客人に王女を与えるといえば、それは与えられるのだ。
「大使。予の奴隷をかわいがってやれ」
少年は薄く笑った。
王子はその若い笑いの影で、こう言っていた。
----この女が予の奴隷にしかすぎぬことが、これでお前にも分かっただろう。
そのために特別のはからいで、お前にルデアをくれてやるのだ。
(そうかな)
大使は独りごちた。
(むしろ、擬態に思えるが)
大使の目前にあるのは、陵辱に泣いている、美女の透きとおるような肌だった。
女官の話に反して鞭傷などはほとんど見当たらず、浣腸はされても、見たところ肛虐の痕はない。その淫溝はすでに濡れ、余韻にひくつき、男の慰めを待っていた。
「遠慮はいらぬ。女を共有して親和をはかるのは、砂漠の民に伝わる古来よりのしきたりだ」
王子の手が何かを大使に握らせた。
「これを使え、大使」
それを膣に埋められたルデアの絶叫は、思わず大使がひるむほどだった。
「よい。続けてやれ」
王子は笑った。暴れるルデアはすぐに宦官の手で抑えられ、異物の先を含んでいる
尻を上げさせられた。ああん、とルデアは悶えてないた。
少年は大使に囁いた。
「その淫棒の形状はイチジクの枝に似せて作らせたのだ。それで子宮を突かれ、掻き混ぜられた時のことを思い出して、ルデアはいつもこうなる」
「イヤ、イヤ……」
「天井から吊るし、下から医師が突いたのだ。たちまちのうちに出血で桶の中が赤く染まったぞ。大使、そなたの国では奴隷の堕胎はどうやってさせるのだ」
「手っ取り早くは妊婦の腹を棒で殴ったり。あとは毒草を呑ませます」
「熱い風呂に入れてゆでるという国もあるそうだ」
先端が膨らんでいるイチジクの枝は、球体の太いところに差し掛かると女の膣口を
いっぱいに満たして入り口を広げた。
ゆっくりと棒を出し入れしてやると、あああ、とルデアは胸を床に擦り付けるようにして身悶えた。
華奢なばかりの姫に見えていたが、両脚をひらかれ、蝋燭に照らされている女の下半身はじゅうぶんに隠微だった。ぎこちない腰の反応が生娘のように生硬なところがまたよかった。
大使は世辞をのべた。
「処女姫さまであったものが、王子のご調教がうまくいきましたようで」
ルデアがゆるしを願ってすすり泣いた。大使は女の嫌がっている責具を体内から
引き抜いてやった。
「姫君さま」
大使は女の腰を掴んでそう呼んだ。男たちに囲まれたルデアはまるで少女のようだった。ルデアは床に額をすりつけ、ふるえる小さな声で、「おゆるし下さい」とだけ願った。
「王子、おゆるし下さい」
それには、尼僧が祈りを捧げるような風情があった。
王子が動かぬので、大使はそれを無視し、若い女のそこをいつもよりは丁寧に
ほぐしていった。
「失礼します」
ルデアとも王子ともつかぬあたりに大使は断った。後は、他の女たちにやることと同じだった。
婚姻成立の調印書を含む文書を抱えて大使は本国に帰国した。
南国の王子と東国の王女の結婚は、王の没後、その葬儀が済んでからということに決まったが、それは次の年にも、その次の年にも、持ち越された。末期の病にかかりながらも南の王は頑健であったのだ。
南国の王が崩御し、両国の婚儀の支度が相整い、大使が嫁ぐ姫の付き人として
再びその国を訪れたのは、四年後のことだった。
(続く)