※この作品はR-18です。

失恋の終わらせ方   作:wumin

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失恋

「うぅぅ……」

 

 涙が止まらない。先ほどからずっとだ。

 

「うぅ~~ぐすん」

 

 校舎の屋上で、一人の少女が悲しみにくれていた。ぽつんとひざを抱き、コンクリの壁にもたれて。ほおをべっとりとぬらし、しゃくりあげながら。

 時おり金網に硬球がぶつかり、野球部や陸上部のかけ声がひびく。夏の日差しがじわっと肌をあぶる。

 けれど、それらが気にならないほど、彼女の悲しみは深かったのだろう。

 

「どうして……」

 

 先ほど告げられた言葉が、頭から離れない。

 

 

 

 ――放課後の体育館裏でのこと。憧れだったひとつ上の先輩に、水橋(みずはし)千佳(ちか)は意を決し告白した。

 彼女としては、自信はあったつもりだ。

 花の女子高生。いつもは地味にポニテだが、今日はほどいてウェーブもかけている。香りつきのリップもつけて、戦場(こくはく)に挑み、勝負下着だって抜かりはない。

 おせじにも色香はないかもしれないが、そこは若さとけなげさで押し切ろう、と。

 

 なのに……

 

『ごめん。俺、前からずっと好きだった子がいるから』

 

 返ってきた答えは、それ。

 あっけない結末。つまり失恋。見事に玉砕……

 

『わたし、待ちますよ? 何年でも!』

 

 必死に食い下がり、かけ合おうとしたのだけれど。

 

『でも、そんなの水橋に悪いし。それに俺……』

 

 申し訳なさそうに、先輩は言う。

 

『ていうか、誰なんです?』

 

 どうしても気になり、つい口をすべらせた。

 憧れてた想い人の心を盗んだ(・・・)のは誰なのだろう、と。

 盗むとは、つまり正当でない取得を意味する。

 では、先輩は誰のものか?

 少なくとも、千佳の所有物でも彼氏でもない。

 今は――でもきっとそうなる運命なの、と彼女は心の中で叫ぶ。口元をうっすらとゆるめて。

 予定でも計画でもなく、さだめ。

 あらかじめ決まっている未来を、人はそう呼ぶのだが。

 まるで拒むような、避けるみたいな返事に、心がゆれ動く。

 どうしても、未来の恋人(せんぱい)の心を盗んだ恋敵(どろぼう)の名を知りたくて。

 しかし、きっとそれがいけなかったのだろう。

 たじろぐ先輩が後ずさりした、そのせつな――

 

 ジャリっ!!

 

 砂利を踏む靴音がひびき、声が耳をつんざいた。

 甲高いソプラノの調べ。

 

『イヤったら、ヤっ!!』

 

 まずは女子がうなり、

 

『お願いだよ、そこを、何とか――』

 

 ついで男子が弱々しくうめく。

 

 直後、二人の姿が千佳の目に飛びこむ。

 

『私、そんなんじゃないんだからっ!!』

 

『で、でも――』

 

『うるさい、もう私に話しかけないで!!』

 

 そう怒鳴りつけ、女の子が走り去っていく。

 脱ぎかけのビブス。バスケ部だろう細い線の少年が泣き崩れていた。

 かけていく女子生徒の姿に、千佳は息を呑む。

 先輩からしたら後輩の、彼女にとっては同級生。

 あまりいいうわさを聞かない子だというのがよぎる。

 

 が――

 

『……えっ!?』

 

 その瞬間に見せた先輩の表情が目に焼きついて離れない。あまりに露骨(ろこつ)な態度だったからだ。

 日焼けしてても分かるほど赤らんだ顔。魅入(みい)られたみたいにうっとりしていた。そわそわと落ち着きのない手足の動き。

 長身で肩幅の広い、さわやかそうなスポーツ少年が、純情そうにうつむいている。

 

『……』

 

 目を瞠(みは)り、合点がいく。

 そういうことか、と――

 

 

(なんで……なんで、あんな子がいいのっ!?)

 

 彼女は心の中でこれでもかと悪態をつく。どうしても納得がいかなかったからだ。

 いや、彼が誰かを好きになることに、彼女の許可は必要ではない。それはさすがに分かっているが――

 

(あんな――)

 

 髪の毛はくるくるで、うっすらとメイクまでしてる。スカート丈はかなり短く、ブラウスのボタンは二つも外しただらしない格好。

 おせじにも優等生とは思いがたい風体。

 なのに成績はいつも自分より上。しかも部活の大会では中学時代県大会までいったという。

 

「うぅぅ~~っ!!」

 

 それに比べて、自分はどうか?

 ミディアムの髪は、いつも短めのポニテ。近視なのでふちの赤いメガネをかけている。背も高くないし、胸も……際立って美少女には思えない。

 

「…………」

 

 勝てるだろうか?

 が、現実を見れば、完膚(かんぷ)なきまでに負けたのだ。

 

(どうしてあんな子に――)

 

 いわゆる嫉妬の感情が、ふつふつとわきあがってくる。ビッチみたいな見た目の子が選ばれ、自分はそうではなかった。

 だからなのか、暗い気持ちが彼女へとささやく。

 

(千佳(ちか)、愛を勝ち取るためには、手段なんて選んでられないの!)

 

 直感的に、それはよくないとは感じたが。

(いい? 破局を待ってなんていられないの。だって、そうでしょ? リアル女子高生でいられる時間なんて限られてるわ。その貴重な瞬間を、みすみすあんな子にあげていいわけ!?)

 ギュッと手をにぎる。

 

「わ、たし――」

 

 先輩と恋人になれる保障などはどこにもない。

 だけど、好きな相手が、自分ではない誰かに好意の視線を向けているのは、我慢できなかった。

 

(それに――)

 

 心の声は、さらにたたみかけてくる。

 

(あの子がもし、ちがう人と付き合えば? 先輩は恋破れ、失意に沈むじゃん? ……そこでわたしがもう一度声をかけるの! あくまで心配するそぶりで寄り添って!)

 

 嫌な女だな、と思ってしまう。

 でもささやきは終わらない。

 

(そうやって、少しずつ献身をくりかえしていけば、どう? 心理学でもいうじゃない。傷心の方が人は落ちやすいって。それに何かと理由をつけて、単純接触をしてけば、好意を持たれるわ!)

 

 そんなに上手くいくだろうか?

 という疑問はぬぐえなかったけれど。

 

(だいじょうぶ、千佳ならやれるわ!)

 

 根拠のないはげまし。けど今はそれが心地よい。たとえ、それがウソだったとしても。

 とにかく、先輩は自分を明確に拒否していなかった。あのビッチのように。他に好きな相手がいる(・・・・・・・・・・)だけで。

 断り方だって、やんわりとしていた……はず。

 いつまでもオトモダチでいよう、といった類の残酷な文句でもない。

 つまり、チャンスはついえていないといえるだろう。言い方はよくないが、つけ入る隙(すき)はある。問題は、どうやって――だが。

 

「ふふっ……」

 

 口元をゆるめ、彼女はひらめく。

 

(応援するの!)

 

 誰を……?

 

(わたしが、先輩と、あの子を!)

 

 意味不明な結論を出す。

 

(もちろんだけど、まずちゃんと二人を恋仲にするの! そうやって信用を得てから! でもでもっ! 本当に重要な場面でちょっと間違ったアドバイスをして! できるわ! 自身を持ちなさい、水橋(みずはし)千佳(ちか)!)

 

 破局――失意に沈む先輩――と彼によりそう自分(ちか)。

 シナリオはカンペキ……のはず。

 制服のひだスカートをつかみ、彼女は洟をすすり涙をぬぐう。

 何をするにしたって、リスクはつきものだ。大切なのは、何を勝ち取るか。

 たしかに、少々……いや、かなりイジワルではあるかもしれない。

 しかし、ここでいい人になってしまうのは、どう考えても損だろう。

 だからこの作戦を練り、実行しようとした――のだが。

 

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