※この作品はR-18です。

失恋の終わらせ方   作:wumin

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甘美な時間

 パコ――パコッ! パコパコパコ――パコン!!

 

 かしましい音をひびかせ、少女二人が激しく身体を動かす。

 

 パンパンパン――パコパコパンパン――パコン!!

 

 彼女たちの目は真剣そのもの。息をはずませ、声を荒げ、キャットファイトに興じている。

 千佳が攻め、あるいは恩が切り返し、嬌声があたりをつつみこむ。

 そこにあるのは、二人だけの世界。

 

「そんなもん!?」

 

「まだよ!」

 

 挑発的な言葉が飛び交う。

 攻めて、攻められ――

 

 ガチャリ……

 

 穴(ゴール)へとはまった。

 

「ははは……」

 

 楽しげに笑いながら、恩が告げる。

 

「水橋さん、上手だね……」

 

 ぐったりして、汗ばんだおでこにはりつく髪をはじきながら。

 伯仲(はくちゅう)するも、一点だがこちらの優勢。

 千佳は運動部でもないし、それほどスポーツ好きでもない。対する恩は動きから察するに、かなり手を抜いているだろう。いや、勝ちをゆずられた感はあった。つまりは接待プレイ、というやつ。

 

 何をしてるかって?

 いうまでもない。

 

 

 

 ……エアホッケーの対戦だ。

 ゲームセンターの片隅で、少女二人が遊んでいるだけ。

 

「そっかな。でも……」

 

 どこかウソっぽく見える恩の笑みに、千佳はジト目を向ける。何を考えているのか、と。

 たぶん、デートのつもりなのだろう。

 しかしそれは恋人同士がやるイベント。まだ付き合うことを承諾(しょうだく)したわけじゃない。

 そう、千佳は内心毒づく。

 と――

 

「私……中学の時陸上やってたんだ」

 

 恩が口を開く。唐突な自分語りを始めた。

 

「……そうなの?」

 

「ハードルでね、いいところまで行ったんだけど……試合中にアキレス腱切っちゃってね」

 

 しかもものすごく重い。

 

「パチーンって、すっごい音立てちゃってさ。ゴール直前で! あと一歩で優勝できたのに。だから、とっても悔しかったな」

 

「……そっか」

 

 試合中の事後で成果を出しきれなかった。そんなやりきれなさが伝わってくる。

 さらに選手生命を絶たれたのだ。がんばっても報われなかった彼女は、その時何を思ったのだろう。

 千佳が興味深そうに恩を覗きこむ。

 

「陸上やめた後、なんかいろいろとどうでもよくなっちゃって。別の趣味を持とうって思ったんだよ? だけど、なんか身が入らなくてね。で、ずっと運動してなかったから、身体なまっちゃった。今ではこんなだし。ダメだね、私……」

 

 なんと返すべきか?

 

 ――そ、そんなことないよ。

 

 という文句がよぎる。やさしい言葉を求めているのだろう。さびしそうな目に、ただ声が出なかった。

 

「それで、水橋さんは何かやってたの?」

 

 なのに恩はおしゃべりを続けていく。心の傷をやせ我慢するかのように。

 

「わ、わたしは……その、文芸部」

 

「文学少女だったんだー! 読書してる女の子って、なんだか清楚(せいそ)そうな印象あるよねー」

 

 その返事に恩がはしゃいで手を叩く。

 ただただ、暗いだけの女。千佳は自分をそう思っていた。実際、彼女は明るいとまではいえない。

 見た目も地味だし、面白くもないやつだ、と。

 けれど眼前の少女は、うれしそうにほほ笑む。清楚だという評価とともに。

 

「どんな本読んでたの?」

 

「……部長や顧問(こもん)の先生の趣味で、あんまり知られてないのだったよ」

 

「えーどんなの、教えてよぉ!」

 

 みたいな他愛無い話に時間をついやしていく。

 

 

 

 ゲーセンを出た後は、服を見たり、試着室で着せ替え人形を楽しんだ。

 あるいは、いまだ現役のプリクラでパシャパシャとシャッター音をひびかせ。

 はたまた怪しげな色の、スムージーらしい何かをすすったり。

 

 そして映画鑑賞。そこまでは普通だった。

 

「~~~~っ!?」

 

 剣と魔法の世界で繰り広げられる純愛。作品情報には、そう記載されえている。

 主人公の少女が、逆境にもめげずけなげに運命に立ち向かう。パンフによればそんなストーリー……のはず。

 

 

 しかし――

 

 

(なななななっ!? 何、なに、ナニっ!? なんなのよ、これは――っ!!?)

 

 千佳は手で顔を隠しながら、心の中で叫ぶ。恥ずかしさでいっぱいだった。

 純愛なのに?

 ただのラブロマンスだろう。そう思うかもしれない。

 もちろん、いたいけな少女が恋に悩み、愛の試練を乗りこえようとする話だ。

 ヒロインが、葛藤(かっとう)しながらも想い人と結ばれる。あらすじからも結末はたやすく予想はできた。

 なら、なぜ彼女はここまで動揺しているのだろう?

 いぶかしむべきは、千佳ではない。この作品の監督で、プロデューサーであり、何より原作者だ。

 きっとそうにちがいない。

 

 

 なぜなら――

 

 

 女の子同士の恋愛だったのだから。

 

 

『わたし、ずっとリノのことが好きだったの!』

 

 ほぼ半裸といっていい姿の少女が、想いを口にする。今にも泣き出しそうな顔で。

 銀色に輝くゆるふわな髪をおどらせて。灰色の瞳に映し出されたのは、リノというらしい幼げな女の子。

 

『ね、ねえ……ユニ、やめて?』

 

 床にぺたんと座る、少し幼げな女児が懇願(こんがん)する。

 乱れたゆるふわな栗色の髪の毛。破られた純白のドレスから下着が相手(ユニ)を覗く。肩紐がずり落ちたハーフトップが生々しい。

 翠に光るなまざしは怯(おび)え、ふるえながらユニを映す。息をつまらせながら。

 ……というか襲(おそ)われていた。

 

『やめない!!』

 

 だが細い腕は、幼げな肢体を絨毯(じゅうたん)へと押し倒す。

 今にも泣き出しそうな表情を浮かべて。

 

『だって、わたし……本気なんだもん!』

 

『え……?』

 

『リノが、全部欲しいのっ!!』

 

 そう叫ぶやいなや、彼女たちの唇が重なる。

 

 チュッ……チュ~チュッ!! ハム……レロレロ……ムチュムチュ!

 

 まるで貪るような激しいキス。舌を絡ませ、互いの唾液が混ざり合っていく。

 まだ未成熟でぺったんこなリノの胸を、ユニの手がまさぐる。秘密のベール(ハーフトップ)に隠されていた蕾(ちくび)を指でつまみ、口にふくむ。幼く無垢な身体を、愛おしそうに舌を這(は)わせ。

 

『ん、あぁ……』

 

 なまめかしい悲鳴。ついで責める声。

 

『リノって、こんな味だったんだね?』

 

『あ、う……』

 

 最初こそ、リノはあらがっていた。ぎこちなく手足をばたつかせ、逃れようとして。

 だけど、それはかなわず、彼女は涙ながらにうめく。

 

『ユ……ニ、もう、やめよ?』

 

 かすれた声、それに苦しそうな吐息。ポロポロと涙がほおを伝う。

 なのに終わらない。泣き出すリノのほっぺをユニがやさしく舐めた。

 おいしそうに味わって、彼女は問いかける。

 

『どうして?』

 

『だ、って……』

 

『だって?』

 

『わたしたち、女の子どうしなんだよ?』

 

 小動物っぽい目ををうるませ、リノはいう。

 

『そうね。でも、それがどうだっていうの?』

 

 が、返ってきた答えは驚くべきものだった。

 

『私はリノが好き――大好き!  どんなにおかしいことだとしても、この気持ちを偽ることなんてできないわ!』

 

『――』

 

 そして凍りつく少女に、ユニは追い討ちをかける。

 

『ひゃっ!?』

 

 悲鳴が耳をつんざく。

 彼女の手が、リノの最後の砦(ショーツ)へと伸びたからだ。

 

『おねがい、それだけは……』

 

 リノが泣き出す。小さな肩をふるわせ、怯える瞳を向けて。

 

『だいじょうぶよ。怖くないわ。だって、女の子同士なんだもの。どんなにシたって、リノはキレイな身体のまま』

 

 瞳にハートを浮かべ、ユニがささやく。

 

『も、もうやめようよ。わたしたち……』

 

『……』

 

 しばし、手が止まる。

 

『……もしかして、わたしのこと嫌い?』

 

 直後、ユニは意外な反応をしめした。

 今にも泣き出しそうな表情。灰色の瞳がうるむ。あふれる涙がほおをぬらし、息を乱して彼女が問いかける。

 

『ユニ……?』

 

 それは、もしかしたら初めて見せた彼女(ユニ)の弱さだったのかもしれない。

 

『わたし……』

 

 どうすべきか?

 ためらう眼が見つめる。血のつながりはないが、姉妹同然に育った関係。愛おしく、大切な相手。

 もし、この一線を越えてしまえば?

 これまでどおりにいられるだろうか?

 

『わたしも、ユニのこと好きだよ』

 

 リノが意を決して告げた。

 

『だけど……こわいの。こんなことして、わたしたち――』

 

『わたしだって、怖かった』

 

 その言葉をさえぎり、灰色の瞳が光る。

 

『でも、きっとだいじょうぶ。うまくいくわ。だってリノも、わたしのこと好きなんでしょ?』

 

『……』

 

 コクン――と無言でうなづく。

 

『リノとひとつになりたい。もっと、リノを大切にしたいから!』

 

『ユニ……』

 

 灰色と翠のまなざしが見つめあう。

 

 そして幼い少女たちの、淫らで甘美な時間がすぎていく――

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