※この作品はR-18です。

失恋の終わらせ方   作:wumin

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メグと一緒に

 

「…………」

 

 千佳はというと、顔を真っ赤にしてうつむいていた。目をうるませて、声も出せない。

 わなわなとふるえ、肩を抱く。

 

(な、なによ、これ――っ!!?)

 

 思い出すのは、二日前にあった恩とのキス。

 彼女に唇を奪われ、ねちっこい舌が口の中を愛撫する記憶がよみがえる。

 なぜ、こんな映画を観ているのか?

 いうまでもなく、大原恩からの告白に対する返事をするため――なのに。

 それがどうして、ガールズラブというか、レズモノの映画を鑑賞することになるのだろう。

 

 

『わたしのおまんまんが、リノをいっぱい感じてるよぉっ!!』

 

『おねがいユニ、わたしもっとキモチよくなりたい! ユニのぜんぶをうけとめたいのぉっ!!』

 

 

「――っっっ!!」

 

 館内にエコーする嬌声(きょうせい)が、千佳の心を乱していく。

 すでに頭は真っ白。混乱し、何も考えられず、ただ身悶(みもだ)えるばかり。恥ずかしさでいっぱいだった。

 なのに、上映はまだ中盤(ちゅうばん)。物語でいう起の部分が終わったところ。予定ではさらに一時間強もある。

 

(も、もうムリ――!!!)

 

 どんな恥辱(ちじょく)プレイなのか。そういわざるを得ない。

 鼓動(こどう)が激しく胸を叩く。過呼吸で息をするもやっとだ。

 

「ご、ごめん、わたし――」

 

 断りを告げて、立ち上がろうとした――そのせつな。

 

「っ!?」

 

 ぎゅむ……

 

 腕が、動かせないことに気づく。

 

「え――」

 

 いきなりのことに、理解がおぼつかない。が、その原因は明らかだった。

 ガッチリとつかまれた手。絡(から)みつくのは、恥ずかしそうにうめく恩。

 熱でもあるのではないかというくらい真っ赤な顔をしている。

 

「大原……さん?」

 

 問いかけると荒い息を返し、彼女はうるんだ眼で訴えかけてきた。

 

 ぎゅむ~~……

 

 そばにいて、といわんばかりに。

 

「え……? 大原、さん、だいじょうぶ?」

 

 自分だって限界なのに、千佳は語りかけ、対する答えはといえば――

 

「も、ムリかも……」

 

 今にも消えそうな声がすがりついてくる。

 

「じゃ、じゃあ、いったんここを出て――」

 

 休もう、と言おうとしたそのせつな。

 

「――ぅぐっ!?」

 

 口をふさがれた。もちろんだが、恩のくちびるで。

 ぷにっとした感触が唇を包みこむ。

 

「んぷっ、ん~~ぅぷっ!?」

 

 ついで舌が口の中を舐めまわす。ザラザラで、少しヒンヤリしていた。

 やわらかく、それにやさしい。丁寧に、あるいはねちっこく、隅々までを愛撫されていく。

 身体の全てを楽しむみたいに。

 

(な、何して――)

 

 ふわりとしたくるくるの髪がほおをなでる。遅れてバラの香りがただよう。

 

「ん~~!!」

 

 逃れようともがくも、まるであらがえない。

 力が抜けてしまったように、手足がしびれて動かせないのだ。頭までぼぉ~っとしてくる。

 

「ん……あんっ!?」

 

 と――やわらかい手が服の上から胸をさすった。お腹にはマシュマロみたいにふわりとした感触。

 ついでTシャツをゆっくりとたくし上げていく。ブラがはずされ、乳房が空気にさらされる。

 

「ぅむっ!? ん、んっ……んあっ!?」

 

 そして肌に指がはう。少しずつ、慣らすように揉(も)みしだき、乳首をつまむ。さらにこねくり回していく。

 

「ん……あぁぁ……んあっ!!」

 

 やめて欲しい――はずなのに、声が出てしまうほど気持ちいい。

 あらがえず、されるがままとなってしまう。

 

「ぷはっ!!」

 

 同時に恩がキスをやめた。

 うるんだ瞳が、ものほしそうにこちらを見つめてくる。

 

「……」

 

「……」

 

 無言でお互いを覗きこみながら、映画の音声が流れていく。

 

 

『ユニぃ……しゅき、らいしゅきぃいい……!!』

 

『わ、わたしも、リノのこと大好きっっっ!!!』

 

 

 まるで彼女たちが乗り移ったかのようだった。

 

 はむ……むちゅ、レロレロ……はぐはぐっ! ちゅっちゅう~~ちゅぽんっ!!

 

 もはや誰のものかも分からないキスの音だけが館内にひびく。

 うっとりとした眼がほほ笑む。耳を甘くかまれ、ささやきが心をうずかせる。

 

 

「思ったより、おっぱいあるじゃん」

 

「――――!?」

 

(思ったより、おっぱいあるじゃん――あるじゃん――あるじゃん……)

 

 恩の言葉が何度も頭の中をエコーしていった。

 首筋に息を吹きかけ、彼女の舌がそれに続く。氷菓子を食べるみたいに。

 ゾクゾクしてくすぐったい。舐められたトコロがひんやりする。

 

「ねえ、水橋さんの乳首って、どんな味なの?」

 

「っ!?」

 

 ついで、恩が千佳の乳首を食(は)む。そして吸う。

 まるで赤ちゃんのように。必死に、千佳を欲しがっている。

 彼女の舌はもうとどまるところを知らない。純粋に、ただ原初の衝動(しょうどう)だけが彼女を突き動かしていた。

 胸の奥から湧き上がる想いを、好きな子(ちか)へとぶつけて。

 それら全てを、千佳は受け止めていく。赤ちゃんみたいな恩を、包みこむ快感を感じながら。

 理性が吹き飛びそうになるほどだ。

 あえぎ声をもらし、けれどふと気づく。

 そう、ここはプライベートな空間ではないことに。だって映画館なのだから。

 

「ぅう……」

 

 もどかしげな、今にも泣き出しそうな息をついて、千佳が言う。

 

「お、大原しゃん……だ、誰かに見られたら……」

 

 すでにろれつが回っていなかった。

 だからこそいろんな意味でまずい。

 下手したら、人生が終わるかもしれない情事だ。

 

 なのに――

 

「ら、らいひょーぶ……、みるはひひゃん(みずはしさん)、ま、まわり、いて(みて)?」

 

 返ってきた答えはおどろくべき口調。思わず、脳が溶けかかったのではないかと疑ってしまうほどの。

 だがうながされ、あたりを見わたし、息をのむ。

 涙でジワっとゆがむ景色。ぼんやりする頭で、その瞳が映したのは――

 

「ふえっ!?」

 

 いちゃつくアベック。男女のペアに混じり、女の子同士のカップルが抱き合っている。どうも学生が多くて、ヒマそうな大人がちらほら。

 観客たちのどれくらいだろうか。半数以上がベタベタ体をまさぐり、舌を絡ませていた。

 ごく自然に、まるでそうするのが当たり前とでもいわんばかりに。

 公共施設であるにもかかわらず。

 その光景に、千佳は我へと返り、声をつまらせる。

 

「~~」

 

 聞き取りづらい恩のつぶやきを理解して。

 

 ――ここ、穴場なんだよね。よく、こういうことするカップルが来るの。

 

 たしかにそう言っていた。聞きマチガイや幻聴ではないだろう。

 ということは……?

 

「――っ!!」

 

 はめられた!?

 

 ――でね。ここで一緒に映画を見終わった二人は、恋人として結ばれるんだって!

 

「あぅ……?」

 

 頭を殴られたみたいな衝撃(しょうげき)が、千佳を襲う。

 

(カップル……? 結ばれるっ!?)

 

 もう、何もかもが分からない。感情の糸がグチャグチャになっていく。もはやゴルディアスの結び目だ。

 

「ひょ、ほ、ほんひ――ひゃんっ!?」

 

 直後、黄色い声が耳をつんざいた。

 下着の中で、指がもぞっとうごめき、千佳の秘部(あそこ)をはう。

 ぴちょ――と水音がはねる。ぬれた下着……まるでおもらししたみたいに。その意味は明らかだ。

 

「んあっ!!」

 

 そして気づく。自分(ちか)が、彼女(めぐみ)と同じくらい、求めていることを。

 恥ずかしいところが、ものすごく熱い。焼けるように。かゆくてムズムズする。今にもこげてしまいそうなほどに。

 何もかもが、いっぱいいっぱい。だけど、恩がこれでもかというくらい、甘ったるい声でささやく。

 

「ねえ……チカって、よんでいい……?」

 

 名前を、口にして。

 その意味が、千佳に分からないはずがない。

 もっと親密に、そしてひとつに――

 恩の心が、自分の中へと流れこんでくるみたいな、そんなふしぎな感覚。

 どれだけ彼女が、恋焦がれていたのか。それが今では手に取るように分かってしまう。

 思いを伝えられなかった日々。その苦しさや、さびしさから逃れようともがく恩の心が。

 どうすれば――どうしたらいいのか?

 いや、ちがう――自分《ちか》がどうしたいのかだ。

 選択肢はふたつ。

 付き合うか、振るか。それ以外にない。

 

(わ、たし――)

 

 浮かんでくるのは、恩を振った未来。

 

 ――もしかして、イヤだった?

 

 悲しげなまなざしが、こちらを覗きこむ。

 

 

 千佳は自身へと問う。

 これはイヤなことなのだろうか、と。

 恩の触れる手は、とてもやさしかった。強引ではあるかもしれない。

 けれど、それだけ自分のことを想っていくれている。

 さまざまなシーンが、パラパラ漫画みたいに浮かんでは消えていく。

 教室で目にした、先輩の情事。それを見て泣きじゃくりながら流れていく景色。黄昏の公園で唇を奪われた瞬間。いつもとはちがう清楚な雰囲気の少女に、なすがままにされてる自分。

 そして思い出す。

 今日が、彼女へ対する返事の期限だということを。

 手がひどくふるえていた。心臓が、内側から激しく胸を叩く。その苦しさで息もできない。

 

(そうだよ……)

 

 浮かんでくるのは、泣きじゃくる恩。この世の終わりであるかのような顔をして。

 心の中で彼女が懇願(こんがん)し、すがりつく。

 

 ――おねがい、嫌いにならないで!!

 

 その姿に数日前の自分を重ねた。

 失恋の痛みがよぎる。

 拒まれて傷つかない人間なんていない。どんなに言葉巧みであったとしても。

 それを求めるのは、振る側のエゴにすぎないのだから。

 

(もし、わたしが……)

 

 恩の立場だったら?

 間違いなく、立ち直れないほどのショックを受けるだろう。

 先輩に振られたあの瞬間を噛みしめ、千佳は思う。

 

(それに――)

 

 最初は驚いたが、でもそれほどイヤではなかった。

 胸を揉まれ、乳首を摘まれ……景色が真っ白になっていく快感。

 

 ――好きだよ、チカ。

 

 と耳元でささやかれる甘い言葉。

 口の中を舐めまわしてくる、やさしいキス。と舌の上に広がる彼女の味。

 自分ですら意識して触ったことないところを、ねっとりと触れる指先。

 それらが絡み合い、愛撫してくるのだ。

 

(わ、たし――)

 

 あらがえない。身も心も、すでにすっかりトロけている。

 もし彼女が嫌いなら、きっとこんなにはならないはず。

 

(もしかして……わたし、大原さんのことが……)

 

 頭が働かず、思考だって上手くまとまらない。

 それでも――

 ぼんやりする景色をながめ、千佳がコクンとうなずく。

 そして、くちびるに触れるキスの音をひびかせてから、言った。

 

「わたしも、メグって、よびたい……」

 

 つまり――

 それは……

 

 恋人としての関係になりたいという返事。

 恩がぱあぁ――と、表情をほころばせ、それから顔をくしゃくしゃにする。

 

「……い」

 

 ぽろぽろと彼女がこぼす涙を、千佳の手がぬぐう。

 

「映画が終わったら……二人は結ばれるんだよね?」

 

 ――うん。

 

 胸の中で泣きじゃくりながら、恩がうなずく。

 

「最後まで、一緒に見ようね、メグ(・・)」

 

 そして名を口にした。

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