ちょっとした暇つぶしに呼んでいただければ幸いです。
俺は
運動はそこそこできる方、成績もそれなりの何の変哲もないつまらない人間。それが俺だ。一応サッカーが好きなので部活に入ってはいるものの、特にモテたりとかはしてない。まぁ俺自身が積極的に動くタイプではないのもあるけど。
そんな俺には今年大学生になる兄がいるのだが、兄は俺と違って成績優秀、スポーツ万能、女子にもモテまくるという絵にかいたような完璧超人だ。そんな兄を両親は溺愛している。父は「出来損ないの弟と違ってお前は本当に優秀だ」と。母は「あなたのお兄ちゃんはこんなにすごいのに、どうしてあなたはそんなに出来損ないなのかしら?」と。勘のいい人は気づいてるかもしれないけど、俺は家族みんなから邪魔者扱いされている。昔から出来のいい兄と比べる両親に加え、その両親に溺愛されたせいか兄も俺を見下している。
そんな息苦しすぎる地獄から逃れたかった俺は、実家から遠く離れた高校を受験し、その時に一人暮らしがしたいと両親に話した。すると両親は「出来の悪いお前に出す金はないと言いたいところだが、お前がこの家から出ていくなら学費は出してやる」と言われたので、喜んで甘えさせてもらうことにした。それから数日たって引っ越しの準備を終わらせて家を出ていく直前、
「これ以上お前のことで悩まなくて済む」
「ここには帰ってこなくていいわ。あなたはもう私たちの家族ではないもの」
「じゃあな光弘。向こうでせいぜい底辺らしくみじめに暮らしていくこった」
数々の罵倒を背中に浴びながら、俺は家を出ていった。それから家族とは一切連絡を取っておらず、また向こうから連絡してくることもなかった。学費とかについては自分の銀行通帳に300万ほど振り込まれているので問題なく支払える。ただ学費を払うだけにしては振込すぎじゃないかとおもった俺だったが、両親に振り込まれたお金はそれだけで、それ以降今日に至るまで一度も振り込まれていない。おそらく高校を卒業するまでに必要な分の学費を一度に振り込んだのだ。学費の足りない分や生活費は自分で稼げということなのだろう。
こうして俺は家を追い出され、一人新天地である『黄泉原町』に引っ越して現在に至る。黄泉原町は実家がある都会と比べて娯楽は少ないが、街の人たちはとても親切で、古き良き町並みって感じがしてとても居心地が良かった。
俺はあの息苦しい地獄から解放されて自由になった。一人暮らしは何かと大変で生活費のためにバイトもしないといけないけど、それでもあんな実家にいた時よりも楽しい生活を送れていた。俺はこのまま高校を卒業してどこかに就職して、そしてそのまま平凡な日々を送り続けるものだと思ってた。
しかし、そんな俺の平凡な日々は、ある日突然終わりを告げることになる。
とある日の夕方、俺はいつも通り部活が終わって自分が住んでいるアパートに帰っていた。
「さて、今日は何を作ろうかな」
俺は帰る途中で立ち寄ったスーパーで購入した食材を見て今日の夕飯について考えていた。考えているうちにアパートについて鍵を開けてドアを開けようとしたとき、玄関の前に何やら荷物が置かれていることに気が付いた。
「ん? なんだこれ?」
その箱には宛名や送り主が書かれておらず、不在票の類も見つからなかった。俺自身ネットショッピングは利用しているが、ここ最近何かを頼んだ覚えはない。
不気味に思った俺だったが、俺はひとまず中身を確認するためにその箱を持って部屋の中に入った。食材を冷蔵庫の中に入れて着替えを済ませると、俺は机の上にその箱を置いた。
「ちょっと怖いけど、とりあえず中身は見てみるか」
何にせよ、中身を確認しないと始まらないと思った俺は、箱を開けて中のものを取り出した。その中に入っていたのは、俺の予想だにしないものだった。
「なんだこれ? ベルトか?」
箱の中に入っていたのは何かをはめるような穴があり、刀みたいなオプションが着いた奇妙なベルトらしきアイテムだった。
「何かの玩具かこれ? 一体だれがこんなものを?」
俺はいろいろ考えてみるが、どこかで似たようなアイテムを見た覚えもなく、またおもちゃとして発売されたようなニュースもない。ネットで調べてみても、ベルトに関する情報は何も出てこなかった。
「これってつけてみても大丈夫なのかな」
俺自身こういった玩具は好きなので送り返す前につけてみようと思い、俺はベルトを体に当ててみた。すると、
『戦極ドライバー!』
という音声と共に、俺の体にぴったりと装着された。いきなり発せられた音声に驚いた俺だったが、それよりも──
「か、かっけぇ!」
喜びの方が強かった。実家で肩身の狭い思いをしている時からよく見ているヒーローもののベルトをつけているみたいで、俺はひどく興奮してしまった。せっかくなのでこういった玩具を使った変身遊びもしたいと思ったが、あいにくと穴にはめるアイテムは入ってないようだった。どうせなら入れといてほしかった。
とりあえずベルトの付け心地を堪能したところで、俺はベルトを外す。ひとまず今日は遅いので、ベルトについては明日どうにかしようと思い、晩飯を済ませてさっさと寝た。
そして翌日、俺はカバンの中に戦極ドライバーを入れて学校に向かった。教室に入ると、見知った顔が俺に挨拶してくる。
「おう光弘! おはよう!」
挨拶してきたこいつの名前は鹿島大樹。俺が高校に入学してからできた友達で、いつも明るくクラスを引っ張っているいい奴だ。
「おはよう大樹。今日も元気いっぱいだな」
「おう! 俺はいつだって元気だぜ!」
俺は大樹としばらく駄弁ると、頃合いを見て俺は大樹に昨日の件について持ちかけた。
「なぁ大樹、俺昨日変な玩具手に入れたんだよ」
「変なおもちゃ? なんだそりゃ?」
「あぁ。これなんだけど」
そう言って俺は、昨日の出来事を話しながら例の戦極ドライバーを大樹に見せる。
「なんだこれ? 刀みたいなのがついてるけど」
「あぁ。なんでもこれ、ベルトみたいなんだよ。昔見ていた特撮ヒーローに出てくる変身ベルトみたいなやつ」
「あっはっはっは! なんだよ光弘! おまえそんなものを家の前に置かれてたのか?」
「そうだ。なんで俺の家の前に置かれてたのかは知らないけど、誰かの家と間違って配達されてんじゃないかって思ってるんだ」
「これを頼んだ奴はきっとコスプレ趣味かなんかだな。それってつけてみたりしたのか?」
「あぁ。これがまたぴったりでな。つけた時の感覚が心地よくて、まるで本当に変身できるかのような気分を味わえたよ」
俺は昨日のことを思い出しながら大樹に話していく。すると大樹はからかうように俺に尋ねてきた。
「はっは~ん? さてはお前気に入ってるな?」
「馬鹿言えよ。昔はよく見てたけど、俺はそう言うのはもう卒業したんだ」
「恥ずかしがる必要ねぇって! 男はいつだってロマンを求めているからな!」
「そんな風に考えている奴はお前だけだよ。なんならお前もつけてみるか?」
「マジで? なら遠慮なく!」
大樹は自信満々に戦極ドライバーを腰に当てた。しかし……
「あれ? 装着できねぇぞ?」
「え? いや普通にこうすれば装着できるぞ?」
俺は大樹から戦極ドライバーを取り上げると、自身の腰に当てる。すると大樹の時とは違い、今度はしっかりと装着された。
「おいおいなんだよ! お前だけ装着できるなんてずりぃぞ!」
「おかしいな。確かにこうやって装着できたはずなんだけど」
「けどお前だけが着けられるってことは、もしかしたらお前専用だったりしてな? 案外間違って配達されたわけでもないかもよ?」
「そんなバカな話があるか! とにかく、今日あたりでも交番にいこうと思う」
「え~? せっかくかっこいいベルトを手に入れたのに?」
そう言う大樹は俺をにやにやしながら見ている。完全にからかってるなこいつは。
「おまえ絶対内心爆笑してるだろ! 顔に出てるぞ!」
「あ、いけね! 思わず顔に出ちまったか?」
それからいつも通りに放課後まで時間は過ぎていき、学校を出た俺は交番に向かっていた。結局大樹に聞いても何もわからずじまいだったが、少なくとも普通の玩具ではないのは確かだ。俺個人としては結構かっこいいと思っているが、それでもこれは本来自分のものではない。さっさと元の持ち主もとい購入者に返すべきだろう。
けど交番に向かう途中で横切った路地裏で、俺は気になる物を見つけた。
「ん? こんなところに植物なんて生えてたっけ?」
その植物はこの世のものとは思えない幻想的な物だった。どれもこれまでの人生で見てきたことのない物ばかりで一瞬呆けていたが、次の瞬間にそれらが吹っ飛ぶ光景を目にする。
「な、なんじゃこりゃ!? ファスナーが開いてる!?」
なんと目の前の空間にファスナーらしきものが開いているのだ。俺は目の前の光景が信じられずに後ずさってしまう。俺は今夢でも見ているのか? そう思わずにはいられないほどの光景に、俺は言葉を発せなかった。
「……?」
だが俺をそれ以上に驚かせたのが、ファスナーの中に広がっている森らしきものだった。それを見た瞬間、何故か俺は吸い寄せられるようにファスナーに近づいていき……
「………………え?」
気が付けば森の中にいた。そこには先ほど見た植物が辺り一面に広がっており、さながら物語に出てくる森の中に入ったかのような感覚に包まれる。そうして森を眺めていると、一つのものに目がとまった。
「これは……果物か?」
俺はその果物に近づいて、
「なんだか、すげぇうまそうだな……」
俺は食欲を無性に駆り立ててくる
「グルルルル……」
「……!?」
唸り声のようなものが聞こえてハッとした俺は辺りを見渡す。そこで見たものは、こちらに向かって獰猛な殺気を向けてくる異形の怪物だった。
「な、なんだよあれ。化け物!?」
俺はさっきから立て続けに起こっている非常識な光景に理解が追い付かず、さらに森に棲んでいるであろう化け物の姿を見て一歩も動けずにいた。なんだあれは? なんであんな化け物がこんなところに? この森は一体? 次から次へと湧いてくる疑問に俺はパニックになりそうだった。
「こ、こないで……」
「っ!?」
突然聞こえてきた声に俺は現実に引き戻される。まさか俺以外に人がいるのか?
「確かこっちから聞こえてきた気がする!」
俺は急いで声がした方に向かって走り出した。そこでは今まさにさっき見た化け物に声の主であろう女の子が襲われようとしていた。それを見た俺は無我夢中でそこに向かって走り出す。俺は化け物に向かって渾身の飛び蹴りを放った。
「おらぁぁぁ!」
「グァァ!」
「………………え?」
俺の飛び蹴りで、ひとまず女の子から化け物を離すことができた。だが化け物の方は全く堪えた様子も見せず、俺に向かって襲いかかってきた。
「君、ひとまず逃げるぞ! ここは危ない!」
「は、はい!」
俺は女の子に向かって手を伸ばす。女の子が俺の手を掴んだのを見て、俺は無我夢中で逃げ出した。そうしてしばらく逃げた後、化け物が追ってこないことを確認して、俺と女の子は座り込んだ。
「はぁ、はぁ……ここまでくれば、もう奴も追ってこないだろう。大丈夫? けがはない?」
「は、はい……大丈夫です。その、ありがとうございます」
「いやいや、気にしなくていいよ。俺も無我夢中でやったことだし」
「それでもです。あなたが助けてくれなければ、私はあのまま死んでいました。あなたは命の恩人です」
「そんな風に褒められると、ちょっと照れるな……」
なんか変な空気になったけど、少し落ち着いてから俺は女の子に自己紹介する。
「俺は倉岡光弘。この町の高校に通ってる高校生だ。君は?」
「私は塔城小猫っていいます」
「塔城さんか。よろしく。それより、この森は一体何なんだ?」
「わかりません……。私も気が付けばこの森にいたので……」
「そうか……。まったくさっきの怪物と言い、この森と言い、わからないことが多すぎる」
聞いた話によると、塔城さんもこの森についてはわからず、また彼女も俺と同じで、気が付けばこの森に来ていたようだ。俺が辺りを警戒していると、今度は塔城さんが俺に質問してくる。
「倉岡さん。それは?」
「ん? あぁ、これか。これは戦極ドライバーっていうベルトみたいなアイテムだ。こうやって腰に当てれば装着できるんだよ」
俺は腰に戦極ドライバーを当てて装着してみる。塔城さんはおぉ~と言いながら俺を見ていた。なんだかおもちゃを自慢している子供みたいで少し恥ずかしくなってくるな……。
「と、とにかく。まずはこの森から出ることを考えないか? 詳しい話はそれからでも遅くはないだろう?」
「そうですね。それになんだかこの森、すごく怖いです……。何か嫌な気配が纏わりついてくるみたいで……」
「よくわからないけど、この森が普通じゃないってことは確かだな。こんな怪しい果物もあるし」
俺はその辺に生えていた果物を毟り取る。すると驚くことに、その果実はブドウのデザインが描かれた錠前のようなアイテムに変わった。
「えぇ!? なんだこれ!? なんかアイテムに変わったぞ!?」
「もしかして、ここに生えてる果物って、全部そんなアイテムなんですかね?」
「わからない……。塔城さんは見たことあるか?」
「見たことないです……。私が果物を取った時はこんなことは起こらなかったです」
「俺もさっき取った時はこんな風に変わらなかったぞ。もしかしてこの戦極ドライバーが関係しているのか?」
俺は戦極ドライバーとブドウのデザインが描かれた錠前を観察してみる。よく見てみると、ドライバーのフェイスプレートに中華風の武将らしきものが描かれていた。昨日見た時にはなかったはずだが、ここまで非現実的な出来事が続いたせいでそこまで気にする余裕がなかった。
「倉岡さん。あれって……」
「ん? あ、あれって路地裏に出てたファスナー!」
「倉岡さんはあれを通ってここに?」
「あぁ。あのファスナーを見た途端、なんでか知らないけど行ってみなきゃって思って……」
「私も、あれを通ってこの森に来たんです」
「塔城さんもか? ならあれを通れば元の場所に……」
俺と塔城さんが顔を合わせてファスナーまで向かおうとしたとき、後ろからさっきの怪物がこちらに向かってきていた。
「急ごう塔城さん! あのファスナーがいつまで空いてるかわからない以上、この森にとどまるのは危険だ!」
「わかりました!」
俺は再び塔城さんと一緒に怪物から逃げるため、ファスナーに向かって走り出した。
R18描写はまだ先になります。
果たして光弘と小猫は無事に生き残ることができるのでしょうか?
次回は初変身&戦闘になります。お楽しみに!