そのうちエロを濃くしてリメイクしたいなぁ。
罪の記憶とワレタ心
「よっ! ちゃんと呑んでるみたいだな。英雄サマ!」
エールの杯を手に、軽薄な口調で話しかけてくる冒険仲間の
小国を滅ぼそうと暗躍していた
まぁ見つかってしまったものは仕方ない。少々独りにも飽きていたしね。
「大勢にもてはやされるのは苦手なんだ」
「知ってる。そんでもって本当は寂しがり屋で、内心では俺が来るのを待ってたってのもな」
「ふん」
小憎らしい事を言う。本当の事だけに余計に腹が立つ。
「ここも少々騒がしい。部屋を借りるから今夜は酒に付き合ってよ」
「そう言うと思って旨いつまみも買ってきたぜ」
「ちっ……本当に嫌になるくらい気が利くね」
連れ込み宿も兼ねた酒場の不愛想な店主に銀貨を放り、無造作に飛んできた部屋の鍵を空中で掴む。高級ぶった宿よりもよほど気楽でいい。
旨い肴で浴びる程に酒を呑み、ベッドにもぐりこんでヤる事をヤる。華奢なエルフの癖にタフで、閨の技術にも長けたこの男に抱かれるのも、もう何度目だろうか。
人々から英雄と呼ばれる女を抱いておきながら、酒の席ですらそれを吹聴したりしない男。普段は軽薄なのに、冒険の時は誰よりも慎重で真面目な彼の腕の中にいる時だけ、ボクは束の間、英雄である事を忘れて一人の女になる。
「なぁ」
「なに?」
「ちっとは気が晴れたか?」
「……うん」
「そうか。ならいいんだがな」
余計な言葉を聞かず、温める様に事後のカラダを抱いてくれる男。いつもそうだ。ずかずかと踏み込んでくるようにみせかけて、心の一番深い所までは踏み込んでこない。そんな彼の優しさが嬉しくて憎らしくて……ついぽろりと零してしまった。
「ねぇ……聞いてくれるかな」
「ああ」
何をとも聞かず、ただ頷いてくれた男に、胸に秘めていた想いをぽつりぽつりと語る。
そろそろ限界だったのかもしれない。或いはこの男ならと思ったのかもしれない。まぁ酒と色事の勢いというのもあるだろう。そういう事にしておこう。
※
あれは、ボクがまだ人々に英雄と呼ばれる前。力無き人々を救わんと立ち上がり、神の加護を受けて邪神の眷属と闘い始めたばかりの出来事だった。
「あう……頭が痛い。ここは一体どこ?」
まだ未熟だったボクは、深淵の樹海に潜む、邪神の眷属との死闘をからくも制したものの、半ば相撃ちの様な形で頭に傷を負い記憶を失った。
「ひぃ! 化け物の死体が……この大剣でボクが? ううっ……思い出せない。痛い……怖いよ」
半壊した鎧を脱ぎ捨てて深い森の中を彷徨い、現れた魔獣たちから必死に逃げながらボクは進み続けた。携えていた血塗れの大剣は、恐ろしくなって投げ捨ててしまっていた。
記憶を失ってもボクの頑丈な肉体は存分にその能力を発揮してくれたけど、戦う術を持たない人間が生きていける程、魔獣が蔓延る樹海は容易い場所では無い。
やがて、やっと見つけた泉の畔で喉の渇きを癒したボクは、そのまま倒れ込むように意識を失った。
「ううっ……ここは……建物?」
次に目覚めたのは、木造の小屋の中だった。
あのままであれば魔獣の餌食となっていただろうボクを小屋まで運び、助けてくれた人がいたんだ。とはいっても、手には枷を嵌められて拘束されていたんだけどね。
「目覚めたか。何の目的であんな場所にいた?」
「誰? 頭が痛いよ……なにこれ……手が動かない」
「怪我の治療はした。情報も吐かずに死なれても困るからな」
「わからない……ボクは誰なの? なんでこんな所に? ううっ」
頭の良い人だった。
ボクの状態から記憶喪失が演技ではない事をすぐに見抜いて、それからは人が変わった様に優しくなった。口調は乱暴なままだったけれど、拘束を外して食事もくれたんだ。
「食え。お前が何者かはわからんが、何も知らんガキみたいな女をいたぶる趣味は無い。怪我が治ったら森の外まで送ってやる」
「ありがとう! もぐもぐ……美味しい!」
「ちっ……」
悪人ではない様に見えた。
日中は地下室に籠って、夜はベッドをボクに譲り、自らは床に寝具を敷いて眠る。狩人でも樵でもない男の行動は不審そのものだったけど、記憶の無いボクは違和感を覚える事も無かった。
不器用ながらも優しい彼に、記憶を失って不安定になっていたボクが依存してしまうのは当然の成り行きだった。
「もう傷もほぼ癒えたな。明日、森の外に送ってやろう」
「えっ! やだよ……ボクここに居たい」
「ダメだ。いい加減ベッドで寝たいしな」
「一緒に寝ればいいでしょ? なんで毎回床に寝るの?」
「お前……って記憶が無いなら仕方ないか。お前は綺麗な女で、俺は男だ。手も出せん女と褥を共にして耐えろというのか? それは拷問というのだ」
そう言って眉を顰める彼に、無知で必死だったボクはこう答えた。
「なにか我慢してるの? ボクなら気にしないからあなたの好きにしていいよ。だから傍にいさせて」
いま考えると結構な殺し文句だったね。世の男達の大半はこれで落とせる、女の
少しだけ苦悩する様に逡巡してから、彼はベッドに入ってきた。そこからはまぁアレだよね。自慢じゃないけどスタイルには自信があるし、感度も良い。抱きごたえのある女だと自分でも思う。彼がボクのカラダに夢中になるのに時間はかからなかった。
初めてだから最初こそ痛みで泣いちゃったけど、すぐに気持ち良くなってはしたなく嬌声を上げながら行為をせがんで、そんなボクに彼は思う存分欲望を吐き出してくれた。
幸せだった……。あの時ほど女で良かったって思った事は無いよ。好きだったんだ。それが吊り橋効果とか刷り込みの様なものだったとしても、彼が向けてくれてるのが愛情では無く劣情であったとしても、ボクは彼を愛してた。
互いに獣みたいに貪り合って、精根尽き果てて余韻に浸ってたボクに彼は言った。
「名前は覚えていないのだったな。無いと不便だ。俺が付けてやる」
「それって……ここに居ても良いって事? やったあ!」
「ふん。何も知らなくとも女はこれだから……アン――いや、アニーだ。本当の名前を思い出したら捨てていい」
「アニー……。ありがとう! 思い出しても使うよ! あなたの名前は教えてくれないの?」
彼はすぐにいなくなるのだからと名前も教えてくれなかったのだ。ボクに名を付けた後で、グレイと名乗る彼の面倒そうな顔を今も覚えている。
しばらくは幸福な日々が続いた。
相変わらず地下室に籠って何かをしているグレイ。ボクは、何故か魔獣が近寄らない小屋の周りで薪を作ったり掃除をしたり、別に地下に来るなとは言われてなかったけど、彼の邪魔をしてはいけないと思って地下には行かなかった。
グレイがどこからか用意してくる食材を使って、夜に戻って来る彼の為に料理を作る。仏頂面で残さず食べてくれる彼と一緒に食卓を囲み、寝室へ向かう。
やり場のない鬱憤を晴らすかのように激しく、何度も何度も乱暴にボクを抱いて、事が終わるとさっさと眠りについてしまうグレイ。甘い言葉の一つも掛けてくれないけど、それでも愛する彼に抱かれてボクは幸せだった。
一つだけ不満があるとすれば、子供が出来ると面倒だからと彼が飲ませてくる避妊の薬草くらいだったよ。ボクは欲しかったんだけどね。
でも、そんな偽りの幸せが続く筈も無かった。
ある時、グレイが地下に籠っている時に小屋の中で転んだ僕は頭を打って……その衝撃でボクは記憶を呆気なく取り戻した。
「痛ったあ……あ――」
座り込んだまま呆然とするボクの頭の中で、失っていた記憶と小屋で過ごしていた日々の記憶が繋がっていく。
力無き人々の為に立ち上がり、神の加護を得て邪神とその眷属を狩る戦士としての使命を思い出す。
「あ……あ……そうだ……ボクは相撃ちになって――グレイ」
人々の灯火であらんと生きてきたボクだけど、グレイへの愛情の念は変わらずにあった。それは両立できない事でもない。彼に記憶を取り戻した事を伝えるべく、ボクは今まで降りた事の無い地下室への階段を降りていった。
階段を降りながら、今までは一度も感じなかった疑念が段々と膨らんでいく。
なぜ深淵の樹海の奥で独り、暮らしているのか。地下で何をしているのか。そもそも糧はどうやって得ているのか。足を止めて引き返せと警鐘を鳴らす微かな心の声を無視して、ボクは場所に似合わぬ分厚い鉄扉を押し開けた。
「アニーか、珍しいな。来るなとは伝えていなかったがここは危ない。何も触らなければ大人しく見ていてもいいぞ」
そこは研究室だった。
大きなガラスの円筒の中で蠢く、幾つもの魔獣が合成された化け物や、奇形じみた魔獣。散乱した資料や床に描かれた名状し難い魔法陣。
そして部屋の最奥には、そんな悪夢の如き研究物よりも遥かに悍ましい形状の邪神像――グレイは、邪神の加護を得た人間だったのだ。
「アニー?」
ふらふらと
「思い出したんだ」
「――そうか、それは良かった。出ていくのか? それとも散々お前を欲望の捌け口にした俺を殺しに来たのか?」
彼は覚悟していたんだ。
いつか記憶を取り戻したボクが、自分を殺すかもしれない。それを理解してなお、彼はボクを傍に置く事を選んでいた。
「違う! グレイは信じていなかったかもしれないけど、ボクはグレイの事を本当に愛してた……いや、今も愛してる」
「それは刷り込みの様な物だ。俺は記憶を失ったお前をいい様に扱い、玩具にしていただけの屑だ」
「きっかけなんてどうでもいい。ボクがあなたを愛している事は変わらない。でもボクは――神の戦士なんだ」
ボクの素性を知ったグレイの瞳が見開かれる。ああ……驚いた顔なんて初めて見た。ふふっ……意外と可愛かったな。
「迷い込んだ村娘かなにかと思っていたが……そうか――すまない」
彼は即座に悟っていた。
ボクが彼を愛しているのに殺さなければならない事を、その為に苦しみ続けるであろう事を、それゆえの謝罪の言葉だった。
「なんで……邪神の加護なんて……」
「俺の生きる意味を奪った世界が憎かった。ただそれだけの事だ」
「ううっ……」
「本当にすまない。この呪われた身では自殺も出来ぬ」
邪神の加護を得た人間は、死ねば邪神の許へ送られて悪しき力となる。例外はひとつだけ、神の戦士に狩られた時のみ、その魂は正しき輪廻へと還るのだ。
彼は何も語ってくれなかった。
ボクを縛り付ける鎖になるのを厭ったのだろう。世界に絶望し、けれども、ボクと関わって後悔していたのかもしれない。人間性を取り戻しつつあったのかしもれない。しかし、彼の選んだ道は後戻りの出来ぬ道だった。
ボクはグレイを、愛する男を自らの手で殺した。己が誓った使命故に――
※
「まぁこんな話さ。英雄だなんだもてはやされてるけど、ボクは咎人なんだ。彼を殺したボクを、アニーは一生許さない」
グレイを殺したボクの心は罅割れ、砕けかけた。そんな壊れた心を意思と使命という鎖で縛りつけて抑えつけ、アニーという無垢な少女を内側に閉じ込めて、ボクは贖い続ける。
笑い話だよね。恋人を殺した仇を一生許さない。でも仇は自分なんだ。許されたい自分と、
「羨ましいね」
ボクを腕に抱いていたエルフの男がぽつりと呟く。
「どういう事?」
「そのグレイってスカした男さ。死んだ奴は越えられないって言うだろ?」
「なにそれ、遠回しな告白? 口が堅くて便利だから夜の相手には選んでるけど、付き合うにはちょっとね。あとグレイの話は今じゃたいして気にしてないし、それっぽく言ってみただけ、気の迷いだよ」
「そういう事にしとくか。まぁ当分死ぬつもりも無いし、じっくり攻略してやるさ。そういうのは得意分野なんでね」
「はいはい。そろそろ回復したでしょ? 話してたら思い出して滾ってきちゃった。次は思いっきり激しく、乱暴にお願いね」
「昔の男のやり方を真似ろって中々にアレな注文だな」
彼に話した事でちょっとは区切りがついたのかもしれない。
いつかはこんなボクでも許される日が来るのだろうか? もしもそんな日が来たのなら……――なんてね。
瞳に嫉妬を燃やして襲い掛かってくる彼の下で喘ぎながら……ボクは全てを忘れる様に、淫らな行為に溺れていった。