仮面武闘演戟 カラー・オブ・ザ・ブラッド 作:水ようかん -Mzyukn-
無機質な内装、薄暗い照明の自室で、粘着質な音や悲鳴が響き渡る。幾人もの人間が斬りつけられ、鮮血を迸らせ、失血か或いはそのショックによって絶命していく。それらを一瞥することもなく疾駆する薔薇のような姿の怪人は、その先に待つ青い装甲を身に纏う者に対峙した。
それらの光景を、
「……立香、ハンバーガー取って。あとピザポテト」
「勧めた俺が言うのもなんだけど、よくこれ見ながら食べられるよね」
「え? 血見て悲鳴聞きながら食う飯が一番美味くね?」
「そうだった。君はそういうタイプだったね」
苦笑を漏らす男藤丸立香は、傍らに座して共に映像作品を鑑賞する暗紅色の少女バーヴァン・シーに言われた物を渡した。
二人は今、立香の好きな特撮シリーズのうちの一つを「立香が前に好きって言ってた、仮面ライダー、ってヤツ? それってどうせガキ向けでしょ? いい歳してそんなの見てて恥ずかしくないの? もっと血と悲鳴溢れる素敵なヤツ見ればいいのに」「あるよ、そういうの」「え、見せてよ」というやり取りを経た後、シリーズぶっ通しで鑑賞している最中である。
物語も既に半ばを越えたが、彼女は特に美容院でのエピソードが気に入ったようだった。人間の特定の部位に執着するという部分が自身に通ずるところがあったのか(彼女の場合は人間の足首そのものではなく
とはいえ、如何に先鋭的で刺激的な内容であろうと、所詮は
「ねーえ、立香」
「何?」
バーヴァン・シーは、立香が部屋着として貸し与えたオーバーサイズのパーカーの裾へすらりとした脚を仕舞いつつぼやいた。
「これ、面白いんだけどさ、結局は被害者の人間が主人公じゃん。私は加害者のバケモノが主人公の方がいいと思うんだけど。見てて爽快だし」
「……まぁ最後まで見てみなよ。この主人公だって頑張ってるんだし。ほら、ポッキーいる?」
「いる」
「あー、ピザポテト零してるし。それ俺のパーカーなんだから汚さないんでほしいんだけど。とりあえずウェットティッシュで手と服拭いて」
「ん」
いつの間にか、甲斐甲斐しく世話を焼く立香とそれを享受するバーヴァン・シーという奇妙な関係が成立していた。
バーヴァン・シーは立香のベッドを占拠して、菓子を食い散らかしながら室内に取り付けられたモニターから目を離さない。一方部屋の主である立香は、同じベッドに居座るわけにもいかず、椅子を引っ張ってきてそこに身を落ち着けていた。因みに彼女が脱ぎ捨てた
モニターの中では、薔薇の怪人が青い装甲と緑の蜥蜴の者に
そこで俄かにバーヴァン・シーが再生を止め、立香に振り返った。
「――やっぱダメだわ」
「どうしたの?」
彼女は長い睫毛を伏せて呟く。
「こういうの見たらつまんないのもマシになるかと思ったけど、むしろ逆効果。余計ザコ共を甚振って
「そっか。じゃあ話でもするかい」
バーヴァン・シーは立香からウィスキーボンボンを受け取りながら小さく頷いた。
「他のヤツも見たんでしょ、コレ。誰に見せて、どういう反応だったの?」
「えーっと、ライダーの金時と、バーサーカーのランスロットと、あと刑部姫」
「どういうメンツよソレ」
「金時はまぁ普通に喜んでくれてたし、刑部姫は『流石の
「ちょっと引いてんじゃん。で、ランスロットは?」
「『Urrrrrrrrr......!』って唸って親指立ててた」
「一番分かんねぇ」
その後も種々様々な雑談に興じていた二人だったが、その時間を不意の館内放送が遮った。
『――先輩。ダ・ヴィンチちゃんが、今から管制室に来てほしいとのことです。あと、そちらにバーヴァン・シーさんがいらっしゃると伺っているので、彼女にも同行してもらってください』
「やぁ、特撮の鑑賞中にすまないね。可能なら今度私も同席したいところだけれど、とりあえずは目下の仕事に集中しないとね。例によっていつもの微小特異点の発生が確認された。レイシフトの同行サーヴァントは既に選出しているから、早速向かってくれるかな」
「了解」
「ねぇ、私は? なんで呼び出されたワケ?」
立香の隣に立つバーヴァン・シー(衣服は流石に元のドレスに着替え直していた)が、腕を組んでやや憮然として尋ねた。
「君もレイシフト適性サーヴァントのうちの一人だからだよ」
「はぁ?」
「
もちろん最大限にサポートさせてもらうから安心してくれたまえ! とダ・ヴィンチが笑い、隣でマシュが頷く。
「バーヴァン・シーさんは今回が初めてのレイシフトになると思いますが、先輩や他のサーヴァントの方達もいらっしゃるので、安心して任務に臨んでください」
「なんで私なんだよ……確かに退屈とは言ったけど……」
不承不承、どころか心底から嫌そうな溜め息を漏らすバーヴァン・シー。
「まァそんな顔すンなよ、クリムゾン・ガール」
「ここは貴女の先輩サーヴァントとして、大船に乗ったつもりでいてください」
そんな彼女の背後から現れたのは、ライダーの坂田金時と、謎のヒロインXXだった。
「金時、この間一緒にあれ見た以来だね」
「おうマスター。あれはオレの中の『正しいとは何か』みてェなことを考えるきっかけになったよ。今にして思えば、平安の鬼の連中は難しいこと考えなくても『悪』だったからなァ」
「そんなつもりで見てたわけじゃないけど、金時なりに楽しんでくれたのならよかったよ」
「マスター君。以前勧めてくれたホッケーマスクの殺人鬼の映画なんですけど、あれっていつチェーンソー使うんですか? 鉈とか斧とかボウガンとかは出てきたんですけど」
「XX。よく聞いてほしい。彼はチェーンソーを使わない。それは別の殺人鬼だよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「全員揃ったね。今まで散々聞いてきたことだとは思うけど、今回もたかが微小特異点、されど微小特異点だ。何が起こっても不思議じゃないから、各々気を緩めないようにね」
ダ・ヴィンチが釘を刺すように言う。
いつものことではあるが、この時の特異点に赴く際の緊張感は、いつまで経っても慣れない。ゴルドルフ新所長やホームズ辺りに言わせれば、こういうものは慣れて精神が摩耗してしまうことほど恐ろしいものはない、というようなことなのかもしれないが。
「――ここにバーヴァン・シーがいると聞いたのですが」
各人がレイシフトに向けた準備を終えようとしていた時、管制室に姿を現した者があった。
「お母様?」
亡国の魔女モルガンであった。異聞帯・妖精國ブリテンを統べた、唯一にして絶対の女王(正確にはそれと源を同じくする者)。
その孤高の女王モルガンが、こうして表立って姿を見せることは、徴姉妹と太歳星君の一件を除けば、非常に稀なことだった。
「あぁ、やはりここにいたのですね、バーヴァン・シー」
モルガンは超然として周囲の者達を意に介すことなく、迷いのない足取りでバーヴァン・シーの前に立った。
「これを貴女に渡しておきたかったのです」
「これは、礼装?」
手渡されたのは、青と黒を基調とした
「えぇ。独自に今回の特異点を走査した結果、このような礼装が最適だと判断しました。貴女ならば役に立てられるでしょう。――それでは健闘を祈っています」
「え?」
言うが早いか、モルガンは全員を無理矢理にレイシフトさせた。
立香達を、
「ちょっと、モルガン陛下!?」「お母様ぁ!?」「ハッハッハ、雷様より話が早ェ!」「なんかブラックホールに吸い込まれそうになった時を思い出しますね」
――――――。
残されたダ・ヴィンチは、引き
「……何故彼女に礼装を渡したんだい? しかも私に断りなく」
「わざわざ話す必要はないでしょう。急造ではありますが、あの礼装は今回の特異点に
「君が言うならそうなんだろうけど……それともう一つ、どうしてあんなに急にレイシフトを決行したんだい?」
「それは……」
「それは?」
それまで凛とした立ち振る舞いを崩さなかったモルガンが、僅かに言い淀んだ。
「……大勢の前で愛娘と仲睦まじくするのは、少々面映ゆいものがあったので」
少し離れたところからそのやり取りを見ていたマシュは、そう言って少し俯くモルガンの耳に微かに朱が差すのを見逃さなかった。
書きたいように書けば書くほど小説の書き方が分からなくなってくる
次回更新予定日未定!!!!!!