仮面武闘演戟 カラー・オブ・ザ・ブラッド 作:水ようかん -Mzyukn-
「うん、ちゃんと全員揃ってるし五体満足。とりあえずレイシフト自体は問題なくできたみたいだね」
立香達一行は、現代日本の都市圏(少なくともそのように見える)に来ていた。しかしどうやら繁華街の只中に現れてしまったらしく、道行く人々が怪訝な目でこちらの様子を窺っている。誰だって、街中に突然(傍から見て)奇怪な恰好をした集団が現れれば訝しむのは当然なので、弁解の余地はどこにもないのだが。
「通信は……不通か。まぁいつものことだし」
目下の目的としては、この特異点の情報収集と言ったところだろうか。その為にはまず人々の「突如現れた不思議奇々怪々集団」のレッテルを剥がすことから始めなければならないが。
しかし、現地人に情報を乞う以前に明らかなことが一つあった。
繁華街を抜けてその更に先、摩天楼よりも高く
「バーヴァン・シー。とりあえず落ち着いてくれるかな」
立香は、人々から好奇の目に晒されることを
「はぁ? ザコ共がムカつくから殺すだけなんだけど。どうせこの特異点修復したら何もかもなかったことになるんだから、だったら何したって勝手でしょう?」
「そういうわけにはいかないよ。待ち受ける運命がどんなものであれ、俺達はそれを助ける為に全力を尽くすんだから」
「……チッ」
それが、藤丸立香含め、カルデアという組織の掲げる信念であり理念である。
来て早々に前途多難な予感はするが、これでようやく、やるべきことを始められる。
一行は、手分けして街行く人々の誤解を解きつつ、そしてそれ以上不信感を強めることのないように、この特異点について、特に遠く聳える象牙の塔について尋ねて回っていった(不機嫌そうに霊体化したバーヴァン・シーを除いて)。
そして得られた情報はといえば、
「駄目だな。誰一人として、あの塔を知らねェときた。というよりも、
「こちらでも同じような反応でした。認識していない、もしくは認識できないものについていくら訊いて回ったって無意味です。これはもう、とりあえずあの塔に行ってみるしかないんじゃないですか。ていうか私が飛んで見て来ますよ。そして怪しそうなら爆破してきます。大丈夫ですマスター君。そんな不安そうな顔をしなくても、私そういうの慣れっこなので」
「俺が心配なのは、君自身じゃなくてその雑な思考回路だよ」
「だな」
「ひどくないですか!?」
立香と金時は肩を竦めた。
ある意味では、XXもバーヴァン・シーと同等か、或いはそれ以上に危険なサーヴァントなのかもしれない。具体的には、安易にユニヴァース・クライシスとか起こっても不思議ではない。ユニヴァースはフェスティバルするだけで充分だというのに。
何はともあれ、現地人の協力を仰ぐという、特異点攻略における最初の足掛かりは、そもそも特異点の特異点たる所以(もしくはそれに類する特性)を知覚しているという前提から成立していなかった。
或いは、はぐれサーヴァントを探すという手もないではないが、召喚されているという確たる証拠がないうちは、過度な期待をするのは禁物だろう。
つまり結局のところ、この特異点を訪れて既に一時間余が経過しているが、何も有力な手掛かりは得られていないというのが、哀しきかな、立香達を取り巻く現状の全てであった(考えようによっては、あの常軌を逸した尖塔の存在とそれを認識できない人々、という情報を得られたとも言えるが)(そしてそれは、あくまで言葉遊びの域を出ない気休めであることは、立香自身承知していた)。
どうしたものかと考え
「あの塔に向かうってンなら、オイラのベアー号の出番か。ここの道は走りやすそうだし、いっちょカッ飛ばして行こうじゃねェの」
「いやいや、それなら私が空路でマスター君を運んで行きますよ。空を高速で移動すれば障害物の心配もありませんし」
「……うーん、どっちも魅力的だけど採用はできないな。この特異点の元凶が何なのかはまだ分からないし、どんな敵がどこで俺達を見ているか分からない。
時間はかかるが、やはり徒歩で情報収集を続けながら向かおう、そう結論づけようとした時、彼らから少し離れたところで、甲高い悲鳴が繁華街を
見ると、どこから現れたのか、五メートルほどの巨大な墨色の石膏像(それは全裸で、西洋系の男性に見えた)と
「逃げなさい! 早くにげぷゅっ」
「やだ、お母さ――」
石膏像は、狂乱して逃げ惑う人々のうちの婦人の頭を無造作に掴んで雑居ビルの壁に叩きつけ、次いで腰を抜かしたその子供らしき少年を中空から振り下ろした足で以て踏み潰した。
その間にもオートマタの大群は、内蔵した刃や丸鋸で人々の首や胴、手足を分別なく斬りつけ、鎚で叩き潰し、辺りを屍山血河たらしめる。
「ああああッ、痛いッ、俺の足がッ!」「嫌ッ、死にたくない、誰か助けて」「逃げろ! あっちだ、あっちに逃げろ!」「邪魔だよ、俺を誰だと思ってんだ!」「お兄ちゃんの身体どこにいったの? 早く繋げないと死んじゃう……」「クソッ、こんなとこで死にたくねぇよ! 何でもいいから武器を!」「そんなモンでどうにかなるかよ!」「うるせぇ、だったらお前が代わりに死ね!」「おいガキ! 足手まといになるくらいなら俺の囮になって死ね!」「すぐに助けが来るから、だからここで待ってればいいの」「恋人が死んだなら、私だってもう――」
瞬く間に広がった惨劇に、立香は一瞬何が起こっているのか理解ができなかった。しかし即座に走り出す。助けなくては。一人でも多くの命を救わなければ。
「――バーヴァン・シー!」
「やっと私の出番ってワケね!」
呼びかけるや否や、竪琴を手にしたバーヴァン・シーが宙空より躍り出る。金時も、XXも、それぞれ石膏像とオートマタの方へ既に駆けつけていた。
噴出する血が
「皆さん逃げてください! こっちです!」
立香の避難誘導に反応した人々が殺到し、蜘蛛の子を散らしたように各々が思い思いの方向に逃げていく。立香は戦闘の渦中であろうと構わず、逃げ遅れた少女の元に駆け寄り手を貸す。
「君も早く逃げて!」
「お母さんが、お母さんが――!」
「ここは俺達がなんとかするから、早く!」
叫んだ瞬間、立香と少女の周りが翳る。
それが頭上に覆い被さった墨色の石膏像であると気付いた時には既に、その
――まずい。逃げられない。
少女は腰を抜かしていて、瞬時にこの子を抱えて逃げ
ではまず自身だけでもあの拳を躱すか? 否だ。よしんばそれが可能だったとしても、彼の格率と理性がそれを許さない。そもそも立香は少女に手を差し伸べるため、跪いている。どちらにせよ、それは取り得ない選択肢である。
死の質量が迫る。このままでは直撃は免れない。
咄嗟に立香は、墨色の影の外に少女を突き飛ばした。
少女は目を丸くしている。きっと、この刹那まで、彼女自身に圧潰の死が訪れようとしていたことを知らぬままなのだろう。
代わりに、立香は
「――オォォォラアアアァァァッ!!」
果たして、その未来は訪れなかった。
稲妻を纏いつつ放たれた金時の飛び蹴りが、石膏像の胴を見事に打ち据え数メートル吹き飛ばしたからだ。
「何やってンだ大将! アンタに死なれちゃ困るンだよ!」
「ごめん、ありがとう!」
立香はすぐさま立ち上がり、尻餅をついた少女の手を取って速やかに引き退った。
しかし今度はその先にオートマタが数体現れ行く手を阻む。
立香達を切り刻まんと展開された
次の瞬間、立香の背後から
その隙に、漸く立香は少女を逃がすことに成功した。
1話辺り3~4000字くらいだとして、今回はどうしても前後編に分けざるを得なかった(思いの外筆が乗ってしまった)