仮面武闘演戟 カラー・オブ・ザ・ブラッド 作:水ようかん -Mzyukn-
亡国の女王にして稀代の魔術師モルガンから与えられた礼装を用いて変身したバーヴァン・シーによって、突如繁華街に出現し人々を
切り落とされ放置された手足、未だ尚苦痛の表情を浮かべその号哭を幻聴させる男の亡骸、手を繋いだまま首を落とされた若い男女だったもの、下腹部から溢れ零れる自らの
これら全てを救うことができなかったという、自らの未熟から来る悔恨が、立香の胃液を
俯いてはいられない。立ち止まってはいられない。彼の
エネミーを撃破した後、何か手がかりがあるかもしれないと、現場に残された墨色の液体について調べてみたが、カルデアと連絡がつかないままでは、今の彼らにはどうしようもなかった。今の立香にできるのは、サンプルとしてその液体を採取しておくことだけだった。
いや、それでも一つ、新たに分かったことがあるではないか。
バーヴァン・シーの持つ礼装が、この特異点に対抗する有効な手段となりうるという事実である(精確には、事実などではなく、仮説、憶測、願望、そういった類のものでしかないのだが)。
少なくとも今後は、また同じように敵が現れれば、より早急な対応が可能となるだろう。管制室との通信が充分にできていれば、もっと効果的な対策案も出ただろうが、無理なことを嘆いても
一行は、引き続き
一口に住宅街とは言っても、静閑で画一的な戸建てが立ち並ぶそれではなく、草木の
「なんていうか、何もないですね、ここ……。未開の辺境惑星や、野蛮なゴロツキの
XXが、その必要はないのにも関わらず、声を潜めて言った。
「オレが知ってるのは山の中と京の都くらいだから記憶にはねェけど、当時にもこういう所はあったんだろうなァ」
「そうだね。俺の住んでた街もそこまで賑やかなわけではなかったけど、でもそれ以前に、ここはなんていうか……」
「抜け殻、ですか?」
立香は首肯した。
ここは時間が止まっているかのような錯覚を感じさせる。そこはかつて確かに人々の営みがあったはずだ。理由は判然としないが、緩やかに、衰え、廃れ、
暫く歩いていると、立香達は、二棟の雑居ビル(一方はスナックやバーの看板が並んでおり、他方は消費者金融や保険代理店が主のようだった。いずれにしても、相変わらず人の気配はない)の隙間に詰め込むようにして設置された小さな児童公園を発見した。
「マスター、結構歩いたし、ここらで一旦休憩すべきじゃねェか?」
金時に提案されて、この特異点に来てからずっと動きずめだったことを思い出した。ここから先何が起こるか分からない以上、肉体面であれ精神面であれ、万全を期すに越したことはないだろう。
「そうだね、じゃあお言葉に甘えてそうしようかな」
立香達はベンチに腰掛け、休息をとることにした。水を飲んで初めて、自分の喉が渇いていたことに気付いた。その間も、金時は一服しつつ、XXは向かいの月極駐車場に見つけた野良猫を追いかけつつ、周辺に気を払っていた。
「バーヴァン・シーもどう?」
栄養食(メープル味)を咀嚼しつつ呼びかけると、虚空から彼女が無言で姿を現した。
「君もベンチ座る?」
「嫌。薄汚ねぇし」
「じゃあ――」
立香は少し考えた後、自らのジャケットを脱ぎ、自分の隣に敷いた。
「どうぞ」
「……それの上に座るんだったら、直接の方がマシ」
バーヴァン・シーは敷かれたジャケットを無造作に立香に押し返し、腰を下ろしてそれぞれ腕と脚を組んだ。案の定、汗と血と埃に塗れたものでは意味をなさず、どころか逆効果と思われたらしい。
野良猫を頭に乗せたXXが
「あの時使った礼装、あれってそもそもどういう物なの」
「私が知るかよ。お前如きがお母様の考えてることの全部を理解できると思うなよ」
バーヴァン・シーは自らの深紅の巻き髪を
「君が突然変身したから思わず『仮面ライダーだ!』って叫んじゃったけど、実際に戦ってみてどうだった?」
訊きながら、立香は彼女の変身を思い出す。
青と黒の
「どうって言われても、流石はお母様お手製の魔術礼装ってカンジ。普段よりも見えるものが増えて、身体が軽くなって、どう動けばアイツらを潰せるのか、なんとなく肌で感じてた」
「なるほどねぇ」
「…………」
「格好よかったよ、バーヴァン・シー」
「……当たり前だろ」
回転の勢い余ったXXと野良猫が
「ちょっと気になってることがあるんだけど」
「なんだよ」
「その礼装って、俺でも変身できるのかな?」
きらきらと無邪気に目を輝かせてそう尋ねた立香を、無碍にもできず、
「やってみれば」
と、立香に礼装を手渡す。
「乱雑に扱ったら殺すけど」
「大丈夫だよ」
何が大丈夫なのかは分からないが、立香は嬉々として礼装を受け取り、勢いよく立ち上がってそれを腰に当てがった。
「見ててよバーヴァン・シー、俺の変身!」
だが、彼女の時はその瞬間にベルトが展開して固定化されたが、今回は何の反応も示さない。
「……あれ?」
「ダメじゃん。意気揚々としてたのに、ダッサ」
一笑に付すと、立香は大袈裟に肩を落とした。
「薄々分かってたけどね。多分君専用で作ってあるんだろうって」
それから、立香は微笑んで言った。
「だから、この特異点を修復するには、君が必要だ。力を貸してくれ」
「ふーん。ザコなりに、自分の立場分かってるみたいじゃん」
思わずにやりと笑う。
「実際俺は何もできないからね」
「アハハッ、そりゃそうだろ!」
互いに笑い合いながら、立香から礼装を返してもらおうと手を伸ばしたその時――、
「動くなッ!!」
バーヴァン・シーと立香が座っていたベンチの後ろの