仮面武闘演戟 カラー・オブ・ザ・ブラッド 作:水ようかん -Mzyukn-
突如として単身で現れた襲撃者、椎名をメンバーとして加え、立香達一行は、改めて遠く
椎名に訊いて曰く、この世界には、どこからか出現し人々を襲う怪物「スピット」が存在しており、それを駆逐するのが特殊部隊「スワロウ」の任務である。そのスワロウは、どういうわけか、カルデアのモルガンが鋳造した魔術礼装と同じ「アヴァロンドライバー」を有しており、これを用いてスピットに対峙し討伐しているという。
「わたしは、元々そのスワロウの入隊希望者だった。けど、試験には落ちて、今は糊口を|凌ぐので精一杯のどん底人生ってわけ」
椎名は肩を竦めて自嘲気味に笑った。
「じゃあ、君が塔に行く目的っていうのは、その試験にもう一度挑戦する為?」
「No。次の試験は九ヶ月後。
「じゃあ、何があるの?」
「そこまでは知らない。わたしもそう何回もあそこに行けるほど詳しくはないから」
ますます象牙の塔に関する謎が深まっていく。あの中に、スワロウ本部の他に何があるのか、或いは何もないのか、それを確かめるには、結局直接訪れる以外に手はないようだ。
「『何回も』ってことは、嬢ちゃん、アンタはあそこに行ったことがあるんだな?」
「愚問ね。じゃないとどうやって試験を受けるのって話になるでしょ」
「ずっと気になってたんですけど、椎名さんは、一体いつから塔を認識していたんですか? 普通の人はあれが見えていないようですけど。入隊試験は象牙の塔で行われる、けれど塔は人々に対して何らかの認識阻害が敷かれている、これでは試験に行くことができず、矛盾しています」
「そんなの、見えるようにしてもらえばいいだけでしょ」
「それはどうやって?」
「いい、前提として、スワロウの存在自体は、一般に広く知られているの。そうじゃないと、スピットに襲われた人々はどこに助けを求めればいいか分からないでしょ。つまり当然、公募だって出てる。わたしはそれに応募して、書類選考を通過したら、スワロウの採用部から通知書と紹介状が送られてくる」
「紹介状?」
「公営医療機関のね。そこで――」
その然るべき医療機関では、身体検査と脊髄注射を施されるそうだ。そして施術後は、遠くに象牙の塔が建っているのが見える、ということのようだ。後は通知書に記されている場所(即ち象牙の塔)と時間に、入隊試験を受けに行く、大まかには、そういった流れらしい。
どうやら、その脊髄注射というのが、象牙の塔を可視化する手段であろう。そして恐らくその正体は、魔術髄液。亜種特異点・新宿で敵対した人々が常用していたものと同種のものだろう。しかも新宿でのそれは人体に一時的な擬似魔術回路を生成するものだが、椎名の言から推測するに、ここでの効能は長期的かつ恒常的だ。それほどまでに優れた魔術髄液を作り出せるのは、この微小特異点の持つ特性の故か、或いは製作者の魔術技量の故か。
その魔術髄液を打ち込まれることにより、象牙の塔の視認が可能になる、そういった絡繰のようだ(椎名の追補によれば、施術前は適合レベル零、施術後は適合レベル一と呼称するらしい)。加えて、この時点で塔を認識できていなければ、適性なしと判断され選考から除外される。
施術による特異性を除けば、まるで警察のようだ、というのが、ここまで話を聞いた立香の所感である。聞くところによると、スワロウは
そしてスワロウ入隊試験は、大分して筆記試験と実技試験である。前者は難なく通過したそうだが、後者の条件、適合レベル二に達することができなかったため、椎名は再び元の生活に逆戻りする破目になったという。因みにその具体的な内容は、さもありなん、機密保持の観点から口外を禁じられているらしい。
「――ということで、わたしが知ってるのは大体そんな感じかな」
「ありがとう。助かるよ」
椎名から話を聞きつつ歩き続け、いつの間にか場所は住宅街からオフィス街へと変わっていた。
象牙の塔ほどではないにせよ、
一行は着実に象牙の塔へと近付いている。そのはずなのだが、如何せん、そのあまりの
「ここもさっきの所ほどではないけど、人が疎らだね」
立香の言う通り、日中であるにも拘わらず、人の姿は見て取れるほどしか確認できなかった。高層ビルが立ち並ぶオフィス街ともなれば、昼夜を問わず往来の絶えないのが自然であろう。だというのに、先程から歩いていても、人や車が行き交うのをあまり見かけず、これを不思議に思うのは無理もないことだろう。
「――この辺りも以前は沢山の人が行き来してたんですけどね、今はもう見る影もありませんよ」
立香達の背後の路地から、忽然としてそう言って現れた者があった。
「――ッ、バーヴァン・シー!」
振り返るとほぼ同時に立香は叫んだ。
彼のすぐ隣に深紅の少女が姿を現し、金時とXXも警戒態勢に入る。
「そんなに警戒しないでくださいよ。まだこちらは何もしてないんですから」
その者は、心外だとばかりに肩を竦めた。
「まぁ、その後どうするかは、そちらの態度次第ですが」
ひゅうと一陣の風が両者の間を吹き抜ける。
その風に揺らめくのは、
「此度は、スワロウアルファ隊隊長スキャリオンより、あなた方にお願いがあって参りました」
その装束から、突然彼らの前に姿を現した少女が、立香もよく知る、新選組一番隊隊長沖田総司であることは明らかであったが、しかしどういった所以か、彼女は自身を「スキャリオン」と名乗った。
「スキャリオン? 沖田さんじゃないの?」
素直にそう言うと、彼女は少し目を丸くした。
「そうとも言いますが。でもここでは立場上、スキャリオンです。もしやあなた、どこかで私と面識でもあります?」
立香はこくりと頷いた。
椎名から聞いた特殊部隊スワロウの関係者、どころか中枢に食い込むであろう人物に接触できたのは、僥倖である。しかしサーヴァントとして召喚されてはいても、それが敵対勢力によるものなのか、人理の抑止力によるものなのか、現時点でははっきりと分からない。情報を引き出すにしても、慎重に話を進める必要はあるだろう。
「まぁあなたが私を知っていたところで、私の職務遂行に差し障りがなければ何でもいいのですが」
「さっきも言ってたけど、それって『お願い』のこと?」
「えぇ。単刀直入に言いますと、あなた方が所持しているアヴァロンドライバーを、こちらに渡してほしいんです」
表面上は友好的な態度を取ってはいるが、立香はこの時既に、彼女は自らと相容れない立場の存在であると確信していた。
椎名の場合とは違い、スキャリオン個人がドライバーを奪取し獲得すること自体にメリットはないと考えていいだろう。何故なら、彼女はスワロウに所属しており、隊長と名乗ったことから、中でも指折りの精鋭。そんな彼女がわざわざドライバーを欲するとは到底考えられない。であるならば、これはスキャリオンの意思ではなく、スワロウという組織の総意と考えるのが自然だろう。
口惜しくはあるが、新たな仲間を得る、という期待や打算は、現時点で
「……嫌だと言ったら?」
スキャリオンはにこりと笑った。
「市民の協力はあくまで任意ですが、ご協力いただけない場合は、我々に武力行使が許可されています」
「それってつまり拒否権なしってことじゃん!」
立香は椎名と共にサーヴァント達の後ろに移動し、代わりに三人のサーヴァントが前に出た。