※この作品はR-18です。

仮面武闘演戟 カラー・オブ・ザ・ブラッド   作:水ようかん -Mzyukn-

7 / 14
3. 浅葱の颶風 後編

 

 スキャリオンは懐から、青と黒の斧(ふ)槍(そう)を象った礼装、アヴァロンドライバーを取り出した。

「本来はスピット以外に向けるものではありませんが、相手が同じものを持っているのであれば、特例として許可されるでしょう」

 バーヴァン・シーも無言でそれに応じる。

"起草(Initium)"

 それぞれがドライバーを腰に装着し、青黒い影が斧槍部から滲み出て全身を覆う。

"擱絶(Finis)"

「「変身!」」

 両者同時に斧槍部を握り扇のように展開、全身を覆っていた影が飛散し、魔術武装はここに成る。

"Est etiam sine fine iter"

 それぞれ深紅と浅葱(あさぎ)の甲冑を身に纏ったサーヴァントが、相対した。

 

「『ドライバーを渡せ』だぁ? この私が、お母様から戴いた大切な礼装を、ネギみてぇな色の女に渡すワケねぇだろ!」

「ならば力づくで奪い取るまでッ!」

 バーヴァン・シーが竪琴を爪弾き、スキャリオンは低い姿勢で地を蹴ることにより風の刃を掻い潜って懐に肉薄する。

 ガィイン! とスキャリオンが逆袈裟に放った居合の絶刀が竪琴に激突し、火花を散らした。次いで刀を返し大上段からの振り下ろし、それを凌げば今度は横薙ぎに振り払われた刃がバーヴァン・シーに迫る。

 後方に飛び退きつつ、深紅の棘を無数に射出して牽制するバーヴァン・シー。スキャリオンはそれらを刀の腹で受けて弾き飛ばし、尚も前へ踏み込む。

 分が悪い。立香は知らず歯噛みする。

 バーヴァン・シーとて路傍の石ではない。人理の守護者として第二の生を受け、カルデアに与するサーヴァントであり、その戦闘能力は一騎当千、通り一遍の戦士を遥かに凌駕する。

 だが、彼女はあくまで弓兵(アーチャー)のクラスを割り当てられたサーヴァントだ。こと近接戦闘においては、剣士(セイバー)のクラスを持つ沖田総司ことスキャリオンに軍配が揚がるだろう。

 弓兵(アーチャー)のサーヴァントの本領は、一部の例外を除けば、あくまでも偵察や遠距離戦であり、スキャリオンを相手取る限り、決定力という点でどうしても後れを取ることになる。

 立香が金時とXXに目を配り、何か言う前に、傍らの二人は既にバーヴァン・シーの援護に回っていた。

 金時もXXも、近距離特化型のサーヴァントだ。バーヴァン・シーを後方支援に回し、二人で接近戦を担当すれば、如何に変身後のスキャリオンであろうと、苦戦を強いられることはないだろう。

 しかしスキャリオンもさる者であった。剣士(セイバー)クラスである彼女の保有スキル「縮地 B+」により、二人以上との対峙を避け、常に一人のみを相手にするよう位置取っていた。のみならず、バーヴァン・シーの射線上には必ず金時かXXのどちらかがおり、容易に追撃を許さなかった。

 金時の雷撃が籠もった拳は躱し、XXの双(そう)槍(そう)はいなし、バーヴァン・シーの狙撃は射線を塞ぐ、その当意即妙の刀捌きと足運びは、絶技と呼ぶ他なかった。音に聞こえし、天然理心流を修めた天才剣士、沖田総司、それが眼前に対峙する脅威の名だった。

「――チィッ!」

 バーヴァン・シーが苛立たしげに舌打ちする。何度立ち位置や角度を変えても、その度にスキャリオンは金時かXXの陰に隠れ(それが明らかに死角を衝(つ)いたものであろうと例外なく)、一切の隙を窺わせなかった。おそらく、これはもう一つの保有スキル「心眼(偽) A」によるものだろう。生前、幾多の戦場を潜り抜け、生き延びた沖田総司の経験、観察、直感等から成る危機回避能力だ。そして、

「うおぉっ、危ねェ!」

 そこから攻撃に転じることも、このスキルによるシームレスな所作の流れが可能とする。

 寸前で上体を反らして躱した金時が、蹴り上げと共にバク転で一旦距離を取る。その空(くう)隙(げき)を埋めるようにXXが突撃する。これにより金時へ一歩踏み込もうとしていたスキャリオンは踏み止まり、XXの迎撃に当たる。

 その剣(けん)戟(げき)の交錯は一瞬で、しかし充分な好機でもあった。

 後方より弓たる竪琴を大いに引き絞り、赤黒い棘を番えたバーヴァン・シーが、飛び退ったスキャリオンの霊核(しんぞう)に向けてそれを放った。

 弦を離れ放たれたその刺棘は、同時に発生した風の刃を纏い、亜音速の凶弾となってスキャリオンに迫る。

「――一歩音超え」

 対するスキャリオンは、それを受け流そうとするでもなく、躱そうとするでもなく、た(丶)だ(丶)前(丶)方(丶)に(丶)跳(丶)躍(丶)し(丶)た(丶)。

「――二歩無間」

 一見すれば愚行にも思えるほど、真直ぐに駆けるスキャリオンに、死の棘は命中したかに見えた。が、彼女の姿は、その瞬間「消えた」と言わしめるほどに棘を通り抜け、バーヴァン・シーに接近していた。

「――三歩絶刀!」

 刀を引き刺突の構えを取るスキャリオンが、自らの背後に桜の花弁を幻視すらさせ、バーヴァン・シーの眼前に現れる。

「――『無明三段突き』!!」

 立香が声を上げる間もなく、バーヴァン・シーが防御の体勢を取る間もなく、金時やXXが追随する間もなく、宝具を解放したスキャリオンによる不可視にして不可避の同時三連刺突が、バーヴァン・シーの甲冑を狙い過(あやま)たず打ち砕いた。

 この時スキャリオンの狙いが、ドライバーでなかったのは、僥倖と言えた。或いは、そうできなかった理由があったのか。

 しかしスキャリオンの宝具は間違いなくバーヴァン・シーとその甲冑にダメージを与えており、彼女はその衝撃で水平に何十メートルも吹き飛ばされていた。その先で辛うじて両の膝を地に着けることなく立っていたバーヴァン・シーだが、既に変身は解除されており、食い縛った歯の隙間からは血が溢れ滴っていた。

「バーヴァン・シー!」

 立香の叫びに彼女は反応しない。最早、執念だけで立つバーヴァン・シーの瞳には、浅葱色の敵しか映っていなかった。

「悪く思わないでくださいね、これも上から言われた仕事なので」

 刀を構え、スキャリオンがバーヴァン・シーへの距離を詰めるべく再び踏み出す。

「それではあなたのドライバーを――コフッ!?」

 が、突如スキャリオンは立ち止まり、手を口元にやった(装着した兜によりそれは無意味であろうが)。

 それを見逃さなかったのは、立香だけではなく、金時とXXも同じだった。バーヴァン・シーの前に、スキャリオンの行く手を阻むように立った。

 暫く咳き込んでいたスキャリオンだったが、やがて、彼女は変身を解除した。口元を押さえた手の隙間から、喀血によるものと思しき血が漏れ、また顎から滴り落ちている。

「……こんなところでこんなことになるとは、正直思っていませんでした。やはり、無理が祟ったということでしょうか」

 誰に向けて言ったのかは分からないが、どうやら、彼女もまた無傷というわけではないらしい。加えてこちらにはまだ戦えるサーヴァントが二人。拮抗していた戦力は、こちらに傾いたようだ(元が三人と一人で拮抗していたという事実には忸(じく)怩(じ)とした思いがあるが)。

「…………」

 スキャリオンはそれ以上何を言うでもなく、時々咳き込みながら立香達に背を向け、この場を立ち去った。

 

 追撃などするつもりはない。今は、満身創痍となったバーヴァン・シーを看(み)るのが何よりも先だ。

 スキャリオンの姿が完全に見えなくなってから、一同はバーヴァン・シーに駆け寄る。

「クソが……アイツ、絶対に、ブッ殺す……」

 立香に抱き抱えられたバーヴァン・シーは、虚ろな瞳を鈍く輝かせながら、譫(うわ)言(ごと)のようにそう繰り返していた。

 




余談、scallion(スキャリオン)は、ネギって意味です
拙作の沖田さんは「Ievan Polkka」歌ってればいいと思います
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。