仮面武闘演戟 カラー・オブ・ザ・ブラッド 作:水ようかん -Mzyukn-
「――以上が、カルデアとの接触・交戦報告です」
象牙の塔内部。
大広間の奥に設えられた玉座の前で、スワロウアルファ隊隊長スキャリオンが恭しく跪いていた。
「大儀でしたね。それでは、
玉座に鎮座するその者は、落ち着いた口調で、言い換えれば、冷徹さを帯びた声色で、その報告に傾聴していた。
「は。加えてその性能も、決して御身のそれに劣るものではなく、仕留め損なった失態は、
「構いません。それで、他に何か気付いたことはありますか、スキャリオン?」
「件のドライバーについて、もう一つ」
「申してください」
「は。あれは、御身の鋳造されたものとは似て非なるもの。
「
「はい、恐らくは。そもそも
「――しかしどちらにせよ、貴殿は奪取に失敗した。違いますかな?」
玉座の隣に立つ
きっ、とスキャリオンは、豊かに蓄えられた顎髭を撫でる
「あなたは戦闘に関しては門外漢でしょう。首を突っ込まないでください」
「いやいや、いやいやいやいや、戦闘に関しては確かにその通りだがね。
「好き放題言ってくれますね。武を磨かない者は、舌を磨くものなのですか?」
「ある意味ではそうだとも。生前はそれが仕事のようなものだったからね」
「へぇ。詭弁を弄するのは詐欺師だけだと思っていました。それとも、あなたもそうなのですか?」
「これは心外だ。少なくとも儂は――」
「――雄弁は銀、とはよく言ったものですね」
スキャリオンと老爺の応酬を遮ったのは、玉座に座す、彼らが王と仰ぐ者だった。彼女は黒いヴェールの奥の表情を窺わせることなく、徐に脚を組む。喪服のようにも見える黒いドレスの裾から僅かに素肌が垣間見え、それは対照的に雪のようだった。
「これはこれは。どうやら儂は不敬を働いてしまったようですな、我が王よ。どうかご
王と呼ばれた女は、慇懃無礼とも取れる老爺の言葉を無視して、
「……スキャリオン」
「は」
「引き続き、カルデアの所有する
「御意に」
スキャリオンが大広間を後にし、残った王は、老爺を一瞥する。
「キャスター。貴方からの芳しい報告を聞かず久しいですが、
「ご安心召されよ、我が冷たき王。委細滞りなく、儂の船は舵を切っておりますとも……――」
後は、くつくつと笑う老爺の声が低く静かに響いているだけだった。
――――――。
立香達は、静まり返ったオフィス街の只中で、特殊部隊スワロウのアルファ隊隊長を名乗るサーヴァント、沖田総司ことスキャリオンの襲撃を受けた。アヴァロンドライバーを所持する彼女の戦闘能力は俊敏且つ絶大で、数の利を物ともしない実力に一行は苦戦を強いられた。バーヴァン・シーによる起死回生の一撃も虚しく空を切り、剰え戦闘不能にまで追い込まれてしまう。しかし突然喀血したスキャリオンが撤退したことにより、彼らは一命を取り留めたのだった。
魔力の消耗を抑える為に霊体化したバーヴァン・シーを連れ、一行はオフィス街を抜け、その外れのホテル街を歩いていた。相も変わらず人の気配はなく、絢爛な電飾と個性的な外観の建物が、静けさをより一層際立たせていた。
立香達は、それらのホテルのうち、適当な建物の中に入った。
薄暗いエントランスは暖色系のライトで照らされていた。暖簾の掛かった小さな受付にもその奥にも人がいる様子は感じられず、その反対側に位置する各部屋の案内板は、所々電球が明滅していた。
客室がある二階にエレベーターで上がり、その昇降口に一番近い扉を開ける。
内装は、煽情的な赤の壁紙に、壁に掛けられた大きなテレビ、ベッドメイクの行き届いたダブルベッド、枕元の有線音楽と照明のスイッチ、電気
実体化したバーヴァン・シーをダブルベッドに寝かせ、XXにより応急処置が施される(その間、立香と金時は後ろを向かされていた)。
「――とはいえ、応急処置だけじゃこのまま消滅してしまうことだって考えられる。どうにかして、バーヴァン・シーに魔力を補給させる方法はないかな」
荒い呼吸を繰り返すバーヴァン・シーの傍に腰掛けた立香が、物憂げに呟いた。
そこで、治療も何もかも手を出さずに傍観していた椎名が、壁に
「ドライバーなら、変身中の負傷はある程度自動で治癒が行われる。だけど、一定の
「キャパオーバー、ってことか」
椎名は頷いた。
「ドライバーで変身すれば確かに飛躍的な戦闘能力の向上が見込めるけど、だからといって、無敵になるわけでも、不死身になるわけでもない。あくまでも、素体となる変身者の能力の延長線上でしかないから」
そんなのが存在してたら、世界の
そもそもその自動治癒機能が問題なく作動していたとして、あの時、
「どうにかして、その治癒機能を強化することはできないの?」
「知らないわよそんなの。開発者自身か組織の中枢にでも訊いてきたら?」
それができるのであれば苦労はしない。彼女もそれを分かった上で言ったのは、立香も承知している。バーヴァン・シーと長く会話を続けるうちに、彼は知らず皮肉に対する耐性(俗に、煽り耐性、スルースキルとも)を身につけていたのだった。
尤も、その皮肉を無視することができたとしても、椎名がドライバーの仕様に明るくないという事実が覆るわけではなく、結局のところ、ドライバーとそれに付随する機能に頼るという方策は、如何なる光明を見せることはなかった。
しかしただの皮肉と切り捨てられるほど、椎名の言葉は無為なものではなりえなかった。
そう、「開発者自身か組織の中枢」であるならば、可能性がないというわけではない。
あの時のスキャリオンの喀血は、保有スキル「病弱 A」による先天的なものであるにしても、それを補って余りある性能があっても何ら不思議なことではない。
そもそもバーヴァン・シーの所持するアヴァロンドライバーと、スワロウの開発したアヴァロンドライバーは似て非なるものである。この特異点で生み出されたそれは、独自の発展や調整を施されている、と考えても、それを咎める者はいまい。
「金時、XX。もう一度街に出て、さっきのスキャリオンか、スワロウ関係者なら誰でもいい、捜してきてほしい」
立香はバーヴァン・シーの傍にいなければならず、椎名を戦闘に巻き込むわけにはいかない。現在動けるのは、金時とXXしかいない。もし近くにスピットが発生しても、ここまでやって来ることはできないだろう。
立香の言葉を受け、金時とXXが部屋を出て行く。もし緊急性の高い事態が発生すれば、令呪を用いてどちらかだけでも呼び戻すつもりでいた。