仮面武闘演戟 カラー・オブ・ザ・ブラッド 作:水ようかん -Mzyukn-
金時とXXが街に繰り出して、十数分が経過した。
その間立香と椎名にやり取りはなく、室内ではバラードの有線放送とバーヴァン・シーの荒い息遣いだけが響いていた。
「…………おい」
その沈黙を破ったのは、徐に目を開けたバーヴァン・シーだった。
「バーヴァン・シー。傷の調子はどう?」
「……いいワケねぇだろ、クソ……」
意識が
「もう少し待ってて。今金時とXXが、スワロウを捜してドライバーで君の身体を治す方法を見つけてくるから」
依然として、出払っている金時とXXから音沙汰はない。何らかのトラブルが発生すれば、携帯している通信機器か魔術礼装による連絡が来るようにしているので、心配は無用だとは思うが。
「……ドライバー? そんなモンに頼らなくても、お前が協力してくれれば、すぐにでも……」
無理に身体を起こそうとするバーヴァン・シーを制止する。
「俺の? 何でも言ってくれ、どうすればいい?」
「……私が元はどういう存在か、知ってるだろ」
彼女はそう言うと、立香の襟首を掴んで引き寄せた。
「……『紅い瞳のバーヴァン・シー。皆の嫌いな
如何に深刻なダメージを負っているとはいっても、只の
襟首を掴まれ、彼女に覆い被さるようになった立香は、互いの顔がこれまでにないほど近付いているのを、否応なしに感じていた。整った鼻梁、自身が妖精たる証左である尖った耳、
仮初の肉体を持つバーヴァン・シーに臓器としての心臓が存在しないのであれば、この鼓動はやはり、自分のものなのだろう。
バーヴァン・シーが乱暴に立香の襟元をはだけさせた。
「……お前の血を、寄越せ」
耳元でそう囁かれるや否や、自らの首筋に鋭い痛みが走った。
ぐいと引き寄せられたせいで、立香にはバーヴァン・シーの耳と枕しか見えない。そんな中、首には熱い感覚と、彼女の舌が血を舐める温かな感覚が混在して訪れる。流れ込んだ血を嚥下する彼女の
バーヴァン・シーの身体に触れぬよう、立香は必死に自らの身体を中空で支えていた。瞼を閉じ、暫く彼女が血を吸うのに任せていた。
こく、こく、とバーヴァン・シーは喉を鳴らしている。
立香はこれまでに、自らの血や肉体に価値を見出した者が、自らを欲し奪わんとする事態に幾度となく遭遇してきた。だが、彼女からしても、この血を甘露と言わしめる価値があるのだろうか。その答えが首肯であろうと、否であろうと、彼が自身の認識を改めることはないが、不味くなければいいと、今は何故かそう思った。
彼女は時折吐息を漏らし、それが立香の首の神経をより過敏にさせる。どころか、そのうち彼女は、立香を求めるように腕を背中に回し始めた。これには流石に身体が強ばった。
今の立香に自らを客観視できるほどの精神的余裕はないが、それは、
バーヴァン・シーには(そして無論のこと立香にも)
五感のうちどれかを封じれば、残る感覚器はより鋭く感覚を受容する、というのは今まで何度も聞いてきたことではあるが、よりにもよって今、それを痛感することになるとは、先刻までの彼は露ほども予想していなかったのだった。
一体この細腕のどこにそれほどの
サーヴァントは汗をかかない。現実に存在する肉体を持たぬのだから、代謝や発汗といった生理現象とは無縁であるはずだが、中には、気分転換や生前の習慣などといった理由から、入浴・沐浴を続ける者は少なくない。バーヴァン・シーもその例に漏れぬのか(恐らくは前者の理由で)、殆ど立香の鼻に触れつつある深紅の
どれくらいの時間、二人がそうしていたのかは分からない。バーヴァン・シーから
やや焦点の合わない深紅の瞳が、立香を真正面から見つめた。尋常の恋人同士であれば接吻を交えてもおかしくないほど長い時間、それは行われたように思えた。だが、全身を緊張させる立香とは対照的に、呆気なく、バーヴァン・シーは彼を解放して、再び眠りに落ちた。
「…………」
立香は彼女を起こすことのないよう、慎重にベッドから離れ、枕元のティッシュを一枚手に取り、首に当てがった。暫くしてそれを離して見てみると、人間の口腔内における犬歯の間隔で、血が滲んでいた。
バーヴァン・シーに目をやると、彼女は吸血以前に比べて、穏やかな息遣いをしていた。どうやら、血を与えたことによる効果はあったらしい。
今にして思えば、吸血スキルの有無に拘わらず、サーヴァントにとっての人間(特にマスターたる立香)の血液というものは、緊急時における手軽な魔力補給(と言っては語弊があるかもしれないが)になりうるのだ。それでもやはり、応急処置の域は出ず、然るべき手段を取ることが推奨されてはいるのだが。しかし一介の魔術師未満の知識と技術しか持たぬ藤丸立香にとっては、その「然るべき手段」を実行に移すことが困難である、といった事態がしばしば起こりうる。そんな彼にしてみれば、自らの血を与えるという行為は、何もできず瀕死のサーヴァントが消えゆく様を、指を