ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
vsメディウサ
「あのアイゼル様。ぼくたちどうして眼鏡をかけさせられているのでしょう」
「イエス。魔物界にリターンしたというのに、ユニフォームもノットフォーマルです」
「わたくし以外は伊達眼鏡ですしね……」
「ふふ、皆よく似合っていますよ」
「あ、ありがとううございます。アイゼル様もよくお似合いです」
私たちは懐かしの魔物界に再び足を踏み入れていた。魔物界に漂う異様な雰囲気は、人間界から帰ったばかりだと余計に強く感じる。
そしてある意味で、争いの絶えない魔物界においてなお、ここが一番血生臭い土地だと言ってもいいだろう。
魔人たちの中でも一、二を争う残虐な魔人メディウサの住まう屋敷が目の前にあった。
まだかなりの距離があり気づかれる恐れはないはずだが、それでも背筋に悪寒が走る。
そんな状況で何故か眼鏡をかけさせられているのだから、彼女たちの困惑も当然と言えた。
「おお!本当に美少女眼鏡っ子がいるよ!」
「本当だ!ぼくっ子ボーイッシュな眼鏡っ子、ギャップがあっていいね……」
「おっとり系のおっぱい大きい眼鏡っ子。口調が不思議系なのもグッド」
「暗い、貧乳、小柄、眼鏡。安心感のある組み合わせ……」
興奮した様子で甲高い声を上げるハニーたちが集まってくる。
魔物界のハニーにメディウサの屋敷周辺に集まってくれるよう頼んでおいたのだ。彼らの独自のネットワークでその情報は一気に広まり、こうして大勢のハニーが集まりつつある。
「ハニーたちよ。集まっていただきありがとうございます。今日は貴方たちにお願いがあるのです」
「アイゼル様!?」
「ホワイ!?」
「はにわどもに頭を下げるなど……!?」
使徒たちが困惑する。ハニーたちは、そのふざけた見た目とふざけた性質とふざけた言動のせいで、理解不能の存在として見られているのだから仕方ない。
気まぐれで行動するせいで戦力としても使いづらい。それがハニーだ。
「私は今日、魔人メディウサを討ちます。あの屋敷には多くの可哀想な女の子たちが囚われています。その救出に力を貸して欲しいのです。あの暴虐の蛇を打ち倒した暁には体操服を我が使徒たちに着せることを約束します。もちろんブルマです」
「アイゼル様!?ぼくたち聞いてませんよ!?」
「ハニホー!!ブルマ!!」
「ハニホー!!ハニホー!!」
「ぼく可哀想な女の子たちを助けてお礼にブルマを履いてもらうんだ……」
「ふふふ、ぼくは悪いハニーだから恥ずかしい格好をさせてやるんだ……。助かったと思ったら無理矢理眼鏡をかけさせられる姿を想像するだけでドキドキする……」
言い終えるとハニーから歓声が上がった。興奮したハニーの雄たけびに使徒たちの困惑の声はあっさり搔き消えた。
この様子なら、放っておいてもメディウサの屋敷に攻め込んでくれるだろう。
ブラックハニーやスーパーハニーのような上位種のハニーも数多く集まっている。これならかなりの戦力になるだろう。
「では、これから私はメディウサの屋敷に行きます。使徒のアレフガルドが現れたら、黒色破壊光線を打ち込んでください」
前衛に魔法の効かないハニーと無敵結界を持つ私、後衛に強力な魔法を使えるガーネットたち。なかなか相性のいい編成と言えるだろう。
「アイゼル様!?ロンリーで行かれるつもりですか!?」
「相手は同格の魔人です。危険ではないでしょうか?」
「ふふ、ええ、そうですね。ですから彼らにも来てもらいます」
そこには無口な魔物兵たちの姿があった。
沈黙しているのは私の魔力によって支配されているためだ。
これなら魔人メディウサを恐れることなく戦わせることができる。
◆ ◆ ◆
「アイゼル様、紅茶でございます。どうぞ」
「ありがとうございます。アレフガルド」
魔人メディウサの使徒にして執事のアレフガルドから紅茶が給仕された。
品の良いティーカップを持ち上げると素晴らしい香りが鼻に飛び込んでくる。
そして口にすればバランスの取れた渋味や酸味、苦味が口に広がり、思わずため息が出てしまう。
「美味しいです」
「恐縮です。リーザスの最高級の茶葉でございます。何やら、先日アイゼル様も訪れになったそうですね」
暗にリーザスでの出来事を知っているぞ、と釘を刺してきた。
紅茶の味わいといい、やはり彼は執事として完璧だ。
「久しぶりねー、アイゼル。ホーネット派のあんたがどうしてうちに来るのかしら?」
「亡命を頼みに来ました。同じジル様に魔血魂を賜った魔人として、ケイブリス様に口添えを願えませんでしょうか?」
「ふーん?」
そしてその主人、魔人メディウサ。蛇の相を持つ酷薄な美女。
その気性は残虐、美しい女を攫い、犯し、殺す。ある意味もっとも魔人らしい魔人といえる。
「魔人ノスが討たれました。戦力的に、ホーネット派の勝ち目は薄いといっていいでしょう。ですからこうして貴方の元に馳せ参じた次第です」
嘘は言っていない。魔人の数で劣っているホーネット派にとって、元魔人四天王であり武闘派のノスは重大な戦力だった。
知略家であり高度な魔法も扱えた彼の損失による影響はとても大きい。
「もちろんただとは言いません。かつての同志と剣を交えるのは心苦しいですが、代わりに貢ぎ物はいくらでも用意いたしましょう」
「へぇ。それはいいわね……。ところであなたの使徒の子たちはどうしたのかしら?貢ぎ物と言うならあの子たちがいいなぁ」
メディウサの顔に嗜虐的な笑みが浮かぶ。
ハニーたちの襲撃はまだだろうか?
紅茶を飲んで間を持たせる。即答出来るような提案ではないのだから不自然ではないはずだ。
「ハニホー!女の子を苦しめる魔人メディウサ!かくごー!」
「ハーニーホー!」
「おや、敵襲ですか?」
「チッ、アレフガルド。黙らせてきなさい」
「かしこまりました。お嬢様」
アレフガルドが警備の指揮のために離れる。
これで、魔人と使徒を切り離すことが出来た。魔人メディウサを討つハードルはだいぶ下がったと言える。
もちろんここは魔人メディウサの領域、アレフガルドがいなくともいくらでも配下がいるだろうが、その対策はしてある。
「やれ」
「血迷いやがったわね、アイゼル!あんたたち!やりなさい!」
私が護衛と称して連れてきた魔物兵とメディウサの命により突入してきた魔物兵が衝突する。
数の上ではこちらの不利だが、質ではこちらが上だ。相手の攻撃を躱し、的確に急所を狙う攻撃で仕留めていく。
「石になってしまいなさい!」
メディウサの蛇眼が怪しく輝く。同格の魔人として私は抵抗出来たが、私の配下は石化してしまう。
そこに斧の一撃が炸裂し、特徴的なトンガリ頭が粉砕される。
「元より鋼鉄の彼らを、石にしてどうなると言うのです?」
「なっ!?闘将!?」
闘神都市を訪れた理由の一つは彼らを確保するためだ。
本当は最強の闘将であるディオ・カルミスも、戦力として欲しかったのだが、彼は動力魔球ごと真っ二つにされていた。
まあ、魔法の効かない特性を持つ彼を使役するのは、もともと無理筋だったが。
石化とバイオメタル化は有機物を無機物にするという点で近いところがあるのか、重ねがけが出来ないのはサファイアの藍色破壊光線で確認済みだ。
再び蛇眼が輝くが、鋼鉄の装甲が石製になったところで、大した影響はない。メディウサの配下の頭を石の拳で殴り飛ばす。
「何してるのっ!!石人形ごときさっさと片付けなさいよ!」
「メディウサ様……。ですが私たちだけでは……!?」
「だったらもっと数を連れてきなさい!!」
ヒステリックな叫びが、ハニーフラッシュの爆音によって掻き消される。ハニーの襲撃による混乱状態で、援軍は来られそうもない。
「あーもうっ!アレフガルド!あんたなんとかしなさい!!」
主人の命令、彼ほどの執事なら魔人相手でも本当になんとかしてしまうかもしれない、そう思い冷汗が浮かぶが、彼はやってこない。
「ふう、どうやらやってくれたようですね」
代わりに一際大きい爆音が響く。黒色破壊光線によるものだ。
不意打ちであれを食らって無敵結界を持たない彼が生きているはずもない。
何より彼はハニーを黙らせるとしか命令を受けていないのだ。それと関係のないガーネットたちの攻撃には執事としての才覚も発揮されないだろう。
「どいつもこいつも役に立たないわね……。いいわ、私が殺してあげる!男にはあんまり興味ないけど、その綺麗な面をぐちゃぐちゃにしてやったら、あんたの使徒どもがどんな顔で泣き叫ぶか、楽しみだわ」
ついに魔人メディウサが戦いに参加する。二振の刀で一体ずつ、石化した闘将を切り裂く。
その勢いのまま、私めがけて飛び込んでくる。間に闘将が入り込むが、あっさりと切り捨てられ──
「何!?固っ!?中になんか入って……」
「やれ!アイゼル!このクソ蛇女をぶっ殺せ!!」
──ることはなかった。石をも切り裂く、メディウサの刀は闘将の胴の真ん中で止まっていた。
そして、闘将から殺意と憎悪のこもった声が響く。
脊髄を引っこ抜くように闘将の中から現れたのは剣。魔剣カオス、この世で三振の魔人や魔王の無敵結界を切ることの出来る剣。
「なっ、無敵結界が」
ガラスが割れるような音がして、魔人メディウサが纏う無敵結界が破壊される。
「それがどうしたッッッ」
元より魔人同士の戦いでは無敵結界は機能しない。もちろん魔人を切る剣である魔剣カオスは剣としての性能も最上のものだが、ノスの装甲をも切り裂く切れ味も、再生能力の高いメディウサには効果が薄い。
「おらっ、くたばれメディウサ!!」
「なっ!?」
だが、無敵結界を破壊されたということは魔人以外の攻撃も通用するということだ。一対一の決闘ではなく、乱戦のこのシチュエーションではその意味は大きい。
魔人メディウサを
配下からの攻撃に、体勢を崩したメディウサに、闘将の攻撃が炸裂し、吹き飛ばされる。
テラスの窓を突き破り、中庭に墜落するメディウサ。そこもすでにハニーたちが押し入っている。
「「ハニーフラッシュ!!」」
「チッ!ハニワ風情がふざけるんじゃないわよ!!」
ハニーの口の空洞から放たれる原理不明な謎の一撃がメディウサにいくつも突き刺さる。
ハニーたちはメディウサの反撃でパリンパリンと割れていくが、その動きは鈍い。
「死になさいメディウサ。私の野望のために……!!」
ハニーフラッシュが二振の刀の一つを弾き飛ばす。メディウサは咄嗟に刀一本と爪で応戦するが、人間を簡単に切り裂く爪も魔剣カオスと撃ち合うには分が悪い。
とうとうメディウサの胸に魔剣の切っ先が突き刺さる。
「協力、感謝します。カオス殿」
「ランスの嬢ちゃんじゃなくていけすかない男の魔人に使われるのは気に入らんが、魔人を殺せるなら文句はないわい」
そして呪詛すら言い残すことも出来ず、倒れたメディウサの体は魔血魂に転じた。
それを回収し、懐に収める。
私たちの勝利だった。
「メ、メディウサ様っ!?」
「聞きなさい。魔軍の兵たちよ。引くならば追いません。他の魔軍の領地に逃げ、そして伝えなさい。魔人メディウサは魔人アイゼルが討ったと」
魔人メディウサが倒された今、無敵結界を持つ私を倒せるものはここには存在しない。
ゆえにもはや彼らに勝機はない。こちらとしても無駄な抵抗で消耗するのは面白くない。
そんな訳で、彼らは大人しく他の魔軍の領地に向かって逃げていった。
「勝ったんですね、アイゼル様!」
「わたしたちも、アレフガルドをキルしました」
「おめでとうございます。アイゼル様」
「お疲れ様です。貴方たちの献身に心から感謝を」
眼鏡姿のガーネットたちが集まってくる。
緊張が解けて笑みが溢れる。無敵結界の通じない魔人との戦闘や彼女たちとの別行動は想定よりも神経をすり減らしていた。
それでも主人としての威厳を示すために彼女たちの頭を一人ずつ撫でてやるのだった。
◆ ◆ ◆
私たちは転移魔法陣を使い、魔物界の北側、ホーネット領の私の領地に帰って来ていた。
もちろんメディウサから助け出した人間や女の子モンスターたち、功労者でもあるハニーたちもだ。
ホーネット様たちに報告に行くよりも先に、やるべきことがある。
勝利を祝う宴だ。
「ハーニーホー」
「ハニーさんたち、ありがとうございます」
「ハニハニ、えっへん!」
「あのままだったら私たち、メディウサに……。お、お礼に何でもします!」
「眼鏡!ブルマ!」
「眼鏡をかけてブルマを履けばいいんですか?」
そこら中でハニーが歌い、踊り、騒いでいる。助けられた女の子たちも、死の恐怖から解放されて笑みを浮かべている。
何故か眼鏡とブルマを身につけさせられて困惑している様子だが、メディウサに玩具にされるよりはよっぽどマシというものだろう。
騒ぎを聞きつけて周辺のハニーたちも集まってきて、宴はさらに騒がしくなってくる。
祭りの一角ではハニーたちが眼鏡っ子を崇めて騒ぎ、また別の場所では女の子たちがハニーのカケラをセロテープで繋ぎ合わせている。
そんな光景を見ながら紅茶を飲む。女の子モンスターのメイドさんに淹れさせたものだが、歓喜の光景を見ながら飲むのは、恐ろしい魔人を見ながら飲むよりも美味しく感じた。
あるいはこれこそ、生存の安堵の味なのかもしれない。
そう思いながら、再び紅茶のカップを口に運んだ。