※この作品はR-18です。

ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜   作:斧池 数馬

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静寂の王都

 魔人レキシントンの裏切り。それは魔軍にとって大きな衝撃だった。

 死を恐れぬ鬼の軍勢は数こそ少なくとも恐怖の対象としては十分だった。

 これを受けてリーザス方面軍を指揮する魔物大将軍ヨシフは、戦線の整理とともに粛清を行った。

 レキシントンの裏切りによって取り残された形となったものや鬼との交戦で撤退したものを血祭りに上げ、その恐怖を以って兵たちを縛り上げた。

 これに加え、拡大していた戦線を縮小し防衛体制を確立することで鬼の軍勢や、それに連動して動いていたリーザス軍を牽制することに成功した。

 

 これにより膠着状態が生まれ、双方は睨み合いを続けていた。

 魔軍が戦略を練り直し、リーザスが侵攻の再開に備える裏で、諜報や破壊工作を任務とする部隊が暗躍する。

 その中には勇者の脅威が隠然と存在していた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「アイゼル、亮子さんから連絡よ。魔軍に勇者ゲイマルクが接触した様子はない、ですって」

 

「でござる〜」

 

「そうですか……」

 

 かなみとかなみに憑依した鈴女から報告を受けて思案する。

 ゲイマルクの目的はエスクードソードの解放率を上げるための多くの人間の死だ。

 そのために魔軍と協力するという手法を取る可能性もあると考えて、ジークやオーロラを魔軍に潜入させて探っていたのだが、その気配はないようだった。

 

「民間人からの目撃証言も上がってないわね。仮にもアリオスさんと同じ勇者って言うんだったら、それなりに目立つと思うんだけど」

 

「ダンジョンでの自己の研鑽に時間を割いている。何らかの強力なアイテムを探索している。あるいは、単純に我々の網に引っかかっていない可能性もありますね」

 

「もっと大々的に人を動かしたり、手配をできれば違うんでござろうが、この情勢では難しいでござるな〜」

 

「加えて、それで見つけられても逃げられてしまえばそれまでですからね」

 

 各国の要人にはそれなりの護衛を付けている。

 転移魔法陣によって即座にホーネット派魔人を始めとする強力な戦力を送り込めることを考えれば暗殺的な動きは阻止出来る。

 後は将軍クラスの人間を殺すことだが、不死身の魔人の対策を用意している軍相手に真っ向から突撃するというのも考えにくいだろう。

 

「膠着状態が終わり、向こうが動き出した機に乗じて動くつもりかもしれませんね」

 

「アイゼル殿、魔軍に動きがあった。コルドバ殿が守る砦への攻撃が始まったようだ」

 

 そう思った矢先に、白の軍将軍のエクスから報告が入る。何とも嫌なタイミングだと感じる。

 

 高価なマジックアイテムやてばさきや早うしを用いて構築した高速で情報を伝達出来る連絡網。

 それが効果を発揮したのは喜ぶべきことだと思い直し、思考を巡らせる。

 

「……コルドバ・バーンといえど魔軍と勇者から同時に攻められては危ういでしょう。シルキィを派遣します」

 

 魔人四天王であるシルキィはホーネット派において盟主ホーネットに次ぐ強者だ。

 勇者ゲイマルクが取ってくるであろう人倫を無視した絡め手への対処には不安が残るが、戦力的にはこれ以上ない人選といえた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「退屈、ね」

 

「そうだねー、ケイブリスの奴、人のこと勝手な都合で呼び出しておいて、放ったらかしにするんだもんなー!」

 

「別に戦争がしたいわけではないのだけれど」

 

「ケケケ、ワーグは優しいもんなー!」

 

 リーザス侵攻にケイブリスから遣わされた二人の魔人のうちのもう一人、ワーグ・赤は魔軍から半ば放置され、退屈と孤独を味わっていた。

 周囲の生物を強制的に眠らせるという凶悪な異能に反して、その内面はごく普通の少女である彼女は、触れたものの思念に反応してそれを口にするラッシーと人形遊びのような会話をして退屈を紛らわせていた。

 

 平穏を嫌う訳ではないが、どうせまた魔軍の命令によってしたくもない戦争に駆り出されるのだと思い、彼女は憂鬱な気持ちを味わっていた。

 

「やあ、お姉さん。俺の名前はゲイマルク……。魔軍と戦う勇者さ」

 

「勇者……?ああ、わたしを倒しに来たの?」

 

 そこに現れたのは、勇者ゲイマルクだった。彼は敵意がないことを示すように、剣を背中に背負ったまま、親しげな笑みを浮かべて近づいてくる。

 

 厚着をしているとはいえ、ワーグの近くにいて睡魔に襲われている様子すら無いのは、勇者というものをよく知らないワーグからすれば、とても珍しいものに見えた。

 

「そう思ってたんだけど、お姉さん、悪い魔人じゃなさそうだ。誰かに脅されて、戦わされてる。違うかな?」

 

「けけけ、そうだぜー!ケイブリスのやつに、無理やり従わされてるんだ!」

 

「ラッシー、黙りなさい」

 

「やっぱり!だったらさ、俺と一緒に来てくれないか。君を、安全なところにまで連れて行ってあげるよ。ケイブリスってやつも、俺が倒してやる。それにその能力だって、うまくすると止めてあげられるかもしれないよ。ちょうどそんな感じの封印系のマジックアイテムがあるんだ」

 

 ワーグはケイブリスという天敵を除けば、無敵結界と睡眠の力によってあらゆる外敵からその身を守られて来ていた。

 ある種、箱入り娘である彼女は、狡猾な悪意というものを一切知らないで生きてきた。

 ゆえに彼女が、勇者の手を取ってしまうのは、仕方のないことだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「矢を放てー!砦に近寄らせるな!!」

 

 青の軍副将、キンケードの号令の許、矢の雨が降り注ぎ魔軍の動きを鈍らせる。

 高い戦闘力を誇る将軍コルドバは前線に出ているため、防衛の指揮は彼が取っていた。

 質と量の両方で上回る魔軍を相手に、よく戦っているといえるだろう。

 

「ふん!小賢しい人間共め!デカントを突撃させろ!!」

 

 それに業を煮やした魔軍は城攻めのための戦力を用意していた。

 頑強な体を持つモンスター、デカント。

 その巨躯を歩兵の盾としつつ、城壁をぶち破る矛にせんと突撃させる。

 

「と、止めろぉぉおおおお!!!」

 

 あらゆる妨害をものともせずにやって来たデカントたちが防壁の門へと手にした棍棒を叩きつける。

 さらに彼らの巨体を足場にして、防壁の上に魔軍が侵入する。

 

「く……、どうしてわたしがこんな目に……」

 

 豪快な将軍とは対照的に、キンケードは保身と栄達を最優先に考える典型的な小物だった。

 そんな彼が魔軍相手に英雄的な死を迎えようとしている皮肉に、彼自身が乾いた笑みを浮かべた瞬間だった。

 

「どきなさい!!」

 

 デカントの巨体を吹き飛ばすほどの重量と威力を持ったぶちかましが炸裂し、デカントに尻餅を付かせる。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 そして次の瞬間、デカントを押し倒したものの体表から無数の槍が生えて射出されると防壁の上の魔軍を貫いていく。

 

「待たせたわね。ホーネット派魔人、シルキィ・リトルレーズン。助けに来たわ!!」

 

 砦全体に響くほどの大声での名乗りに魔軍が竦む。

 それは押されていた青の軍に希望を持たせるには十分な光景で、士気が逆転し戦況が人類側に流れていく。

 

「ふんっ!あなたがここの指揮官ね」

 

 生物のようにも鉱物のようにも思える、変幻自在の武装リトル。

 それを鉤爪とロープのように変形させると防壁に引っ掛け、シルキィが防壁の上へと上がる。

 

「ひぃぃぃ、魔人っ!?え、ええ、キンケード・ブランブラですっ。青の軍将、コルドバ・バーンからここの指揮を任されています」

 

「わたしがここの魔物将軍を仕留めてくるわ。それまで何とか持ち堪えてちょうだい」

 

 シルキィはそれだけ伝えると地面へと飛び降り、敵陣へと単騎で突撃していく。

 その大雑把さと豪快さがもたらす安心感に既視感を覚えたキンケードは、言われた通りに指揮に戻る。

 そしてシルキィは宣言通り魔物将軍の首を取り、砦を包囲されかけた青の軍は苦境を脱するのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「きゃあああああ!!」

 

「うーん、やっぱり服だけを切るっていうのは難しいな。あんまり深く切ると無敵結界に阻まれちゃうし」

 

 言葉巧みにワーグを連れ出したゲイマルクが本性を顕にしてワーグの衣服を切り裂き、夜の闇に絹を裂くような少女の悲鳴が響く。

 王都リーザスの城門近くでの出来事だったが、反応する者はいない。

 ゲイマルクがワーグに渡した能力を封印するマジックアイテムが剣の一撃で切り裂かれていたため、ワーグの異能が解放され、住民たちが眠りに落ちたためだった。

 

「ん?こいつ、何も反応しないな?使徒かなんかだったら襲ってくると思ったんだけど」

 

「ん?こいつ、何も反応しないな?使徒かなんかだったら襲ってくると思ったんだけど」

 

 ラッシーがゲイマルクの声色で同じ言葉を発する。

 それでラッシーが触れたものの思念に反応するだけの人形の類だと気づいたゲイマルクは、ラッシーへの注意を切りワーグに視線を向ける。

 

「ら、ラッシーに触らないで!」

 

「何だ、そんなにこんな人形が大事なの?だったら人質にでもしようかな。これを壊されたくなかったら、服を脱いでついて来い」

 

 切り裂かれた服の隙間から少女の柔肌が覗くが、ゲイマルクがそれに反応する様子は一切なかった。

 自分たちが辿る結末は、破壊されて輝きを失ったマジックアイテムと同じものだと思えてならない。

 自分やラッシーのことを、道具のように見ている視線にワーグは恐怖を覚えていた。

 

「おっと、これ以上の狼藉は許しませんよ」

 

 そこに魔人アイゼルが現れた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ちっ、眠れ!!」

 

 ゲイマルクは倒れたワーグの手を取るとわたしの方へと放り投げる。

 わたしが彼女を受け止めるとその隙を狙うようにワーグの背中へと剣を振るう。

 

「くすくす、ワーグへの対策はすでに用意しています」

 

 それをわたしの剣が受け止める。ワーグを抱きしめるようにしているため、踏み込みが出来ない不利な姿勢だが、魔剣がもたらす膂力が逆にゲイマルクにたたらを踏ませる。

 

「ワーグ、無事で何よりです。無敵結界があるとはいえ、相手は危険な勇者、わたしから離れないように」

 

「う、うん……」

 

 変身魔法の応用でワーグの衣服を繕ってやる。優しく語りかけてやると素直に頷いたワーグを背中に庇いながらわたしは剣を構えた。

 

「おい!このイルカが惜しければ……」

 

「どきなさい!!」

 

「くっ」

 

 ラッシーを人質に取ろうとしたゲイマルクにラッシーが暴れて抵抗する。

 解放されたラッシーはそのまま真っ直ぐにワーグのもとへと向かう。

 

「ワーグ、ラッシーといっしょにいるように」

 

「うん、ありがとう」

 

「アイゼル、ありがとうね!」

 

 最初の交錯でラッシーには体の一部を紐状に変化させたものを接触させていた。

 ゆえにわたしの思念によって操作することは容易で、ゲイマルクの油断を突いて取り戻すことができた。

 ワーグとラッシーの言葉に込められた感謝の念に笑みを浮かべながら、わたしは勇者と対峙した。

 

「どうしてここに、なんて聞く意味はないな。魔法かアイテムか能力か、バランスブレイカーを自由に持ち出せる法王様なら何でもアリだもんな。でも、俺だってワーグ以外に用意してたカードはあるんだぜ……!」

 

「ごぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」

 

「ストーンガーディアンですか。よく持ち込めたものですね」

 

 王都の建物を破壊してストーンガーディアンの巨体が現れる。

 石造の体を持つあれはそもそも睡眠が取る必要がない。ゆえにワーグがいるこの場所で行動することが出来ていた。

 

「それだけじゃないぜ」

 

 ゲイマルクの言葉に続いて、リアカーや動く鎧などの器物系、ボーンや叫び男などのアンデット系のモンスターが現れ、破壊活動を開始する。

 どれもがワーグとの連携を狙った睡眠の概念がないモンスター。

 よくもまあこれほどの数を用意したものだ。

 

「うん、そこそこの数は揃ったかな。ランダムだからちょっと不安だったけど、ストーンガーディアンみたいな大物までいるのは運がいい」

 

「なるほど、る壺壺ですか」

 

 モンスターを召喚する能力を持つる壺、それを召喚する能力をもつる壺壺は僅かな時間で大量のモンスターを用意することが出来る。

 そのうち眠らないモンスターは一部でも母数が大きければ王都を滅ぼすのに十分な戦力になる。

 それがゲイマルクの狙いだった。

 

「だとすれば、対処は簡単ですね」

 

 路傍には召喚されたものの即座に眠りに落ちたモンスターが何体も転がっている。

 肉体を構成する植物ムシを展開して、それらに能力を行使し、夢遊病のように体を動かさせる。

 薄く広く力を行使している分一体一体の動きの精度は低いが、数はこちらの方が多い。

 取り押さえる分には十分だった。

 

「あとはる壺壺を破壊すれば()()()の勝ちです」

 

「させるか!」

 

 植物ムシで感知した生体反応をもとに発生源を推測する。

 その方向に向かおうとするとゲイマルクは切りかかってくる。

 それを捌きながら、わたしたちは移動していった。

 

「炎の矢!」

 

「効くかぁぁぁ!!!」

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 ワーグの魔法はゲイマルクに大した手傷を与えることは出来ない。

 しかし僅かな隙を生じさせることは可能で、そのおかげでわたしはゲイマルクと切り結ぶことが出来ていた。

 

「見つけた」

 

「ちっ!食らえ!!」

 

「ぐはっ……!これさえ奪ってしまえば勇者も脅威ではありませんよね」

 

 そして移動と剣戟を繰り返してとうとうる壺壺を発見する。

 慌てたゲイマルクの一撃をあえて無敵結界を解除して、魔剣によって生じる霊手の束で受け止める。

 刃を食い込ませたまま腕を振り回すと武器を奪われまいとしっかと握り締めたゲイマルクの体も宙に浮く。

 

「ラッシー!お願い!」

 

「えーいっ!」

 

 ゲイマルクの体を霊手で掴み、思い切り放り投げる。

 ぶつかり合うモンスターどもの最中に叩き込まれたゲイマルクは、着地とほぼ同時に周囲のモンスターを斬り殺すが、その隙にラッシーがワーグの指示のもとる壺壺を破壊していた。

 

「それ、いいなぁ!」

 

「勇者なら勇者らしく、その剣をもって戦いなさい!」

 

 る壺の召喚は停止した。まだすでに呼ばれたる壺からモンスターが現れているが、大勢は決している。

 時間が経てば経つほど、ワーグのフェロモンに耐えられる程度の強者の援軍が集まるこちらが有利だ。

 それでも戦闘を続行しようとするのは不死身故の油断かそれとも……。

 

「へへっ、リーザスは女王がワンマンで支配してる国だ……。女王が死ねば頭を押さえつけられてた貴族どもが暴れ出す」

 

「狙いはリアか!」

 

 イタズラが成功した子供のような顔で、ゲイマルクが笑う。

 その無邪気さにはわたしをして戦慄を覚える。

 

「アイゼル様!アイゼル様の敵、殺しました!」

 

 そこに三個の生首が投げつけられた。

 激しく損傷したそれはサル、キジ、イヌと呼ばれたゲイマルクの配下たちだった。

 

「くすっ、よくやりました。ニミッツ」

 

「レキシントン……。女王のガードに付けてやがったのか。だけど、あいつは雑魚だったはずだろ!あいつらがポカしやがったのか!?」

 

「ふんっ!!」

 

 生首を投げ入れたのはレキシントンの姿に変身したニミッツだった。

 そのまま彼女は手にした武器でゲイマルクに叩き潰そうとする。

 その一撃はこれまでの力任せのものではない、確かな技巧の宿ったものだった。

 血吸いベッタンと血吸いギーコ。持ち主に技能レベル2相当の槌を操る技能を付与する武器と、洗脳による闘争心の増加。

 これによりニミッツは宝の持ち腐れだった魔人のスペックを存分に発揮して、ゲイマルクの放った刺客を撃退することに成功していた。

 

「潰してやる!!」

 

「あーあ、もうこっからの逆転はないかな。引くか」

 

 そしてそのまま血への昂りのままゲイマルクを殺そうとする槌の連撃を、ゲイマルクは捌くとそうぼやいた。

 そのままゲイマルクは帰り木を折ってどこかの本拠地へと消えてしまった。

 

「ニミッツ。暴れているモンスターを潰してきなさい」

 

「はい!アイゼル様!!」

 

 しばらくして洗脳したものも含めてモンスターは退治され、る壺もすべて破壊された。

 こうして王都を襲った勇者の脅威は、撃退されたのだった。

 




ゲイマルクを非道な手段を容易く行うキャラとして描こうと思ったのですがどっちかという子供っぽさの方が目立ってしまった感がありますね
このゲイマルクはセラクロラスの力で成長してるだけなので、実際子供なのですが
三超神すら殺しうる勇者ですが、人類死亡率が枷になって今回は勝利することが出来ました

ありがとう無敵結界
ありがとう魔王スラル
ありがとうプランナー
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