ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「ふうむ……。悪くない提案だ」
「そう言ってもらえて嬉しいですわ。その際にはワイの身の安堵はよろしく頼んますで!」
「うむ……。しかし、それはあくまでことが成った暁に限るということを忘れるなよ?」
「ええ、ええ!そこんとこは充分承知してまっせ!」
「ふん、話が終わったならとっとと消えろ!謁見者はまだいるからな!」
自由都市方面侵攻を担当する魔物大将軍ピサロは、その強欲さゆえに合理的な側面があった。
人類をひたすらに鏖殺するだけでなく、脅迫や懐柔を行う策略家の顔を持っていた。
今も、コンバート・タックスという小男を、人類へのスパイとして利用することを目論んでいた。
魔軍との取り引き。それは死刑台へ送られることを僅かばかりに遅らせる程度のものでしかない。
そもそも圧倒的な力を持った魔軍を相手に、対等な契約などというものが成り立つはずもなかった。
DXブックのような約束ごとを強制させるマジックアイテムを使用し、上手く立ち回ることが出来ればピサロと契約に持ち込むことも叶うかもしれないが、そんなもの、魔軍のトップであるケイブリスからしてみれば容易く反故にする代物でしかない。
結局のところ、人類が生き残る道は戦場での勝利しか存在しないのだ。それでも、甘言に踊らされるのは、神が好む人類の愚かさの一つ、拭うことの出来ない原罪とも言えた。
「ふー、なんとかこぎつけられたで」
「ぎゃああああっ!!」
「ひっ!うわ……、ワイと同じ人類へのスパイ志望者の方やろか……。ワイかて一歩間違ってたらああなってたんやろうな……」
魔物大将軍のプレッシャーから解放されたコンバートが安堵の息を吐くと、断末魔の悲鳴がこだました。
ピサロの機嫌を損ねたか、賄賂の金品が足りなかったか、あるいは理由などないのか。
一歩間違っていたら、自身も辿ったであろう末路にコンバートの背筋に悪寒が走った。
「魔軍相手に詐欺をやれなんて、本当、参るわ……。アイゼルはん、無茶振りが過ぎるってもんやで」
アイゼルによってその行動を支配されているコンバートは、魔軍を罠に嵌めることによって生き残ろうとしていた。
無論、アイゼルに従ったところで彼が約束を果たす保証はない。
しかし、その洗脳の力による呪縛によってコンバートからはそれ以外の選択肢を奪われていた。
ならば、その唯一の希望に縋るしかない。結局のところ、コンバートも先程の断末魔の主と同じ、魔の甘言に踊らされる愚者に過ぎないのかもしれない。
◆ ◆ ◆
「アイゼル、コンバートから連絡があったわ。どうやら上手くいったみたいよ。第一段階はクリアってところかしら」
「それは良かった」
カチューシャから作戦の進捗の報告を受ける。それを受けてわたしは内心で深く安堵した。
殺されても惜しくはない人材を使ったものの、その成否はわたしの今後に大きく影響し得る重大事項だった。
勇者の脅威、その対策には各国の戦力を厚くする他に手はない。
ゆえにヘルマンとリーザスが魔人の脅威を解放されようとも、他の地域に戦力を動かすというのは難しかった。
ホーネット派の魔人という強力な戦力も、奥の手として控えさせておくしかなかった。
「ふん!そんな小癪な手を使わずとも、サテラがケイブリスの手下どもなど軽く捻ってやったのに!」
「くすっ、確かに。それが一番足元を掬われるリスクが低いのかもしれませんね」
こちらを罠にかけようとする相手を、逆に罠に嵌める。言葉で言うのは簡単だが、その成否には無数の要因が影響するのは想像に難くない。
そもそも大軍勢の魔軍がそのような手を取るのがある意味不合理な行動だと言える。
原作の知識があったとしても、不確実な策に頼るのは出来れば避けたいところだった。
こちらも可能な限り大規模な戦力を用意して、犠牲を覚悟して相手をすり潰す。それも勝算が高いという訳ではないが、代わりに大失敗の可能性は低い。
その手を選ばないのは、やはり勇者の存在が原因だった。勇者の戦闘能力は人類の死亡率によって解放される。
特に人類死亡率30%で解放されるエスクードソードの魔人への殺傷能力が厄介だった。
それを封じるためには、ただの勝利ではなく、こちらの犠牲を最小限に抑えて敵を殺す、大勝利が必要だった。
「それじゃ、わたしは予定通りに動くわよ」
「ええ、人類への裏切り者を演じるには、DX会の長ほど相応しいものはいません。頼みましたよ」
ここからが作戦の第二段階。ジフテリア都市長、ビヨンホウ・オスマンを唆し、人類への裏切りを決意させる。
そしてここぞという場面、つまりは人類と魔軍の大規模激突となるセキガハラの戦いで叛意させ、目論見が崩れ混乱している魔軍を敗走させる。
ビヨンホウも、一つの都市を束ねる為政者として、ある程度の顔芸を行うことは出来るだろうが、流石に人類を裏切る演技は難しいだろう。
だから彼には、自分の意思で人類を裏切ることを決意してもらう必要があった。
悪名高い、DXの会の長による甘言によって。
「ふんっ、出来るものならあんたなんか本当に裏切ってやりたいわ。でも、向こうの首魁の目的が、自分に逆らい得るものは魔人や魔物も含めて皆殺しっていうのなら、恭順は無駄なのでしょうね」
「ええ、信じてくれますか?」
「数千年を生き延びた、小心者の魔人。そういう臆病者は裏社会でも珍しくはないわ」
無論、カチューシャには念入りに洗脳によって支配して、無数の安全策も用意している。
しかし、事を為すのならばカチューシャに自身が生き残るにはこれしかないと思ってもらうことに越したことはない。
ゆえに、ケイブリスの性格と目的について彼女には説明しておいた。
成り上がりの独裁者の疑心による粛清。それから逃れるには、独裁者を討ち倒すしかないということに、彼女は納得してくれていた。
「自由都市地帯にはいないトップのことを考えても仕方ないわ。それより、本当にレイとパイアールの二人は気にしなくてもいいのよね?意思決定がピサロの独断なのか、どうかで籠絡の手順は大きく変わってくるわ」
「ええ、どちらも策を頼みとする魔人ではありませんから」
魔人レイと魔人パイアール。凶暴な雷鳴と、天啓の閃きは、天災と天才と言うべき脅威だ。
下手に手を出せば大火傷を負わせられる。出来る限り、原作の流れに即した形で攻略したかった。
レイの攻略には特に人の縁というものが重要になってくるが、そこは運命というものが導いてくれることを祈るしかなかった。
◆ ◆ ◆
「ミスターピサロ。わたしにあなたの兵をお貸しいただきたい」
「ふん、そんなこと出来るはずがないだろう」
人類を裏切り、ピサロに取り入ろうとする者たちの一人として、謁見したその男は、大量のGを献上してそう言った。
黄金の輝きに魅了されているピサロをして、一番の財産といえば配下の魔物兵だった。
兵がいなければ、敵を殺し、財を奪い、蓄え、守ることは出来ない。
故にその指揮権を金に変えることなど出来るはずもなかった。
「そう仰らずに……。何もくれとは言っていません。しばらくの間、貸してくださればいいのです」
「貸すだけと言ってもな。今は人類を一刻も早く殺すことをケイブリス様に命じられている。余計なことに使う兵の余裕なぞないわ」
その男はさらに大量のGを積み上げる。その輝きに、ピサロは目を曇らせていく。
本来の彼であれば、命乞いも兼ねた財産の献上で出し惜しみをするなど、それだけで憤怒を買い、その者の首を刎ねさせるであろう愚行だ。
そもそも相手がただの人間ならば、財産だけを奪って殺してしまっても何の問題もない。
それをしないで、こうして占領した地域の者や人類を裏切ろうとする者のの謁見を受け付けているのは、より多くの財を手に入れることが出来るかもしれないという強欲さゆえだ。
「ええ、ミスターピサロが偉大なる征服事業に勤しまれていること、十分存じておりますとも。ですが実のところ、わたし共の目的とミスターピサロの目的は、大きく重なっているのです。ですから、わたし共に兵を貸すというのはわたし共を手駒として利用するのと同じだとお思いください」
「むううう……。その目的次第であるな」
さらに大量のGがじゃらじゃらと音を立ててこぼれ落ちる。
這いつくばって拾えと言わんばかりに無造作にGを落とす態度は、もはやピサロへの侮蔑を一切隠していない。
それなのにピサロは落とされたGを、その巨体を億劫そうに屈めてコインを拾い集めている。
「くくっ、わたし共の目的、それは魔人アイゼルの命でございます。魔人でありながら、法王を名乗り、人間共を従えるあの男は、ミスターピサロにとっても邪魔者でありましょう?それをわたし共が排除して差し上げようと言うのです」
「なるほど、確かに魔人アイゼルは我々にとって邪魔な存在だ……。人間共に与するなど、魔人の風上にも置けん」
「ええ、ええ!そうでしょうとも。ですから我々にお力添えを願いたいのです」
「いいだろう。おい!コルテスを呼べ!」
コインは男の掌から止まることなく溢れ出ている。
その量はもはや一人が懐に抱えておける量を優に超えている。
ピサロはそんな奇妙な状況に気づくことなく、男の言葉に誘導されるままに言葉を紡いでいる。
もはや彼の目に理性の色は無かった。コインの放つ金色の光に、心の底から魅了されてしまっている。
「何のご用でしょうか、ピサロ様」
「貴様、今からこの男に付け。そして魔人アイゼルの首を取ってこい」
「ええっ!?」
「くすくす、よろしくお願いしますよ」
ピサロの命令の、無敵結界を持つ魔人を殺せという無理難題ぶりに呼び出された魔物将軍が狼狽える。
そんな彼にも、男は尽きることのないコインを見せつけて、思考力を奪われた傀儡へと陥れていくのだった。
「良くやった、ウィリアム・G」
「ええ、わたし共が大ぴっらにこちらで動き回る訳にはいきませんからね。魔物共の軍勢はちょうどいい手駒でしょう」
魔物大将軍とその配下を傀儡にした男は、背後に現れた老爺に労いの言葉を受けていた。
それは人間界の言語では無かった。
地上にあるありとあらゆる命とは異なる起源によって生まれた者たちが扱う言語だった。
「まったく不愉快な話だ……。魔人ごときに我らが手を煩わされるとは……」
「しかし、彼の手によってジェイコプスとラブクラフトンの二名がその命を奪われています。はぐれならともかく、上級悪魔のこれ以上の被害は避けるべきでしょう」
ジェイコプスとラブクラフトン。彼らが、殺されるどころか、その力のすべてを武器の形で利用されているというのはこの者たちにとって不快なことであった。
それは単純に同胞を失った怒りだけではない。
利用する者と利用される者、狩人と獲物、捕食者と被捕食者。
そんなあるべき階級を覆されたことへの、耐え難いまでの屈辱であった。
「それが不愉快だと言っているのだ……!」
「落ち着いてくださいませ。確かにわたし共がわざわざ魔人如きの誅滅に動くのは業腹でございましょう。……しかし、あれはその魂をこの上なく黒く染め得る資質を有しております。ならばこれは、魂を黒く染め、刈り取る。わたし共の常の務めでございます」
「確かに……。我らにここまでの手間をかけさせたのだ。その罪の重さは魂を一部の隙もなく黒く染め上げる責苦をもって償ってもらうとしよう」
「ネプラカス様。その際にはわたしもお手伝いさせてください。あの者の配下も、主人が嬲られているのを見ればさぞや美しく魂を絶望に染め上げることでしょう!ぶひひひひひひひっ!」
男は体を大きく揺らしながら笑った。コイン同士が擦れ合う金属音を立てながら、男が纏っていた布切れが落ちる。
その下にあったのは、大量のコインを貯め込んだ貯金箱の群れだった。
パチルと呼ばれる、Gを盗み取る習性を持つムシがいる。
彼の姿はそれによく似ている。
しかし、先ほどまで頭部を成していた一際大きな貯金箱は、醜いぶたの顔をしていた。
「ぶひひひひひひっ!!」
蝿の羽音の如く、不快な金属の擦れ合う音を奏でながら、ウィリアム・Gと呼ばれる悪魔は哄笑していた。
◆ ◆ ◆
「あーあ、やっぱり無敵結界がチートすぎるんだよなぁ」
「ゲイマルク、勇者には魔人と魔王を討つためにエスクード・ソードが与えられています。文句は言わないでください」
兵力や物資の輸送、故郷を捨てた難民たちなどで、人間界では盛んに人々が行き来している。
その中に紛れ込むことは、ゲイマルクにとってそう難しいことでは無かった。
金で雇われた護衛としてうし車に乗り合わせたゲイマルクは、物資でパンパンになった荷台の上に寝転がりながら、傍らのコーラに愚痴っていた。
「いや、だって全然解放されないじゃん。30%ってやっぱり多いよ。なんか別の方法とかないかな。あの、おねーちゃんが持ってた魔剣みたいな」
「魔剣カオス、ですか。確かにあれならば人類解放率に関係なく魔人を屠ることが出来ますね」
「ただなぁ、あっちは流石にガードが固いんだよなぁ。……なあ、悪魔相手なら無敵結界は発動しないんだよな?」
「悪魔と契約するつもりですか?あまりおすすめはしませんよ」
無敵結界によって目論見を崩されたゲイマルクは、エスクードソードに依らずに魔人を殺害する術を模索していた。
AL教が封印しているバランスブレイカーにあたりを付けて、リーザスから自由都市地帯にある教会などを漁ったゲイマルクは、AL教が敵視する悪魔の存在に目を付けていた。
「契約まではいかなくても、悪魔の鎌とかを手に入れられれば、魔人を殺せなくもないかなって。JAPANの偉い僧侶だかなんだかが、わざわざ大陸から悪魔の鎌を仕入れたって話を聞いたし」
「はぁ。まあ、好きになさってください」
「ま、ダメで元々かな。最悪、レベル上げにはなるだろう」
自由都市地帯にある、悪魔回廊の噂を聞きつけたゲイマルクは、そこで悪魔の武器を手に入れられないかと考えていた。
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