ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「お久しぶりです。レイ」
「アイゼルか。てめぇが人間共を率いてるんだって?狡い手が多いが、悪くなかったぜ」
ケイブリス派の魔人レイ。彼の性は湧き上がる衝動をぶつける戦闘狂だ。
ゆえに他の魔人たちと異なり、前線に出ることを厭わない。
そのため、ハニーの軍団や雷のダメージを軽減するマジックアイテム、加えて神魔法の使い手たち、サテラのインスタントガーディアンなど、多くの備えをして彼との交戦における被害を抑える用意をしていた。
しかし、それらもそろそろ限界だ。ここらで魔人レイの脅威を取り除くべきだろう。
小規模な部隊を率いて暴れ回る彼と、こうして交戦にこぎつけるのはそう難しいことではなかった。
「猿の手に希う……!」
「へえ、しばらく見ない内にずいぶんと変わったじゃねえか……!いいぜ、楽しませてくれよなぁ!!」
魔剣の力をフルに解放し、巨腕に掴んだハニーを盾のように構えながら突撃する。
レイは櫛を取り出すと前髪をかきあげる。それがスイッチのように全身に紫電を纏い、拳に集めたそれを虚空を殴り付けるようにして放出した。
「えっへん!雷なんて効かないぞ!」
「へっ、相変わらずふざけた生物だぜ。そんなもんまで使うとは、ずいぶんなりふり構わなくなったじゃねえか!!」
人であれば消し炭、魔人であってもダメージを避けられない雷撃はハニーの特性によって霧散した。
ハニーの性質はレイも重々承知だ。ゆえに先の雷撃は目眩し。
雷光によって白く染まった視界が元に戻ると、目の前に接近したレイの凶暴な笑みがあった。
振りかぶった拳は当然、雷を纏っている。
「ぐううううううううっ!!」
「へえ、今のを耐えるかよ。仕込みはなんだ?またマジックアイテムか?」
咄嗟に腕を挟んで直撃を避ける。黒化植物をアースのようにして電流を地面へと流し、ダメージを軽減する。
反撃の斬撃はあっさりと躱され、返礼に連続の拳を喰らわされる。
体重の乗らない軽い拳だが、的確に急所を撃ち抜かれて体がよろめく。
その隙に飛び上がって体を大きく旋回して放たれた蹴りが炸裂し、わたしの体は後方に吹っ飛ばされた。
「おおおおおっ!!」
「へっ!そんなもん、当たるかよ!!」
レイの追撃を、巨腕を乱暴に振り回してなんとか払い除ける。
魔剣によって強化した膂力は強力だが、高い格闘能力を持つレイが相手では、攻撃を当てることは難しかった。
「炎の矢!」
「ちっ!」
だが距離を取ることには成功した。僅かな隙に炎の矢の呪文を唱え、レイにぶつける。
僅かとはいえ、この戦闘で初めてのレイへのダメージ。連射して更なるダメージを与える。
「うぉぉぉぉぉおおお!!」
「くっ!」
魔法を回避することは出来ない。ゆえにレイはクロスした両腕を盾にしつつ、低姿勢で駆け抜けていく。
多少の被弾をものともしないレイの進撃を、止めることは叶わず一瞬のうちに距離が詰められていく。
「首をへし折ってやる……!」
「かかれ!!」
爆風で煤けた顔で、レイは獰猛に笑う。掴み取ろうとする巨腕を躱し、踏み台にして飛ぶ。
その拳が、わたしの顔面に炸裂する寸前。わたしは肉体を構成するムシたちを解き放つ。
黒化植物がそのツルを鞭のように打ち据え、白蛇たちが毒牙を突き立てる。
そのダメージに僅かに拳速が鈍った一撃を、わたしは剣でなんとか受け止めた。
「くくっ、面白えじゃねえか!アイゼル!!」
「やはり手強いですね……。ここで仕留めるのは難しそうです」
「あん?」
「撤退!撤退しろー!!」
絡みつく黒化植物のツルや白蛇たちを電撃で焼き尽くし、レイは拳を構える。
その戦意は、多少のダメージでは衰えるどころか、むしろ燃え上がっている。
しかし、彼が率いる部隊はそうではなかった。
「流石のあなたも多勢に無勢ではどうしようもないでしょう?決着はまたの機会ということで」
「ちっ!」
志津香とナギによる大威力の魔法攻撃による後方支援を受けた、ハニー軍団に押され、そこに魔人サテラによる突撃を受けた魔軍は、撤退を始めていた。
一番の戦力であるレイがこうしてわたしにかかり切りになってしまえば、通常の魔物兵の軍団でしかない彼らがこうなるのは自然な流れといえた。
無敵結界があろうとも、軍を相手に一人で戦えば疲弊は避けられない。
特にこちらはハニーを多く含むため大規模な電撃で敵を一気に吹き飛ばすことも出来ない。
力を使い果たした後に、わたしに首を取られる。
そんな不完全燃焼な結末しか無いことを悟ったレイは、すごすごと引き下がる他なかった。
「ヒーリング。……ふう、なんとか凌げましたか。これで、わたしに執着してくれれば被害は減ることでしょう」
魔軍にはわたしとランスが仲違いを起こしているという噂を吹き込み、離間工作としてランスに接触させる。その和平の場に現れた魔軍の将軍クラスを仕留めるというのがカチューシャによる魔軍への工作の概要だ。
ゆえにわたしとランスは分かれて戦闘を行っていた。
聖刀日光を持つ健太郎もゲイマルクへの備えとしてランスたちに付けているため、無敵結界の破壊ができずに、苦戦を強いられたがなんとか乗り切ることができた。
ガラにもなく真っ向勝負を演じたのは、レイの関心をわたしに向けさせるためでもある。
戦闘狂である彼を打ち負かすことが出来れば、彼をそのままこちらの陣営に引き込むこともできる。
この戦闘はそのための布石でもあった。
◆ ◆ ◆
「ちっ!」
「ミスターレイ。意にそぐわない撤退の屈辱。心中お察しいたします」
「誰だ?てめえ」
戦いに水を差されたレイは、その暴力的な衝動を持て余していた。
それは身にまとった紫電として目に見える形で現れており、魔物たちすら彼を敬遠していた。
そこに現れた男にレイが向けた視線には、普通の人間ならそれだけで逃げ出すほどの殺意が篭っていた。
「わたしはウィリアム・Gといいます。あなたたち魔軍の覇業をお手伝いさせていただく、協力者の一人にございます」
「ああ、そういやそういうのがいるって聞かされてたな。つまんねえ話だから忘れてたが」
手慰みのようにウィリアム・Gはコインを弄んでいる。
慇懃な口調に対して無礼と言っても態度だが、レイはその怒りを発露することなく会話を続ける。
「ふふっ、そんなつまらない輩ですが、あなたのお役に立たせていただきたいのですよ……。ミスターレイ。アイゼルを討ちたくはありませんか?」
「あん?」
「ミスターレイとアイゼル。あの魔人の裏切り者と決着を付けられるようにセッティングをさせていただくというご提案です。どうです?」
「へえ、野郎と殺り合えるって?いいぜ、その提案、聞いてやるよ」
「ミスターレイ。感謝いたします……」
ちゃりんちゃりんとコインが落ちる音が、等間隔に繰り返される。
ウィリアム・Gの狙い通り、レイは悪魔の甘言によって動かされることとなった。
◆ ◆ ◆
「アイゼル殿、傭兵たちへの更なる特別手当について相談したい。強欲に思われるかもしれないが……、士気を維持するために必要だ。無理を言って申し訳ないが、頼む」
「マジックアイテムの加護があれど、魔人相手の遅延戦闘をこれまでよくやってくれました。いいでしょう。追加報酬の手形を切ります」
「かたじけない」
セキガハラの戦いに向けて、傭兵たちを率いる自由都市連合軍隊長の立場にあるセシル・カーナとわたしは会談を行っていた。
自由都市連合軍の主戦力は傭兵だ。コパンドン商会やAL教の莫大な資産の多くを彼らの雇用に費やしている。
医薬品や装備品を大量に用意し、AL教から神魔法の使い手たちも動員して厚く支えて来たが、彼らの被害は決して少なくない。
治療によって命を落とさずに済んでも、戦友の死によって精神へのダメージは大きかろう。
それを奮い立たせることができるのであれば、報酬の上乗せ程度安い買い物だと言えた。
「久しぶりだね。セシル」
「アリオスか……。お前も、参戦していたのだな。田舎で安穏と暮らしていると聞いていた。戦いとは無関係に平和で居てくれればと思っていたが……」
「故郷にも魔軍の手が伸びて来た。村はアイゼルさんに助けてもらえたけど、魔人討伐隊に加わって、魔軍の脅威と無関係な場所なんて無いって痛感させられてるよ」
「そうか、何にせよ、お前とまた戦えるのは嬉しく思う。自由都市のため、人類のため、お互いに力を尽くそう」
「ああ、いっしょに頑張ろう」
会議が終わると、親睦を深めるためのささやかな宴の場が訪れた。
わたしは法王として、少しでも士気を高められるように、傭兵たちや志願兵を相手に祝福のようなことをしていた。
旧知の中であるアリオスとセシルは、戦争の過酷さに影を落としつつも、再会を喜んでいた。
今夜は別の場所でランスたちと魔軍による和平のための会合が行われている。
カチューシャの誘導によりこぎつけたこの密談は、法王であり魔人であるわたしは無関係という体で行われている。
ゆえにわたしは現状についてほとんど知悉しない状態のため、その行末に一抹の不安を抱えながら、夜を過ごすことになる。
そう、考えていた。
「よう、アイゼル……!邪魔するぜ」
「レイ……!」
策謀の成否への不安は、雷鳴の脅威への戦慄によって塗り潰された。
「セシル、アリオス。少しで構いません、時間を稼いでください!!」
「分かった!」
アリオスとセシルがレイに突貫する。元勇者の鋭利な斬撃を追って女傭兵の鈍重な剣が叩き込まれる。
無敵結界のある魔人が相手とはいえ、足止めにはなるはずだ。
「へえ、やるじゃねえか」
「ふんっ!」
「はあああっ!!」
二人は息のあったコンビネーションで、互いの隙を埋めてレイに連続で斬撃を見舞っていく。
無敵結界の存在から踏み込みのない斬撃はレイに簡単に回避されてしまうが、わたしにレイを近づけないという役割は十分に果たしてくれていた。
「よっ、おらっ!!」
「なっ!?」
「セシル!?」
セシルの重い横薙ぎの一撃をレイが腕の膝で挟み込むようにして受け止める。
無敵結界にものを言わせた理不尽なものではなく、そこには荒々しいながらも確かな技巧が宿っていた。
切れ味が鈍い大剣とはいえ、刃の部分を指で挟み込むと、そのまま振り回してセシルの体勢を崩す。
「アリオス、どいてくだい!!ルビー解放!行け!!」
「かしこまりました。アイゼル様」
セシルは完全に体勢を崩されてしまっており、アリオスも単体ではレイを食い止めることは難しい。
しかし、魔導の力の解放による城へのアクセスと戯骸の召喚が間に合った。
不死の特性を持ち、魔人とぶつけうる戦力である戯骸は、全身に炎を纏ってレイに突撃する。
「うおおおおおおお!!」
「どきやがれ!!」
炎と雷が衝突し、激しく火花を散らす。
無敵結界と再生能力。どちらも不死身と言える両者だが、当然ダメージそのものを無効にするレイに軍配が上がる。
「ゲンジよ、来れ。アンバー、ラピスラズリ、解放」
拮抗は長く続かず、戯骸は全身を黒焦げにして倒れ伏した。
再生自体はしているようだが、戦線復帰には時間がかかることだろう。
しかし、その奮戦のおかげでこちらも戦力を展開することが出来た。
「た、隊長!大変です!!」
「何だ!襲撃を受けていることなら知っている!!我々が魔人を撃退するまで、何としても時間を稼げ!」
「いいえ、寝返りです!!一部の傭兵たちが魔軍の方に着いてしまったんです!!まともな奴らとカスタムの魔女たちが何とか食い止めてるけど、数ではもう負けてる!!」
「何だと!?」
「……セシル、アリオス。ムシ共を付けます。傭兵と魔軍の鎮圧に向かってください。麻痺毒とツタによる拘束で、生け捕りにしてください」
「分かった!」
「アイゼル殿……。感謝する!!」
数を用意して囲む。先の苦戦を踏まえての布陣だったが、思わぬ反乱により破綻してしまった。
せっかく呼び出した戦力の多くを、鎮圧に割くことになってしまった。
当てにしていた使徒の援軍も、これにより難しくなってしまった。
まだまだ城に戦力は控えているものの、苦しい状況だった。
「はっ!雑兵の影に隠れてねえでさっさと出てこいよ!前の戦いは結構楽しかったぜ!!」
「傭兵の買収工作ですか……。あなたらしくない策ですね」
「知るか、俺はただ好きなように暴れられればいいだけだ」
ゲンジたちがあっさりと打ち倒されていく。煉獄の本性である白虎の雷撃も電撃を自在に操るレイには通じないため、肉弾戦を強いられている。
式部のリーチと重さを兼ね備えた長太刀の攻撃は、早くも太刀筋を見切られ始めている。
悪い流れを感じる。唯一の有効打はわたしの魔法だが、乱戦のために大規模なものは使いにくい。
そのため、下級魔法を何発も命中させているのだが、レイの闘志はまるで衰える気配を見せない。
前衛が崩され、先の二の舞のように電撃を纏った拳打に晒される恐怖に背筋が凍る心地がする。
「ブラックジェット、解放……!」
右手にザビエルの魔血魂を取り込ませた球根を構える。
「へっ、面白え……!!」
かつての主人の力を感じてか、煉獄たちはわたしの意図を察して距離を取り、遠距離攻撃でレイの注意を逸らしていく。
しかし、レイは投げつけられる机や椅子に一瞥すらせず、わたしを真っ直ぐに睨んでいる。
その身には激しい電気のエネルギーが迸っている。
「黒の炎、放射……!」
「うおおおおおおお!!」
黒の炎の奔流を、虚空を殴りつけるモーションで放射された電撃が迎え撃つ。
屋敷の窓という窓を割る轟音を放つ両者の激突は、魔人の格ゆえか黒の炎が僅かに有利だった。
少しずつ白い電光を黒い炎が飲み込んでいく。そしてついにレイの身にその猛威が襲いかかる。
「へへへ……!どうしたアイゼル!てめえはこんなもんか!!」
「猿の手に希う……!」
放射時間の大半が雷撃によって相殺されたため、黒の炎がレイの身を焼いた時間はわずかだ。
しかし、そのダメージが小さいはずがない。
レイは黒い煙を上げて全身に火傷を負った姿を晒している。
畳み込む好機だ。魔剣によって強化した身体能力のごり押しで、仕留める。
そう決意した瞬間だった。
「ミスターレイ。彼をここまで追い込んでくれたこと、感謝いたします」
「ぐはっ!」
文字通りの横槍がわたしを襲った。無敵結界が発動せず、深く突き刺さる穂先の冷たさに命を失う恐怖を覚える。
「くすくす、汚染人間でなければ命を落とす傷です。さあ、もっと魂を黒く、美しく染め上げなさい。そうしたら、その魂を刈り取って差し上げます」
乱入者は、邪悪な気配を纏ったぶたバンバラのような豚面の亜人だった。
その身に漂う腐臭と、醜悪そのものな笑みに、激しい嫌悪を覚え、この存在の正体を直感する。
「あ、悪魔……!」
「ええ、第参階級魔神、ウィリアム・Gと申します。以後お見知りおきを」
唐突に現れた脅威に思考がまとまらない。その間も、体から槍を伝って血が流れ落ちて行く。
「おい……」
救いの手は意外なところから差し伸べられた。獲物を横取りされたことへの怒りがそのまま変換されたかの如く、激しい電撃を纏った拳がウィリアム・Gの豚面を思い切り殴り飛ばす。
「ぶひぃぃぃぃっ!!?な、何をするのです、ミスターレイ!?」
「ずいぶんと舐めた真似をしてくれるじゃねえか……!!」
どうやらウィリアム・Gは上級悪魔らしい傲慢さで、魔人の逆鱗を踏んでしまったようだった。
レイはかなりお気に入りの魔人だったりします
メアリーとの関係は鬼畜王も10もどちらもいいですよね
アイゼルからしてみれば同じ時代を生きながらまるで違う生き方をした存在としてコンプレックスがありそうだなという気がします
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