ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「おらっ!せい!はぁっ!!」
避雷針による電撃吸収を警戒して、レイは打撃のみで戦闘を行っていた。
ただの打撃だけであっても彼の戦闘能力は極めて高い。
しかも、自身の神経に電気を流すことで直接体を動かす技によって、長時間の戦闘を可能にする継戦能力をも手に入れていた。
パイアールの無尽蔵なロボ軍団に、レイは無尽蔵な体力によって対抗していた。
「うーん、やっぱり接触時の電力吸収だけじゃ、効率が悪いな。まあいいや、僕の魔力も動力にチャージして……」
しかし、避雷針を警戒して大規模な放電を抑えることも、パイアールは折り込み済みであった。
ロボ軍団には接触した瞬間に彼の体から電力を引き出す機構が組み込まれていた。
それは一回一回の吸収量は微量であったが、幾度も回数を重ねることで莫大な電力となり、パイアールのもとに送信されていた。
その電力はパイアールの持つ魔人としての強大な魔力と共にあるものを動かすための動力源に供給された。
「起動せよ!メカバボラⅡ!!」
「なんだ、ありゃ……」
魔軍陣地に設営されたパイアールの研究室兼工場。その本拠地は地下にあった。
地面に大きな亀裂が生まれたかと思うと左右に開く。そこから迫り上がるように現れたのは鋼鉄の巨人だった。
魔人バボラの同等のサイズを誇るパイアールが作り上げた破壊兵器。
かつては魔人四天王シルキィとシーザーによって破壊されたそれが、再び建造されていた。
「さて、レイとついでにアイゼルを捕らえてやるかな。アイゼルの首を渡せばケイブリスもしばらくうるさくしてこないだろう」
攻城兵器としてすら余りにもオーバースペックな破壊力を持つメカバボラ。
その仮想敵は魔人であった。かつて、パイアールは己の科学力のみで魔人を捕らえ、魔血魂を抽出した。
その際に使われた技術によって魔人を捕らえ、エネルギー源として活用する。
その対象は帯電体質を持つレイの電力はもちろんのこと、アイゼルを始めとする他の魔人たちの強大な魔力も例外ではなかった。
◆ ◆ ◆
「ぶひひひひひひぃぃぃぃ。ああ……、なんと芳しい香りか……。ネプラカス様もこれを前に我慢しろとは酷なことを仰るものだ……。何、この城を落とし、アイゼルを引きずり出すのはネプラカス様の目的にも沿うでしょう……。そのために城を守る彼女を狩るのは、何の問題もありません」
「あら、豚ばんばら?」
「ウィリアム・G……。アイゼル様を襲ったという悪魔です」
導く者とAL教の混成部隊は、その特性上、神魔法での回復が厚く、魔物兵たちを相手に粘り強く戦っていた。
そんな彼らの存在に業を煮やした魔軍は多くの兵を集中させ、そこには悪魔ウィリアム・Gの姿もあった。
「ふふふ。さあ、その黒きダイヤのような麗しの魂!狩らせてもらいましょう!!」
豚面の獣人がGOLDの雨を降らせる。
アムとアイゼルによって支配されている人類軍には影響はなかったが、魔物兵たちはその輝きに魅入られたように果敢に突撃していく。
同胞の亡骸を踏み躙り、自身の傷も無視して迫り来る魔物兵たちに、さしもの狂信者たちの間にも恐怖と動揺が広がりつつあった。
「あらあら、どうしましょう?」
「アム様っ!危ないっ!!」
「どっせい!!」
「……本来ならあなたのことは、見捨てたいところなのですが、今はアイゼル様のために戦う仲間です」
黄金の魔力に魅了された魔物兵たちは、あからさまな致命傷を負っても進撃を止めることがない。
魂の黒化によって、その身に不死性を宿しているためであった。
ついに一部の魔物兵が前衛を強引に突破して、アムへと近づいていく。
手脚を失ったものが文字通りの二人三脚で歩んでいく悍ましい光景にも黒き聖女の微笑は崩れないが、危機的な状況には変わりなかった。
そこにクルックー、サチコ、アルカネーゼの三人が割り込む。
大楯によって動きを抑え込まれたところに、大鉈による衝撃が叩き込まれ魔物兵たちが吹き飛んでいく。
そして撃ち漏らしには神の鉄槌とばかりにメイスが叩き込まれ、浄化の力が悪魔の力を祓い、動く死体を動かぬ死体に変えていく。
「一体一体浄化していては手が足りません。燃やしましょう」
クルックーが油を撒き、魔法で着火するとファイアウォールが聳え立つ。
火を恐れる本能すらも金銭への欲望で塗りつぶされた魔物兵たちは、それを無視して突撃するが、火傷を負った肉体ではネクロマンサーの力をもってしてもろくな動きは取れない。
テンプルナイトたちによって、危なげなく手足を切り落とされ、無力化されていく。
「怯むなぁ!!進めっ!進めぇっ!あの女をわたしの目の前に連れて来なさい!!」
それでもウィリアム・Gの力によって痛みも恐怖も知らない軍勢によって、少しずつ押し込まれていく。
この場を放棄してランス城まで撤退する。そんな最悪な状況すら意識し始めていた。
◆ ◆ ◆
「アイゼル様、お寛ぎのところ申し訳ありません。二つ、緊急にお耳に入れなければならない事態が発生しました」
「構いません、各地の戦況の報告はわたしが頼んだことです」
戦の興奮によって眠ることは難しいが、それでも目を閉じて体力の回復に努める。
リラックスバストの効果か、閉じ切った小さな部屋は安らかな気配が充満して、心を癒してくれている。
そんな心地よい静寂から、わたしは極めて丁寧に揺り起こされた。
それもビスケッタのメイドとしての技量の賜物か、使徒たちが身を起こす傍ら、わたしは即座に意識を覚醒させて報告を受けることが出来ていた。
「感謝致します。まず一つ、魔人パイアールの製造した巨大兵器が城に向かって侵攻中です。魔人サテラ様曰く、メカバボラという名前の魔人バボラの姿を模った鋼鉄の巨人とのことです。そしてもう一つ、悪魔ウィリアム・Gがアム・イスエル様たちが防衛する地点に現れました」
ビスケッタが普段通りの口調で語るのは、立て続けの災難そのものだった。
それをなんて事のないように語るのだから、彼女のプロ意識には頭が下がる。
彼女が余りにも平静そのものの態度なおかげで、わたしも冷静に対策を考えることができた。
とはいえ、あまりにも強力な戦力の相手に考えることなどほとんどない。
手持ちの強力な戦力をぶつける。ただそれだけである。
◆ ◆ ◆
「ふははははははははははは!!助けに来てやったぞ!我が威光に歓喜し我を讃えるがいい!!」
悪魔と悪魔が支配する軍勢を前に苦戦する導く者とAL教の混成部隊。
そこにミラクル・トーが現れ、ウィリアム・Gに白色破壊光線を喰らわせた。
アル・アジフを持つミラクルは、一時的な悪魔化によって瞬間移動の魔法を加齢のリスクを無視して行使出来る。
そのため、各陣地での緊急事態に備えとして、これまで温存されていた。
そして、ウィリアム・Gという難敵に対する切り札として、彼女はここに来たのだった。
目立ちたがりの彼女はこれまでの鬱憤を晴らすかのように、強力な攻撃魔法の数々を行使して魔物兵を蹴散らしていく。
その光景に導く者とテンプルナイトたちも士気を取り戻し、奮戦する。
彼女の登場により、戦線は完全に押し返されていた。
「ぶひっ、ぶひひひひっ!我らの同胞の亡骸を弄ぶ不届者!!ええ、ええ!こいつもわたしが刈り取ってしまって構いませんよねぇぇぇぇ!!」
悪魔の力を行使するミラクルは魂を黒く染めている。
悪魔の力を宿した魔導書も、奪えばいくらでも利用する術がある。
そのため、ウィリアム・Gは獲物が増えたと、欲深な笑みでさらに口の端を吊り上げた。
「ふん、醜悪だな。余の魂、お前の如きものにはくれてやれん」
「ふふ、わたしのアル・アジフ、今はあなたが持っているのね」
「うむ、余すら手を焼くこの魔導書の狂気、貴様はよくも正気のまま御したものよ。いや、元より正気を持ち合わせていないがゆえか」
ミラクルが手に持つ魔導書から黒いオーラが溢れ出る。
それは悪魔すら殺し得る武器を形成し始めていた。
◆ ◆ ◆
「いっくよー!黒色破壊光線!」
「黒の炎、放射!!」
ミラクルの瞬間移動によってメカバボラの目の前まで移動したわたしたちは、それぞれの最大火力を鋼鉄の巨人に叩き込んだ。
ガーネット、サファイア、トパーズの魔力を収束させた光線がメカバボラの胸の中心を貫き、わたしの放った黒の炎が口から入り込み内部を焼き尽くす。
ぶすぶすと黒煙を上げるメカバボラだったが、致命的なダメージを負った訳ではないようで、その歩みを止めることは無かった。
以前はシルキィとシーザーによって倒されたらしいが、あの両者ならばその手段は物理的なものだろう。
ならばと猿の手の力を解放して力を高めていく。
「猿の手に希う……!」
必要なのは破壊力と規模。無数の霊手を展開して一まとめにした巨大な拳を形成し、メカバボラの足を思い切り殴り付ける。
足首の辺りが折れ曲がり、メカバボラの体が大きくぐらつく。
そのまま倒れるかと期待したものの、メカバボラは正座の姿勢になってバランスを取る。
そして脛の辺りから車輪を、膝頭には排土板を生やしてそのまま前進を続けた。
「やあ、アイゼル。以前取ったデータと肉体の素性が変わってたから気づかなかったよ。君の今の肉体、ちょっと興味深いね。サンプルとして回収させてもらおう」
メカバボラはその巨大な腕をわたしに向かって伸ばした。
人体ならば正座の体勢で振るう拳などたかが知れているが、メカバボラの巨体を持ってすれば十分な威力だった。
「音とか、匂いとか、無敵結界でも防げないような妨害手段はいくつかある」
巨体に相応の範囲の攻撃は、全力で駆け無ければ回避は難しい。
その初動が強烈な不快感によって鈍り、そこにメカバボラの巨大な掌が迫ってくる。
「そして身動きを取れなくして手術室に放り込んだら後は無敵結界を切削して穴を空けて、そこから注射針を挿入して魔血魂を抽出するだけだ」
「うぐっ!」
五本の指が幾つにも分裂したかと思うと左右に鉄条が展開して網のようになる。
それに囚われたわたしは、パイアールの言う手術室、メカバボラの腹部に開いた口へと運ばれていく。
「わたしごと手を撃て!!」
「い、イエス、マイマスター!!」
使徒たちにテレパシーで指示を送り、黒色破壊光線がメカバボラの手に炸裂する。
解放されたわたしは暫しの浮遊感を味わってから地面に墜落した。
メカバボラの排土板によって均され、細かくなった土や木屑に溢れた地表に激突して、全身が粉塗れになるが屈辱よりも解放された安堵を強く感じる。
魔人を殺す手段。詳細は定かではないが、パイアールはそれを持っている。
そして簡単なオペについて語るようなパイアールの口調は、嘘やハッタリの類とも思えなかった。
「助かりました。やはりパイアールの科学力は脅威です。ここは守勢に徹しましょう」
「分かりました。アイゼル様」
メカバボラの巨体に対して有効打を出すことは難しい。
だが現状、足を歪めることでメカバボラの二足歩行を封じることが出来た。
この規格外の巨大兵器を城攻めに参戦させることは回避出来た。
パイアールがわたしをサンプルとして蒐集しようとして、この場に足止めすることが出来ている。
ここは時間を稼ぐべきだろう。
◆ ◆ ◆
「吹き飛びやがれぇぇぇぇ!!!」
「ひ、ひぃぃぃぃ」
「レ、レイだ!魔人レイが来たぞぉぉぉ!!」
メカバボラの出撃、そして悪魔の乱入を好機と見做したケイブリスは、魔物将軍たちに発破をかけ、これまで以上の大軍勢をランス城攻略に注ぎ込んだ。
絶大な数の有利に増長し、殺戮と略奪への期待に満ちていた彼らを襲ったのは電撃の洗礼だった。
ミラクルの瞬間移動によって唐突に現れた彼は、激しい雷をもって魔軍の尖兵たちを文字通り影も残さず消し飛ばした。
「ちっ、歯応えのない連中だ……」
「ちくしょう!裏切り者め!」
「レイはパイアールが抑えてるんじゃなかったのか!?」
電撃対策の避雷針がないため、思い切り電撃の能力を振るうことが出来ているが、レイの顔に喜悦の類の色は浮かんでいなかった。
パイアールのロボ軍団との交戦は電撃を抑え、格闘のみで戦ったとしても敵に塩を送ることは明らかになった。
ゆえに、彼らの相手を魔人サテラ率いるシーザーとインスタントガーディアンたちに任せ、レイは他の戦場を蹂躙するというのが最も効果的というのは理解しているが、パイアールに対して逃げ出してしまった屈辱を彼は味わっていた。
「もう一発、喰らいやがれぇぇぇぇぇ!!!」
その鬱憤を、八つ当たりだと理解しながらも魔軍たちにぶつける。
拳に纏った電撃を、再び虚空を殴りつけるように解放しようと構えた瞬間だった。
「うん、介入するならここかな、っと」
レイの脇腹を、捻じ曲がった形状の槍が抉り抜いていった。
技量よりも膂力によって投じられた槍は急所を外していたが、それでもレイに強烈なダメージと衝撃を与えていた。
「なんだか知らねえがレイが怯んだぞー!!」
「ふんじばってパイアール様の所に連れて行こう!!」
「裏切り者を処刑しろぉぉぉぉ!!!」
先程まで閃光と轟音を持って死と恐怖をもたらしてきた存在が、血を流して苦悶の声を上げている光景は魔物たちの復讐心に火をつけた。
魔人の強さと恐ろしさを知るからこそ、それを蹂躙出来ることに対する狂喜は一入で、怒声を上げてレイに殺到していく。
「はっ、これぐらい、テメェら相手にはちょうどいいハンデだ。ちょっとは楽しませてくれよ」
「くくくっ、あの鋼鉄の化け物。すごい暴れっぷりじゃないか。ここで殺すよりも、あれの動力源になってもらった方が面白いかもな」
下手人は悪魔の槍を回収するとその場を立ち去った。
残されたレイは負傷した肉体で何体もの魔物兵を屠るも、その動きは出血によってどんどんと精彩を欠いていき、ついには体中を鎖で雁字搦めにされた状態で引きずられながら連行されて行ってしまった。
◆ ◆ ◆
「ははははははは!いい加減に逃げ回るのも飽きて来たんじゃないか?大人しく解剖されてくれないかい?」
「ごめん被ります」
どれだけメカバボラとの交戦は続いていることだろう。
あの恐るべき鋼鉄の巨人は、黒色破壊光線を何発も命中させているというのにまるで応えた様子を見せていない。
パイアールは、魔法の頂点の一つすら意に介する価値は無いと言わんばかりに、わたしにのみ攻撃を集中させていた。
それはわたしにとっても望むところではあるが、いかんせんあの巨体から逃げ回るというのは体力と精神を同時にすり減らしていった。
ただ逃げ惑い、隠れ潜むだけではパイアールは使徒たちや城への攻撃に意識を向けてしまうことだろう。
ゆえにわたしは、パイアールの興味を引き続けるために、ムシの召喚や魔剣の力による膂力の強化、呪いによる魔力のブーストなど、手札を晒しながら戦い続けていた。
強力な力の反動で肉体に蓄積していくダメージや疲労を、回復魔法で無理やりに癒していく。
その隙を作るのにも分身を囮にしたり、土煙を起こして紛れ込むという細工が必要になるため、常に緊張を強いられる状況がずっと続いていた。
「待たせたな!!」
「魔人バボラ、その模造品か……。かつての屈辱、ここで晴らさせてもらうとしよう……!闘神Ζ、ここに推参!!」
「へえ、闘神か。これが君たちの切り札かい?アイゼル」
巨大な鉄の拳が、横合いからメカバボラの肉体を殴りつける。
その持ち主は、メカバボラにはサイズでは劣るものの、ただの機械であるメカバボラにはない、戦うための意思と技巧をその鋼鉄の体に宿していた。
瞬間移動によって先行したわたしたちに次いで、巨体兵器に対抗し得る強力な戦力が来訪した。
ある意味一番やばい魔人パイアール
その本領発揮