ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「悪魔ザカリテ……。わたしが望む願いはただ一つよ。魔人ケイブリスを殺しなさい」
「かしこまりました。女王マジック」
かつて、ゼス初代女王パセリが禁断の書デビルコールによって呼び出した第参階級魔神ザカリテ。
ゼス王家の秘宝である契約の椅子に潜む彼は、ゼス王家の女性の望みに応えて来た。
無敵結界を持つ魔人にダメージを与えられる存在である彼は、人類が魔人に対抗するための希少な手段と言って良かった。
今回も、ガンジーから王位を託されたばかりの女王マジックの願いに応えて、彼は動き始めた。
◆ ◆ ◆
「ぐぁはっはっはぁぁぁぁ!!!オラオラオラ!カミーラさんはどこだ!?教えてくれれば楽に殺してやるぜ!!」
ゼス軍の魔法の雨をもろともせずに、ケイブリスが前衛を務めるウォールガイをなぎ倒す。
そのうちの一体を引っ掴むと空を飛ぶアニスに向かって思い切り放り投げる。
アニスはその投擲を意に介さずに呪文を詠唱する。
常に展開しているバリアーによってそれを防ぐと、同時に黒色魔法光線を放ってケイブリスを狙おうとするも、ウォールガイを次々と放り投げられ、防御を余儀なくされて攻撃の魔力を霧散させた。
「カミーラさんですか?ええと……」
「アニス!何を素直に教えようとしているのです!それは第一級の国家機密よ!!」
ケイブリスの脅しに近い問いかけに、答えようとするアニスを情報魔法によってウォールガイたちを指揮する山田千鶴子が叱りつける。
無論、魔人カミーラの所在などそもそもアニスには教えていないが、アニスの予測不能な性質に、千鶴子が慌てるのも無理はない。
「たかが分身体の一体でこの戦闘能力……。戦力を集中させられていないのもあるとはいえ、とんでもないわ……」
魔物界のケイブリス派の領地と隣接したゼスには、どこよりも多くの兵が差し向けられている。
その中には、魔人ガルティアや魔人カイトを始め、頭抜けた強者が混じっており、ゼス軍はその対応に追われていた。
そして、戦力の流動によって生じる隙、つまりはゼスにとって守るに難く、魔軍にとって攻めるに易い場所をケイブリスの分身体は襲撃してくるのだった。
自在に転移を行うことの出来る魔法使い、アニス・沢渡と情報魔法によって遠隔から支援が行えるゼス四天王の一人、山田千鶴子がその防戦にあたっているが、僅かでも手傷を負えば即座に撤退を開始する分身体を仕留めることは難しく、主導権を握られ続けていた。
「せめて、せめてアニスの魔法を直撃させられれば……」
魔軍からの魔法や投擲による攻撃が、アニスに殺到する。
アニスはそれを予想の出来ない動きで飛行して躱し、時にバリアーで防御しているが、魔法使いであるアニスにあれらの攻撃が直撃すればどうなるかは目に見えている。
部下の並外れた能力は知っていても、千鶴子はその光景に肝を冷やしていた。
「ぐぁはぁはぁはぁはぁはぁ!!うおおおおおぉぉぉぉぉ!?な、なんだぁ!?」
そこに強烈な衝撃波が突如としてケイブリスを襲った。
それは天高くから飛来した巨大な岩石の塊で、熱と重量をもってケイブリスに少なからぬダメージを与える。
続いて闇の魔法の散弾が、必死にアニスを牽制していた魔軍に降り注ぐ。
「ちっ、どこのどいつだぁ!?ぶち殺してやる!!!」
「今です!行きます!黒色破壊光線!!」
強大な魔力の持ち主の横槍に、ケイブリスが意識を割かれた瞬間だった。
魔軍からの牽制が止み、集中の余裕を得られたアニスが強大な魔法を行使する。
先程の隕石による攻撃よりも、はるかに強力な魔力の奔流は、ケイブリスの分身体を仕留めるのに十分な威力を持っていた。
「ご依頼、確かに遂行いたしました。いつもニコニコ、スマート契約 ザカリテ。何でしょう、これ?」
胴に大穴を空けたケイブリスの分身体のもとに降り立ったアニスが、激突の衝撃によってか半分に割れた隕石の中に入っていた羊皮紙を読み上げた。
◆ ◆ ◆
「女王マジック。契約は果たされました」
「ふざけないで!!あれは分身体よ!わたしが望んだのは、魔人ケイブリスの殺害。契約違反よ!!」
「おやおや、ではこちらはいかがですか?」
遠くの光景を映す魔法のスクリーンが、それぞれ違う光景を映してマジックとザカリテを取り囲んでいた。
そのうちの一つ、ケイブリスの分身体とゼス軍の戦闘の光景を見せて悪魔は契約の履行を宣った。
当然、マジックは激昂するが、悪魔はそれに嘲るような笑みを浮かべながら別のスクリーンをマジックの眼前に移動させた。
「ぐはあっ!!」
「見事だった。強き王よ……。出来れば違う形で相見えたかった」
「ガンジー様ぁ!!」
「今こそ、この命を……」
そこには、魔人カイトの拳に腹を撃ち抜かれた先王ガンジーの姿があった。
無敵結界を解除していたのか、ガンジーの魔法による火傷と拳による打撲の痕が見られる。
しかし、人間と魔人、魔法使いと格闘家、王と修羅の戦いは当然の帰結としてカイトが勝利を収めていた。
ガンジーの側近、ウィチタとカオルにとって、主の敗北は大きな衝撃であった。
ウィチタは明らかに剣筋が鈍り、カオルも自滅覚悟で吶喊し傷を負っていく。
周囲のゼス軍も動揺が広がり、今にも士気が崩壊して絶滅への道筋を辿ろうとしていた。
「愛する父の仇、魔人カイトの死は望まれませんかな?ああ、それともこちらがよろしいでしょうか?」
ザカリテはまた別のスクリーンをマジックに見せつける。
そこは何の変哲もない、日常の光景だった。
少女たちが、共同体を築き、協力して日々を生きている。
戦火により珍しくなってしまった、どこにでもあるべき営み。
「これが、何だって言うのよ……」
「ええ、お教えしましょう!!彼女たちは魔人カイトの庇護下にある人類の裏切り者なのです!!彼女たちに何かあれば、さぞや魔人カイトは嘆き、苦しむことでしょう!!今ならば、彼女たちと魔人カイトの殺害をセットでお叶えします!!」
「ふ、ふざけないで!わたしはそんなこと望んでいないわ!!」
「おやおや、本当でございますか?ああ!あなたのお父上はまだ息があるようです!あなたは彼を見捨てると言うのですか?」
ザカリテに、契約を遵守するつもりなど最初からなかった。
悪魔が人間の願いを叶えるのは、悪魔と取引をしたという罪悪感で魂を黒く染めるため。
それさえ叶うのならば叶える願いの内容など何でもいい。
上司への魂の献上を厭んで離反した、はぐれ悪魔らしい怠惰さであった。
「はあ、聞いていた通りね。ま、ケイブリスの分身体を仕留められただけよく働いてくれたというべきかしら」
「な、何をする!?願いを叶えて欲しくないのか!?」
マジックは嘆息すると、手に雷を呼び出してザカリテのにやけ面を撃ち抜いた。
いくらマジックが魔法王家の後継者だろうと、その魔力は悪魔を殺すには至らない。
しかし、弄ぶはずの相手がいきなり歯向かって来たことにザカリテは驚愕した。
「くすくす、高貴なる者の願いを叶えるのは、わたしのような誠実な者の務めということです。三流悪魔」
「何が誠実よ。この悪魔が三流っていうのには同意するけど。確かに、これに比べればあんたの方がマシね」
契約の椅子に座するマジックの傍らに、いつのまにかアイゼルが騎士の如く控えていた。
◆ ◆ ◆
「女王マジック!見なさい!あなたの父親は、今、命を落とすのです!わたしとゼス王家の聖域に汚らわしい男を入れ込んだ報いを、刮目しなさい!!」
「くすくす、わたしが魔人カイトに対して何の手も講じていないとでも?」
ザカリテが魔人カイトとガンジーがそれぞれ率いる魔軍とゼス軍の戦いを映したスクリーンを巨大化した。
ザカリテはガンジーの死を見せつける悪趣味のつもりだったのだろうが、そこに映る光景は彼の予想とはまるで異なるものであった。
「待ちなさい。魔人カイト」
「アイゼルか……」
わたしの分身体が、魔人カイトを制止する。
巌のような肉体と、高い格闘技術を持つ彼は、たとえ猿の手をフルに使って魔人への殺傷能力を持たせたとしても、分身体では手に余る相手だ。
「カイトさん!」
「キャロリか?アイゼル、貴様……!いや、その姿は!?緑化病が治ったというのか!?」
「はい。アイゼル様とランスさんのおかげで、わたしたちの病は治りました。だから!わたしたちの恩人であるカイトさんとアイゼル様には、戦って欲しくないんです!!」
ゆえに、彼の亡き姉と同じ緑化病の罹患者、キャロリを連れて来ていた。
人質にするつもりかとカイトの全身に怒りが満ちるも束の間、彼女の顔が健康的な色を取り戻していることに気づき驚愕する。
緑化病は十代の女子にのみ罹患する死病で、発症者は長くとも十年で死に至る。
その治療には、世界のバグたるランスの精液が特効薬となるが、それはランスが女のこの世界では存在しえないものである。
だが、ランスとヒロインたちの間で子供を作る研究の副産物として、その再現に成功していた。
「……分かった。この拳を引くとしよう。だが」
「ご安心ください。緑の里に魔軍の報復が及ばぬよう、取り計らいます。もっとも、それもわたしが生きているうちのことですが」
「なるほど、それが嫌ならば戦働きで貢献しろというわけか」
魔人カイトの離反と魔人アイゼルの参戦。
加えて、わたしが率いるテンプルナイトの援軍がダメ押しとなって魔軍は逃散した。
「くすくす、というわけで先王ガンジーは無事です。さて、悪魔ザカリテ、誇大広告の商品は品切れですか?」
「おのれぇぇぇ!!」
ザカリテの激昂とともに、スクリーンが鏡面に変わる。
ザカリテはそれらを自身の周囲に展開すると、魔力を迸らせた。
「悪魔ザカリテ。あなたにはわたしの願いも叶えてもらいましょう。この身体の実験台になりなさい」
両者の魔法が激突する。わたしの魔法はザカリテの魔法を貫いてザカリテのポリゴン状の顔面に直撃した。
「くっ、食らえぇぇぇ!!」
追撃の魔法を放つが、それはザカリテが自身の前に展開した鏡面のスクリーンに衝突するとわたしに向かって反射してくる。
それをわたしは咄嗟に展開したバリアーで防いだ。
「ふむ、魔力自体が上がったのもそうですが、演算能力の向上が大きいようですね。今までより、早く、正確に魔力を操作することが出来ている」
フロストバインが生み出したあてなシリーズは、あまり実感しにくいが高い学習能力を有している。
そのため、わたしは改造によって強化された肉体の性能に振り回されずに、魔法を紡ぐことが出来ていた。
「では、物理方面はどうでしょう」
「ぎゃあああああっ!!」
バリアーを展開したまま吶喊する。ザカリテは迎撃の魔法を放つが、それを無視して最短距離で駆け抜け、猿の手でザカリテに切りつける。
悪魔の力は解放していないにも関わらず、剣はザカリテを易々と切り裂いていた。
古いコンピューターのモニターからそのまま抜け出して来たような、非生物的な形態ゆえに、ダメージのほどを推し量り辛いが、痛みに泣き叫ぶ様子からするとかなりのダメージを与えられたようだった。
「ふむ、このままわたし一人でも殺し切れそうですが……。やはりここはゼスの縁者に手伝ってもらうことにしましょう」
「今までわたしたちから不当な取り引きで奪って来たもの。全部返してもらうわ!!雷神雷光!!」
「ふんっ!自分の魔力で焼き死になさい!!」
初代女王を含む先祖たちを弄んで来た悪魔を裁こうと、当代の女王の雷が轟く。
ザカリテはそれを跳ね返そうと、鏡面のスクリーンを展開する。
「そうはさせません」
新たな肉体は、異次元の狭間に囚われたものたちの成れの果てを主な素材としている。
自身の形すらも忘れてしまったそれは、新しい形を入力してやることで自在に姿を変化させる。
ゆえに、手に手裏剣を生成して、それを放って反射板を破壊することも可能だった。
盾が機能しなかったことで、怒りに満ちたマジックの雷はもろに炸裂する。
「ああ、不愉快だ。この苛立ちは貴様で晴らさせてもらうぞ」
「なっ、天使……!?いや、悪魔……!?何なんですか、あなたは!?」
「ふん、貴様には名乗る気もしないな」
天使と悪魔の翼を生やした妖女が参戦し、その魔力をもってザカリテを凍てつかせる。
乱入者の正体は、英霊フル・カラーだ。
かつての友、パセリの魂がザカリテに囚われていることを知った彼女は、冷たい怒りに満ちていた。
それでも、ザカリテを出来るだけ利用してから殺すという作戦に従ってくれたのは、パセリの子孫であるマジックが最初に報復を行うのが筋だと弁えていたからだろう。
「ああ、あああ、ああああああ!!!」
ザカリテの使う、魔法や物理を反射する鏡のような盾も、その両方を織り交ぜるわたしとフルの前では機能しなかった。
最後は盾をすべて破壊され、防ぐ術のない状態でマジックの白色破壊光線が炸裂し、ゼスに長く巣食ってきた悪魔は死に絶えた。
「さて……。パセリ・リグ・ゼス」
「う、あ……。何かしら?」
悪魔退治は済んだ。しかし、もう一つするべきことが残っていた。
わたしはパセリの魂を捕らえると、手元の人形に入れる。
すると人形は一瞬のうちにパセリの生前の姿を模っていく。
この人形は、フルが今使っているものと同じ、幽霊を憑依させ仮の肉体を与えるためのものだ。
機能自体はIPボディと同じだが、予めわたしの命に服従するようになる洗脳を仕込んである。
これもまた、フロストバインやYORAたちの研究の成果だった。
「長く悪魔に囚われていたあなたには酷な頼みかもしれませんが、あなたの子孫の国に、力を貸してはくれませんか?」
「もちろん。むしろお礼を言わせてちょうだい。ザカリテから、解放してくれた上に、こうして子孫たちを助けるための手段を与えてくれて、ありがとうございます」
こうして、わたしはザカリテを試し切りに使った上で、初代ゼス女王パセリを戦力として引き入れることに成功した。
まずは試し切りと魔人カイトの取り込み
ザカリテには強化されたアイゼルの力を見せるための実験台になってもらいました
カイトは緑の里の女の子たちを利用することで仲間に出来ました
特効薬は真面目にアイゼルだからこそ作り上げられたものだと思います
カイトがゼス方面の侵攻を任されたことも、アイゼルが魔人メディウサを殺し、導く者を牽制したことありきなので、派手さはないですがアイゼルのこれまでの動きが結実した展開だと思います
魔人風華の存在もありますし、メディウサ討伐は結構なターニングポイントですね