ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
堰を切るように複数の策を同時並行で動かし、戦況を一気に押し流す。
ゼスでの戦いにおいて、わたしはそれのみを画策していた。
状況が整うまで、ゼスには耐え抜く戦いを強いることになったが、彼らは見事にそれを成し遂げてくれた。
ザカリテという謎の存在の横槍によって分身体を討ち倒されたことは、ケイブリスに強い警戒心を抱かせることだろう。
それは魔軍の活動に硬直を生み、その隙を突いてわたしの策は動いていた。
◆ ◆ ◆
「ケイブニャン様!!じ、地面から突如として植物が繁茂し、転移魔法陣が壊れてしまいました!!」
「にゃ、にゃんと!?ちゃんと根まで焼き払ってなかったのかにゃ!?い、急いで描き直すにゃん!!」
ペンシルカウを接収して作り上げられた魔軍の前線基地。
その中核となる転移魔法陣が、黒い植物の繁茂によってズタズタに引き裂かれて機能を停止して、魔軍には混乱が生じていた。
「しゅ、襲撃です!カラーたちが襲撃して来ました!!」
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃに〜!?」
そこに追い討ちをかけるように、カラーの襲撃の報せがケイブニャンたちに届けられた。
併発した緊急事態に、ケイブリスの使徒、ケイブニャンは大いに狼狽していた。
「ふん!ちょうどいい!生け捕りにして、ケイブリス様への献上品にしてやる!!」
「ま、待つにゃ!先に、転移魔法陣を復旧するにゃ!!」
「いいえ、ケイブニャン様。ここは撃退を優先すべきです!カラー如きを相手に、援軍を恃みにするなど魔軍の名折れ!」
「そ、そうなのかにゃあ?」
混乱の虜になっていたケイブニャンに代わって、補佐を務める魔物将軍が配下に指示を出す。
彼は、このペンシルカウを落とし、魔軍の前線基地とした張本人だったが、最初の目的地であったシャングリラを制圧できなかったこと、カラーたちには逃げられてしまったことでケイブリスの不況を買っていた。
いつのまにか姿を消していたそもそも存在しない魔物隊長クージのことなど報告出来るはずもなく、左遷のようなこの状況に甘んじていた彼にとって、カラーの襲撃はむしろ絶好のチャンスであった。
名目上、上位に当たるケイブニャンを言いくるめた彼はこの騒動を利用して、名誉を挽回することを目論んでいた。
◆ ◆ ◆
「かかれ、かかれー!!クリスタルの献上分は、お前らにもつまみ食いをさせてやるぞ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
略奪や武功の旨みのない警備の任務に、鬱憤の溜まっていた兵たちは降って湧いて出た垂涎の獲物に大いに奮い立った。
カラーたちの放つ矢の雨をものともせずに進撃し、前衛を務めるアロエを伐採していく。
美しきカラーたちを捕らえ、凌辱する。その欲望に焼かれた彼らの多少の犠牲も顧みない突撃にカラーたちが蹂躙されるのは時間の問題のように思えた。
「ここまで引きつければ……!行きます!」
「ふむ、やはり通常種のアロエでは前線を支えきれぬか」
しかし、それは罠であった。カラーたちの中には、膨大な魔力を持った女王たちが控えていた。
先代女王モダン・カラーと先々代女王ビビット・カラー。
フル・カラーと同じようにアイゼルに仮初の肉体を与えられた英霊たちは、散漫な突撃を繰り広げる魔軍たちに莫大な熱量を持った光球をぶつけた。
カラーに手を出すものは死の報復を受ける。それはカラーのクリスタルが持つ呪いを意味する言葉だったが、吹き飛ばされた前衛たちの惨状は魔物兵たちにそれを思い起こさせるのには十分だった。
「アイゼルさんの命令だもの。ちょっと心苦しいけど、盛大に焼き払ってちょうだい」
「アイゼル殿のため、女王のため。カラーたちよ。存分に射殺し、焼き殺し、呪い殺せ」
魔力の爆発に続いて、魔軍たちが接収して兵舎に使用している建物から次々と火の手が上がる。
それに意識を取られているうちに、カラーたちは火矢を放って伐採されたアロエを燃やす。
炎の壁と、アロエに絡みつかれ、生きたまま焼かれる魔物兵たちの悲鳴に足を竦ませた魔物兵たちは、カラーたちが森の中に姿を消すのを見ていることしか出来なかった。
「燃やせ燃やせ!飛び出たものは、手裏剣の餌食にしろ!」
魔軍の前線基地の攻略は、カラーたち単独のものでは無かった。
伊賀の忍者たちが、あらかじめ忍び込んで細工をしていた。
そしてカラーたちの襲撃に合わせて発火し、更なる混乱をもたらすための破壊工作を行う。
魔物隊長を暗殺され、指揮系統が崩壊した魔軍たちは散り散りになって逃げ出すが、ペンシルカウの周囲の森には、当然カラーの射手たちが潜んでいる。
こうしてペンシルカウに駐在していた魔軍は、魔物将軍を含めてほぼ全滅し、ケイブニャンと聖女の子モンスターのハウセスナースは捕虜として捕らえられた。
◆ ◆ ◆
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ど、どうしたのよ!?」
雄叫びを上げる魔人ガルティアが厨房に現れ、料理長を務めるマルチナ・カレーは狼狽した。
ゼスで随一の料理人である彼女は、魔人ガルティアに捕らえられ、その腕を奮っていた。
捕虜の身ではあるが、ガルティアの食への敬意と執着は本物で、安全は十分に確保されていた。
ゆえに、ガルティアがここまで興奮した様子で厨房にやって来るというのは、彼女にとって大きな驚きであった。
「こ、この団子!作ったのは誰だ!!」
そう言ってガルティアが見せつけたのは、団子が包まれていたと思しき笹の葉だった。
葉には、食べ物とは思えない虹色のタレが付着しており、見るからに毒々しい。
「ええと、それは……。人類軍から献上されたものだと思うけど……。毒が入ってるかもしれないから、味見はしてなかったけど、よっぽど酷い味だったの?」
食にしか興味のないガルティアは、ゼスに対して「命か食か」を問いかけ、食料を献上された場合には侵攻を憂慮するということを行っていた。
とてつもない大食漢であるガルティアは献上された食料をすぐに食べ尽くしてしまうため、それは戦って死ぬか、飢えて死ぬかを選択するようなものだった。
人類軍は献上する食料に毒を仕込むという所業を行っているが、ガルティアにとっては毒すら味覚のレパートリーの一つに過ぎず、ガルティアの食生活を彩るものにしかなっていなかった。
「逆だ!この団子は美味すぎる!!くそ……、どうして俺はもっと味わって食べなかったんだ……!」
「ちょっと待ってね……。一応、食料品といっしょに書状なんかも預かっているから……。ええと、JAPANのお姫様から送られたものみたい……。なになに……ええっ!?」
「どうした!?何が書いてあった!!」
「この団子がもっと欲しければ、ケイブリスを裏切ってホーネット派と人類につけ……って」
マルチナは、恐る恐る書状の内容を読み上げた。
その内容は、食のためにすべてを捧げてきた料理人の彼女をしてとんでも無い取り引きだった。
流石のガルティアも激怒するのではないかと、彼の方を見やった。
「分かった!?ホーネット派と人類軍につけばいいんだな!?」
そこには何の躊躇も、後ろめたさもなく、寝返りを決めた魔人の姿があった。
◆ ◆ ◆
ゼス侵攻を担う魔人カイトと魔人ガルティアは、容易に調略が可能な相手であった。
魔人カイトは緑化病の治療法、魔人ガルティアは香姫の団子を材料にすれば簡単にこちらの軍門に降らせることが出来る。
これは魔人メディウサを葬り、導く者の活動を妨害したことで得られた成果だといえた。
このカードをここまで温存してきたのは、ケイブリスを孤立させるためだ。
積極的に虐殺を行う性質ではないとはいえ、魔人二体を放置したことによる犠牲は少なく無い。
この機会を掴むための更なる一手をわたしは用意していた。
◆ ◆ ◆
「何だとぉぉぉぉぉぉぉ!?そ、そいつは本当なのか!?」
「は、はい。魔人カイト及び、魔人ガルディアの離反の報せは真にございます……」
二人の離反はケイブリスに大きな衝撃を与えていた。
これにより、人間界を侵攻しているケイブリス派の魔人は彼のみとなったことになる。
魔物界の大領土を背景とした莫大な兵力差は依然として存在しているものの、前線基地の転移魔法陣からの派兵が途絶えた今、それがどこまで持つかは知れたものでは無かった。
「くそ、くそ、くそっ!カオスマスターの野郎はどうなっている!?」
「カオスの使い手がゼスに現れたとの報告を受けています。というより人間共の士気を上げるため、自分から自身の存在を喧伝しているようです」
「く、くううううう…………」
「ケイブリス様、ここはケッセルリンク様が居られる魔物界に帰還するのはいかがでしょう?敵の首魁、ホーネットさえ捕えることが出来ればホーネット派の魔人の動きを縛ることが出来るはず。人間だけであれば、攻め滅ぼすのは容易かと」
「それをやっちまったら!リトルプリンセスがカオスで殺されて!魔王の地位が奪われちまうんだよぉぉぉぉぉ!!!」
魔剣カオスは魔王を殺すことの出来る武器だ。
ゆえにそれを戦場に釘付けにしておくために、魔人の脅威によってプレッシャーをかけるのは不可欠であった。
しかし、その役割が自分だけになるとリスクは一気に跳ね上がる。
アイゼルに降って好機を待つ。そんな屈辱的な選択肢すら浮かび始めるが、自分と同様に臆病な魔人である彼が自身を生かしておくとも思えなかった。
「何と……、ホーネット派の目的は魔王リトルプリンセスの擁立のはず……。いや、あのときの手紙……。魔人アイゼル。やつはホーネット派を隠れ蓑に、自身の野望のためだけに動いているというのか……」
「ああっ!?おい!ストロガノフ!今聞いたことは忘れ……、いや……死ね!!」
「はっ!承知いたしました!」
焦燥のあまりの失言に気づくと、ケイブリスは自身の腹心に対してその剛爪を構えた。
しかし、ストロガノフはそんな主人の理不尽な態度に対して、逃げるつもりはないと言わんばかりにその場に腰を下ろした。
「この戦況に加えて、魔人アイゼルが魔王になりうるということが明らかになれば、我が軍は怖気付き、離脱者も多く出ることでしょう。ゆえにこのことを秘しておくために死ねと命じられるならば、喜んでこの首を差し出しましょう。しかし、その前に最後のご奉公として進言をいたしたく」
「な、何だ……。言ってみろ!」
「ホーネット派とことを荒立てるのを厭わなければ、アイゼル自身がこのことを暴露する可能性もあります。その際はどうかその混乱に乗じて魔王の地位を掴みくだされ。尤も、これは可能性が低いかと思われます。一番あり得るのは──」
ストロガノフの覚悟に気押されたケイブリスに対して、彼が語ったのは自身の命を度外視した進言だった。
自身がいなくとも主人がその夢を遂げられるように、可能な限りの状況と対応策を列挙していく彼の言葉は、猜疑心の強いケイブリスすらも信じざるを得ないほどの至誠が込められていた。
「け、ケイブリス様ー!ストロガノフ様ー!!で、伝令でございますー!!魔人、カミーラ様の所在が判明しました!!」
そこに一つの報せが届いた。魔人カミーラの解放は、ケイブリスにとって今回の戦争の大きな目的の一つだ。しかも魔人四天王の一人である彼女は、その存在自体に大きな意味を持つ。
それはこの苦境を覆すことの出来る可能性を秘めていた。
「……ストロガノフ。カミーラさんを助けるための戦いに、てめえを突っ込ませてやる。せいぜい雑兵として役立ってから死ね」
「はっ!一番槍の栄誉、恐悦至極にございます」
◆ ◆ ◆
慎重に慎重を重ね、石橋を叩いて壊して渡らないような性格のケイブリスだったが、彼が大胆に行動する場合が二つある。
一つが魔王になるための行動であり、ホーネット派との派閥戦争や今回の戦争がそれに該当する。
そして、もう一つが魔人カミーラに関する場合だ。
魔人カミーラに対する純な恋心は、臆病な彼をしてを身の危険を忘れさせるほど強く、彼女をものにするために、決闘のような真似に望んだことすらあった。
その戦いはケイブリスに敗れたカミーラが大いにプライドを傷つけられ、より一層彼のことを厭うようになるという無惨な結果になったのだが。
ゆえにゼスに捕えられたカミーラの封印場所が明らかになれば、彼自身が兵を率いて救出にやってくる公算は大きかった。
それは、ケイブリスを仕留めることの出来る希少なチャンスだと言える。
そのために、わたしは魔人カミーラがゼスの永久地下牢に封印していることを魔軍に漏らしておいた。
ゆえに、ケイブリスは来る。わたしはそれを討ち倒す。それこそがわたしの計画の大詰めであった。
ケイブリスの想いを弄ぶようで、一抹の罪悪感を覚えなくもない。
決戦に臨む緊張感を、わたしはそんな戯言を巡らせて紛らわせていた。
いよいよケイブリスとの決戦が始まります
カイトとガルディアの裏切りは、開戦から即座に起こせる展開でした
しかし、その結果ケイブリスが他の方面軍に合流させてしまうと厄介でした
ゆえに他の方面の魔人をすべて討伐した上で、裏切りによってケイブリスを孤立させ、カミーラ救出へと誘導する
これこそが、アイゼルが開戦当初から描いていた絵図になります
途中、勇者や悪魔の介入がありましたが、その狙いは結実し決戦の幕が上がります