ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「お久しぶりです、ケイブリス」
「久しぶりだぁ?舐めた口利いてんじゃねーぞクソカスがぁぁぁぁぁああああ!!さっさとカミーラさんを解放しやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」
すでに彼の怒りは頂点に達しているのか、話しかけただけでケイブリスの感情は爆発した。
恐瘴気が無くとも、弱者は命を落とすかもしれない。
そう思わせるほどに、その怒鳴り声は聞いた者に恐怖をもたらすものだった。
「……白色破壊光線!」
「ああ?」
歴戦の将をして、最強の魔人の威圧感には耐えきれなかったのか、無敵結界によって防がれることを知りながらアレックスはケイブリスに攻撃魔法を放っていた。
「猿の手に希う!」
しかし、彼の注意がアレックスに逸れたのは悪いことでは無かった。
その間にわたしは猿の手を拾い上げ、その力を解放する。
相手は最強の暴力を有しているだけの魔人。
ならばこの身を悪魔に近づけることが、隙となることは無いため、全開で用いて構わない。
その理由は後付けで、目の前の脅威に対して、少しでも対抗出来る力を求めての行動だった。
「何だ、それは?」
「くすくす、さて何でしょう?」
もたらされた絶大な力と魂の汚染に伴うマインドセットによって、精神にも余裕が生まれ、ケイブリスを挑発する。
今回の狙いはあくまでケイブリスを逃すことなく仕留め切ること。
ならばケイブリスが、冷静さを失うほどに激昂してくれるのは都合がいい。
その矛先が、わたしに向いてくれるのであれば尚良かった。
現に、ケイブリスは無意味な魔法を放ったアレックスではなくわたしに、意識を向けている。
「ふざけるなよ、クソがぁぁぁあああ!」
「はあぁぁぁぁっ!!」
迷宮の通路は、巨体を持つケイブリスにとってはいささか狭い。
ゆえにケイブリスは、左右の壁を薙ぎ倒しながら突進して来た。
それは、何の仕掛けがあるか分からない迷宮を、先に破壊しておくという慎重さの現れでもある。
ここまで怒り狂っていたとしても、染みついた臆病さは隠し切れないものだなと、内心で嘲笑う。
ケイブリスをみくびっていると自覚する。だがそれは怯えているよりも余程いい。
「ああ?」
「ケイブリス様の一撃を防いだだと!?」
「彼は、絡め手を主体とする魔人であったはず。無敵結界があるとはいえマッスルたちと互角に切り結んだいたことといい、何かありますね」
圧倒的な体重差を、霊手を支えとして展開して補う。
ケイブリスの大剣の振り下ろしの一撃を、横から剣をぶつけて逸らした。
最強の魔人の一撃を、人間という脆弱な存在を素体にした魔人が防いだ事実にケイブリスは訝しみ、ストロガノフたちは驚愕していた。
「今です!」
「ラーンス、アタッーーーク!!」
ケイブリスの突撃は、遮るものすべてを踏み潰さんとする勢いを持っていた。
ゆえにマエリータ隊たちは巻き添えを食わないように退避しており、この瞬間ケイブリスのガードは存在しない。
そこが狙い目だった。
迷宮の隠し部屋から、一人の戦士が飛び出してくる。
ケイブリスは、片方の大剣を完全に振り下ろした体勢でありながらも、身を捻って背後から迫り来る剣の一撃をもう片方の大剣で受け止めた。
硬質な物が割れるような音がする。
それは魔剣カオスが魔人ケイブリスの無敵結界を破壊した証拠だった。
「無敵結界の破壊を確認。援護します!!」
「ははっ、魔物王退治とは、モンスターハンター冥利に尽きるというものだな!」
迷宮の隠し部屋に控えていたのはランスだけではない。
ウルザが精密な射撃でケイブリスの目を狙い、アームズがケイブリスの装甲の隙間を目掛けて槍を突き出す。
「なんだぁぁぁぁぁ!?」
ケイブリスは首を捻ってボウガンの矢を躱す。
流石の彼もそれが限界だった。アームズの槍は回避出来ずに、彼は今回、初めての手傷を負った。
「ちっ……。おい!マエリータ隊、ぼさっと突っ立ってるんじゃねぇ!!」
「はっ、申し訳ございません。ケイブリス様」
「我々は人間共の相手をします」
「……あのカスも魔人である以上仕方ねぇか。吹き飛べぇ!!」
ケイブリスが後衛に下がってマエリータ隊を盾にする。
先程のやり取りで、わたしやカオスとの直接の戦闘にリスクを感じ取ったのか、彼はわたしに目掛けて魔法を撃ち放った。
殺傷のみを目的として、数千年の時を経て磨かれたそれは、魔導の叡智や深淵とはまるで無縁な低位のものであったが、決して侮れるものではない。
「ソロモクゼン……。バリアー!!」
ゆえにわたしもまた効率度外視のバリアーで対処する。
両手の指に嵌めた七つの指輪、ソロモクゼンには、リクチェルの呪いやブラックロータスの研究成果、ゼスの貴族共から徴収した魔力などがそれぞれ込められている。
それらによって増幅した魔力によって魔法バリアーを複数展開することで、ケイブリスの魔法を無傷で防ぐことが出来た。
「なんだってんだ……?」
「アテン、迷宮展開。退路を断て」
「はっ」
物理戦闘でも魔法戦闘でもケイブリスに対抗してみせた。
無論、ケイブリスのように己の身一つで完結しておらず、反動や消耗のある力だったが、ケイブリスが警戒心を抱くには十分だろう。
ゆえに、アテンに迷宮を変動させて退路を断たせる。
いくらケイブリスといえども、背を向けて迷宮の破壊に専念すれば致命的な隙となることだろう。
「これで袋のネズミですね。くくくっ」
「何がおかしいってんだぁ!!!」
ケイブ“リス”が袋のネズミという状況が洒落になっていると気づき思わず苦笑してしまう。
この世界のリスとは、わたしが知る齧歯類とはまるで異なる存在なので、せいぜい美樹や健太郎にしか通じない言葉遊びだ。
なので披露すれば首を傾げられるのが関の山のそれを、口にせずにおいたのだが、それすらもケイブリスにとっては苛つく振る舞いなようだった。
「アテン、迷宮展開。射線を通せ」
「はっ」
怒りのあまりケイブリスから一瞬慎重さが消える。先よりもさらに苛烈な攻撃でわたしのバリアーを撃ち破ろうと、魔力を高め始める。
それは、こちらにとって大きなチャンスであった。
再び、アテンの操作によって迷宮が動く。
「「「黒色破壊光線!!!」」」
「「スクリューマーブル!!」」
わたしの背後の迷宮の壁が開く。そこにいるのは、わたしの使徒たち。彼女たちはすでに詠唱を終え、発射体勢にあった。
二つの強大な魔力の奔流。ガーネット、サファイア、トパーズがそれぞれの魔力を重ねた黒色破壊光線。志津香とナギの合体魔法、スクリューマーブル。
どちらもレベル3魔法に近しい威力を誇るそれらは、ケイブリスの魔法をあっさりとかき消し、彼に炸裂した。
「ぐぎゃあああああ!!ひ、ヒーリング!!」
「くっそぉぉぉ!!」
「待ちなさい!ニードル!!」
「火爆破」
大ダメージを受けたケイブリスは、必死になって自身に回復魔法をかけていた。
ケイブリスが自身の回復にかかり切りになっている間は、対応能力にかなりの余裕が生まれる。
学者の制止を聞かずに、一人突撃してくるニードルは、弾丸のように高速でこちらに迫ってきたが、あっさりと迎撃することが出来た。
「い、いかん!総員、ケイブリス様をお守りしろ!後続が迷宮を突破してくるまで、時間を稼ぐのだ!!」
「くすくす、さぁて、わたしの迷宮をそう易々と突破出来ますかね?」
この迷宮、永久地下牢は、ケイブリスを誘い込み、殺すためだけの場所として徹底的に作り変えてある。
アニスの膨大な魔力やミラクルのアル・アジフ、そしてザカリテの脳を使ったコンピューターも投入して改造したこの迷宮は、突貫工事ではあるものの難攻不落と呼ぶに相応しいと自負している。
ケイブリスを誘い込むために、意図的に緩めていた難易度は、すでに最大にまで引き上げている。
いくら魔軍が数を頼みに押し寄せようとも、かなりの時間を稼げるはずだ。
「ひ、ヒーリング!く、くそぉ!と、とにかくこの迷宮をぶっ壊せ!!」
手負の獣は恐ろしいが、ひたすらに自身が生き延びることだけを考えるケイブリスはその手合いではない。
彼がその臆病さと慎重さから消極策を取り続けているうちに、可能な限り彼を消耗させる。
◆ ◆ ◆
「タワーオブファイヤー!!」
「ぐぎゃあああああ!!!」
「クソぉぉぉぉ!なんだってこんなところに魔人ハウゼルがいるんだよぉ!?」
ケイブリスたちが待ち望んでいる後続部隊。彼らは今、上空から降り注ぐ魔力の脅威に晒されていた。
天使の翼をその背に生やし、飛行能力を持つハウゼルは屋外でこそ、その真価を発揮する。
ゆえにアイゼルは、強力な戦力である彼女を対ケイブリスではなく、後続を叩くために起用していた。
「行きますよー!白色破壊光線!!」
「わぁっ!?あ、あの、わたしにも当たっているのですが!?」
「むっ!申し訳ありません!魔人と魔軍を攻撃せよというご命令ですので!!」
「いえ、ですから、わたしは人類の皆さんに味方を……」
「なんと!それは失礼しました!!黒色破壊光線ー!!」
「ひゃあっ!!」
空からの脅威は、ハウゼルだけでは無かった。
ゼス最強の魔法使い、アニス沢渡もまた魔軍たちの手が届かない上空を飛びながら強力な魔法を彼らに浴びせかけている。
時折、その魔法は友軍のハウゼルも巻き込んでいるが。
無敵結界によってハウゼルへのダメージは無いとはいえ、アイゼルが彼女も対ケイブリスの戦力として採用しなかった理由が分かる光景だった。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!」
「け、ケイブリス様ぁ!!」
「ケイブリス様は迷宮の中だ!!さっさと突っ込め!地下なら、あいつらも入って来ないはずだ!」
上空からの脅威に魔物兵たちは我先にと迷宮の入り口に殺到していく。
冷静に、腰を据えて攻略していくならばともかく、無秩序に投げ込んでくる味方に背中を押されるような状況では、迷宮の罠を突破できる可能性は著しく低いだろう。
「ハウゼル……!」
そんなある種の地獄絵図を描く者を、見上げる者が一人いた。
「サイゼル様、絶対の絶対に。絶対の絶対の絶対に、ここで手を出しちゃダメですからね!」
「わ、分かってるわよ!」
「ハウゼル様はともかく、あっちの魔法使いの攻撃はいつこっちにも飛んで来るか分からないんです。サイゼル様に放ってかれたら、ユキちゃん、死んじゃうかも」
「ちゅどーん!!メタルラインー!!」
「ほらね?」
魔人ハウゼルの姉、魔人サイゼル。
元ケイブリス派の魔人だったが、ゼス侵攻の失敗とカミーラの封印の失態により粛清されるのを恐れ、人間界に隠れ潜んでいた。
彼女の使徒、ユキは魔の者でありながら人間社会に精通し、彼女の隠遁をサポートしていたのだが、ふとしたことから人間界にハウゼルがいることを絶対命令権で白状させられてしまい、こうして主人をハウゼルのもとに案内させられてしまっていた。
すでに何体ものケイブリス派の魔人が討たれていることから、ユキは戦況はホーネット派に傾いていると考えていた。
ゆえにここでサイゼルにハウゼルに対して攻撃させるわけにはいかず、自身の命を盾にする形で主人の軽挙を防いでいた。
「うーん、流石にここで、戦争を終結させられちゃったら困るよなぁっと!!」
「うぐっ!!」
「ハウゼルっ!!」
サイゼルが何も出来ずにハウゼルの奮闘を眺めていると、地上から猛烈な勢いで黒い何かが放たれる。
それは過たずハウゼルに直撃し、無敵結界は発動せずにダメージを与える。
突然の負傷にハウゼルは力を失い、地面へと墜落していった。
「あ、あなたは……。何者、ですか……?」
「勇者ゲイマルク。おねーさんには死んでもらうよ」
「勇者……。代替わりしたことはアイゼルから聞いています。人間と魔人が相容れないことも分かっています。ですが!あと少しで、ケイブリスを討ち倒して、この戦争を終わらせられるのです!だから、あと少しだけ待ってください!!」
「ははっ、戦争を終わらせられたら困るんだって」
「どうして……」
ハウゼルの平和を求める決死の訴えを、ゲイマルクはただ嘲笑うだけだった。
人類の死によって解放される勇者の力。
それを自分から虐殺を行うことで、手に入れようとしている勇者がいる。
そう伝え聞いた以上の異常性に、ハウゼルは傷の痛みよりも強く混乱した。
ゲイマルクは、ハウゼルの腹に刺さった槍を引き抜き、ハウゼルにトドメを刺そうとする。
槍の穂先は、獲物を逃さないための工夫として返しが加工されていた。
それを無理やり引き抜くのは、それだけで拷問のような苦痛がハウゼルを襲った。
「クールゴーデス!!」
「姉さん!」
「やれやれ、ここで助けに入るなら最初から姉妹喧嘩なんてしなければいいのに」
それをサイゼルが、猛烈な冷気の放射をもって阻止した。
ゲイマルクの体が、一瞬のうちに氷像と化す。
背後からの予想だにしない一撃は、勇者をして躱すことが出来なった。
「魔物ども!ここに裏切り者の魔人がいるぞ!腹から血を流して、弱っているぞ!」
「な、なんで人間があの状態で喋れるのよ……!」
「は、ハウゼル様!に、逃げましょう!」
「あっ、火炎ちゃん」
全身が凍り付けになろうとも、死ぬことのない勇者はまず周囲の魔物兵たちを扇動した。
魔人の失墜。それを成したのが何なのかは分からなくとも、魔人の命が手の届く範囲に来たことは彼らにも理解できた。
近くの魔物兵はハウゼルに殺到し、遠くの魔物兵は上空のアニスを牽制する。
「うわわわっと!」
飛行というアドバンテージを失えば、圧倒的な数的不利を覆すことは不可能だ。
サイゼルたちは、重症を負ったハウゼルを庇いながら戦場から撤退せざるを得なかった。
◆ ◆ ◆
「ヒーリング!!うぉぉぉぉぉおおお!!」
「ちっ!しぶとい……」
完全に守りに入ったケイブリスを仕留めるのは、容易いことでは無かった。
僅かな傷でもすぐに回復させる。毒や呪いといった絡め手にも即座に対処してくる。
何よりその頑強な肉体は、生半可な攻撃ではほとんどダメージを与えられない。
彼はともかく、率いているマエリータ隊はかなり消耗させられているため、少しずつその守りを剥がせていっているが、こちらもまた消耗は小さく無かった。
「ケイブリス!!」
「なっ!カ、カ、カ、カミーラさん!!」
「貴様が暴れてくれたおかげで、封印に綻びが生まれた!感謝するぞ!」
「は、ははは!当然ですよ!!」
ゆえに切り札を切る。もう一度、その防御体勢を解き、そこに強烈な一撃を喰らわせる。
爆発を伴って迷宮の壁が破壊され、最下層で封印されているはずの魔人カミーラの姿が現れる。
「よくぞここまで来てくれた……。助けてくれ」
「うぉぉぉぉぉぉ!カミーラさーん!!」
「け、ケイブリス様!お待ちくだされ!!」
ストロガノフの制止も聞かず、ケイブリスがカミーラのもとに駆け出していく。
わたしはムシたちに指示を出してそれを妨害しようとするが、ケイブリスはそれをあっさりと蹴散らしていく。
白蛇の毒牙を突き立てられようと、黒植物の汁を浴びせかけられようと、その一切を無視して突き進んでいく。
「哀れですね、ケイブリス。せめて愛する者の姿で殺してあげましょう」
「か、ミー、ラさん?」
「今です!アイゼル様!!」
そうして自分のもとまで辿り着いたケイブリスの胸を、カミーラはその爪で貫いていた。
痛みと混乱でケイブリスの動きが完全に止まる。これこそがわたしの
「ブラックジェット解放。黒の炎、放射!!」
「ぐぎゃあああ!あ、あじぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!」
「ケイブリス様ぁぁぁぁぁ!!!」
もう一つの切り札、魔人ザビエルの代名詞ともいえる黒の炎が無防備になったケイブリスの肉体を焼いていく。
幸い、
その光景は、わたしからはケイブリスがカミーラをその身を呈して庇っているように見えた。
「てめぇ、ジークか……。そーか、そーか、そうだよな!カミーラさんがオレ様のこと刺す訳がねーもんな!」
「不覚……、避け損ねましたか」
黒の炎の照射が終わると同時に、ケイブリスを抑えつける役割を終えたジークは離脱する。
しかし、その際に縋り付くように振るわれたケイブリスの爪を受けて、彼の変身は解けてしまっていた。
ジークはオーロラの似姿から、使い慣れた長身のまねしたの姿に変身して、拳を構える。
格上の魔人四天王への変身によって消耗もあるようだが、それでもなおその戦意は衰えていない。
「がはっ!なんだ……、気持ち悪ぃ……」
「ケイブリス様っ!」
精神的ダメージと、ムシたちの毒によってケイブリスはかなり弱っている。
あそこまでの屈辱を味わわされておきながら、激憤ではなく呆然としている辺りにその消耗のほどが伺えた。
勝てる。ここでストロガノフが最後の手段に訴えたとしても、無敵結界を持つジークをあてがえば封殺出来る。
その間に全力でケイブリスを叩けば、ヤツの息の根を止められるはずだ。
「うーん、これってどういう状況なんだ?」
だが、そこに、迷宮の壁を引き裂いて勇者が姿を現した。
両の手にはそれぞれ悪魔の槍とエスクードソードを携えている。
どういう経緯があったのか、彼は魔物兵たちを引き連れていた。
「ケイブリス様!ここは一度お下がりを!マエリータ隊!我らで殿を務めるぞ!」
突然の闖入者に対して、最も早く反応したのはストロガノフだった。
彼は、自らの体に突き刺さっていた王剣フサフサ丸を引き抜く。
それは、彼が息絶えるまでの僅かな間、その最強の魔物と言われた力を再び振るわれることを意味していた。