ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「アイゼルゥゥゥゥ!!貴様、ここまでするか!ここまで、我が主を愚弄するか!!魔人としての誇りはないのか!!」
「ええ、もちろん。どんなことでもしますよ。それが魔人に相応しくないと言うのであればお笑い草ですね。騙し、呪い、傷つけ、嘲笑う。それこそが、魔王から我々に与えられたオーダーです」
まるで暴風のような剣だった。
どこまでも真っ直ぐな、ゆえに達人と分かる太刀筋。
一呼吸のうちにわたしの懐にまで踏み込んできて、振り下ろされた剣を猿の手でなんとか防ぐ。
「魔王の座に着くのは、我が主人、ケイブリス様だ!!」
ストロガノフはそう叫んだ。
同時に鍔迫り合いの状態から、素早く抜け出し、流れるように横薙ぎの一撃を放つ。
体勢を崩されたわたしは、その直撃をまともに受け、身体が後方へと思い切り吹き飛ばされる。
無敵結界が無ければ、この強化された肉体でも致命傷を負っていたと確信するほどの威力だった。
「へぇ、これならちょっと押し込めば殺れそうだな。魔人以外にもこんな強い奴がいるんだ」
「ぐはっ!アイゼル様……!」
ジークがゲイマルクの槍に刺されて重傷を負う。
カミーラへの変身に伴う負担もあいまって、もはや立ち上がることは難しいだろう。
ゲイマルクは、ジークにトドメを刺すよりもわたしを仕留めることを優先してか、ジークを捨て置いて吶喊する。
「させるかぁ!!」
「行かせはしないぞ」
「おおっと!」
ランスとアームズが立ち塞がるが、ゲイマルクはまるで軽業のように飛び跳ね、壁を走ってその脇をすり抜けていく。
「あんたら、好き勝手してるんじゃないわよ!局地地震!!」
「死爆!!」
志津香がストロガノフの足を止めようと迷宮を揺らし、ナギはゲイマルクを目掛けて爆破する。
しかし、ストロガノフは達人の足捌きで揺れを無視して駆け出し、ゲイマルクは防護系のマジックアイテムと勇者の肉体強度に任せて突破する。
「舐めるなぁ!!」
霊手を展開して薙ぎ払うも、ストロガノフにはその下を掻い潜られ、ゲイマルクにはエスクードソードで切り捨てられてしまう。
そしてゲイマルクは、剣を納刀し、槍を両手で構える。勇者の主力武器でなくとも、その学習能力によって習熟したのか、その穂先から逃れる術はないと思わされた。
「アイゼル様!ごめん!!」
「させません、火爆破」
ガーネットがわたしごと敵を吹き飛ばすためにダイナマイトを放り投げる。
しかしそれは学者が起こした魔法の爆風によって何処へと吹き飛ばされてしまった。
ダイナマイトへの着火を防ぐために、爆発そのものは及ばないように位置を調整した妙義だった。
「ふん!」
「へへっ!死ね!アイゼル!!」
最後の抵抗として、自分から槍の穂先へと飛び込んでいく。急所さえ外せば問題はない。むしろあの凶悪な返しのついた形状は、刺されれば容易くは抜けず、不意を付ければ槍を奪うことも出来るはず。
その目論見は、半歩分、ノックバックさせるように威力を調整したストロガノフの剣によって挫け、隙だらけの胴を晒す。
「いや、アイゼル様っ!!」
悲鳴を上げたのは誰だろうか。体内に生じた強烈な異物感。
女神ALICEとの邂逅で何度も味わい、その度に慣れることはないと確信した苦痛がわたしを襲った。
汚染された魂の回収を目的とする悪魔の槍である以上、魂の黒化による不死性も発揮されない。
わたしの死は、確定していた。
「く、う……。まだだ……!」
「悪足掻きだね」
「往生際が悪いな」
わたしの身体は大部分がムシだ。異次元の狭間で見出した成れの果て、それを練り上げたものに、神と悪魔のエッセンスを注ぎ込み、白蛇や黒植物を編み込んである。
つまりは、わたしの意思とは無関係に自立的に行動させることが可能だった。
魔血魂に転じる前に、肉体の制御を最後の命令に委任する。
支離滅裂な意識の影響か、わたしの肉体はナスの頭を持ち、尾に蛇を生やした四つ足の獣というよく分からないものになってゲイマルクとストロガノフに襲いかかった。
「ふう、ようやくくたばったか」
「ケイブリス様……」
獣は、一瞬のうちに仕留められていた。ゲイマルクは、わたしの魔血魂を見下ろして、勝ちを確信した顔をしていた。
「ふ、ふふふふふ!ふははははははははは!!」
「うぇっ!?」
「な、何だ!アイゼルは死んだはずだ!」
今のわたしは、幽霊となって意識を浮遊させていた。
魔人の幽霊。そんなものを成し遂げた要因は分からない。
魂を操る能力か、種々の呪法を織り込んだ肉体か、成し遂げるべき野望という現世への執着か。
そして、そんなことはどうでも良かった。
本来は無力な存在なのだろうが、そんなわたしにとって相性のいいものがすぐそこに存在している。
獣の亡骸から、細い蔓が伸びる。それはいくつもの葉を生い茂らせ、細長いきゅうりの実を成らせていく。
それは、すべてが漆黒なことを除けば、復活に相応しい、生命力に満ちた光景だった。
そして蔦が魔血魂を拾い上げると、それを取り込み、わたしは復活を果たしていた。
精霊馬という前世にあったものを思い出す。
祖先の霊を乗せるもので、きゅうりの馬で迎え、ナスの牛で送る。
それは見方を変えれば、ナスで魂が彼岸に渡るのを遅らせ、きゅうりで素早く魂を引き戻す反魂の法になるか。
無論、前世の習俗がこの世界で大きな力を及ぼすことはないだろうが、わたしにとって魂を扱うのに相応しいイメージではあったのだろう。
「不死身かよ……」
「ええい!今一度葬ってくれる!」
「くくく、これは、出来れば使いたくなかったのですが、こうなっては仕方ありません」
七つの指輪、ソロモクゼン。それとは別に、紫色の宝石を象嵌した指輪を、わたしは右手の中指に嵌めている。
ソロモクゼンで増幅した魔力をそれに注ぎ込むと、宝石に生々しい赤い瞳が生じた。
「レッドアイ」
「うへ、やばそう」
「レッドアイ様だと……!貴様、
それは凶暴なまでの力と破壊衝動を宿した宝石の魔人の名だった。
ケイブリス派の魔人であった彼だが、ストロガノフをして
いくら魔法の産物である宝石であるがゆえに、わたしと相性がいいとは言え、道具として作られながらもそれを拒絶し、逆に他者を道具とする在り方は、いくら何でも危険すぎる。
ゆえに使いたくはなかったのだが、一度死を迎えて失った力を補うためには手を出さざるを得なかった。
「モア、魔力! 邪魔なもの、すべてキル!……否ぁ!!!わたしは、すべてを支配する!!」
レッドアイの触手がわたしに入り込み、その行動原理が侵食する。
だが、わたしは自身とレッドアイの魂を全力で汚染し、自身の願いを守り通した。
レッドアイの視界が、わたしに共有される。
その目に映るわたしは赤と黒の血涙を流す、赤黒の虹彩異色の瞳を呈していた。
「潰れてしまえ……!!」
「いけない!迷宮展開!総員退避!!」
レッドアイの触腕がわたしの意のままに動き、迷宮そのものを侵食し、支配する。
魔力によって移動する性質を持つ迷宮の障壁を、ただの鈍器として運用する。
正方形のブロックを無秩序に押し固め、振り上げたそれは、巨人の腕のようだった。
その破壊力と範囲を悟ったアテンが、非常口を展開する。
ありがたい。それを見て、わたしは憂うことなくそれを振り下ろした。
「……先輩、技を借ります」
「これが我が最期となるか」
当然、ゲイマルクとストロガノフには逃げ場が存在しない。
ゆえに両者は、自身の必殺技をもってわたしを迎撃しようと両の手で剣を握りしめて構えた。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
「一式、ハヤブサ!!」
「風雲竜巻落とし!!」
ただひたすらに破壊衝動のみによって振るわれる暴力と、研ぎ澄まされた技巧を宿した力が激突する。
凄まじい轟音と共に、砕け散った迷宮が地に降り注ぎ、盛大な土煙がわたしたちの姿を覆い隠した。
強烈な虚脱感が襲いかかってくる。肉体には力が漲っているというのに、意識が伴わない感覚は、先程の幽霊の状態で肉体を操作したときのそれに近かった。
「ふう、危ないところだった。今なら殺れる!」
「ケイブリス様、どうか夢を……」
「分かりました」
「おい!何死んでるんだよ!」
この状態で、ゲイマルクとストロガノフの二人に畳み込まれれば危なかっただろう。
しかし、ストロガノフは先の一撃で力尽き、息絶えていた。
ストロガノフの戦闘力をあてにしていたゲイマルクの計算が狂う。
「ええい、とりあえずあの武器を……」
「させませんよ。これは彼の主人に託します」
「月は群雲で陰った」
「へへっ!殿は頼んだぜ!」
「クソッ!」
力を求めるゲイマルクは、ストロガノフの亡骸から王剣フサフサ丸を奪おうとする。
それを学者の魔法が阻止し、爆発で飛んでいった剣はマッスルの手に収まった。
ストロガノフの最期を見届けたマエリータ隊は、先に逃げ出したケイブリスを追うように退却して行った。
「ああもう、畜生!!」
置き去りにされたゲイマルクは、仕方なく剣を構えてわたしと対峙した。
◆ ◆ ◆
「クソクソクソ!なんでこうなった!!」
逃げ出したケイブリスは、立ち塞がる迷宮のセキュリティのすべて破壊しながら猛進していた。
自身の強力な肉体がもたらす破壊の手応えも、今は何の喜びももたらさない。
ただひたすらに今の状況の屈辱と恐怖に悶えるのみであった。
「アイゼルなんて、クソ雑魚だったはずだろ!弱っちい人間の魔人!虚勢を張って威張ることしかできない臆病者のカスだったはずだろうが!!」
アイゼルが魔人になったのは、魔王ジルの時代。
その時にはすでに強力な力を持っていたケイブリスにとって、アイゼルは歯牙にもかけない相手だったが、彼が魔王ジルに心底恐怖するただの人間と何ら変わらない存在であることは一目見れば明らかだった。
「魔王の気まぐれで魔人になった!雑魚の!ビビりの!カスが!!何でそんなの相手に、このオレ様が、逃げなきゃいけねぇんだよぉぉぉぉ!!」
強者に阿り、逃げ隠れして耐え忍ぶことはケイブリスの生涯においていくらでもあった。
むしろその忍耐力こそがケイブリスの人格を形作っている。
それなのに、今、目の前の現実に憤りを抑えられないのは、弱者だと見下していたアイゼルか相手だからか。
「出口だ!!」
ここに来てケイブリスは自身が次にどう動くかを定められていなかった。
傷を癒やし、再びアイゼルを倒してカミーラを救出しに向かうか、それとも魔物界にまで逃げ帰るか。
前者の選択肢は、当然ながら己の命を危険に晒す道だ。
後者の選択肢は、わずかながらに生き延びることは叶うが、結局は追い詰められ死に至る道だ。
第三の選択肢、アイゼルを相手に平伏して、命乞いをするというのは、そもそも浮かんですらいなかった。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。どうする。どうする、どうする、どうする!!」
「ケイブリス様、ストロガノフは討たれました」
皮肉にも迷宮の中にいたときよりもよほど酷く、ケイブリスの思考は迷走していた。
「この役立たずがぁ!!!クソクソクソ!どこだ!どこで間違えた!?」
彼が破壊した跡を通って、マエリータ隊たちが合流してもなお、ケイブリスの意識は内側に向いていた。
常に安全で、リスクの低い、確実な、正しい道だけを歩んできたはずの己の生涯のどこに誤りがあったのか思考を巡らせる。
それは、一種の現実逃避であり、猛烈な不眠症により夢を見ることのないケイブリスにとって不可欠なマインドセットでもあった。
「くくっ、世界を統べる魔王になろうという者と、世界を救う勇者になろうという者の両方が逃げを打つとは、笑えますね」
「く、ううう……」
アイゼルが投げ捨てたのはボロボロになったゲイマルクだった。
戦闘の途中で、セラクロラスの肉体の時間操作の効力が切れてしまった彼は、元の子供の姿に戻ってしまっていた。
勇者の不死性により、命こそ繋いでいるが、悪魔の槍も奪われた彼にもはや戦う術はなかった。
見知らぬガキのことなど、意識の俎上に上がることすらなく、ケイブリスはまるで走馬灯のように高速で自身の生涯を振り返っていた。
自身が生まれた魔王ククルククルの時代。絶対と信じていた主人を失って始まった魔王アベルの時代。無敵結界を授かり多くの死を遠ざけることが出来た魔王スラルの時代。見下していた人間に討たれてしまった魔王ナイチサの時代。何よりも恐ろしかった魔王ジルの時代。魔王の座を奪えることを知った魔王ガイの時代。
そして認め難い継承者、魔王リトルプリンセスの時代。
たらればを言うのならば、もっと早い段階でアイゼルを殺しておけば良かった。
そんな簡単な結論を、理解していながらも何故か納得できない。
アイゼルの存在に、思考を支配された彼は、自身を追ってきた彼を見やった。
(なんだ……。ぼろぼろじゃねーか……。だが、アレはレッドアイか?力欲しさに、あんなもんに手を出したっていうのか!?)
全身に、今なお血が止まらない傷を負っている。
それは外側から付けられたというよりも、内側から弾けたような様相で、その理由が右手に生えた触腕を持った赤い瞳であることに気づく。
その姿に、その執念に、猛烈な既視感を抱く。
それは死の脅威よりも強く、ケイブリスをその解明へと駆り立てる。
(なんだ……?なんなんだ!?誰に似てるっていうんだ!ガイか!?あの最低の魔王か!?)
赤と黒で左右に異なる瞳。剣と魔法を組み合わせた戦闘スタイル。そして人間に対してお優しい軟弱ぶりは、確かに魔王ガイを思い起こさせる。
だが同時に違うと感じる。その正体はなんなのか。
(こいつは!アイゼルは!この!ちっぽけで、臆病で、最弱の人間は!!身の程知らずにも、魔王の座を狙うバカは!!)
「ぐぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ!そうか!そうだもんな!!我慢して!我慢して!こつこつひたむきに頑張って!努力してる奴が一番つえーのは当たり前だもんな!!おい、認めてやるよ、アイゼル。だがなぁ!!俺様の方が!もっともっと!ずっとずっと!頑張って来たんだぁぁぁぁぁ!!!」
その答えは、自分自身だった。
◆ ◆ ◆
「おれは誰だ!?魔人筆頭ケイブリス!?違う!!!!魔物王ケイブリス!この世で最も強く……。──ククルククルすら越える男の名だぁぁぁぁ!」
その名乗りを聞いて、わたしはケイブリスが自身の原点に立ち返ったことを悟った。
こうならないように、卑劣な手を積み重ねてきたというのに、それらが水泡に帰してしまった。
最強の魔人ケイブリス。その力は驕りも恐れもなく振るわれたときにこそ真価を発揮する。
だが、わたしも負ける気は一切ない!
「猿の手に希う……!」
レッドアイの力によって強化された肉体に、さらに魔剣の力を積み増しする。
その力はケイブリスにも引けを取らなかった。
「おい!そいつを寄越せ!!」
「わ、分かった!!」
一旦退いたケイブリスは、マッスルから奪い取るように王剣フサフサ丸を受け取った。
最強の魔物、ストロガノフからその力を奪い続けた剣。
その力と何より、そこに宿った彼の願いこそが脅威となって襲いくる。
「ラーーンス、アターーック!!」
「ぐっ!い、ってぇ、なぁ!!」
「いけない!カオスから手を離せ!!」
ウスパーの斬撃を逸らし、サスパーの斬撃を受け止めたところで、王剣フサフサ丸の一撃が迫る。
それを止めるべくランスがカオスを叩きつけるが、ケイブリスはそれを避けるでもなく、剣で受けるでもなく、自身の腕を盾にして防ぐ。
手甲を砕き、体毛を掻き分けて、強靭な筋繊維を切り裂くが、太い頑強な骨を断つまでは至らない。
ケイブリスが腕に力を込めると、カオスの刀身が抜けなくなり、危うく隙を晒すところだったランスは柄から手を離して逃れる。
「くく、テメェも、こいつで魔王を殺すつもりだったんだよなぁ?だったら、こうしちまえば、そいつは無理だよな?」
「クソ!離しやがれ!!」
大剣ウスパー、大剣サスパー。そして王剣フサフサ丸に魔剣カオス。
四本の剣を携えたケイブリスは、阿修羅の如くそれらを構えた。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「援護します!!」
ケイブリスの周囲は、次の瞬間に命を落としてもおかしくない。
アームズは平然と踏み込んで槍を振るう。
ウルザの援護射撃も相まって、一撃目とニ撃目は躱すが、続く攻撃を捌き損ねて槍を弾かれる。
「ランス!これを!」
「アイゼル様!ありがとうございます!」
その間に、わたしはランスに肉体を変形させた剣を手渡す。
他にもいくつかの武器を生産し、猿の手の霊手に携える。
「やあぁぁぁぁぁっ!!」
「ふんっ!」
急拵えの剣でランスが切り掛かる。
魔剣カオスには当然劣るが、切れ味よりも強度を優先したそれはランスの技量もあってなんとか打ち合えている。
槍を無くしたアームズも、わたしが作り出した槍を拾い上げては投げつける牽制も効果を発揮していた。
「ストロガノフ。これが、あなたが忠を捧げた主人ですか」
「へへっ、あんたの気持ち。今なら分かるぜ!!」
「火爆破!!」
「月は群雲で陰った」
「やぁぁぁぁああああ!!」
ケイブリスの奮戦は、負傷の色濃いマエリータ隊にも戦意を再び燃え上がらせていた。
マッスルの小脇に抱えられ、高速で移動する学者の魔法が、志津香がケイブリスに攻撃できないように牽制し、剣豪は魔獣化の魔法で巨大な猿の手を展開したナギと対峙している。
「迷宮展開!敵を閉じ込めなさい!」
「光軍!敵を迎え撃て!!」
永久地下牢に突入した魔軍が、ケイブリスが破壊した跡を辿って脱出してくる。
アテンとアレックス率いる光軍が、それを撃退してケイブリスへの合流を防ぐ。
「紅色破壊光線!」
「藍色破壊光線!」
「……黄色破壊光線」
ガーネット、サファイア、トパーズは迷宮の外に待機していた魔軍を、ムシたちを前衛にして対処している。
アニスとハウゼルの一方的な空爆を受けてなお、その数は多い。
包囲されれば危険なため、その迎撃は必要だった。
「回復の晴天!!」
「ありがとうアイゼル様!まだまだぁぁぁぁ!!」
「ぐぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ!人間風情が、いくら元気になったって俺様には勝てねーぜ!!」
シィルの回復魔法を受けているが、ランスの疲労とダメージは色濃い。
他の面々も、長きに渡る戦闘でパフォーマンスが落ちている。
ゆえに法王の神魔法で一気に味方を回復させる。
消耗戦における敵の回復は、相手の士気を折る効果もあるが、ケイブリスの獰猛な笑い声に戦意の衰えはまるでなかった。
「ふははははははははは!!余が来てやったぞ!!」
「増援を!!」
「ええい!せっかくの余の厚意に対してぞんざいに応じおって!!」
上手く派遣していた戦線が片付いたのか、ミラクルが瞬間移動によって現れる。
彼女の魔力も強力な戦力だが、ここで求めるのはもっとケイブリスの暴威を食い止められる別の暴威。
その注文に、ミラクルは完璧に応えてくれた。
「……参る」
「こっちにご馳走あるから寝返るわ」
「雑魚魔人が!!何体集まろうと最強はこの俺様だ!!」
魔人カイトと魔人ガルティア。その存在だけで魔軍に対して牽制となっていた彼らだが、逆に言えば居るとだけ認識させられれば問題はない。
ゆえに瞬間移動で誰にも悟られずに連れて来ることが可能だった。
拠点がもぬけの殻であることが魔軍に割れる前に終わらせる。
「オラオラオラオラオラオラァァァ!!」
複数の魔人が囲もうとも、ケイブリスの猛威を止めるのは容易いことでは無かった。
大剣ウスパーがカイトのガードを力任せに崩し、大剣サスパーがガルティアを鋭い太刀筋で展開した糸の結界ごと切り捨てる。
そして王剣フサフサ丸の一撃が、霊手もろともわたしの体を袈裟に切り裂き、剣の特殊効果が浅い傷跡ながらも強い虚脱をもたらす。
「……スクレイルザン」
ケイブリスは空手の二本の腕を地に下ろして、カオスを水平に構えた。
四つ足の機動力をもってカオスを高速で振るい、我々をまとめて上下二つに両断するつもりだった。
その速さは躱せるものでなく、その剣の重さと切れ味は対魔人において絶対的なカオスのものだ。
詰まされて初めて気づく。わたしたちを一斉に始末することを、ケイブリスは最初から狙っていたことに。
「ランスアターーーック!!」
だがそこにランスが、ケイブリスが構えたカオスに一撃を叩き込む。
必殺技を放つための一呼吸の間、その一瞬の好機をランスは見逃さなかった。
「カオス!返してもらうぞ!!」
「ちぃ!!」
ランスの必殺技の衝撃と、カオスを奪うために負った手傷がケイブリスの握力を僅かに弱めた。
急拵えの剣は、靱性に特化した硬質樹脂のような特性を持っている。
打ち合ったカオスの切れ味によって、裂け目が生じても、それが切断にまでは至らない。
そして刃が食い込んだ剣をランスが思い切り捻って、ケイブリスの手からカオスを奪い取った。
二つの大剣、ウスパーとサスパーもカイトとガルティアが抑えている。
ケイブリスは、その二つも手放して王剣フサフサ丸でわたしだけでも仕留めようとする。
「クールゴーデス……!なんだか知らないけど、勇者に殺されかけた分はやり返させてもらうわ!」
そこに、突如として現れたサイゼルの魔法が炸裂した。
ケイブリスの体が、霜で覆われていく。
しかし、それすらケイブリスの闘志を冷ますことは出来なかった。
「アイゼル、まずはテメェだ!!」
「うぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
エナジードレインの性質を持つ王剣フサフサ丸の振り下ろしを猿の手で受け止める。
足元の地面が砕けるほどの重い一撃に、わたしの体は隙だらけになる。
当然、ケイブリスはそこを拳で殴りつける。
「ぐぁはぁはぁはぁはぁ!!剣なんざ、なんだっていいのさ!!俺様は超天才だからな!!」
ケイブリスはわたしの手から猿の手を奪い取った。
弱者であるわたしが、レッドアイを解禁する前からケイブリスと対抗出来ていた理由がそれにあると、ケイブリスは推測していた。
実際それは正解だったが、一つ、重大な見落としが存在している。
「ぐはぁ……!?な、なんだってんだこいつは……。ぐ、ぐ、ぐ、ちくしょうがぁぁぁぁぁ!!!」
元が魔人殺しを目的とした猿の手は、手に持った者の命を削る呪いが付与されている。
ケイブリスは血反吐を吐くが、それでもその苦痛の一切を無視して猿の手を大地に叩きつけた。
ただでさえ強力なケイブリスのパワーが更に強化され、ケイブリスを中心に衝撃波が地面を伝って拡散していく。
それによってわたしたちの体勢が崩れてしまい、呪いのダメージによって生じた隙を突くことに失敗する。
「黒色破壊光線……!!」
「バカが!俺様の方が早い!!」
だがわたしはとにかく距離を取るべく大きく飛んでいたことが幸いして、衝撃波を躱すことが出来ていた。
もう一つ背後に飛び、レッドアイの超抜の魔力を行使する。
わたしの詠唱よりも早く、ケイブリスの魔法は放たれていた。
早く、それでいてわたしの行動を頓挫させるには申し分のない威力。
「来い……!リズナ!!」
「はい!アイゼル様!」
「シャリエラ!!」
「うん、アイゼル様、頑張れ」
だが、わたしにはまだ奥の手があった。アイゼル城から控えていた戦力を呼び出す。
対ケイブリスにおいては、生半可な戦力は徒に犠牲者を増やすのみであったし、頭数だけならばゼス軍とムシたちで十分だった。
ゆえに、ここまで伏せ続けてきた、絶対魔法防御能力を持つリズナと他者に力を与えるシャリエラの舞は、ここに来て最大の効果を発揮した。
「喰らえぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!」
「ぐ、ぐぁ、ぐぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
リズナに直撃したケイブリスの魔法が霧散する。そしてシャリエラの奇跡の力の後押しを受けてわたしの魔法が発動する。
黒い魔力の奔流が、ケイブリスに直撃した。
初めて扱う高位階の魔法の反動に苦慮しながらも、一切緩めずに魔力の放出を続ける。
「ラスケンアロー!!」
「ランスアターーーック!!!」
魔法が終了すると、直撃を受けたはずのケイブリスはまだ生きていた。
同じくシャリエラからの力を受けたランスとアームズが放った追撃の必殺技を受けてなお、その眼にはまだ、猛烈な殺意と憎悪が宿っている。
全身を傷だらけにしながらも、わたしに向かってケイブリスは突進する。
一方のわたしもほとんど魔力は尽きかけていた。
ゆえに、肉体を変形させて手甲のように刃を展開する。
「アイゼルゥゥゥゥゥゥ!!」
「ケイブリスゥゥゥゥゥゥ!!!」
わたしたちはお互いの名を叫びながら、前へと突き進んだ。
もはやケイブリスの攻撃を迎撃する余力はない。ゆえにわたしは王剣フサフサ丸の一撃を、身を低くして躱して懐に入り込む。
だがケイブリスにはまだ猿の手がある。悪魔の剣が、わたしの心臓を貫こうと迫ってきていた。
もはや躱せない。ゆえに差し違える覚悟で更に前へと踏み込む。
「エンジェルカッター!!」
悪魔の剣を天使の名を冠した魔法が退けた。
リズナのさして強力でない魔法も、このギリギリの状況ではケイブリスの虚を突くのには十分だった。
わたしの右腕がケイブリスの胸を刺し貫く。
それが決着だった。もはやケイブリスには、恨み言を残す余裕すら無かったか、無言のまま彼は魔血魂へと成り果てた。