ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「アイゼルさん、本当にいいの?」
「ええ、あなたたちが、元の世界に帰るのに、魔王の力はあってはならないものです」
魔王リトルプリンセスから魔王の座を継承される時が来た。
場所は異空間、アイゼル城。わたしの支配する領域において、最大限の準備を整えた状態で、わたしは来水美樹と向かい合っていた。
この時においてのみ、この異空間へと通じる通路はすべて封鎖してある。
小川健太郎や聖刀日光も、これまで匿ってきたわたしへの恩義や美樹が限界を迎えているという事実から、反対する理由はない。
ゆえに、わたしが継承を受けることを阻害する要因は何もなかった。
「アイゼ、ル……。こちらを、見な、さい……」
そして、わたしの中に強力な力が、入り込んで来た。
暴れようとする膨大な力が魔力として、それを吸収する首飾りやイヤリング、額当てに流れ込む。
それらはまるでヒューズのように、一瞬のうちにすべて砕け散っていった。
「美樹ちゃん!」
「小川健太郎……。彼女を連れて、退室してください……」
「アイゼルさん……。頑張ってください!あと、ありがとうございました!!」
「ええ、任せてください」
わたしが魔王の力を受け止めきれなければ、排出された力は再び美樹のもとに帰還する。
そうなっては、何の意味も無かった。
わたしの欲望が一番の原動力だが、そこに僅かなりとも異世界の少年少女の幸を願う心を付け足して、苦痛に堪える。
「くっ!ぐううううう!!」
強大な魔力によって、自身の肉体が膨れ上がっていく。
肉体の体積に比例するように、苦痛が倍増していく。
「ヒーリング……!!」
血管が内側からの圧力に耐えきれずに破裂する。
まるで全身がひび割れていくかのように、身体中で小さな爆発が連発する。
そこから、魔王の力が漏れ出てしまうような感触を覚え、回復魔法で塞いでいく。
幸い、魔力は溢れるほどに全身に満ちている。意識さえ保つことが出来れば、回復魔法をかけ続けることは容易だった。
「ああ……ぁぁ……。あ〜!」
今度は神経が弾けたのか、舌が回らなくなって回復魔法を唱えられなくなる。
このようなこと想定していたので、あらかじめ皿に取り出して山積みにしておいた世色癌を頬張る。
舌が動かないので、飲み込むのに少し苦労したが、なんとか口内に激痛と血の味という感覚が戻る。
「アイゼル様、失礼します。これは……、全力で治療させていただきます」
肥大化した肉体を、黒化植物の形に整える。
そう狭くない部屋の中が、ジャングルと見紛うほどに生い茂る。
そうして、ようやく肉体の変形が穏やかになった。
もっと凶悪な変形も予想していたので、落ち着くまで待機させていたクルックーたち神魔法の使い手や、医療従事者、わたしの肉体の製造に携わった魔導技術者たちを呼び出す。
クルックーをして、部屋の中の惨状と立ち込める血の匂いに気圧されていたが、すぐに治療を始める。
「うっ、ぐっ!ぐはぁっ!!」
何度も何度も血反吐を吐く。魔王の力が僅かなりとも定着してくれたのか、回復魔法がなくとも傷はひとりでに再生してくれるようになった。
だが回復魔法は僅かなりとも痛みを和らげてくれるため、そのまま続けてもらう。
意識を保つため、様々な手段を投じていく。
不眠をもたらすような呪いも、リクチェルやパステルにかけてもらう。
呪いは存在の格が上昇するに連れて効かなくなっていったが、それまではどれほどの痛みが襲っても気絶を防いでくれた。
世色癌を口いっぱいに含むと、強烈な苦味が気付になってくれた。
なので様々な強烈な味を持つ食べ物をどんどん持ってきてもらう。
ヒラミレモンやハニ飯、中でも香姫の作った団子はよく効いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「新しい魔王が誕生しました」
「来年からIT一年となります。お間違えなきように」
「新しい魔王はアイゼル。新しい魔王はアイゼル。新しい魔王はアイゼル……」
黒いアコンカの花を部屋中に咲き乱れさせ、自分に都合の良い言葉を繰り返し唱えさせる。
単純な自己暗示だが、苦痛に支配された意識には簡単に染み通っていく。
そうとも。我は魔王。ゆえにこの程度の苦痛に耐えられないはずがない。
何より、この肉体には、本来魔王となるべきランスの血も混ざっている。
ゆえに、わたしが魔王になれないはずが無かった。
◆ ◆ ◆
「な……!魔人、アイゼル……!!」
「否、わたしは魔王アイゼル。その不敬、斬首に値する」
ヘルマンにて、魔物大将軍ルメイの首を切り落とした。
それでもまだ、息をしていることに、魔物大将軍の本体は球体の胴体の中にあるブレインだと言うことを思い出す。
我が意に従わない無能ぶりに僅かなりとも怒りを覚え、命尽きるまで消えない炎を与えた。
「あ、ありえん……!ケイブリス様の死は、アコンカの花の報せは、すべて貴様らの欺瞞情報だ!!」
「ああ、正気を無くしているのですか。哀れですね」
リーザスにて、魔物大将軍ヨシフの首をわたしは切り落とした。
残った本体には、力尽きるまで自軍の兵を粛清するように命を下した。
「あ、アイゼル様……。あなた様に献上する宝を用意してございます!」
「くくっ、元より人間界はわたしの庭。すべてわたしの財だと知らなかったのですか?」
自由都市地帯にて、魔物大将軍ピサロの首をわたしは切り落とした。
強欲な彼には、カネゴンの呪いと配下がGOLDに見える呪いを与えてやった。
「アイゼル様……、わ、わたしはただ、魔物と人間のあるべき秩序、ニィハオな世界を実現させるために……」
「ふふっ、あなたの理想はわたしが叶えて差し上げましょう。ですから悔いなく逝きなさい」
ゼスにて、魔物大将軍ツォトンの首をわたしは切り落とした。
彼の理想に、僅かなりとも共感することがあるのに自嘲し、笑わせてくれた礼に、痛みなく死なせてやることにした。
理想のためなら痛みを感じないようにしてやると、わたしの理想を叶えるための闘士として動くように命じた。
こうして新たに習得したゲートコネクトの魔法を使い、次々と魔軍の各侵攻軍の本陣を訪れたわたしは、魔物大将軍たちの首を蒐集した。
その後、魔軍は大混乱に陥いることになる。
ルメイは苦痛のあまりに暴れ回り、自陣の燃料やら何やらに延焼させ、発生した大火事に多くの魔物兵を巻き添えにした。
ヨシフは魔物将軍を呼び集めて一斉に粛清しようとしたが、殺しきれずに戦闘になり、重傷を負いながらも魔物将軍を全滅させたあと、更なる殺戮をしようとして魔物隊長に殺された。
ピサロは兵を次から次へと殺すも、頭を失った状態では口にすることが出来ず、血だけを啜りながら殺戮と捕食を続け、消耗の果てに餓死した。
ツォトンは、多くの魔物将軍を殺し、いくつもの街や村を解放する英雄的な活躍をした。
その過程で多くの傷を負い、最後は助けたはずの人間に殺された。
それぞれの末路は、後にわたしの一時の興を満たすのだった。
◆ ◆ ◆
ゆったりと進むうし車に乗って魔物界を行く。
ここはケイブリス派の領土であり、今も多くの魔軍が布陣している。
だが一切の襲撃を受けることはない。
うし車に魔物大将軍たちの首を飾り付けていることが、このうし車に手出ししてはならないことを魔物たちに思い知らせているからだった。
窓の外に視線を向ければ、魔物兵たちが地面に頭を擦り付けて跪いている。
魔物界を、本当の意味で何に憚ることなく自由に移動出来る。
その感慨は一入だったが、それを堪能しきるよりも早く、目的地に辿りついてしまった。
魔物界において珍しく、陰惨さよりも静謐さを感じさせる佇まい。
ケイブリス派の最後の魔人、ケッセルリンクの居城だった。
「ようこそおいでくださいました。魔王様。主人も、お待ち申し上げております」
わたしの来訪に応じて、城の門はひとりでに開いた。
ケッセルリンクの使徒であるメイドたちが、わたしを出迎えてくれた。
最古参のメイド、シャロンが代表して歓迎の挨拶をした。
魔王を前にして、その立ち振る舞いには一部の隙がない。
「こんなの、平気なんだから」
「これも、ケッセルリンクのため……」
だが、常の振る舞いが出来ているのは彼女だけだった。
他のメイドたち、特に幼いアルカリアやリリムはその身を震わせていた。
「ふふっ、本当にするとは。あなたたちの主人への忠愛に、感服します」
「ありがとうございます。わたしたちが今、こうしていられるのはケッセルリンク様のおかげですから。その恩に報いるためには、どんなことも出来ます」
シャロンたちは、ヘッドドレスや衛生帽のみを身につけて他には何も着ていない裸体を晒していた。
女性器を隠さないように、へその下あたりで手を重ねているメイドたちだったが、その顔を羞恥に彩りながらも屈辱や憎悪を感じている様子は無かった。
それはわたしが彼女たちの認識を操作したがゆえだった。
血を混ぜ込んだインクを使った書状で、遠隔でも洗脳の効果を発揮する。
彼女たちは本気で主人のために身を捧げながらも、それを強いたわたしへの悪感情を抱けなくされていた。
「アイゼルか……。ケイブリスについていた以上、わたしについては何の申し開きのしようがないことは理解している。だが、この身と引き換えに使徒たちは許してやって欲しい」
「ええ。このような麗しい主従の愛、引き裂くような真似は無粋極まりません。わたしは美しいものを愛しています」
全裸のメイドたちを引き連れて城を進むと、ケッセルリンクがまるで刑を待つ罪人のように跪いていた。
いいや、実際に罪人そのものか。【男はわたしのものである女の裸体を見てはならない】という常識に従って、目隠しをしているのが可笑しかった。
「ではケッセルリンク、暫し、死の淵で眠りなさい」
「いやっ!ケッセルリンク様ぁぁぁぁ!!!」
「ファーレン、魔王様の御前ですよ」
「シャロンさん!皆さんもおかしいです!なんでケッセルリンク様が、目の前で切られて平気でいられるんですか!!」
一太刀で首を切り落とすと、ケッセルリンクは魔血魂となって転がった。
その光景を目の前にして、耐えきれなくなったようにファーレンは悲鳴をあげた。
「ファーレン。アイゼル様はわたしたちの身と引き換えにケッセルリンク様の復活を約束してくださいました。あなたもそれに納得しましたよね?」
「ケッセルリンク様はアイゼル様に敵対してしまわれたから、その罪を償わなくてはならないの」
洗脳の効力は、目の前でケッセルリンクを殺害してなお、一切揺るがないほどの強度を持っていた。
年長のパレロアとエルシールに咎められ、ファーレンは混乱と恐怖のあまり涙すら浮かべていた。
「ああ、ファーレンはまだ人間でしたか。今回の認識改変は、魔人と使徒と魔物が対象でしたから、そこから漏れてしまいましたか。これはわたしの落ち度、謝罪します」
魔王の血と絶対命令権を使ったこの手法は、魔に連なるものにしか効果を発揮しない。
なので、改めてファーレンに対して他のメイド同様に洗脳を施す。
「い、いえっ!わたしこそ、すみませんでした!アイゼル様はケッセルリンク様を復活させてくださるというのに、失礼なことをしてしまって!」
ケッセルリンクの殺害や自分たちに向けられた下卑た欲望、それらに対する反感をすべて奪われたファーレンは、主人の復活を許可してくれるという恩義によってわたしに感謝と好感を持ち、顔を赤くして謝罪した。
マイナスを打ち消し、プラスを残す。他者の感情を足し算と引き算で操作してもたらされた結果に、わたしは笑みを深めた。
◆ ◆ ◆
魔物界の北側、かつての魔王ガイの城があった場所を訪れる。
こちらでもまた、魔物たちがわたしに対して跪いていたが、そこには恐怖よりも歓喜の念が伺えた。
それもそうだろう。ホーネットに従ってきた彼らは勝者の側についたと言えるのだから。
「アイゼル様っ!」
「くすっ、ケイコ。ホーネット様は?」
「中でお待ちしております」
こちらでもわたしは、裸体を晒す使徒に歓迎された。
朱鷺色の髪をした少女ケイコは、魔人であるわたしより格下の使徒ではあるが、同じホーネットの配下であり、同僚のような関係だった。
無論、これまでも彼女は魔人に対する敬意を持って礼儀正しくわたしに相対して来ていたが、それが狂信的な崇拝に塗り潰されている様は、わたしにある種の感慨を抱かせた。
「……魔王様。リトルプリンセス様、いえ、これは違いますね。美樹様はどうなされましたか?」
「ああ、小川健太郎共々、魔王の呪縛から解放されましたよ。ホーネット様」
「そうですか……。それは良かったです。しかし、畏れながら魔王様。わたしに敬称を用いるのはおやめ下さい。魔王と魔人の上下の別が疎かになってしまいます」
ホーネットの言葉に嘲りの籠った笑みが溢れてしまった。
それもそうだろう。ケイコたち、ホーネットの女使徒たちに案内されたかつての玉座の間で、ホーネットは一糸纏わぬ姿で平伏していたのだ。
そんな状態では、上下の別などこれ以上にないほど明瞭だった。
「ああ、申し訳ない。どうしてもあなたの配下であったときの癖が抜けなくていけません」
「謝罪も、おやめ下さい」
「くくっ、その通りです。そうだ、ホーネット。わたしの誤りはあなたの責任でもありませんか?あなたが、わたしに対して明瞭な誓いを立てるべきです」
「かしこまりました」
わたしの難癖のような叱責に対してホーネットは何ら反論することが無かった。
暫しの沈黙が訪れる。ホーネットがその明晰な頭脳と思考が、謝罪と忠誠の言葉を紡ぐために費やされていると思うとそれだけで期待と興奮で胸が高鳴った。
「魔王様に対して、偉そうな振る舞いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした……。そもそも、わたしのような若輩が、貴方様に対して上に立っていたことが大いなる誤りでございます。これよりは心を入れ替え、魔王様を第一としてわきまえ、考え、仕えたく存じ上げます」
「アイゼル様、我ら使徒一同、これからはホーネット様共々、アイゼル様にお仕えさせてくださいっ!」
ホーネットのどこまでも自身を卑下した忠誠の言葉に、ケイコたち使徒が続いた。
彼女たちに施した洗脳は、わたしの存在をすべてにおいて上回る場所に位置付けさせるというもの。
ホーネットの中では魔王ガイよりもわたしが上位にあり、ケイコたちの中ではホーネットよりもわたしが上位にある。
元より仕えるもの、絶対の忠誠心を有するものであるからこそ実現した目の前の光景に、わたしは深く支配欲を満たされるのだった。
◆ ◆ ◆
「アイゼル様、即位おめでとう!」
「めでたくないわよ!法王が魔王だなんて、もう滅茶苦茶よ!」
「そうですね……。アイゼル様は、戦争を終わらせるために、魔王になられた。そのことが分かって貰えればいいのですが」
リアがわたしに抱きつきながら能天気に喜ぶと、マジックがそれに対して怒り出し、シーラがそれについて少しズレた反応を示す。
そんなかけ合いに、微笑ましくなる。
「法王と魔王の兼任は無理なのは当然ですが、本当にわたしを後任の法王にするのですか?」
クルックーは常の無表情に、僅かに責任の重さに悩む気配を浮かべていた。
何も言わずに頭を撫でてやると安堵したように目を細めた。
「我らJAPANの民は、アイゼル様が魔王であろうと従うつもりだ」
「とはいえ、それをあからさまにしてしまっては他国との軋轢が生まれるでしょうね。下手をすれば戦になるやも」
謙信は帝として、力強く断言するが、香姫は申し訳なさそうに為政者として考えを口にした。
「貴様は、我らカラーの後ろ盾なのじゃ!だというのに貴様のせいで人間共に戦争を起こされては困るぞ!」
そんなやりとりにパステルは興奮した様子でわたしに詰め寄って来た。
リーザス、ゼス、ヘルマン、AL教、JAPAN、カラー。
国や宗教、種族の長たちは、魔王城となった我が城の玉座の間に集っていた。
「うーん、なんとかなるんじゃないかな」
「そうですよね、ランス様」
当然、ランスとシィルの姿もあり、心底嬉しそうな、楽しそうな笑みを浮かべている。
それもそうだろう。長く苦しい戦いが終わったのだ。そして、これから始まる
人間界の美姫たちを侍らせるわたしの前には、女魔人たちが平伏していた。
ケイブリス派とホーネット派の区別なく、ハウゼルやサイゼルが隣り合い、ホーネットを忌み嫌っていたはずのカミーラまでもが同じ空間に滞在している。
彼女以外にも強力な魔人、聖獣の力を宿す風華に四天王であるシルキィや復活を遂げたケッセルリンク、そして、かつてのわたしの主人であったはずのホーネットまでもわたしに対して忠誠を示している。
頭を床に擦り付けんばかりに下げて沈黙する魔人たちと、わたしのもとに侍り歓談を繰り広げる人間たち。
それはある意味で、魔人と人間に上下の区別を付けているようであったかもしれない。
だがわたしにとって、両者はわたしが従えるものとして何ら違うものでは無かった。
跪いてわたしを崇める魔人たちも、
「くく、くくく、くははははははは!!GAMEOVER……。人間界も、魔物界も……、世界は、わたしのものだ……!ははははははははははははははは!!」
タイトル回収
ついにここまで来たかと思うと感慨深いですね
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