ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「ねぇ、お父様。魔想の娘を養女として迎え入れるって本当?」
「ああ、彼女はアスマーゼの生き写しだ」
狂気の魔法使い、チェネザリ・ド・ラガール。彼の強い魔法使いならば何をしてもいいという傲慢な思想はある意味ゼスの魔法使いの典型といえる。
父と母を殺された娘を養女として迎え入れようという発想は常人には理解しがたい。
「お父様」
「なんだ?——ぐはっ。ナギ……。なんのつもりだ!?」
「お父様の娘はわたしだけでいいのよ……。魔想の娘……。わたしからお父様を奪おうとするなんて許せない。殺してやるわ」
「や、やめろナギ!それは許さん!」
そんな彼に育てられた彼の娘、ナギ・ス・ラガールが歪んでしまったのも無理もないことだろう。
親から受け継いだ魔法使いとしての強さこそすべてという思想のもと自身の欲望を叶えようとする。
「くすっ、見ていてくださいね。お父様。きっとわたしがお姉様を殺すところを見れば分かっていただけるはずです。わたしの方がお父様の娘に相応しいって」
「やめろと言っている!ナギを止めろ!ジェイコプス!!」
「あいよ旦那。くくく、そういうわけで嬢ちゃんストップだ」
自らの悪意を、思想を、攻撃性を、余すことなく受け継いだ娘によって自由を奪われ挙げ句の果てに殺される。そんな文字通りの身から出た錆の帰結。
だがこの世界では違った。
「お父様!?何よこれ……!?」
「第四階級魔神ジェイコプス……。志津香に執着しているという魔人を殺すために呼び出した悪魔だ……。どんな願いでも三つ叶えてくれるという触れ込みだが、無駄に消費させおって!!」
ラガールは狂ってはいるが強さを求めることには真摯だった。強さに執着するが故に敵のそれを測り違える愚は犯さない。
魔人が持つとされる無敵結界、その対処法を導き出していた。
「このっ!このっ!わたしに逆らうとは再教育が必要だな!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!お父様!……これも魔想の娘のせいよ!絶対に殺してやるわ……」
「まだ言うか!お前にはどうやらもっと徹底的な改造が必要なようだな!ちょうどいい機会だ。パパイアのところで改造を受けさせてやる……。二度とわたしに逆らえないように——」
ナギの魔法によって体に空いた大穴から細長い毛むくじゃらの腕を生やしたラガールはその腕でナギを痛めつける。
だが普段から虐待を受けていたナギの憎悪がその程度の痛みで消えるはずがない。
その苦痛も魔想志津香に転嫁してふつふつと呪いの言葉を吐き出す。
「あいよ嬢ちゃん。その願い叶えてやろう」
「あががががっ!!がっ!ぐぇっ!」
それを悪魔が聞き届けた。
長短太細の腕がいくつも現れラガールの全身にまとわりつく。頭蓋を、鼻を、耳を髪を肩を、肋を、腰を、腕を、手を、腿を膝関節を、肉が潰れ、骨が砕けるほど強く獣の膂力で握りしめ大穴から悪魔の本体を無理矢理広げて引き摺り出そうとする。
現れたのは多腕の手長猿のような異形だった。
悪魔は今度はナギに取り憑く。悪魔に憑依されたナギの右腕は太く長い、パワーゴリラのような腕に変わっていた。
「ははっ、嬢ちゃんの方が悪魔憑きの素質があったみたいだな!いいやこれは獣憑きか?まあどっちでもいいさ!さあ魔想の嬢ちゃんとやらを殺しに行こうぜ!」
「待ちなさい。このままではお父様が死んでしまうわ。ちゃんとお体を安全な場所に移さなくては」
「おっと、そうだったな!なんせお父様には嬢ちゃんが魔想の嬢ちゃんをぶっ殺すところを見てもらわなきゃならないもんな!」
「ええ、待っていてくださいね。お父様」
「……アスマーゼ」
一人二役のようにナギの口から悪魔の声が発せられる。ナギは異形となった腕に頓着することなく、丁寧に抜け殻のようになったラガールの体を保存水槽に入れた。
悪魔に身を蹂躙されたラガールの口は掠れた声で執着した女の名を呟いていた。
第四階級魔神ジェイコプス。強欲で面倒くさがり屋の彼は一度の顕現で複数人の魂を狙う。
先着順で誰の願いでも叶えてしまうのだ。
例えば誰かへの殺害を願えば契約者の体に取り憑くそれを叶えようとするが、その殺害されようとしている対象が契約者の死を望めばあっさりと鞍替えしその願いを叶える。
そして最後に新しい契約者を殺してしまえば二人の願いを叶えたことになり二人の魂を自分のものにすることができる。
この共倒れを防ぐために出来るのは願いの取り消しを願うことぐらいだろうか。もっとも彼はその願いを取り消しを願ったものの体に取り憑き更なる願いを言わせてその魂を奪おうとするのだが。
彼はそんなザカリテとは違った形で人間を弄ぶ悪魔だった。
◆ ◆ ◆
「白色破壊光線!!」
「デビルビーム!!」
使徒の姿となった志津香の魔法と異形の腕を持つナギの魔法が衝突した。
誤算だった。魔想惣造よりも自分のアスマーゼの相手として優れているという証明のために娘であるナギに志津香を殺させようとしたラガールの狂気。
そのラガールはナギによって身動きの取れない体にされていた。
ここまでは原作の通りだ。だが、ラガールはどこからかわたしの存在に察知していたらしい。彼らしい自分のものだと思い込んだものに手出しするものへの憎悪から彼は悪魔を呼び出すに至った。
神によって与えられた無敵結界は神と神と同じ起源を持つ悪魔には通用しない。悪魔のものと化したナギの右腕はわたしを殺すだけの力を秘めていた。
わたしの予定では使徒化した志津香をナギにぶつけて打破させる予定だった。そしてゆくゆくは彼女もわたしの使徒に。
使徒姉妹との逢瀬を楽しみにしていたのだがとんだ計算違いだった。
「喰らいなさい!!」
「バリアー!!」
悪魔と同化したナギの戦闘スタイルはいくつもの右腕に違う武器を持ち、空の腕と左腕で魔法を行使するものだった。
獣の膂力で振り回される武器。剣、ハンマー、槍、盾、そしてハニー……。
詠唱の隙が大きい強烈な魔法は武器の攻撃で潰され、またはハニーの特性によって防がれしまう。
ハニワを割ろうにも他の腕が巧みに庇い、あるいはジャグリングのように他の腕に投げられ攻撃を躱してしまう。
そのせいで闘神都市で手に入れた魔法レベル3の強力な魔力も決定打にはならないでいた。
詠唱の短い、使い慣れた魔法で攻撃しようにもラガールの虐待に近い修行と改造と悪魔の力によって強化されたナギの魔法も強力で相殺されてしまう。
グリーン隊の他のメンバーやガーネットたちは日曜の塔のマナバッテリーや闘神都市の遺物の確保に向かわせているのだが、この強烈な攻撃の前には志津香とわたしだけで来ていて正解だったかもしれない。
「はっはー!どうだいお二人さん!こんなピンチに悪魔の力は欲しくないかい!今なら先着でプレゼントー!!」
「耳を貸してはいけませんよ」
「分かってるわよ!!むかつく悪魔ね……」
悪魔の戯言を無視して剣の一撃を防ぎ、槍を躱す。そのまま魔法を放つも悪魔の腕に防がれてしまった。
「いやぁ残念だ!魔想の嬢ちゃんも魔人の旦那も結構黒い魂してるのによぉ!特に魔人の旦那、だいたい五割くらいか?いや……これは白い魂と黒い魂がガッチャンコしてるのか?おもしれー!なんか規格が違うな!もしかしてこれは異世界の魂!?初めて見た!!」
だが続けて放たれた悪魔の言葉はわたしにとって無視できるものではなかった。転生か、憑依か、わたしの異世界の場合はどちらなのか考えたことはあったがどちらであっても大した違いはないと放置していた。
複数の魂を持つ、それは今においては神や悪魔にしか許されていない特権。勇者すらも死を肩代わりする魂を用意するという形で不死性を実現している。
無論二つ程度なら大して意味はないのだが、片方の魂が黒いというのならばそれは大きな意味を持つ。
汚染率100%の魂、いわゆる完全汚染魂は神々には見ることが出来ない、よって魂が天界へと還ることも出来ずにいわゆる不死となる。
ならば——。
わたしの魔人としての特殊能力である洗脳。ネクロマンサーに類する魔法によって産まれた闘将にも通用した時点で脳ではなく魂を操作するものだとはあたりがついていた。
原作でも魔血魂の状態で幽霊と化していたというエピソードもある。
だとすれば魂の形態をいじることも出来るはずだ。
「特攻!?ふふっ、いいわ串刺しになりなさい!」
「アイゼル!?」
無数の武器がわたしに殺到する。剣が胸を突き刺し、槍が腹を貫き、ハンマーが頭蓋を砕き、盾が脚を押し潰す。
間違いなく致命傷。だがわたしの意識は途切れることはなく剣を一閃し腕を切り裂いて武器を奪うことに成功する。
「今です!」
「……ええ!」
志津香は一瞬驚愕に身を膠着させるも、わたしの言葉を聞き届けて強力な魔法の詠唱を始める。
同時に巨大な宝石が動き回りナギの最後の盾となるハニーを砕く。
「な、なんで死なないの!?なんで!?なんで!?」
「黒色破壊光線!!」
ナギは不死身の異常に狂乱し何度も拳をわたしに振り下ろす。剛腕の一撃に肉が潰れ、骨が砕ける音がするがそのお陰で詠唱の時間を稼げた。
レベル3魔法、黒色破壊光線がナギの身に炸裂した。
「ふう、危ないところでしたね。ああナギも気絶しているだけで命に別条はないようです。腕が盾になったのでしょうか。それとも手心を?」
「どうでもいいでしょう、それよりあんたどうして生きてるのよ」
「げほっ、ええまあ、生きているより死んでいないだけと言いますか……。とりあえず止血を済ませましょう。ヒーリング」
「へぇ、黒い魂で白い魂を覆い隠したのか。器用なマネをするねぇ。それにしてもその魂、異世界のものな上に真っ黒とは、なかなかないまさに逸品だねぇ!よだれが止まらないぜ!」
気絶したナギの口を借りて悪魔の声が発せられる。志津香が杖を向けると悪魔は両手をあげて降参の意を示した。
「ひひひっ、もう戦うつもりはねぇよ。この嬢ちゃんとの契約は魔想の嬢ちゃんを殺させてやるってことだからな。殺すって言っているところにつけ込んだから嬢ちゃんの意識がない今殺るわけにはいかねぇのさ」
「思った以上に悪質な悪魔ですね……。志津香、口を開いてはいけませんよ。この悪魔に消えろだの死ねだのと言った途端にそれが契約の文言と取られるおそれがあります」
「……そうね」
危険な悪魔だった。悪魔の契約は彼らを縛りつける鎖であると同時に人間の魂を汚染するための手段でもある。恐らく憑依するという性質が魂の汚染を助長することで奔放な契約を可能にしているのだろう。
どんな形であれ契約を成立させてしまえばあとは憑依して魂を汚染して魂を持っていく。階級以上の脅威を感じさせた。
なんにせよこのままではナギの魂を奪われてしまう。魂が黒く染まり切ってしまえば正気も失われるだろう。そうならば志津香と彼女が和解する可能性もなくなる。
「悪魔よ。わたしにナギを犯させなさい」
「アイゼル!!」
「ひっひー、あいよー!超レアの魔人の魂ゲーット!!ってあれ?取り憑けねえ?」
「あなたは黒い魂に取り憑くのでしょう?だったら白い魂で黒い魂を隠してしまえばどうにもならないのが道理。ひとまず玄武城の地下にでも放り込んでおきましょう」
ナギの体から悪魔が抜け出てわたしに向かってくる。だが無数の腕の、もっとも長い腕の指先が触れた瞬間、何かに阻まれたように悪魔の体が弾かれる。
理屈を説明すると異界への扉を開き、悪魔の体を放り込む。
魂を持たないムシの暗黒ヒマワリの群生地。悪魔を閉じ込めるにはちょうどいい。
「さてと、終わらせましょうか。ナギ、起きなさい」
「うう……」
「よく見ていなさいね。Fレーザー」
わたしの放った熱線が水槽内の保存液を蒸発させ、中身のラガールの体を焼却する。
水槽が破裂する。わたしの身は無敵結界で守られたが、至近距離にいたナギの顔をガラスの一部が傷つけた。
「あなたの父親はわたし、魔人アイゼルが殺しました」
「ああ……、ああ!!お父様!お父様!」
「ひとまずいまは眠りなさい。スリープ」
狂乱するナギを眠らせる。夢を見ないで済むように強く、深く魔法を発動させる。どうせ今は悪夢しか見ないだろうから。
ようやく安らかな顔を見せた少女の顔を撫でると回復魔法をかけてやった。
「アイゼル……!あんた……!」
「ああ、このまま彼女を犯したら悪魔との契約が成立してしまいますね……。本当の願望でなくては悪魔はやってこなかったでしょうから仕方ありませんがなんとも口惜しい……」
「聞いているの!アイゼル!」
「どうかしましたか?両親の仇を前に魔力を使い果たしてしまった魔想志津香さん?」
わたしへの怒りと自分への怒りが半々に入り混じった強烈な表情。ただこれも一時のものだろう。彼女は誰かのために人を憎めても、自分のために怒りを持続させられるたちではない。
「ラガールは死んだのね……。もっと思い知らせてやりたかったわ」
「確かに、彼の前でアスマーゼの生き写しのあなたを犯してやったらさぞや痛快だったでしょうね」
「……そんなのごめんだわ」
彼女はそう吐き捨てた。
人生の目標を失った弱々しい言葉だった。
「ねえ、志津香。ナギはこれで愛する父親を亡くしました。母親はすでに亡く、これであなたもいなくなってしまったら本当に孤独になってしまいますね」
「……わたしに生きろっていうの?あの子の復讐の標的として?」
「ええ、あの子の父親を殺したのはわたしですが、彼女はあなたに執着することでしょうね」
「……仕方ないわね。また力を寄越しなさい。アイゼル。あの子に殺されないでやるために」
「はい、かしこまりました」
ラガールの狂気はなかなか書いてて楽しいですね
そして初のオリキャラです
悪魔とかの設定はやっぱり中二心がくすぐられます
あと初の転生チート無双
白い魂と黒い魂が両方そなわり最強に見える