※この作品はR-18です。

ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜   作:斧池 数馬

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vsジーク

「きけけけけけけーっ!!」

 

「バイラウェイ!!」

 

 避難民たちを追いかけてきた魔軍たちをゼス・リーザスの連合軍が蹴散らしていく。

 中央の戦線はアイゼルによって洗脳され戦力として運用された罪人たちや赤の軍が押し込んでいく。

 血塗れ天使とリーザスの赤い死神、二人は血に塗れて笑い、戦場に死体の山を築く。

 その姿は魔軍に恐怖すら与えていた。

 

「ハーニホー!」

 

「……氷雪吹雪」

 

「火爆破!」

 

 左翼はハニーたちと炎軍、氷軍の魔法使いが突出した中央の側面を守る。

 魔軍に降り注ぐ魔法攻撃の雨。ハニーには魔法は効果がないため平然と巻き込むように放たれる攻撃は容赦なく魔軍を吹き飛ばし動きを止めていく。

 

「ゼットン!」

 

「白色破壊光線!」

 

「雷神雷光!」

 

「黒色破壊光線!!」

 

 右翼は前衛すら必要なかった。光軍、雷軍に加えてガンジー王やマジック王女、宝石三使徒、レベル3魔法使いの魔想志津香やアニスまで加わった圧倒的な火力は敵に近寄ることすら許さない。

 ゼス軍に非魔法使いは必要なし。差別的で愚かなゼスの高官が考えるような非現実的な戦略が圧倒的な魔力によって実現していた。

 一応ペンタゴンやウォールガイなどが前衛を務めていたがもっぱらの仕事はハニーの退治だけだった。

 

「このっ!なんであんたがここにいるのよ!」

 

「お久しぶりです。サイゼル、良ければホーネット派に戻りませんか?ハウゼルもあなたを心配していましたよ」

 

「誰がっ!!」

 

 この魔軍に同行していた魔人サイゼルも魔人アイゼルによって抑えられていた。

 サイゼルの飛行能力というアドバンテージは放射線を描いて放たれる攻撃魔法の雨霰で削がれている。

 無敵結界によってダメージはなくとも体勢が崩れ回避機動が滞れば同じ魔人からの本命の魔法が突き刺さる。

 一方でサイゼルの攻撃は魔軍に切り込んだアイゼルが魔物兵を盾にすることで防がれている。

 幾度も魔力が爆ぜる戦場においては凍結光線によって気温が下がることもない。

 

「ええいっ!魔物将軍もっと前に!!援護射撃を黙らせなさい!!」

 

「はっ」

 

「ふむ、そろそろ頃合いでしょうか。ハニー部隊を下がらせなさい」

 

 埒をあけるべく温存されていた兵力が前に出る。魔素漢含む魔法部隊による一斉攻撃を防ぐべくハニーたちが下がる。

 それを見て勢いづく魔軍は同時に動き出したリーザス赤軍によって横から食いつかれた。

 ハニーたちと魔軍が赤軍によって分断される。

 

 空いたスペースに突撃してきた魔軍は右翼の魔法使いが迎撃する。

 いくらゼスの総力を結集した大火力とはいえ増援も加わった突撃を止めることは出来ない。

 ペンタゴン率いる二級市民たちが交戦を覚悟した瞬間、それは起動した。

 

「な、何よこれ!?」

 

「魔物破壊爆弾、ええある魔法使いが偶然作り上げた魔物のみを殺す爆弾です」

 

 狂気に触れた魔法使いパパイアが作り出した魔物破壊爆弾。その爆発によって魔軍の大部分が消滅した。

 連合軍の動きに合わせて戦力を追加投入していた分被害は大きい。

 

「あちゃー、流石にこれは不味いっすね。サイゼル様、逃げましょう」

 

「わたしはまだ負けてない!!」

 

「いや、たとえ勝ったところでこんだけ兵を失ったらただじゃ済まないですって。カミーラ様に粛清されちゃいますよ。さっさと雲隠れしなきゃ」

 

「くっ、覚えてなさい!!」

 

 使徒ユキの冷静な指摘によってサイゼルは撤退していった。

 この残党狩りはあっさりと終わり、戦力の多くを失ったカミーラはマジノラインに入り防御を固めた。

 ゼスの国土を解放するための最初の戦いは大勝利に終わった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 魔人ジーク。変身能力を持つまねしたの魔人にして魔人随一の紳士。

 マジノラインを占拠するカミーラを撃破してゼスを撃破したいが、彼に変身能力を駆使して撹乱されてしまえばゼスとリーザス、魔法使いと非魔法使いが混交の人類の軍勢はあっさりと瓦解してしまう恐れがある。

 魔人四天王カミーラとマジノラインの攻略に全力で取り掛かるためにもここで撃破しなくてはならない相手だった。

 

「よく来てくれましたね。感謝しますジーク」

 

「このように丁寧に決闘を挑まれて逃げるのは恥です。魔人として当然のことをしたまでです」

 

 礼儀正しい振る舞いに反して魔人らしい強欲さも肯定する。激昂しやすいサイゼルや怠惰なカミーラよりもある意味で厄介な魔人。

 そんな彼を撃破するために一対一の決闘を挑むことにした。

 こんな申し出を受けてくれるのはケイブリス派の魔人だと彼か武人であるカイト。あるいは戦闘狂のレイくらいだろうか。

 

「ジーク様、例の魔剣カオスは人間が持たれてサイゼルに追撃をかけています。アイゼルの使徒たちも他方面の魔軍の撃退に駆り出されています。ですがどうかお気をつけて」

 

「ありがとう、オーロラ。あなたは下がっていなさい。魔人同士の決闘、手出しは許しません」

 

 もちろん彼の人格への信頼だけで決闘の形に持ち込もうとしたわけではない。

 魔人と魔軍の連携を断つべく平行して軍は動いている。だがそのために私は大した戦力を連れてくることは出来なかった。

 闘将や魔物兵などそれなりに質は確保しているが向こうも使徒オーロラや近衛の魔物兵がいる。

 そもそも魔人には無敵結界がある以上ジークの撃破の役には立たないだろう。

 

 決闘の形ならば騙し討ちをされる恐れはない。だが彼の変身能力の本領はそんな撹乱だけに留まるものではない。

 変身したものの戦闘能力までもコピーしてしまう。手数の多さ、柔軟さでいえばもっとも厄介な魔人だといえる。

 

「では始めましょうか」

 

「ええ、ではこちらから仕掛けさせていただきます!」

 

 ジークの宣言が開戦の合図だった。

 わたしとジークは一斉に前に出て剣と拳をぶつけ合う。

 それから一拍遅れて魔物兵たちの殺し合いが始まった。

 

 派手さはない。だが実直な拳打。

 軽やかなフットワークから放たれる左右のコンビネーションを剣を盾にして防ぐ。

 ボクシング!紳士的なパンチとはよく言ったものだった。

 

「もう少し早くしましょう」

 

 宣言通り、拳速が上がる。

 目ではなんとか追えているが防御が間に合わない。

 左のフックが炸裂し頭が揺れる。

 だがその一撃と引き換えに一歩前に踏み出す。同時に繰り出した剣は彼のスーツを切り裂き血が流れ出す。

 だがジークは咄嗟に後ろに下がったため傷口は浅い。

 血も即座に止まってしまう。変身能力の応用で肉体を変形させているのか、この再生能力も彼の長所だ。

 

「火ばく──」

 

「遅い!」

 

 魔法が発動するより早く一瞬で彼我の距離を詰めると魔力が集中した手を拳で撃ち抜く。

 魔力が霧散し魔法が不発に終わる。

 

 変身能力を使わない拳闘でこの強さ、もちろん技能だけでいえば同じく魔人のカイトやレイには及ばないだろう。

 だがジークの体格と膂力で繰り出される拳は速く重い。

 

 とはいえこれは予想通り。同じ魔人とはいえ直接戦闘を得意としないわたしとモンスターの魔人であるジークでは身体能力に差があるのは当然だろう。

 だからわたしは小道具に頼ることにした。

 

「なにっ!?」

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 マッチに貯め込んだ魔力で激しい光を放つ魔道具。

 強く両目を瞑り、袖で顔を隠しながら音と気配を頼りに切り掛かる。

 

 微かに目に焼き付く残像を感じながら瞼を開くとわたしの剣はジークの腕を切り落としていた。

 だがジークはまるでトカゲの尻尾のように腕を再生させる。

 

「ふふ、やりますね。今のあなたからはかつてはなかった強い意思を感じます。ならば余技で相手取るのは無礼というもの。わたしの持てる全能力を持って戦わせていただきます!」

 

 そして彼は変身した。

 神聖さに満ちた白い肌、神秘的な透き通った瞳、慈愛を感じさせる微笑、およそ邪悪さを感じさせない美貌。漆黒の手脚すらも上等な反物のように輝いて見える。

 

「ふふふ!やはりあなたのもっとも恐れるものの姿は彼女ですか!魔王ジル!我らに魔血魂を与えた主にしてもっとも恐れられた魔王!!」

 

 所詮は姿を真似ただけのもの。かの魔王がもっとも恐れられたのはその憎悪の苛烈さと合理に徹する冷徹さだ。中の人格がジークならばたとえ力が本物と同じであったとしても恐れるものではない。

 だがその姿が、声が、どうしようもなくわたしの中から恐怖を溢れ出させる。

 

「く、くく、くははは!ひ、ひひひ!」

 

「恐怖のあまり狂われましたかな?残念ですが仕方のないことかもしれませんね」

 

「いいえ、いくらわたしでも顔を見ただけで狂いはしませんとも!ええ、そんな恐ろしい……。実際あの魔王が復活したときも恐怖を押し殺して従者の仮面を被り続けましたよ!!」

 

 自分の口から溢れる言葉を留めることができない。顔を裂いたような笑みに口の端が引き攣る。手脚が萎えるような冷たさと異様な高揚が同居している。

 

「復活?あなたは何を言っているのですか?」

 

「ですが、ですが!我が野望のためにはこの恐怖を克服しなくては!!ええ、ええ、だからわたしは自分から狂ったのです!!」

 

 極寒の吹雪の中で服を脱ぎ出すような狂気。それこそが狙い。意図的に狂気を運用する。

 そう、半端に黒い魂はこれ以上の魂の汚染を防ぐために自殺行為に走り出す!魔王ジルに挑む?この世にこれ以上の自殺行為があるものか!

 

「さあ始めましょうか、ジル様!!我が主!かつてのガイがごとく我が剣を突き立て弑殺奉る!!」

 

「なっ!?なんですかこの狂気は……。まさか自分自身に洗脳をかけて……」

 

 振り下ろした剣は素手の腕であっさりと止められる。刃は見えない壁に阻まれているかの如く柔肌に触れることすら叶わない。

 構わずに力を込め続ける。刃が震えるのは力の入れすぎか、それとも恐怖心からか。

 

「火爆破!!」

 

「こんな至近距離で……」

 

 超至近距離で魔力が炸裂する。当然わたしにも熱と爆風が殺到するが恐怖に凍えた体にはちょうどいい。

 ああ、ああ。魔王の顔は見るだけでも恐ろしいが爆風で見えないのも恐ろしい!!

 

「煙幕のつもりですか……、ええい焼き払ってあげましょう!!」

 

 煙幕を払って進みジルの顔が目の前に。

 ああ全く憎たらしいほどに美しい。傷一つどころか舞い上がった埃すら付いてないその姿は無敵結界を持つ魔人とただの人間以上の力の差を感じさせる。

 

「……んんっ!?何のつもりですか!?」

 

 ジルの美貌に見惚れたわたしは湧き上がる欲求が命じるままにその唇を奪う。遠慮なく舌をねじ込み口内を蹂躙する。

 突き飛ばされる身体。ああ運がいい、舌を噛まれていたらほろほろに煮込まれたこかとりすの肉のように噛みちぎられていたに違いない。

 

「ああジル様どうかお許しを」

 

 今まで見たこともないジルの怒りの表情に恐怖のあまり命乞いを始める。

 自分の情けなさに笑いが止まらない。いきなりキスするところなんて奇抜な英雄の猿真似、出来の悪いパロディのよう。

 

「ひうっ!?な、何をして。い、いい加減にしなさい!!」

 

 両膝を付いてジルの女陰に舌を這わせる。彼女は性癖としては痛みも好んだが、そんな真似はわたしのような臆病者に出来るはずもなかった。

 ただ今は欲望と狂気に任せて陰核に歯すら立てた。

 

 全身に隈無く感じる衝撃、ジルの全身から溢れ出た魔力が球状にバリアを形成しわたしの身体を吹き飛ばしたのだ。

 ゴロゴロと地面を転がり、石や砂に身を削られる。

 

「ああああーーっ!!」

 

「ふんっ、そんな技巧もない拳撃がわたしに当たるとでも思っているのですか!!」

 

 立ち上がると口の中に砂の感触と血の味。転がっている間に剣を落としてしまったようなので拳で殴りかかる。

 見当外れな初撃を見切ってジルは身動き一つしない。空を切った拳の勢いで体勢が泳ぐ。

 

 続けて放った拳は一応ジルの方に向かっていったが僅かな動きで躱されてしまった。

 無理な姿勢から拳を放ったせいで今度こそバランスが崩れて倒れる。

 目の前に剣がある。ああ、どうやら吹き飛ばされた時ではなく跪いたときに自分から手放していたようだった。

 拾う。切り掛かる。

 

「ふふ、剣ならば多少マシですね。ええ、狂乱状態にありながらきちんと刃筋を立てられている。鍛錬によって身体に染みついている証拠でしょう」

 

 わたしの剣撃とジルの手刀が切り結ぶ。一太刀一太刀が全霊の一撃はあっさりと防がれ、隙だらけの身体に反撃で穴が空く。

 自分の身体ではないかのように痛みを感じない。滴る血と汗の区別もつかない。まるで剣術の稽古を受けているような気分だった。

 

「爆ぜろ!!」

 

「ぷちハニー爆弾ですか……。少しはマシになってきましたね」

 

 ぷちハニーによる爆発、つまりは魔人による攻撃ではないから無敵結界が発動する。強力な爆風もまるでそよ風のよう。

 爆発を目眩しにジルの死角を掻い潜って急所に剣を突き出す。狙うのは背中の脇、ジルの髪に顔を擽られながら腎臓を貫かんとする。

 だが剣は触れるか触れないかのところで中程から折れてしまった。

 

「醜くも必死に足掻くその姿……。ええ、認めないわけにはいきませんね。アイゼル、その蛮勇をわたしは忘れません」

 

 再びの魔力の解放。今度は巨大な漆黒の球体がわたしの身体を飲み込む。中は強烈な力が渦巻いていて、激痛とともにわたしの身体を上下左右に振り回す。

 

「はぁ、はぁ、やはり魔王の力を再現するのは命を削りますね……。魔物たちよ!!あなたたちの主アイゼルは倒れました!!わたしに従いなさい!」

 

 ジークは勝利を確信してまだ続く兵たちの戦いに目を向けた。

 

「死ね!!」

 

「くたばれ!!!」

 

「アイゼル様のために!!」

 

「ちょっとジーク様!!こいつら止まりません!?」

 

「な、何故?」

 

 ジークは終わらない闘争を訝しむ。そもそも魔物は魔人の命令には従うものなのだ。魔人と魔王の間にある命令権のように絶対のものではないにしろ力に忠実魔物が疲弊しているとはいえ万全な魔人の命令に逆らうなど考えられない。

 

「ぐはっ!!?……アイゼル、あなた生きて……」

 

「いやっ!ジーク様!?ジーク様っ!!!」

 

 その困惑はわたしが彼を後ろから刺すには十分だった。魂を完全に黒くしてしまえば魔王の力の再現であっても殺すことはできない。

 物理的に身体がバラバラになることだけが懸念だったが狂乱した姿への侮りと哀れみが攻撃の苛烈さを抑えてくれていた。

 最後の一撃は実際にいくつも骨が折れていたがなんとか身体を動かすことは出来た。

 

 魔王への変身によって疲弊したところへの一撃、魔人ジークの身体は魔血魂となりオーロラの悲鳴が響いた。

 

「さて、使徒オーロラ。あなたの主人はわたしの手の中にあります。助けたければどうすればいいか分かりますね?」

 

「くっ……!アイゼル様、どんな命令でも受けます。ですからジーク様をどうか!!」

 

「よろしい」

 

 地に頭を擦り付けて主人の命乞いをする姿に口角が釣り上がる。これが黒い魂から湧き上がる嗜虐性なのかわたしの本性なのか区別はつかなかった。




紳士的なパンチということでジーク様の腕がズームしたりキスシーンでズキューン!!とか効果音を出そうと思ったけどやめた。
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