ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「魔人アイゼル……。そうかラインコックを殺したのは貴様か。いくら美しい者といえど貴様には無惨な死をくれてやろう」
魔人カミーラの憎悪の視線にわたしは沈黙で応えた。
カミーラの使徒ラインコックを殺したのは同じカミーラの使徒であるアベルトだ。
しかし彼の自分が仕えるべき女性かどうか確かめるために試練を与えるという異常な行動を説明できるはずもないし、ラインコックの死がホーネット派のわたしにとって利であることも確かだ。
返答の代わりに懐から赤い球体を取り出す。
魔王の血、魔血魂。手にするだけで感じる怖気と寒気はわたしの中の魔血魂の拒絶反応なのか。
あるいはこれに転じた魔人の邪悪さによるものかもしれない。
この窮地のゼスで魔人メディウサが復活する可能性。それを思えばあまりにも危険な賭けだ。
だが魔人としての力であれば下位であり戦士でもないわたしが魔人四天王であるカミーラ、ひいては他のケイブリス派の強大な魔人たちに対抗するためには必要な力だった。
魂の黒化による不死は確かに強力だが格上相手にはなぶり殺しにされるだけだ。ジークとの戦いは魔王への変身による消耗があってこその例外だったといえよう。
「その姿……。そうかメディウサを殺したのは貴様だったな。どうやらずいぶんとこそこそと動き回っていたらしい」
魔血魂を飲み込むと虚空から白い鱗の蛇が現れる。蛇たちはまるで羽衣のようにわたしの身体に纏わり付いた。
蛇たちのうち二匹がわたしの佩いた二本の剣の柄に絡みつき抜き放つ。
安珍と清姫、これもまた魔人メディウサから奪った物だった。
「ええ、魔人四天王である貴方と戦うにはこれくらいの禁忌は犯さなくてはと思いまして」
複数の魔血魂を取り込む。それは魔人にとっての暗黙のタブーだ。
たった一つでも取り込んだものに強化をもたらし特殊な能力を発現させる魔血魂。
二つも取り込んでしまえばそれが許容量を越えて破裂してしまうことは容易に想像できた。
それに魔血魂には魔人の人格が宿り、復活の機会を虎視眈々と狙っている。
膨大な力に翻弄されるうちに身体を乗っ取られてしまう恐れもあった。
だからわたしはわたし以外に魔人になってもらうことにした。
参考にしたのはゼスによって弾圧された少数部族であるムシ使いたちの技能。そして悪魔ジェイコプスの寄生能力。
魂を持たないムシに魂を分け与え自身の身に住まわせるこのスキルを魂の操作とパパイヤの魔獣化の魔法、ホムンクルスの技術などを駆使して再現した。
そして魔人の力を自分に取り込んだムシに押し込み、そのまま使役することに成功したのだ。
メディウサの元の身体と比べれば圧倒的にスペックで劣るムシの器なため、単純に戦力が2倍とはいかないがそれでもかつてない力がわたしの手の中にあった。
むしろ有り余る力はわたしの手に余りそうなくらいだった。使徒の三人に加え、志津香やアテンにも魔人の力を分け与えておかなければ危なかったかもしれない。
「魔人メディウサ改め、
「その名前を出すとは……。どうやらよっぽど死にたいらしいな!」
カミーラの爪が上空からの急降下の勢いも加わって襲いかかる。
その一撃をわたしの意思と関係なく動いた蛇が双刃を以って迎撃した。
強烈な金属音。鉄をも切り裂く竜の一撃を魔人が愛用した業物はしっかりと受け止め、弾き返した。
「電磁結界!」
「小癪な!」
手で印を結び、魔法を発動させる。蛇自身の本能によるオートカウンター。それに近接戦闘を任せることで獲得した魔法行使の猶予を活かし責め立てる。
「氷雪吹雪!」
空を飛べるもののアドバンテージは凄まじい。その気になれば上空から一方的に攻撃できる。搦手を使うなら空を飛べない洞窟のような場所に誘い出すのが筋だろう。
だがここはマジノライン。地下に追い込んだとしても彼女は簡単に天井を切り裂いて脱出する。
ならば必要なのは上空への攻撃手段。雷系や氷系の範囲攻撃魔法を用い、痺れや冷えによって少しでも天舞う竜の機動力を削ぐ。
「小賢しい!灰になれ!」
竜の代名詞ともいえるブレス。バリアーを張り、蛇を鎧として纏っていてもなお、なお身体から焼けこげた匂いがたちのぼるダメージ。
魔人カミーラは戦士ではない。冷静に策謀を練るタイプでもなければ魔法を得意とするわけではない。
怠惰に淫蕩に耽る高慢な女王、それでいてなお魔人四天王に君臨するまでに竜の生物としてのスペックは凄まじい。
同じ魔人といえど真っ向から一対一で挑む相手では本来ない。ノスに対してしたように人類の精鋭をぶつけ、膠着したところに横槍を入れるのがスマートな攻略法と言えるだろう。
だが、原作においてその異常性から主人に逆らったアベルトも現在はランスに執着している。
彼が理想とする気高くしなやかな女性。わたしの手の中に収まってもなお輝きを放つ彼女に試練を与えんとする彼から守るため、グリーン隊を含む人類の精鋭たちとわたしの使徒は纏まって行動させていた。
そしてそもそもこの戦いの目的はマジノラインの復旧による魔軍の撃退。そちらにもかなりの戦力が必要なことを思えば、わたしがカミーラを抑えるのが合理的だろう。
無論、過保護と言われてしまえば否定は出来ないが。
「ラインコックと同じように首を刎ねてやろう!!」
ブレスを目眩しに背後に接近したカミーラの爪から蛇の一体がわたしの身代わりとなって首を切り落とされる。
固い鱗をやすやすと切り裂いたその切り口からはわたし自身も容易にそうなることがありありと想像できた。
「チッ、外したか。だが次は必ず……。いやその蛇のすべての頭と四肢を切り落としてから首を刎ねてやろう」
「泥朽縄」
蛇を右腕に纏わせ、それを鞭のように振り回す。思いつきの技でなんとも泥縄な話だが魔人の膂力と蛇の質量も相まってなかなか強力な攻撃手段だった。
「ほう、わざわざ首を切り落としやすいようにまとめてくれるとはな殊勝なことだ」
「ええあなたならそうしてくれると思いまして」
「……ぐっ!?」
裂帛の気合いを込めて爪を手刀を構えるカミーラ。すべての蛇の頭を切り落とそうとするその横腹を黒い魔剣が襲った。
いかなる偶然か、あるいは魔剣の執念か。カオスの切先がカミーラに腹に突き刺さっていた。
「朽縄尻、蛇に尻尾があるのは道理でしょう?魔人カミーラ」
「なんか何かの中に埋め込まれるのが定番になっちゃってない?儂の扱いが雑なんだから。触手プレイなんてするものであってされるものじゃないっていうのに」
鞭のように振るっていた部分はその全長の半分程度でしかなかったのだ。わたしはその長い身体の半分を頭を錘として振り回してカミーラの動きを誘導する罠に用い、もう半分を尾を柄や鍔に絡ませる形で魔剣カオスを持たせて振るったのだ。
蛇腹帷子の魔人としての特殊能力は巨大な魔人バボラのような成長力として発現したらしい。この短時間でわたしの服の下には収まり切らないほどの長さにまでその身体を伸ばしていた。
そう思えば今度は逆にその身体を縮めた。魔剣カオスはすっぽ抜けることなくカミーラの身体を地に引きずった。
気高き女王が失墜した瞬間だった。
その泥に塗れた身体に蛇たちが絡みつき完全に彼女を拘束した。
「さて……殺すつもりはありません。あなたには人質としての価値があります。ですがしばし眠っていてもらいましょう」
「貴様のごときの力がわたしに通じると思ったか!」
「確かに、ですが数を増やせばどうでしょう?」
「何っ?これは……メディウサの目か!」
「これも貴方には大して効果はありませんが、動きを阻害する程度は出来るでしょう」
彼女の顔を蛇たちが取り囲む。その眼は怪しい光を放っていた。魔人メディウサの持っていた石化の力。それが彼女の抵抗力を奪っていく。
「カミーラ、お疲れでしょう。しばしお休みください。決して貴方を傷つけるようなことはしませんから」
「くっ……」
強烈な眠気に襲われたカミーラの瞼が少しずつ降りてゆく。
念の為彼女の身体を魔法で封印する。あとはゼスにもっと強力な封印と安全な隠し場所を用意してもらえばいいだろう。
ゼスの腐敗の多くを切除し、魔人カミーラを封殺した。
これでおおよそゼスの改革は原作の通りに進むことだろう。
うちにわたしの意のままに動く獅子心中のムシを秘めたまま。
「アイゼルさん!」
「アイゼル様!」
「ランス、シィル。無事で何よりです。他の方々に何か負傷は?」
「皆さん無事です!マジノラインの再起動にも成功しました!」
「アイゼル様、火傷をされてます!他にお怪我はありませんか!?いたいのいたいのとんでけー!」
シィルに回復魔法をかけてもらう。蛇腹帷子のおかげでダメージは最小に抑えられたが、それでもブレスの火傷などいくらかの怪我はあったのでありがたい。
「アイゼルさん……。魔人カミーラを倒したんですね」
「なんだか眠っているみたいですね……。急に起き上がって襲ってきたりしませんよね?」
倒れ伏すカミーラを見る二人の目には僅かな怯えが浮かんでいた。
自分以外の美女美少女を嫌悪するカミーラはランスとシィルにとって恐怖の存在だったのだろう。
「アイゼルさん、申し訳ありません。アベルトさんを取り逃がしてしまいました。ガーネットさんたちにも協力していただいたのに、いきなり壁を破壊して外に……」
続けて告げられたランスの言葉に驚きは少なかった。
ガーネットたちにはランスたちの安全とマジノラインの再起動を優先するように言い聞かせてある。
アベルトとしても使徒を含む多勢に真っ向から戦うつもりもなかったのだろう。
この戦いにおいてウルザとリズナがアベルトに拐われることはなかった。
おそらくアベルトはその際に使う予定だったドーピングアイテムを脱出に用いたのだろう。
「貴方たちが無事ならそれで構いません。彼を捕らえる機会はまたあるでしょう」
「はい!そのときはウルザちゃんたちに謝らせてみせます!」
そう、彼はきっとまた現れることだろう。
魔人ジークの魔血魂はわたしが確保している。だから彼が魔人になれる可能性は低い。
だがそれでも気を抜くことなど出来そうにない。
常人には理解し難い行動原理を持つアベルト。その予測出来ない不気味さに僅かに怖気を覚えた。
この話で合計10万字を越えました
結構な達成感がありますね