ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
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「いやぁ、やっと出られたぜ。オロチに食われるのが願いとかあの野郎ひでぇこと言いやがる」
「ちっ、手間をかけさせおって。やはり燃やした方が早かったか」
「やはり間に合いませんでしたか」
オロチの穴にも転移魔法陣を用意していたが、当然ザビエルたちに消されていた。
そのため迷宮であるオロチの穴を一階ずつ下っていく必要があったのだが、そのタイムロスのせいで間に合わなかったようだった。
「きひゃひゃひゃひゃ、来てくれて嬉しいぜぇ!!いっくら願いを叶えてやっても魂の黒くならねぇテメェみてぇなやつは、とっ捕まえて直接嬲って魂を刈り取らせてもらう!!」
巫女装束を着た、黒い髪の女の姿をした何かがいる。それはわたしに気づくと狂った猿叫をあげ、その姿を豹変させる。
女の顔が瞬く間に縮み、体毛に覆われて、猿の顔に変わる。
この世界の人類は進化論とは異なる起源で発生しているが、人類の進化や知性を否定して、人間とはただのケダモノであると突きつけてくるような悍ましい光景だった。
「魔人がぞろぞろと人間を引き連れおって……。しかもこの悪魔と契約していたそうだな?貴様は魔人の風上にも置けぬ。JAPANとともに滅びるがいい!!」
「ききー!」
魔人ザビエルが気炎を吐く。実際に黒い炎が激しく吹き上がり、その怒りを示す。
魔人と悪魔はその所属からして相容れない存在だ。魔が人を虐げる、神の定めたこの世界のルール。悪魔は神の敵対者として時にそのルールを覆す。
魔人ザビエルがJAPANを襲ったのも、JAPANで悪魔が暗躍していたことに起因している。
ある意味でこの魔人ザビエルは魔人としての使命や役割に忠実な存在ともいえた。
ずる……、ずる……、ぉぉぉぉ……
オロチ幾つもある頭のひとつが目を覚まし鎌首をもたげる。
周囲に儚く浮かぶのはこれまで食われてきた巫女の魂のオロチっこ。
生贄としてオロチに囚われ、転生も出来ずにただこうして漂うだけの哀れな存在。
「アイゼル様……。どうか、どうかオロチを倒してください。わたしのような巫女がオロチの犠牲にならずに済むように」
「やはりあなたは……羽曳野、でしたか」
記憶喪失の巫女、風華もまたかつて自らの意思で生贄となりオロチを封じた巫女の一人だ。
かつて彼女が贄となるのを見送ることしか出来なかった名取は悲痛な眼差しで彼女を見た後、弓を強く握りしめた。
魔人、悪魔、オロチ。どれを取っても恐るべき脅威だが、だからこそ、こうしてまとめて討てるというのは僥倖だと自身を鼓舞する。
「オロチはわたしが抑えます。皆は魔人と悪魔の相手を」
「任されました!」
「JAPANの怨敵、ザビエル。貴様の跳梁もこれまでと知れ」
「日光とその使い手か……。魔人になっていることも、魔人に振るわれているのも驚きだ。そうだ、日光。これからはわたしが貴様を使ってやろう!魔人殺しの武器が人を殺す。これほど愉快なことはあるまい!」
「ザビエル!!」
「わわっ!落ち着いて日光さん。みんなが来るまでぼくらのお仕事は足止めです。ザビエルを討つのはみんなが揃ってからって作戦でしょ」
ザビエルに負わされた傷から魔人となって復活した健太郎と日光がザビエルと相対する。
故郷を幾度となく苦しめてきた存在を前に日光は激昂している。
普段は日光が健太郎たちのストッパーになっているが、逆に今は能天気な人格の健太郎が日光を抑えていた。
黒の炎の対策として今川のハニー軍団、物理攻撃の対策として柴田勝家を中心とする足軽衆が続く。
「……アイゼル様の城に火を放った罪、思い知りなさい」
「はっはー!きゃわいい女の子にそんな目で見られたら興奮しちまうぜ!可愛い使徒がぶち殺されたらご主人様はどんな顔してくれるかなぁ!?いいや?ぶち犯すのもいいな?魂の漂白なんてふざけた真似が出来ないくらいに野郎の全部をめちゃくちゃにしてやる!!」
「ふむ、悪魔か。なかなか興味深い存在だが。貴様は駄目だな。下品にすぎる」
悪魔ジェイコプスとその契約者藤吉郎を抑えるのは使徒と魔法使いたち。大陸の悪魔対策のアイテムや魔法をもって封印を狙う。それが無理でも大火力によって攻め立て、自由に行動させなければそれでいい。
「アテン、落ち着いて」
「イエス!ビークールです」
「アイゼル様に任された仕事を果たせなかった罪悪感はよく分かります。ですがあなたの役目は援軍を呼び込む転移魔法陣を繋ぐことです」
「はい……」
「おっと、お前らもアイゼルの使徒か!そっちの嬢ちゃんは前にも会ったな!!」
「わたしは使徒じゃないわ」
火力についてはガーネット、サファイア、トパーズの三使徒と何より魔法レベル3のミラクルと志津香がいる。
転移魔法陣により負傷者を下がらせ、援軍を呼ぶ。転移先には回復の力を持つ巫女たちがいるから休み、傷を治して再び参戦することができる。
守りを固め、後方との連携によって粘り強く戦う。
帝となった謙信、そしてJAPANのすべての猛者たちが集った軍団が来るまで時間を稼げれば勝ちだ。
「ぐぉぉぉぉおおおおお!!!」
オロチがわたしたちを敵と認めて雄叫びを上げる、それが開戦の合図となった。
ひとつひとつの頭が人間を丸呑みにできるような巨体。ずっと巫女や悪魔、黒い魂の持ち主を喰らって飢えていたのだろう。わたし目掛けて大顎が迫る。
「目覚めよ、蛇腹帷子」
「ぎぃぃぃぃいいいい」
蛇には蛇を、蛇腹帷子を召喚し対抗する。巨大化の能力を持つ魔人ムシといえどもオロチの巨体には及ばない。無数の蛇をすべて束ねてオロチの頭ひとつ分と言ったところだ。
だが一匹一匹の蛇が小さい分急所を狙うことができる。オロチはその目に蛇牙を突き立てられるのを嫌って首を引き戻した。
鎌首をもたげ、こちらを見下す頭にエネルギーが収束し、熱線が放たれた。
蛇腹帷子で辛くも防ぐ。固い鱗と強靭な筋肉の塊が障子紙のように容易く貫かれ、致命傷を負った蛇腹帷子は魔血魂に戻った。
「使い回せる肉壁で一撃を防げるならば十分ですね」
再び大顎が迫る。それよりも早く式神として召喚したただの蛇のムシが魔血魂を回収する。
蘇った蛇腹帷子が攻撃を防いだ。
「貴様さえ殺せばあとは烏合の衆よ!!」
そこに横合いからザビエルが迫る。蛇腹帷子はオロチの攻撃への防御で使って咄嗟には動かせない。
「ふんっ!」
「ザビエル!あなたの相手はわたしたちです!」
健太郎と日光が割り込みザビエルの剣を止めた。鍔迫り合いには付き合わずに素早く引く。
ガラスが割れるような音が響く。健太郎は引きながら小手を打ち、無敵結界を破壊していた。
「さぁて!暴れようぜ兄弟!!」
「ききー!」
ジェイコプスと藤吉郎が獣の膂力で暴れ回る。ジェイコプスの巨大な腕が前衛を蹴散らし、悪魔の腕と融合した藤吉郎が巨岩を後衛に向かって投げる。
「力比べなら負けませんよ」
悪魔の進軍をジークが止めた。彼は今かつての人類最強、ヘルマン第三軍の将、トーマ・リプトンへと姿を変えている。
無類の腕力と重量をいなす技量によってがっぷり四つに組み合う。
「喰らえサル公!紅色破壊光線!」
「石になっちゃいなさい!藍色破壊光線!!」
「死になさい。黄色破壊光線」
「きぃ!?ききっい!!」
魔人や悪魔と違って使徒は不死身ではない。悪魔との契約で戦闘力は上がっているかもしれないが殺せない相手ではない。
ガーネットたちは一撃の威力よりも手数を優先して黒色破壊光線に束ねず、各々が別の角度から魔法を放つ。
戦場は混戦の様相を呈していた。主な戦線は三つ。わたしとオロチ、健太郎とザビエル、悪魔ジェイコプスと使徒。
このうちオロチはわたし以外にもその複数の首で攻撃を仕掛けてくるし、ザビエルは他のものを巻き込むように黒の炎を撒き散らす。
ジェイコプスもその猿の身体能力で戦場を軽快に飛び回り、警戒が必要だ。
「一人では手が足りませんね」
「ならば二人に別れましょう」
分裂魔法を行使して肉体を二つに。自身に襲いくるオロチの首を剣で受け止め、魔法で後衛を狙う別のオロチの首を攻撃する。
「ラッキー!自分から黒い魂を分離しやがった!いっただきまーす!!」
「させない!!コモ!」
「疾風点破!」
魂を狩取る鎌を構えたジェイコプスの突進をアテンの迷宮操作によって生まれた壁が足止めし、五十六の目を狙った狙撃が牽制した。
「二人とも礼を言います!黒い魂を喰らうがいい……。オロチ!!」
「アイゼル様!?」
白い魂のわたしが下顎を踏みつけ、剣で上顎と牙を抑えてその口を全開にする。
そこに黒い魂のわたしが飛び込んだ。噛み砕いて吐き出そうとするのを防ぎながら、臓腑を目指す。
奥に進むとオロチの胃酸が身を焼くが構わない。胃の中で魔法を乱射すると激痛と黒い魂を取り込んだことでオロチが身悶えた。
「なっ!?なぁぁぁぁ!?何してんだてめぇ!!」
「ふふ、オロチの胃の中にわたしの魂を狩りに行きますか?」
ジェイコプスが叫ぶ。目の前で黒い魂をお預けされた悪魔の悲痛が心地よい。
「食らいなさい!巫女の嵐!!」
「アイゼル様、回復します」
名取の魔法攻撃がジェイコプスを吹き飛ばした。風華はわたしに駆け寄ると傷を回復させる。オロチの外のわたしを治療しても中のわたしは回復しないが痛みがわずかに和らぐ。
「ああ、何もアイゼル様がオロチの贄とならずとも……。わたしたちならばいくらでもこの身を捧げます」
「あなたたちを連れて来たのは兵を回復させるためです。オロチの贄とするためではありません。何よりわたしは魔人、巫女の一人や二人よりもよっぽど死に難く、長くオロチを苦しめられます」
元オロチの贄の巫女たちがわたしに駆け寄り、オロチに食われることを志願する。だがわたしにはそのつもりは元よりない。
第一、ここにいるものたちは全員魂が白い状態だ。洗脳によって魂を黒く染めれば不死身かつ自身を顧みず戦うウォーモンガーの軍団にできた。
だが、黒い魂を狩り取る悪魔がいる以上それは愚策だ。
だからオロチの贄となって奴を抑える役目が出来るのは自由に魂の汚染率を変えられるわたししかいなかった。
一番の脅威であったオロチが弱体化し、戦場が膠着する。オロチっ子たちも何もせずにただ漂っている。
自分たちを生贄に生きながらえてきた日本人たちがオロチと戦っている。その光景に何を感じているかはその瞳からは伺えない。
「今のうちです!負傷者は待機しているものと交代しなさい!」
「おのれ!おのれ!!役立たずの蛇め!!」
いくら弱ろうとオロチの脅威は健在。魔人ザビエルの黒い炎もまた兵に多くの被害を齎している。
油断出来ない状態だが、今のところはこちらの狙い通りに戦況は動いていた。