※この作品はR-18です。

ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜   作:斧池 数馬

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 三話同時投稿です。
 お気をつけください。


帝の威光

 戦闘は熾烈を極めた。開戦から今まで戦場に立ち続けているものはほとんどいない。魔人や使徒のような人外、一部の英傑、あるいは運の良い雑兵。当然無傷のものは皆無だ。

 負傷した兵は転移魔法陣で地上に返され、治療を受けてから戦場へと戻ってくるが兵の治療よりも兵が負傷するペースの方が圧倒的に速い。

 

「こうなったら全力だ!!いくぜ兄弟!!もっと憎悪を燃やせ!!!」

 

 ジェイコプスの肉体が藤吉郎を取り込み巨大化していく。いつかのナギに憑依していたときのようにその腕に異なる武器を持った戦闘形態。

 前回はその手に持ったハニーによって魔法攻撃を封じられ、大きな苦戦を強いられた。

 

「あんたをぶち殺せばナギも解放されるのかしら?」

 

「ふはははは!!喰らうがよい!」

 

 だが、今回はレベル3の魔法使いが二人もいる。片方の魔法をハニーで防いでも、もう片方の魔法が直撃する。

 ジェイコプスもその対策に今川ハニーを攫って二つの腕にハニーを構えているが……巨大化などただ的を大きくしているに近い。

 

「悪霊退散!!」

 

「悪霊とはひっでえなあ!!」

 

 屈強な僧兵たちがジェイコプスに突撃する。悪魔が生み出した天志の法ゆえ効果はほとんどないが単純な暴力がダメージを与える。

 特に性眼の持った悪魔の鎌の一撃は深々と突き刺さっていた。

 

「貴様も別け身で弱体化しているようだな!貴様を殺し、オロチに取り込まれたもう片方も殺す!ただ手間がひとつ増えただけよ!!」

 

「アイゼル殿!」

 

「ちぃ!陰陽師め、邪魔をしおって」

 

 健太郎と切り結びながら放たれた黒の炎を北条早雲の式神が遮る。

 その隙に日光がザビエルの身を切り裂く。憎悪と悪意に満ちていたザビエルの顔が初めて苦悶に歪む。

 

「ぎぃぃぃぃいいいいいいああああ!!!」

 

 このまま畳み掛ければ勝てる。そう頭をよぎった瞬間だった。

 これまでの奮戦を嘲笑うように、オロチが覚醒した。

 

「大地震が来ます!!これは……わたしたちどころか地上にまで被害が……」

 

 風華が叫ぶ。その言葉を聞いて多くのものが絶望感に襲われ、戦意を失いかけた。

 わたし自身、ここまでかと諦めの感情が浮かんだ。

 

「少しでも被害を減らす!逆位相局地地震!!」

 

「アテン・ヌーよ!迷宮作成魔法でこの空間を隔離しろ!余も協力する!」

 

「分かったわ!」

 

 だが咄嗟の判断でこの天災ともいえる大破壊に抵抗したものたちがいた。

 魔想志津香が逆位相の波をぶつけて相殺し、ミラクル・トーとアテン・ヌーがこの空間を異界化させて地上への影響を防ぐ。

 

 強烈な衝撃が走り空間が揺れる。敵味方問わず、魔人を含む全員が地に倒れ伏す。

 だが魔女たちの決死の努力によってぽつりぽつりと立ち上がるものたちがいた。

 わたしも剣を杖にして立ち上がる。

 全滅こそ免れたものの被害は甚大だ。ひとまずは兵の回復が最優先。

 そう考えていたわたしに切り掛かるものがいた。

 

「ふははははは!!素晴らしい力だ!これならばJAPANを滅ぼしてあまりある!!」

 

 ザビエルが立ち上がっていた。彼もダメージを負っているはずなのにそんなものは知らないとばかりに黒の炎を全身に漲らせて笑っている。

 必死に応戦するがもはや体に力が入らない。

 魔人四天王の全力。何よりその憎悪と執念が凄まじい。

 

「アイゼル……様。だ、だれか……」

 

 アテンが絶望の表情を浮かべている。援護の魔法を放とうとして失敗する。大地震を防ぐためにほとんどの魔力を使ってしまっていた。

 

「しまった!」

 

「死ね、魔人アイゼル。貴様のようなものは魔人に相応しくない」

 

 剣が弾かれ、抵抗の手段を失う。ぞっとするような冷たい殺意とともに身を焦がす熱さの黒の炎を纏った剣が襲いくる。

 

「そこまでだ!」

 

 それを一振りの剣が受け止めた。刀ではない両刃の剣。生半な鉄ならば易々と溶かして斬るような一撃を受けて刃こぼれ一つない。

 その剣の持ち主は兜も小手も付けていなかった。代わりに頭にはハチマキを巻き、指にはリングを嵌めている。

 全身から、光り輝くオーラを放つその者の名は。

 

「毘沙門天の加護ぞある!」

 

 軍神から帝となり名実ともにJAPANの守護者となった上杉謙信がそこにいた。

 

「ふ、ふ、咄嗟に書いた転移魔法陣では一人が限界だったが……。その一人で最強の戦士を呼んだな。流石は余の天運だ」

 

 ミラクルの力のない、それでいて自信に満ちた呟きが耳に届く。

 倒れ伏しているミラクルは大地震で破壊された転移魔法陣の代わりとなる小さな魔法陣を地面にチョークで描いていた。

 

「はぁぁぁぁああああ!!」

 

「この剣、藤原石丸のものか!いいだろう!奴と同じようにわたしが地獄に送ってやる!」

 

 神から授けられた神剣といえど魔人の無敵結界を破る力はない。ゆえにかつての帝、藤原石丸は魔人ザビエルの前に敗れた。

 

 だが無敵結界はすでに日光によって破壊されている。ゆえに届く。JAPANの平和を護らんとする願いによって帝となった謙信の剣は魔人ザビエルの命に届き得る。

 

「は、は、ははは!援軍の一人や二人がなんだって言うんだ!ここまで来たら後は嬲るだけで勝ちだ!」

 

「ぬぅぅうううん!!」

 

 巨大な悪魔の振るう、巨大な剣を巨大な人間(・・)の振るう、巨大な刀が受け止めた。

 

「帝が平和を望むのならば、JAPANの戦はこれが最後となろう!!ならば!!全力で楽しむのみ……!!」

 

 妖怪、だいだーらの呪いを受けて巨人となった武将毛利元就のその巨体に見合った大声が迷宮に響いた。

 

「流石は余、この短い時間で巨大な魔法陣まで描き上げてしまった」

 

 青息吐息なミラクルに変わって彼女のもつ死霊兵の一体が巨大な魔法陣を描いていた。

 さしもの暗黒魔女も魔力の枯渇が近いのか骸骨の動きはぎこちない。それが疲労困憊で肩で息をしているように見えてユーモラスだった。

 

「あんた、死んでおくれ」

 

 ザビエルと切り結ぶ謙信を援護するように正確無比な手裏剣が飛来する。

 

「帝の勅命である。この世から去れ、魔人よ!」

 

「ぐわっはっはっは!!いくぞ兄者!!」

 

「応!!我ら武田四天王!参戦するぞ!」

 

 JAPAN最強のてばさき軍団を率いる四将、山県昌景、真田透琳、馬場彰炎、高坂義風。風林火山と呼ばれる彼らもまた帝の威光に従い参戦した。

 

 戦うのは援軍だけではない。倒れ伏していたものたちも帝の号令のもと、立ち上がり再び武器を手に取る。

 

「昌景殿、透林殿、戦えるものたちの指揮を頼みます。わたしは負傷者の手当てを指揮します」

 

「はっ!かしこまりました、直江様」

 

「任されましたぞ」

 

 山県昌景、真田透林の指揮のもと、彼らは一つの生命のように動き、魔人を追い詰めていく。

 

「ぐわっはっはっはぁ!!大蛇退治とは腕が鳴るわ!!」

 

 そしてJAPAN最強の男子、馬場彰炎が大蛇にその槍を突き立てた。巧みな騎乗技術でオロチの攻撃を躱して攻撃を重ねていく。

 

「ちっ!なんだってんだよあのピカピカ女!眩しくって仕方ねぇ!つーかこりゃ詰んだか?」

 

「はっはっはぁ!!どうした悪魔殿……!もっとこの死合を楽しもうぞ……!!」

 

「あんたもあんたで化物じみてんなぁ!」

 

 巨体と巨体がその武器をぶつけ合う。手数の違いに元就の方が多くダメージを受けているがまるで意に介さず彼は笑う。

 

「毛利三姉妹!いくぞ!」

 

「木の葉隠れの術!!」

 

「毒は効くかしらー?」

 

 そしてジェイコプスの巨体をするすると駆け上がるものが三人。

 元就の娘たちだ。悪魔の顔面に長女のてるが切り付け、次女のきくが木の葉を浴びせ、ちぬが煮えたぎる毒入りの紅茶をぶちまける。

 

「ぐぎゃああああ!?」

 

「ぬぅぅぅゔゔゔんんんんん!!!!!!」

 

 顔への執拗な攻撃にジェイコプスが悲鳴を上げて悶える。そこに元就の強烈な一撃がクリティカルヒットした。

 

「痛いの痛いの飛んでけ」

 

「アイゼル様。回復魔法はわたしなんかじゃなくて自分に……」

 

 緊張と疲労でその場に座り込みそうになるのを堪えて、アテンのもとに向かい回復魔法をかける。

 

「いいえ、アテン、あなたにはまだやってもらうことがあります。そのためにはここで倒れてもらっては困る。手を出しなさい。魔力も回復させます」

 

「はい、アイゼル様」

 

 アテンの指輪に魔力を込め直す。それで本当に余力が尽きてその場に座り込んでしまった。

 

「アテン、アイゼル様のことはぼくたちに任せて」

 

「イエス!マイロードへのアタックはオール・シャットダウンします!」

 

「あなたはアイゼル様の命令を果たしなさい」

 

 ガーネットたちも傷だらけになりながら立ち上がっていた。サファイアは気絶した志津香を背負っている。

 トパーズの言葉を受けて、アテンは駆け出した。

 

「オロチ……。俺たち妖怪の親のようなものだが、容赦はしない!!」

 

 帝が率いるのは人間だけではない。妖怪たちもまたその命に忠実に従う。妖怪王国の妖怪王、独眼竜政宗がその小さな体でオロチと戦う。

 そして先代妖怪王、お町が落とす強烈な雷が複数の頭を同時に攻撃した。

 その衝撃と痺れにオロチは再び大地震を起こすことが出来ないでいた。

 

「どうした!悪魔ぁ!!まだまだ戦おうぅぅ!!」

 

「あんたの願いを叶えようにもなぁ、絶対取り憑いた瞬間帝サマの威光とやらで追い出されちまう。あーあ、残念、残念。こりゃもう負け戦だ。今ので契約者サマもやられちまったし?これ以上戦う義理はねえよなぁ」

 

 ジェイコプスが強力な攻撃の的になるのを承知で巨大化していたのは、契約者の藤吉郎を巻き添えで殺すのが狙いだった。

 元より悪魔の力で蘇っていた藤吉郎だったが、強烈な剣の一撃により二度目の死を迎えていた。

 契約者がいなくなってしまえばもはや彼が悪魔界に帰るのを妨げるものは何もない。

 アイゼルはジェイコプスに願いを言ったが魂の漂白によってその契約はリセットされていた。

 

「というわけでさらばだ!」

 

「そんなこと……、させるわけないでしょ……。アイゼル様を愚弄した罪を償え……」

 

 巨大化を解除し、元のサイズに戻ったジェイコプスが悪魔界に繋がるゲート開く。

 それを潜ろうとした瞬間、ぞっとするような憎悪の籠った声がした。

 呟くような小声でありながらも籠められた感情の大きさゆえに聞き逃すことが出来ない。そんな声だった。

 

「げえっ!ゲートが消えたっ!!」

 

「ふ、ふふ、この迷宮はもはやわたしのもの……。転移なんて許さない……」

 

 ミラクルの侵入を防ぐために研鑽し、悪魔の解放を許した自責の念で更なる進化を遂げた空間魔法のジャミングという特殊な技術が悪魔の願いを打ち砕いた瞬間だった。

 

「おお、感謝する。異人の娘よ。さぁ!決着を付けようぞ!!」

 

「はっ!冗談!!」

 

 ジェイコプスはすべての腕を地面へと伸ばした。その握力で地面を強く掴む。

 そして悪魔は腕に思い切り力を込めてパチンコのように飛んでいった。

 

「っ!?はぁぁっ!」

 

 狙いはザビエルと切り結ぶ謙信、だが悪魔の邪気を感じ取った謙信は咄嗟に身を捻ってそれを躱した。

 

「外れちまったか……。だがまあ、こっちでも俺はかまわねー」

 

「がっ、なっ、貴様ぁぁ」

 

「はっはー、旦那もだいぶ弱ってんなぁ!あの黒の炎、あんなナリして聖なる炎かってくらい悪魔にとっちゃきついんだから参るぜ。だがまあ、それなら聖獣様にとっては美味しいエサってことだよなぁ!!!」

 

 無数の腕がザビエルを拘束する。そのままジェイコプスはその場でブリッジをして、その勢いでオロチに向かってザビエルを投げた。

 元より飢えていたオロチは大喜びでそれを丸呑みにした。

 

「がぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 オロチの雄叫びが上がる。その声は久方ぶりのまともな食事の喜びに満ちていた。

 

「はははははは!!!!さぁて!何が起こるのかなぁ!!!」

 

 固唾を呑む周囲を嘲笑う悪魔の声だけが響く。

 次の瞬間、オロチの首の一本が真っ直ぐ天を衝く。その蛇が目を開くとそこには篝火のように黒い炎が宿っていた。

 

「悪魔風情が……」

 

「は?」

 

 嘲笑をあげて開いたままの悪魔の大口から乾いた声が漏れる。

 黒い炎の目の蛇が発したのは間違いなくザビエルの声だった。その口が開き、黒の炎が放射される。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

「まさか……。オロチがザビエルの魔血魂に乗っ取られた?」

 

「まだ息があるか……。よかろう。焼き尽くさず、何度も苦しめ、殺す」

 

 正確にはオロチの首の一本か。他の首は変わらず飢えのままに暴れている。

 黒い炎の目を持つ蛇をよく見るとその頭の隣にザビエルが霊体となって浮いている。

 

「ふむ、大まかなつくりはオロチっこと同じようだな。彼女たちもその身に蛇が巻き付いているだろう?オロチに食われたものの魂を核にしてオロチの肉体の一部を与えられた存在。その一部の比率を人と魔人に合わせるとオロチ本体の頭一つ分になるということだろう」

 

 ミラクルの解説を聞いて一応納得する。オロチの脱皮の際、発生する妖力によって妖怪が生まれる。オロチの折れた牙から生まれた妖怪がいる。妖怪は人の魂を核にして生まれることがある。

 この三つを合わせて考えればオロチの肉体の一部が、妖怪に転じ、それが魔血魂によって魔人になったというのは論理的な帰結だ。

 

「がぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 ザビエルが喉を鳴らす。本能的な恐怖を感じさせる音に兵たちに怯えの色が走る。

 ただしザビエルの狙いは恐慌をもたらすことではなかった。黒いわたしに強烈な熱と圧力がかかる。

 

「不味い。不味すぎる。口直しだ。貴様らは一人残らず生きたまま喰らってやろう」

 

 黒い炎とともに黒いわたしが吐き出された。地面に思い切り叩きつけられ、激痛が走る。元より胃酸で溶けかかっていた上に骨が複数本折れて、目を覆いたくなるような惨状だ。

 

 だがそちらはさしたる問題ではない。元より完全黒化人間は不死、そして肉体は蛇腹帷子で作ったものだ。

 つまり魂さえ回収出来れば何の支障もない。

 

「ふむ、臓腑の一部もやつの支配下にあるようだな。もしくはすべての頭で共有する仕組みなのか。何にせよこれで黒化人間を喰らわせて弱体化する策は使えないな」

 

「まだ解説を続けるのですか?あなたも魔力が限界でしょうに。引いた方がいいですよ」

 

「断る。王たる余が敵に背を向けるなどあり得ぬ。確かにJAPANの民を統べるのは帝、上杉謙信かもしれぬが、余は王を統べる王だ」

 

「ふふっ」

 

 彼女の気丈さには関心を通り越して呆れすら覚える。だがそのおかしさで少しだけ気力が湧いてきた気がした。

 

「しゃああああぁぁぁああああああ!!!」

 

 ザビエルの宿っていないオロチの頭が襲いかかる。ガーネットたちがなけなしの魔力でバリアーを貼るが全力のオロチの熱線はそれを容易に貫くことだろう。

 

「ラーンス!アタッーーーク!!!!」

 

 その頭を別の頭を踏み台に飛び上がった剣士の一撃が炸裂した。不意の一撃に熱線があらぬ方向に飛ぶ。

 

「アイゼル様!痛いの痛いの飛んでけー!!」

 

 そして回復魔法によって僅かなりとも動く力が戻った。剣を握りしめ、立ち上がる。

 

「そうですね。まだ戦う者がいる以上、主たるわたしが引き下がる訳には行きません」

 

 帝となった謙信がいる。かつて魔王すらも打ち倒したランスがいる。

 オロチと魔人如き何するものぞ。

 

 

 

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