ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
使用者にリスクがあったりするとなお良し
SEKIROの不死斬りのようにそのデメリットを踏み倒すような使用者との組み合わせにはワクワクします
「悪魔を生贄として神殺しの武器を作る。大変興味深い試みです」
「ええ、これで神の忘却に一歩近づくことでしょう」
世界中の人間の魂を黒く染め上げんとする組織、導く者-シュメルツ・カイゼリン-。黒い魂は神には見ることが出来ない。それを以て神に玩弄されるだけのこの世界の人類に救済をもたらそうとする危険な思想集団であった。
その秘されしアジトの一つにわたしは訪れていた。AL教の情報網、オーロラたちによる諜報を駆使して突き止めた、ある森の中に秘された場所だ。
魂の枷と呼ばれる黒い腕輪で魂の汚染に伴う自殺衝動を抑えていたとしても、汚染人間はわたしにとって扱いやすい相手だ。魂を黒化し、認識阻害の効果を持つマジックアイテムの仮面で顔を隠し、信徒を装うことで、容易に潜り込むことに成功していた。
思想の伝播によって勢力を拡大していき、外部の人間の引き込みも積極的に行なっている集団ゆえの構造的に仕方のない隙ともいえた。
そもそも魂の黒化をして理性的な思考が出来るのは自分たちのみという思い込みもそれを助長した。
「今回は生贄となる悪魔を提供していただけるとのこと、大変感謝いたします」
「封じたはいいものの持て余していたところです。お礼を言うのはこちらの方です」
導く者が企んでいた悪魔を生贄とした魔剣カオスの強化。原作では人間の子供を孕んだことで悪魔界から追放されフェリスを生贄にしようとしていた。
これを利用させてもらうことにしたのだ。
強力な武器が手に入る上、厄介な悪魔ジェイコプスを処分出来る。
「あら、珍しいお客様がいらしているのね?」
そこに漆黒の聖女が現れた。
小柄な体躯に銀色の髪、露出の多い漆黒のドレスでありながらどこか神聖さを感じさせる立ち姿。愛らしい
導く者その人、アム・イスエルがそこに居た。
「これはこれは、お初にお目にかかります。アム様」
「ええ、こちらこそ。あなたのご活躍は存じてありますよ。AL教司教アイゼル様」
AL教の司教という単語に導く者の信徒たちの間に動揺が走る。神殺しを目論む導く者と神を信仰するAL教は相容れない敵同士だ。
最近ではムーラテストの功績稼ぎも兼ねて積極的に彼らを取り締まりつつある相手でもある。
しかし、教主であるアム自身には恐怖も敵意もない。彼女にとってはAL教を信じる者たちも、救済の対象でしかない。
原作ではムーラテストに破れたオズ・トータスやローレ・エンロンも取り込もうとしていたから、それだけでわたしと敵対することはないはずだ。
「それとも、こうお呼びしましょうか?魔人アイゼル」
「ふふ、我が正体を見抜かれてしまっていましたか……。AL教の信者の方々には秘密にしてくださいね?司教の地位を失ってしまいますから」
人類の天敵にである魔人も導く者、アム・イスエルにとっては利用する相手でしかない。
ケイブリス派魔人にして心優しき武人、カイトにもたらされた悲劇を思い出して内心で身震いするが、まだそれに必要な要素は彼女の手元にはない。彼女に敵対する動機はないはずだ。
「へえ、こんなイケメンが魔人なんだ」
「どうしてあなたがここに……!?」
だがアムに続いて現れた人物の姿を見て動揺が表に出てしまった。
アムと同じく銀色の髪の少女。だがその身に宿るのはただただ底なしの悪意のみ。赤い道化のような、魔女のような衣装を身に纏い、薄寒い笑みを浮かべる彼女の名はリクチェル・フォン・ド・コースス。
気まぐれに呪いを撒き、それによって起こる悲劇や破滅を楽しむ、恐ろしい魔女だった。
そして呪いこそが魔人カイトを恐るべき汚染を拡散するだけの存在へ貶めた鍵となる要素だった。
内心の思考が拡散してしまう拡散モルルンという呪い。これ自体は呪われた者に羞恥と不利益をもたらすだけの比較的
しかしこれが黒い魂の人間に施されると周囲の人間にその汚染された思考をばら撒き、伝染させるという恐ろしい存在になってしまう。
伝説的格闘家であり無敵結界によりほとんど不死身なカイトがこれに貶められたことで,封じ込めることも殺すことも不可能なとてつもなく危険な存在となってしまった。
ここに魔人、アム・イスエル、呪いの使い手、あの悲劇を構成する要素が集ってしまった。警戒と恐怖が顔に出てしまっても仕方がないといえた。
「んー?リクチェル、アムちゃんとはお友達だから遊びに来ただけ。悪魔にも興味あったし」
「ねえ、アイゼル。わたし、あなたともお友達になりたいわ」
漆黒の聖女アム・イスエル。彼女のもっとも恐ろしい点は、自分から魂を汚し尽くす、決して諦めることのない精神性だ。
そしてその次に恐ろしいのが、話術レベル3によるコミュニケーション能力。例え不倶戴天の敵であろうとも彼女の言葉には耳を傾けざるを得ない。
「あら残念。あなた、自分で自分の心を固めちゃってるのね。それにこの力……。わたしの天敵ということかしら」
「念の為に、あなたの言葉への対抗策を備えておいて正解でした」
アムの洗脳は、彼女自身が他者の心に入り込むという形を取る。それを媒介するのが言葉だ。
ならば自己洗脳によって自分の精神の動揺を封じ込めてしまえばいい。そして彼女の存在が心に潜り込んでくるということは、わたしからも彼女の心に触れられるということだ。
魂の汚染の吸収、完全汚染人間であるアム・イスエルにとっては大した痛苦ではないのかもしれないが、神に認識されないという性質に僅かな綻びでも生じてしまえば、それは彼女の破滅を意味する。
わたしの考えた対策は彼女が警戒し、直接的な洗脳を躊躇させる程度には役立ってくれたようだった。
「アム・イスエル。わたしたちに敵対する理由はありません。協力関係を結びませんか?」
「あら、だったらあなたの目的を教えてくれないかしら?」
「わたしは神を利用したい。あなたは神を殺したい。神からの支配を厭う者同士協力の余地はあります」
わたしとしても狂的な信念の持ち主である彼女を洗脳出来るとは思えない。
魂の黒化を伴う洗脳がとてつもなく強固であることは、わたし自身が一番良く知っている。
「くすくす、おかしなことを言うのね?それじゃあどうやっても無理だと思うのだけれど」
「そうですか?あなたが神を殺そうとして少しでもその力を削ぐことが出来ればわたしの目的は達成しやすくなり、わたしが神を利用しようとして少しでもその力を削ぐことが出来ればあなたの目的は達成しやすくなる」
そして、少なくともわたしたちがぶつかり合うことはどちらにとっても利にならない。
「ふうん、でも神の配下であるあなたは神に命じられればわたしを捕らえに来るんじゃないかしら?」
「ええ、それは当然。あなたを倒せば神の信頼を得られ、わたしの目的に一歩近づきますから。ですがわたしを返り討ちにすればあなたはわたしの持つすべてを手に入れられる。それは神殺しの役に立つのではありませんか?」
「つまりは時間制限ありの不可侵協定を結びたいってことかしら?いつでもお互いを裏切っていいし、いつでもお互いを利用してもいい」
「アムちゃん、拡散モルルンいっとく?あれは直接的な危害は加えない呪いだし、無敵結界も効かないかもよ?」
「いいわ、確かにここで暴れられてもわたしたちに得はないもの」
「では契約は成立ですね。お近づきの印に、悪魔を一体提供させていただきます」
「ふふ、ありがとうね。このお返しはきっとさせてもらうわ」
アムとリクチェルとの遭遇というハプニングはあったものの、最初の目論見通り、悪魔ジェイコプスの処分は出来そうだった。
協力な術者であるアムやリクチェルがいるのだから、確実性が上がったともいえる。上出来な結果だった。
◆ ◆ ◆
「あっちっちっちっちっち!!」
「あらあら、大変そうね」
城の最下層からザビエルの黒の炎がついたまま、ジェイコプスを取り出して放り投げる。
「うおっ!すげー黒い魂の子がいる!!ぎゃはははははー!!いっただきー!!」
アムのような完全汚染人間の魂は悪魔にとって宝石のような価値を持つ。ジェイコプスは燃やされる面積を最小にするべく縮めていた身体を、大きく膨らませてその勢いでアムに襲いかかった。
「神聖分解波」
「ぎゃあああああああ!!」
「乱暴な子ね」
黒い魂を刈り取る悪魔は、神に見放された者たちにとって唯一の安息をもたらす存在でもあったが、アムは躊躇なく神魔法で撃退した。
「ふーん、これが悪魔かあ。ピンキーみたいな姿をしてるのね」
「よお嬢ちゃん。俺と契約しないかい?」
「何が出来るの?」
「気に入らないやつを呪ったり、殺したり。なんだって叶えてやるぜ」
「自分で出来るからいーらない」
ジェイコプスはこの場にいる第三者、リクチェルと契約してこの場から逃げ出そうと画策するもすげなく断られてしまっていた。
自身の感情のまま、気ままに生きているリクチェルは、さぞかし白い魂をしているのだろう。契約によって魂を汚すことが出来なければどうにもならないようだった。
もちろんわたし自身も魂を白く漂白している。この場にジェイコプスが無理矢理憑依して肉体を奪える相手はいなかった。
「第四階級魔神ジェイコプス、どうぞいかようにでもお使いください」
「まあ、素晴らしいわ。かなり上級の悪魔ね。これで魔剣カオスさえあれば最高なのだけれど。アイゼル、あなた持ってないかしら?」
「いいえ」
アムが用いるAL教の秘術によって、悪魔は魔法陣の上に拘束された。
原作で贄に使おうとしたフェリスは元第六階級の悪魔。それより二つも上と思えば上々といえる。
さらなる成果を求めるアムの質問にはしらばっくれる。
神殺しの魔剣というものがどういうものになるか分からない以上、魔剣カオスを素材にさせるつもりはなかった。
「まあまあ、わたしの作ったこれもなかなかのものよ」
そう言ってリクチェルが差し出したのは禍々しいオーラを放つ一本の剣だった。
作りそのものに奇抜さは無いが、思わず手に取るのを躊躇したくなるような呪いの気配を纏っている。
「これを悪魔に突き立ててれば儀式が始まるのだけれど……、アイゼル、頼んでもいいかしら」
「おや、わたしがそのような大役をやっても良いのですか?ここはやはりあなたがやるべきかと思いますが」
「わたしの腕力では悪魔を刺し貫くなんて出来ないもの。他の子たちを悪魔の前に出すのは危険だし」
何度も繰り返すようだが、わたしの目的は厄介者の悪魔の処分だ。
そしてこの状況ではアムたちがそれを妨害することは出来ない。黒い魂の持ち主ばかりの導く者は悪魔にとって格好の狩り場だからだ。
フェリスのような騙されやすい、人間に近い性質の悪魔ならどうとでも出来るのだろうが、凶暴で人外そのもののジェイコプスを制御出来るとは思えない。
だから彼らは自分たちの安全のために、悪魔を贄として排除しなくてはならない。
「ではその役目、仕らせていただきます。さようならジェイコプス」
「待て待て待て待て!何だってんだこの魔法陣、やばい気配しかしねぇ!なあアイゼル、お前の願いを何でも叶えてやるから助けてくれよお!!」
「断る」
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」
呪剣の鋒を突き立て、力を込めると聞くに耐えない絶叫が響いた。それに顔を顰めながらさらに深く深く剣を押し込み心臓を貫く。
魔法陣が輝き、剣にジェイコプスの肉体が吸い込まれていく。排水口に大量の髪の毛を流したような、おぞましい光景。
ジェイコプスは床に爪を立てて抵抗しようとするものの、最後には爪が剥がれて全身が一振りの剣へと吸収されていった。
剣を刺した傷口から溢れた血の一滴や体毛の一本も残っていなかった。
「ふふ、せいせいしました。……げほっ!?」
貫く相手が消失した剣が床に突き刺さる。それを引き抜くと凄まじい吐き気がして、血の塊が口から溢れ出る。
「ふふっ、命を奪う魔剣の呪い。悪魔の力を得たことで無敵結界を貫通したようね」
「なるほど、そういう算段でしたか……」
不死身の完全汚染人間にしか扱えない魔剣。なるほど神殺しには相応しい性能だろう。
だが、魔人の生命力はそのダメージを耐えきり、魂の黒化が間に合ってくれた。
呪いは最初に引き抜いたときだけのようで、内臓を不潔な獣の爪で引っかかれるような苦痛は次第に引いていった。
「くすくす、魔人程度に耐えられるということは神殺しにはまだ不足かしら。ありがとうね、アイゼル。あなたのおかげで神と対峙する危険を犯すことなく、性能を試すことが出来たわ。お礼にその剣はあなたにあげることにするわ。どうせ、最初からそのつもりだったのでしょう?」
「ふふ、ありがとうございます。感謝しますよアム・イスエル。これでわたしは更なる力を得ることが出来た」
剣を持ち上げる。剣とは思えない重量とそれを軽々と持ち上げる膂力を自身の内側に感じる。
軽く剣を振る。重量によって高速で振り下ろされた剣をピタリと虚空で止めることが出来た。
獣の如き膂力の付与。わたしに欠けていた近接戦闘能力を補える性能に笑みが零れた。
「銘は……、少々不吉な気もしますが猿の手としましょうか」
「わたしが作ったのだからわたしに命名権があるべきよ。
こうしてわたしは悪魔を排除し、更なる力を得ることが出来た。
アム・イスエルとリクチェル・フォン・ド・コーススという最悪の組み合わせを早めに察知できたのも大きい。
苦痛による引き攣りよりも強く、わたしの顔は笑みを作った。
今回はえっちシーンなしですが邪魔者の悪魔もいなくなったことですし、次はいよいよあのキャラです
思えばジェイコプスには思いつきで出したキャラの癖に散々苦しめられた気がします
おかげでJAPAN編のラストバトルが派手になって良かったとも言えますが
彼を悼んで感想に弔辞のコメントをいただければ幸いです