ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「皆さんお久しぶりです。ムーラテストも終わり、今日この場所で新たな法王が決定します。信仰と功徳によってALICE様がお選びになるのを慎んで受け入れましょう」
AL教総本山、川中島。その本部の宗教都市カイズの、地下最深部。
次代のAL教の法王候補である四人の司教が集まっている。
わたし、クルックー・モフス、ミ・ロードリング、オズ・トータス。
その中で最年長であり、最大派閥を率いるオズ・トータスが口を開いた。今から数時間後、女神ALICEによって法王が選ばれることになるが、すでに彼は自身の勝利を確信していた。
「ええ、すべては今日この日のために。ALICE様に我が信仰を知っていただける。それだけでこの上ない名誉です」
「ふふっ、ロードリングくんは相変わらずですね」
トータスは笑う。それは嘲弄の混じった笑みだった。
ロードリングが行っていたのは辻ヒーリングなど個人的な活動のみ。
バランスブレイカーの回収や悪霊の退散、汚染人間の封印などを集団で行ってきた自分に功績で勝るはずがない。
「すべてはALICE様がお決めになること。ええ、その通りだと思います」
クルックーがトータスの言葉に同意する。彼女もまた、ほぼ個人での活動しか出来ていない。ランスと共にいくつかのバランスブレイカーを回収したことを知っているが、その数はトータスには及んでいない。
「人事は尽くしました。ならばあとは天命を待つのみです」
「ええ、ALICE様の御心のままに」
トータスの顔から微笑が消える。彼にとってわたしは自身の勝利がほぼ確定していたムーラテストにおいて唯一の不確定要素だった。
トータスにとって四人の司教のうち唯一自身のライバルといえたのはローレ・エンロンだったが、派閥の規模から言って勝利する目算は十分にあった。
その彼の地位を継いだわたしを彼は随分と調べていたようだが、さて、どこまで暴けたものだろうか。
「司教たちよ。今から汝らを天界へと誘わん」
探るような視線を交わしながら、黙して待っていると前触れなく眼前が眩いばかりの光に満たされた。
天界、光輝に満ちた世界。敬虔な信仰者であるクルックーやロードリングはもちろん、酷薄な為政者であるトータスもまた敬服した様子で跪き、祈りを捧げていた。
わたしもまたそれに倣う。わたしにとって最大の恐怖、魔王ジルすらも上回る力に心胆が凍る感覚を覚える。
「一人ずつ、法王に相応しくないものから下界に帰す。最後に残ったものが法王となる」
人間味を感じない言葉。何も知らなければ神聖さゆえの隔絶と感じるのだろうが、わたしはこれが単純に彼女が我々をただの玩具としか捉えていないがゆえのものと知っていた。
「まずはお前」
「無念……!」
ロードリングの姿が消え、地上に帰還する。法王に選ばれなかったものはカイズの地下に戻され、法王が決まるのを待つことになる。
「次にお前」
「残念です」
クルックーも地上に帰還する。彼女も、ロードリングも、特に血生臭い事件は起こしていないようだ。
ゆえにこれは当然だと言える。
「そしてお前」
「なっ……!?」
トータスの姿が消えた。並んで跪いているがゆえに見えなかったが、その表情はさぞや驚愕で彩られて見ものだったに違いない。
そしてこれでわたしが法王となることが確定した。
その事実に安堵と絶望の相反する感情を抱く。
安堵はわたしが行った偽装工作が見破られなかったということ。
もし見抜かれていたのならば、順当に点数を稼いでいたトータスが法王になっていたはずだ。
そういう意味ではわたしは彼に感謝していた。神の目をどこまで欺くことが出来るかを計る。そんな危険すぎる行為を最小限のリスクで行うことが出来た。
仮に見抜かれて彼に敗れたとしても、トータスを消してしまえば容易に法王の座を得ることが出来る。なんとも都合のいい資金石だった。
そして、絶望はこれより神の操り人形たる法王にならねばならないということ。法王はまず最初に神に決して逆らわないように生と死を、幾千、幾万と繰り返されて心をへし折られる。
その後も少しでも女神ALICEが疑念を抱く度に同じ地獄を受けることになる。
「おめでとう。これよりあなたは法王ムーララルーとなるわ。法王としてわたしの意思を代行する使命を果たしなさい」
「はい、この上ない光栄でございます」
そして、わたしも地上に帰された。
◆ ◆ ◆
「何故です!なぜあんな得体の知れない男が法王になるのです!?」
「落ち着いてください。トータスさん。これも女神ALICEのご意志です」
「いいえ!いいえ!そんなことは絶対にあり得ない!!」
地上に帰ると激昂したトータスが議場の机に拳を叩きつけているところだった。
「戻られましたか、アイゼル殿……。いいえ法王ムーララルーとお呼びしなければなりませんな。申し訳ありません。トータス殿はあまりのショックに正気を失っておられるご様子、すぐに鎮めますので、何卒寛大な処罰を」
「はっ!そんなやつに媚びを売っても何の意味もありませんよ!何故なら……、何故なら……そいつは人類の天敵たる魔人なのですから!!」
「ほう、よくぞそこまで調べ上げましたね」
わたしのリーザスでの動きは、女王リアによって緘口令が敷かれている。リーザスの推薦を受ける彼が、女王の手を掻い潜って知ることが出来た可能性はほぼないだろう。
だとすればもっと昔、第一次魔人戦争の記録でも紐解いたか。
禁忌とされている聖魔教団の記録を調べるというだけでも彼の権力のほどが伺えるが、驚愕すべきはそこに辿り着いたことだ。
DX会やコパ帝国といった後ろ暗い金の匂いがする繋がり、いわばミスリードに引っかからずに真実を調べ上げたことは賞賛に値する。
わたしはどうやら彼を見くびっていたようだ。
「どうしました!?ぐうの音も出ませんか!?それとも伝説の無敵結界があるからと安堵しているのですか?この!AL教の存在に魔のものが足を踏み入れたのが運の尽きと知りなさい!」
「魔封印結界ですか……。それもAL教に伝わる聖遺物を使った強力なもの。ふふ、腐っても聖職者ということですね」
室内が魔力の輝きで満ちる。予想だにしない事態や逆境には弱いが、用心深さと周到さはかなりのもの。それがオズ・トータスという人間か。
使える。わたしは魔封印結界を砕きながら内心でそう結論付けた。
魔封印結界で四天王クラスの力ある魔人を封印するのは不可能だ。わたしも最低限そのラインには達していた。
「な……、なんということだ……」
「くくくっ。神のしもべたちの巣窟に攻め込む者など、よほどの愚者かよほどの強者しかいませんよ。わたしが愚者に見えましたか?さて、法王の最初の命令です。オズ・トータス、わたしに従え」
「くっ、ぐうう〜〜〜。かしこまりました」
それであっさりと決着はついた。
◆ ◆ ◆
神々の趣向を思えば、法王特権の説明や神魔法レベル3の付与などが行われる前に一度地上に戻されるのは暗殺を誘っているのかもしれないと思った。
これでわたしが死んでいたら繰り上げでトータスが法王となっていたはずだ。だがどちらかというとこれは女神の慈悲なのかもしれないと思った。
「がはっ!ぐえっ!げほ、げほ!」
「うーん、魔人が法王になるなんて前代未聞なのよね。まあお前の能力は法王に向いているのは確かだからいいとは思うのだけど、ここ最近の各国の騒動がこじんまりとしてしまっているのもお前のせいだと思うのよね」
無数の剣が、手を、足を、臓腑を貫いていく。一通り全身を貫いたところで今度は指から順に切り飛ばされる。
魔人の生命力ゆえに長く苦痛を味わったのちに首を跳ねられ、トドメを刺される──までがワンセット。
そこから魔血魂になることも叶わず再生させられ、再び剣が体の各所に突き刺さる。
「べ、べがび……あ゛りずざま……。べ、弁解を……」
「許すわ」
体が治る、また剣が刺さる。相変わらず一定のペースで体の各所に穴が空くが、胸や頭には剣が飛んで来ない。
「だいにじ……、まじん、ぜんぞう……。ごれぼ、ルドラサウム様にお楽しみいただくために……犠牲は、多い方がよいと愚行、じました……」
「ふーん?ま、今回のムーラテストでカラーの虐殺なんてこともやってくれてる訳だし、そこはそれでいいわ。何百年も生きた魔人が、今更心変わりしたってのもあり得ない話だし。ただ……、あんた何か企んでない?」
手脚を串刺しにされながら、無事な口舌を動かして苦痛とともに言葉を吐き出す。
言い終わった瞬間、心臓を貫かれ、断末魔も上げる間もなくわたしは死亡した。
「告白します……うぐっ!わたし、は……、魔王になりたいのです……」
「へえ」
発言一回につき拷問と処刑を一回。そんなだからわたしに野望を秘める気概など保てる道理などない。
「今の魔王を元の世界に帰す手伝いをして魔王の座を譲ってもらう、ねぇ。そのために禁忌とされる魔法の知識が得られる、法王の地位が欲しかったと。人類を束ねる法王が魔王になるっていうのもなかなか面白いとは思うのだけれど、AL教っていうこの窓が無くなるのは面倒なのよね」
「ならば、AL教同士で殺し合わせれば、いい。わたしという法王を生んだ、派閥にすべての責を押し付け……ぐえっ!」
「続けて」
「わたしの派閥を弾劾する派閥に……、すべての不満を吸収させ集約させる……。結局のところ、魔王の支配の憂さ晴らしが出来れば、正義など……何でも良いのです。それが、かつての魔王と同胞だった組織でも」
「人間ってそこまで愚かなのかしら?まあわたしよりはあなたの方が人間のことはよく知っているわね。悪くないわ。あなたの野望、応援してあげる」
「か、感謝じまず……」
「だから、ま。あと百回くらい殺したら終わりにしてあげる。丈夫な分死ぬに死ねないで一回あたりの苦痛も大きいみたいだし」
この苦痛を味わうくらいならば、トータスに素直に暗殺されていた方がどれだけマシだったことか。
◆ ◆ ◆
「お疲れ様です」
「な、なんなのです……!?あなたは!?」
天界から下界への帰還。薄暗い室内にこの上ない安堵を覚える。
だが何者かに声をかけられた瞬間、安らぎを与えてくれた闇の帷は、恐怖をかき立てる存在となった。
ここ、託宣の部屋に居たのはわたしだけだったはずだ。それなのに誰かの声がする。
「ふふ、わたしですよ」
「わたし……なのか?」
のそりと立ち上がる人影。顔立ちも、姿も同じはずなのに、どうしてか凄まじい違和感を覚える。
「お疲れ様でした。苦痛も、記憶も、わたしに渡して楽になってください」
そう言うとわたしはわたしに手を伸ばす。楽になる、その言葉にどうしようもなく惹かれたわたしも手を伸ばして、指先同士が触れた瞬間、すべてを思い出した。
「ふふふ、ふふふ、ふははははははははははは!!!」
託宣の部屋に笑い声が響く。痛みなど知らぬとばかりに笑う完全汚染人間がただ一人、そこには立っていた。
本当ルドラサウム世界は地獄だぜ!
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