ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
今年もよろしくお願いします
新年最初の更新はバトル回です
ヘルマン帝国ババロフスク強制収容所。
ステッセルにとって不都合な人間たちが囚われているここは、マッドサイエンティスト、オアマ・モトヒーデの研究所となっている。
その研究の目的は、不死の兵団。
その実現のために人間とモンスターを合成する狂気の実験が行われていた。
その強烈すぎる狂気ゆえに、その目的の実現自体は叶わないものの、オアマの能力自体は優秀であるため、有用な副産物をいくつか生み出していた。
暗殺者フレイアが使う武器、液体金属生命体海苔巻。
ぷりょの分身能力を持った人間、ピグ・ギリシアム。
彼はそれらの成果よりも自身が次代のメインプレイヤーであると考えているイカマンを研究の主題に置いているため、それらには特に頓着していなかった。
だが、そのイカマンについても雑魚モンスターであるはずのイカマンと才能限界が10にも満たないだろう人間を材料に極めて高い戦闘力を持つ改造人間を製造していた。
彼が狂気に堕ちていなければと嘆息せざるを得ないが、それでも貴重な研究成果を根こそぎ奪うために、革命軍は狂気の研究を終わらせるために、彼の研究所に脚を踏み入れていた。
「ふんっ!なかなか、分厚いだけあってしぶとい……。そしてこの体色、わたしが知るものとは違う……!」
改造イカマン人間の頭に魔剣を叩き込む。
イカマンの柔軟性はそのままに巨大化させた身体は、分厚い筋繊維の塊となっており、剣は切り裂くというより叩き潰すという形になっている。
わたしの使う魔剣、猿の手が重さと威力に特化した大剣であることを差し引いても厄介な性質だ。
なまじ魔剣によって膂力が増しているため、横に振り抜くと敵を吹き飛ばしてしまう。
人間や魔物ならば、勢いよく地面に叩きつけられれば骨折の一つもして大きく戦力を削がれるが、こちらは二足歩行をしているくせに軟体動物だとでも言うのかあっさりと立ち上がって再び襲いかかって来る。
その体色は黒く染まっている。漆黒のイカマンといえば、原作の知識からあるカラーの成れの果てを連想するが、ここでは関係ないだろう。
「ふふ、やはり悪魔とは予定調和をご破産にしてくれる存在のようですね……。火爆破!!」
爆炎で吹き飛ばして無理矢理道を開く。
体が燃えているというのに立ちあがろうとしている姿に驚異を感じながらも、研究所の奥深くへと突き進んで行った。
「革命軍の方もこれでは苦戦を免れないでしょうね……。前衛と後衛がバランス良く揃っているなら、やられることは無さそうですし、あちらには囮になってもらうとしましょう」
進軍速度というのは、人数が多いほど遅くなる。
それは数十人の集団と一人でも同様だ。だが逆に戦線を維持するという意味では当然ながら頭数は多いに越したことはない。
ランスたちは屈強な戦士に強力な魔法使い、軍師や回復役まで揃えた集団なら持ち堪えることは訳ないだろう。
◆ ◆ ◆
「やはり悪魔でしたか……。召喚者はアム・イスエルですか?」
「ふふ、それは守秘義務でございますなぁ。代わりにわたしの名を名乗らせていただきましょう。悪魔、ラブクラフトンと申し上げます。以後お見知りおきを」
ラブクラフトン、彼はイカの姿をした悪魔だった。
イカマンではなく、前世のわたしが知るようなイカに近い、細長い触腕。
ただし脚の数は十を優に越え、無数の脚が黒い角帽から生えている。
色こそ白だが、そこは悪魔らしく濁った色合いで不安感を掻き立てる。
それこそ冒涜的とでも表現すべき異様さだった。
「……神に仕える法王として、悪魔と長い付き合いなどしたくはありませんね」
「くはははは!そのような黒い魂をしておいて抜け抜けと!ああこれは垂涎物の魂だ。しかも異世界のものともなれば、ある意味あの方に匹敵します!」
立ち振舞いと声色こそ、理知的な素振りをしていたが、やはりそれは上っ面でしかない。
わたしの魂を見た彼は、悍ましい笑い声を上げた。
身体をくねらせて体表の粘膜を泡立てる様は、涎を垂らす獣にも剥き出しの内蔵にも似て、肌が粟立たつ心地がした。
「語るに落ちていますよ。悪魔など信頼商売でしょうに。ジェイコプスもそうでしたが、あまりにも悪辣な真似をすれば誰も悪魔に縋らなくなりますよ?」
「それは下級の悪魔たちに限りますな。我々のような上級の悪魔は貴重な魂を刈り取ることこそが肝要。そしてそのためには手段など選んでいられません」
「なるほど、詐欺師の類ですか」
確かに、アム・イスエルのような完全汚染人間などそうそういるはずがない。
人間には魂が汚染された際に、それ以上の汚染を防ぐために自殺するように作られている。
魂の枷のようなアイテムでそれを抑えたとしても、出来上がるのは自殺すら億劫なほどの無気力な人間だ。
更なる魂の汚染を目指す、そんな方向性は望むべくもない。
結論として、完全汚染人間になれるのはアム・イスエルのように強力な精神力を持ったある種の求道者に限られる。
魂の汚染は伝染する性質こそ持つが、それによって量産が叶うかといえば否だ。
天使やAL教によって即座に捕らえられ、封じられて悪魔が手に入れることが出来なくなってしまう。
故に魂を汚染しながらも強靭な意志を持ち、神々にとっても警戒対象になりかねない希少な魂の持ち主は、悪魔の中でも強力な存在が担当するのは理に適っている。
そう理解しても、人間や下級の悪魔たちを見下した言動に嫌悪感が湧き上がってくるのはまた別の話だ。
同族嫌悪の類かもしれないと思いながらも、どうせ敵なのだから殺意と悪意を向けることを躊躇う理由など一つもない。
「ふふふふ!あなたの魂を刈り取り!イスエル様の魂もいただく!!モトヒーデ様!あなたの体をお借りします!!」
大量の触手がどうやってか角帽子に収まる。そのまま角帽が傍らに倒れていた
それが立ち上がって人間だと、この研究所の主人であるはずのオアマ・モトヒーデだとようやく気づく。
それだけ彼は消耗しており、部屋の中の大量の実験器具やサンプルに紛れて、ただの風景の一部としてしか認識出来ていなかったのだ。
「ふふふふ!人間にしてはなかなか優秀な頭脳の持ち主です。願いも単純明快なおかげですぐに汚染することが出来ましたしね。改造人間の短い寿命の延長。ええ、不老不死の願いを叶えるのは悪魔には慣れたものですとも」
「なるほど、無理矢理自由を奪って自殺を封じているわけですか」
自殺の手段を奪うことで魂の汚染率を上げてからの回収が可能になる。
確かに効率的な手法と言えた。
「出でよ!改造イカマン人間共よ!そしてハートブレイクホテル!」
背後を含めて四方の扉から改造イカマン人間が襲来し、巨大な水槽が割れてイカと恐竜を組み合わせたような怪物が出現する。
中には確実に致命傷を与えたはずの個体も含まれており、悪魔のもたらす術らしくネクロマンサーの技能によって操っていることが伺えた。
「うう……あ……」
人生を賭していた研究成果が悪魔に言いように扱われ、研究の記録やサンプルまでも踏み荒らされていくのをモアマは絶望に満ちた目で見ていた。
自業自得と言ってはそれまでだが、その光景は破れた際の末路を想像させるのには十分だった。
「神よ……。我に悪を撃つ力をお与えください。神聖分解波!」
噴飯もののセリフだが、一応それらしい言葉を言って神魔法を行使する。
法王特典の一つである技能レベル3の神魔法によって、起き上がった死者たちは次々と倒れていく。
だがそれでも多勢に無勢という状況を覆すには至らない。
悪魔に特効となる神魔法でラブクラフトンを狙うも、ハートブレイクホテルの肉壁によって防がれてしまう。
「単騎で来るとは愚かでしたね……。圧倒的な物量差の前に絶望するがいい!」
「わたしが一人だと誰が言いました?」
「何ですと?」
「数には数で対抗させて貰いましょう。ピクライト、解放」
右手の指に嵌めた四つの指輪、そして四つの宝石。そのうちの一つ、黒い玄武岩に白い結晶が散りばめられた宝石が光を放つ。
その色と光はとある使徒を象徴していた。
「我が城より来たれ。ゲンジ」
ザビエルの使徒たちは、人間の体に封印され、その子孫たちに受け継がれていた。
そしてその存在は陰陽の召喚術によって一時的に解放することが可能だった。
それは命掛けの禁術と言うべきものだが、洗脳で使徒を支配し、不死身の汚染人間であるわたしならばそのリスクを無くすことが出来た。
まずは使徒魔導の力を解放し、異界の我が城から戦力を召喚した。
数が多い改造イカマン人間にゲンジをあてがう。
進軍速度というのは、人数が多いほど遅くなる。
ならば、
「まだです!こんな雑兵など蹴散らして差し上げます。行きなさい、ハートブレイクホテル!!」
「アンバー、解放」
ラブクラフトンをガードするように側に控えていたハートブレイクホテルがその巨体で襲いかかってくる。
次に解放するのは琥珀の宝石。猛獣の雄叫びにも似た雷鳴を轟かし、雷獣が突進して巨大なイカと激突する。
使徒煉獄、その本性たる白虎の力だ。
通り道に居た改造イカマン人間も雷によって麻痺し動けずにいる。
「ラピスラズリ、解放」
「あはははははははははっ!!!」
「おのれぇぇぇぇ!!」
瑠璃の宝石が輝き、使徒式部が召喚される。
露払いを彼女に任せて、ラブクラフトンへと共に突進していく。
彼女は改造イカマン人間たちをその異形の右腕で取り押さえて、左腕の怪刀、七人首で刈り取っていく。
「喰らいなさい烏賊色破壊光線!!」
白色破壊光線とどう違うのかは分からないが、ともかく烏賊色、つまり白い光線が触手の先に充填されていく。
その魔力からはとてつもない破壊力を予感させている。
「ルビー、解放」
「かしこまりました、アイゼル様。フェニックスの炎、ご覧に入れます!!」
最後の一つ、紅玉の指輪が輝いて使徒戯骸の炎が解放される。
呼び出されたのはエイと蝙蝠と蠍を組み合わせたような真っ赤な体の怪物、それが女の声で叫んで突進する。
身に纏った炎、そしてフェニックスの不死性によって烏賊色破壊光線を相殺し、遂にラブクラフトンの目前に辿り着く。
「死になさい」
「ぐっがあぁぁぁぁっ!?」
ここならば剣の間合いだ。魔剣、猿の手の膂力の増強効果が最大限に乗った横薙ぎの一撃がラブクラフトンの本体が隠れていると思しき角帽に炸裂する。
真っ暗な体液を傷から噴出させながら、ラブクラフトンが飛んでいき、研究所の壁に激突する。
「ぐはっ、これは、油断、しました……。一旦、退散しなくては……!」
「逃すものか!」
「ま、待ってくれ!!」
その瞬間、身体が鉛のように重くなる。悪魔の階級によるものだと気づいたわたしは、魂の汚染を浄化して魔剣による悪魔化を解除する。
ラブクラフトンは必死に転移のゲートを作ろうとしていたものの、ダメージの影響が大きい。これならわたしの方が早い。
「神聖分解──」
「ひっ!!」
止めの神魔法の詠唱が終わる一瞬早く、ラブクラフトンが転移し、虚空に消えた。
殺し損ねた。ラブクラフトンのゲート作成が間に合ったわけではないだろう。彼は自身の意思ではなく何者かによって召喚されたのだ。
その召喚者は間違いなくアム・イスエルだろう。契約か何かでラブクラフトンの状態を把握していた彼女は、わたしに殺害、ないし封印される前に手元に呼び戻した。
その狙いも、おおよそ予想がついていた。
「ジェイコプスよりも上級の悪魔だったということでしょうね。とはいえ魔剣の力がなければ一撃であそこまで追い詰めることも出来なかったでしょうし、仕方ありません」
身体が重くなる程度で済んだということは魔剣による悪魔化も完璧ではなかったということだろう。
おかげで命拾いしたとも言えるが、もう少し魔剣の性能を引き出せていたら最初の一撃で仕留め切れていたかもしれないと思うと口惜しくもあった。
また上位の悪魔と激突する可能性があるのならば、別の戦術を考えておく必要があるだろう。
「うう……。わ、わたしの研究所が……」
「ふむ、あなたの頭脳には利用価値があります」
放心しているオアマに洗脳を施してから我が城の牢に放り込む。
研究所に壊滅的な被害が生じている以上、彼の研究記録を漁るよりも彼自身から聞き出した方が効率的だろう。
その後わたしは革命軍に合流し、オアマは死んだものとして報告するのだった。
◆ ◆ ◆
ラング・バウの玉座の間。そこにラブクラフトンは召喚されていた。
その場には契約者のアムは当然として、リクチェル、おまけにペルエレまでも居た。
「イスエル様……。お助けいただき心から感謝いたします……。ご安心ください、必ずやアイゼルは殺してみせますとも」
「ふふ、危ない所だったわね。その様子だとアイゼルくんにはずいぶんと追い詰められたようね?」
「ええ……。そうですな奴の手の内についても共有させていただきます。もしかすると彼奴を仕留めるためにはイスエル様にも協力してもらう必要があるかもしれません。ささ、わたしの手を取っていただけますかな?記憶を共有致します」
記憶の共有に託けて自身が今まで作り上げてきた狂気の光景をアムの脳内に叩き込む。
そうしてアムを発狂させたのちにオアマ同様に自身の傀儡として、アイゼルにぶつけて共倒れにさせ両者の魂を回収する。
彼に命を助けられた恩などという発想はない。騙し陥れ、自身が最も得をする算段をしながら触腕をアムに差し出した。
「あら、その必要はないわ。あとで直接読むから」
「はて?──ぐべっ!!?」
天井から高速で落下した
全身を押し潰されているラブクラフトンからは見えないが、それは白紙の本だった。
「だーいせいこー!!ふっふー、召喚する場所に魔法陣を仕込んでおいたらバレちゃうかもだけど天井に魔導書にして吊るしておいたら気づかないわよねー!」
「ふふ、ありがとうね」
「な、何を考えてやがる貴様らぁぁぁぁ!!許せん、許せんぞ!オレ様に捕獲され餌になるだけの小魚がぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「あら、気づかなかったのかしら?アイゼルくんが使ってる武器の材料」
紳士ぶった態度をかなぐり捨てて本性を表したラブクラフトン。
だがそんな彼の怒声などアムにはどこ吹く風だ。
「悪魔を殺して、その血肉を取り込んだ武器。前に作ったのはアイゼルくんにあげちゃったから、新しいのが欲しかったの」
「クソが、クソが、クソが!ふざけるなよ!人間風情が、悪魔を殺すだと!?そんなもの許されるはずがないだ──」
「さようなら、ラブクラフトン」
開いた状態で落ちて来た本を、間にラブクラフトンを挟んだまま閉じる。
ただそれだけなのに、上から巨大な重しがされているかのようにラブクラフトンの身体は潰れ、体液が本の横から漏れ出ている。
だがその汚れた液体も漏れ出はするものの溢れはしない。すべてページと装丁の紙に吸収されていた。
「神殺しの魔導書、アル・アジフ。これで完成ね」
無限に湧き出るかに思えた体液が搾り尽くされた頃合いでアムは魔導書を拾う。
アル・アジフと名付けたそれを開くと、大量の黒い液体で染め上げられたはずのページに、白抜きで文字が記されていた。
これにはラブクラフトンの知識、記憶、力、そのすべてがあった。
触れればラブクラフトンの作り上げた狂気の光景の記憶が流れ込むが、アムは気にも留めずにページをパラパラとめくっていく。
「あら、何か挟まってるわ」
「見せて見せて……。これ、ペラペラになったラブクラフトンじゃない?これもこれで武器になりそう」
存在のすべてを搾り尽くされ干からびたラブクラフトンの身体は、まるで栞のように本に挟まっていた。
あまりにも強い力で圧縮された身体は、とても固く、また先端が槍のようになっていた。
リクチェルはそれを手に取ると指先で弄ぶ。
「さてと、アイゼルくんとの戦闘は如何だったのかしら?」
「あっ、わたしも知りたーい!」
「ふふっ、じゃあ読み語りしてあげる」
「これ、わたし要りませんでしたよね?」
「本を高いところに吊し上げるのをやってくれてありがとうね、ペルエレちゃん」
こうしてラブクラフトンは死んだ。人間を騙し、誑かして魂を奪い取ってきた悪魔には相応しい末路だった。
ラブクラフトン参戦!
ラブクラフトン退場!
ラブクラフトンは精神的に契約者を追い詰めていくタイプなのですがアムちゃんには勝てませんでした