※この作品はR-18です。

ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜   作:斧池 数馬

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つい最近も3000突破を祝したばかりですが今回は評価投票者数が100人を越えました!
恥ずかしながらこのように一つのことに長く続けられない性質のわたしが書くことを続けられるのは皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。


防人と梟雄

 長引く腐敗政治への不満、着実に帝都に迫りつつある革命軍の存在、DXの会や闇の翼による情報工作。

 それらによってヘルマン軍内部ですら、今のヘルマンを守り続けるのか、新しいヘルマンに賭けるのか、迷う者が現れ始めていた。

 

 ヘルマン軍を抜け、革命軍に参加する者は増え続けている。最大の人員を持ち、ヘルマンの内乱の趨勢を左右する第二軍も、継続する魔物界の異変のため番裏の砦を離れることができない。当然、士気は革命軍の方が高い。

 

 無論、数的な優位はいまだ現ヘルマンにあるが、情勢は革命軍に傾きつつある。

 

 そのような情勢で現ヘルマンの側に立つ明確な理由がある者は二種類に大別される。

 軍人としての強い国家への忠誠心から職務を全うせんとする者たちと、ステッセルのもと利益を得ていた者たち。

 

 そもそもが水と油の両者。このような窮地において両者の激突は自然な流れであった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「おい、ミネバ。てめえは斬るぜ」

 

「まあ、待ちなって。ここであたしらが殺し合ったところで反乱軍の奴らが喜ぶだけだろう?」

 

「はっ、反乱軍ね。本当にヘルマンの皇帝に弓を引いてるのはどっちだろうな。下手な影武者を立てやがって」

 

「おやおや、気づいてたのかい」

 

「うちの将軍、これで結構ミーハーなところがあるんすよ」

 

 ヘルマン第五軍将軍、ロレックス・ガドラス。がさつな男ではあるが、強い護国の意思を持つ男であった。

 彼もまた、現ヘルマンの腐敗に見切りをつけている者の一人であった。

 

 彼が未だに現ヘルマンを守る側に立っていた理由は、革命が失敗し、ヘルマンという国そのものが無くなってしまえば、他国や魔物の侵攻によって民衆に大きな犠牲が生じるからという消極的なものだった。

 

「しかも、てめえは墓石を北大橋に積み上げやがったな?死者の安眠を、妨げやがったんだ!!」

 

「それについてはあたしも心を痛めてるよ。だがあの空飛ぶ要塞なんて反則を、防ぐための防塁を作る材料があれしかなかったんだ。ヘルマンを守るためだ。分かってくれ」

 

「ああ分かるぜ。てめえがそんなことこれっぽっちも思ってねぇってことがな!」

 

 ロレックス・ガドラスがヘルマンを守り続ける、最も大きな理由は亡き妻との約束だった。

 その亡き妻の眠る墓標を蔑ろにされた彼の激憤はもはや、それを為したミネバを斬るまで止めることは不可能であった。

 

「ちっ、どうしたもんかね」

 

「とっとと斬られてくたばりやがれっ!」

 

 ともに人類最強クラスの強者である将軍二人が激突し、ヘルマン第五軍とヘルマン第三軍の内紛が始まった。

 

 将同士が戦闘をしているという状態で、兵同士の戦いは第五軍が優勢だった。

 遊撃部隊として個人の戦闘能力が重視されている第五軍とミネバによる恐怖統治が徹底されている第三軍。

 どちらも将の指揮が無い状態での戦闘では、第五軍が勝るのは当然であった。

 

「仕方ないね。やっちまいな!!」

 

「てめえはどこまで性根が腐ってやがる!!」

 

「ちっ!ただの魔法程度じゃ火力が足りないか。カラーのクリスタルが確保出来なかったのが痛いね」

 

 ミネバが伏兵としていた魔法使いたちが、第三軍の兵たち諸共に魔法で攻撃した。

 ミネバの近くにいたことで魔法攻撃の対象から外れていたロレックスは、その非道にさらに怒りを燃やす。

 

 不利な状態を、部下の犠牲も厭わないような非道な手段で打破するのがミネバの真骨頂ではあったが、それを実現するカラーのクリスタルのような強力の力をこの世界のミネバは有していなかった。

 

 ゆえにミネバが採れる手段も制限されており、勝負の行方はロレックスに傾くかと思われた。

 

「ちっ!腐ったクソ野郎な癖して、俺の剣にここまで付いてくるとはな。つくづくムカつくやつだぜ」

 

「それはこっちの台詞だよ!あたしにはあんたみたいな酔っ払いに付き合ってる暇は無いんだよ!」

 

 ロレックスの二刀による怒涛の連撃を、両手の斧で凌ぐミネバ。

 ミネバは策に溺れる策士の類ではない。強烈な上昇志向により、自らにも過酷な鍛錬を課している。

 女性とは思えない筋肉質な肉体は、彼女の執念の結晶だった。

 

 ヘルマン最強の剣士にして、人類でも指折りの強者であるロレックスと真っ向から切り結ぶことが出来るのは、彼女もそれに近い強さの持ち主であることの証明だった。

 

「あん?てめえ、自分の部下にまで妙な真似をしてやがったのか!?」

 

「そういうあんたこそ、なんだって魔法の直撃を食らった奴まで死んでないんだ」

 

 士気と地力に勝る第五軍、数と地の利を持つ第三軍。

 両者の激突は削り合いの様相を呈していた。

 本来ならば同じ陣営であるはずの両軍の不毛な戦い。

 

 一人、また一人と兵士は倒れていき、最後にどちらの陣営が何人生き残るか、そういう戦いになる、はずだった。

 

 袈裟斬りにされたはずの兵士が立ち上がっている。

 身体に矢が刺さった兵士が平然と戦い続けている。

 極め付けには魔法の直撃を食らった両軍の兵士も、黒こげになったままもがいていた。

 

「ちっ。不死身の兵隊だのなんだの言ったところで、敵まで不死身にしちゃあ無意味だね。力だけを持った馬鹿……じゃないね、始めからこうするつもりだったのかい?」

 

「何をごちゃごちゃ言ってやがる!!」

 

 分厚いヘルマンソードの一撃を、斧の円運動で受け流し、その隙を付く刀の一閃を、身を捻らせて躱す。

 凄まじい柔軟性と技量により成立する剣を躱してからの一撃を、振り抜いた姿勢から無理矢理手元に引き寄せた剣で受ける。

 

「どうしてお二人が戦っているのかしら?」

 

 ヘルマン最強の座を争う両者が織りなす剣戟に、ぬるりと割り込む者がいた。

 

 それは両者に匹敵するような武芸など欠片も持ち合わせず、されど、その力に比肩しあるいは凌駕するだけの狂気を持ち合わせていた。

 

「な、あ……」

 

「隙有りだ」

 

 乱入者、アムは白兵戦の最中にその身を割り込ませる。当然の帰結としてロレックスとミネバ、双方の一撃をその身に受けた。

 非武装の少女を斬った衝撃でロレックスに一瞬の意識の空白が生まれる。

 そこを見逃すミネバではなかった。アムの身体に食い込んだ方の斧を捨てると残った片方を両手で握って鎧をかち割ってロレックスに強烈な一撃を加える。

 

「そこまでよ。ミネバちゃん」

 

「ああん!?ここでトドメを刺さなきゃこいつはまたやってくるよ!」

 

「あらあら、それは困ったわね。ロレックスくんと第四軍の子たちにもやって欲しいことがあったのだけれど」

 

「なんだって?ははっ、こいつらがあんたなんかの言うことを聞く訳がないだろう。わざわざ敵を殺しにくくするなんて馬鹿なのかい?」

 

 ミネバとアムはすでに手を結んでいた。

 無論、ミネバは虎視眈々と裏切りの機会を狙っているが、汚染人間の不死性がそれを踏み留まらせていた。

 ミネバはアムが単純に戦力として汚染人間を運用していると踏んでいた。よって、敵対することが目に見えていた第四軍にまで汚染していたことを訝しんでいた。

 

「そうね。こうなったら汚染を別の方法で広げていくことにしましょう。アイゼルくんの活躍のせいで予め仕込んでおいたのも減ってしまったことだし。もし、アイゼルくんにまた止められたとしてもそれはそれで足止めになるわ」

 

「あんた……。何を考えているんだい?」

 

「ふふっ、わたしはただみんなを救いたいだけよ」

 

(こいつは……、思っていたよりずっと危険な匂いがするわねぇ……。こいつの手勢どもは出払っているし、殺せなくてもバラバラにしてやれば動けなくすることも……)

 

 ミネバは外道だが、それは外道が倫理や誇りなんてものに囚われているような人種にとって予想だにしない武器になることを知っているからだ。

 ミネバの所業を見たものの驚愕、恐怖、あるいは憤怒さえも抜け目なく利用してきた。

 それは何が正道で、何が外道かを知らなければ出来ないことであった。

 

 それゆえにおぞましい行為を善意に基づいて行うこの黒い聖女は、ミネバにとって理解できない異物として映っていた。

 

「ふふっ、そうなの。ロレックスくんが戦う理由は奥さんとの約束なのね」

 

(いいや、こいつは強力な魔法の使い手でもある……。それにまだ呪いを使う小娘が残ってる。あいつはただの快楽主義者だろうから、アムが居なくなれば飽きていなくなるかもしれないが、気まぐれで暴れられても面倒だね)

 

 普通なら命を落とすほどの重症を負いながら、ロレックスたちを治療しつつその話術で惑わしていく様子を見て、ミネバは久しく感じていなかった恐怖という感情に背筋を凍らせていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「う……、あ……、なんだ、てめえは……?」

 

「ヘルマンにて私欲を満たすために暗躍する者の一人、と言っておきましょうか。最近のヘルマンの()()を影で操っているのはわたしです」

 

「そうか、そうか、じゃあ斬るぜ」

 

 導く者に発見され交戦となり、闘神M・Mを刺激して覚醒させてしまうこと。

 魔人であり法王でもあるわたしが直接人間同士の争いに介入して、女神ALICEに咎められること。

 

 この二点を危惧してわたし自身はヘルマンの帝都には近寄らないようにしている。

 しかし、当然のこととして帝都の様子を把握するために手勢を派遣してもいた。

 密偵自身がアムに取り込まれてしまっては元も子もないため、帝都にいてもおかしくなく、また情報収集に優れた人材。

 

 奴隷を扱う犯罪集団の長、カチューシャ・ボッシュだ。

 彼女自身はわたしに若い頃を模したぬへの肉体を与えられ、ソルニア・ベンツと名乗ってカチューシャの秘書に扮させている

 表向きカチューシャと名乗っているのは、抜け殻になった元の肉体にフロストバインの技術で作られた擬似的な魂を与えたものだ。

 肉体に残された記憶から、カチューシャの振る舞いを完璧に学習したこの人形は見聞きしたものをわたしに伝達する機能も有している。

 

 潜伏することに重きを置いて積極的な情報収集はさせていなかったが、帝都付近で勃発したヘルマン第三軍と第五軍の激突は、当然のように彼女の耳に入っていた。

 

 そして、戦場から逃げ延びることに成功したオルオレ・ザ・サードを発見し、匿い、何があったかを聞き出すことに成功していた。

 

 そのため、ロレックスが凶行に及ぶ前に、こうして見えることが出来ていた。

 

 ロレックスには拡散モルルンという呪いがかけられている。

 

 拡散モルルンは内心が常に周囲に聞かれてしまうという呪いだが、これが汚染人間に対して発動すると、その澱んだ精神状態が周囲に伝達し、結果として魂の汚染が伝染する結果になる。

 

 この汚染人間がロレックスのような武人だった場合、殺してとめるという最後の手段も困難になり、極めて効率よく汚染人間を増やすことができる。

 

 原作においては魔人カイトが餌食となり、ゼスに恐怖と混乱をもたらしていた。

 またカイトを絶望に堕とすために彼が、人間だった頃に亡くした姉と同じ、緑化病が発症した少女たちを虐殺し、その罪をゼスになすり付けて人間を襲うように誘導していた。

 

 今回はそのような仕込みが無かったのは不幸中の幸いと言えるが、同時にアムの能力が強化されていることも示唆していた。

 わたしを睨みつける憎悪に眼から察するに、満ちた革命軍を排除しつつ汚染を分散させるために、本人の持つ護国の志を暴走させられている。

 

「ロレックス・ガドラス、こやつは我が世界の王となった暁にはトゥエルブナイト、ツインソードオーガとして配下に迎える予定の男だ。狂気に堕ちてその武を失うなどあってはならんぞ」

 

「世界の王……?つまりてめえもヘルマンの敵だな!!!」

 

 下手に数を用意しても、拡散モルルンによって魂を汚染されてしまいかねない。

 ゆえに魂の汚染を自分で操作できるわたしと、イニッチという禁断の魔導書を使い熟す精神力を持ったミラクルのみがこの場に立っていた。

 

「見事な挑発です。ミラクル。これで彼は我々を狙ってくることでしょう」

 

「挑発ではなくただ事実を語っただけだ。誇張するところなど何もないぞ」

 

 彼が持つ弐式豪翔波という必殺技は、二刀から繰り出された斬撃が、衝撃波となってどこまでも続いていくというものだ。

 そのため剣士を相手にあるまじきことに、流れ弾というものを警戒しなければならなかった。

 周りに被害を出さないというためにも、攻撃をわたしたちだけに集中させるのは必須だった。

 

「う、が、ああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そして正気を無くした雄叫びと共に開戦し、弐式豪翔波が放たれる。

 狙いはミラクル。身一つで繰り出す必殺技は、ミラクルの詠唱をして先手を取ることは出来ず、咄嗟にバリアーによって防ぐほか無かった。

 

「がぁぁぁぁぁあああっ!!!!」

 

 そして彼の攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 跳ねて、必殺技を放って、着地したその体勢から再び飛び跳ねて、今度はわたしの方に弐式豪翔波が飛んでくる。

 わたしはバリアーに加えて、剣も盾にしてなんとか凌ぐ。

 だがそれでも防ぎ切れずに、斬撃の嵐はわたしの身体にいくつもの裂傷を作っていった。

 

 明らかにおかしな身体能力。恐らくはドーピングの類。

 

 ラブクラフトンを殺して作った武器が魔導書の形をしていることを思い出す。悪魔をわざわざ魔導書の形にしたのならば、そこには悪魔の叡智が記されていると考えるべきだろう。

 その中に人間の身体能力を強化するものがあったとしても何らおかしなことではない。

 

「遠距離戦はこちらの有利になり得ませんね」

 

「ああ、先にこちらが削り切られるのがオチであろうな」

 

 とはいえあの達人を相手に近距離戦というのはもっとあり得ない。結論は中距離戦、必殺技の構えを取った瞬間に妨害を繰り出せるが、剣は届かない間合いを維持し続けることが勝利への道筋だ。

 

「出でよ」

 

「そうだな、こちらも遅延発動を構えておくことにしよう」

 

 わたしは式神として白蛇と黒い植物たちを召喚する。

 極寒のヘルマン故、どちらも動きが鈍い節があるが、斬撃への壁となってくれれば十分と数を出す。

 

 一方のミラクルはどこからか取り出した大量のカードを宙にばら撒く。

 それらは地に落ちるとこなくふよふよと滞空している。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!邪魔くせぇ!!」

 

 数を活かしてロレックスを包囲して一斉に襲いかかる蛇たちを、二刀が切り捨てていく。

 長い蔦を持つ植物ムシを鞭のように振るって攻撃するも、すれ違い様に切り捨てられ、間合いを詰められる。

 ガードの性質を持つアロエが間に入ることで何とかわたしの後退が、間に合い、ロレックスの斬撃が空を切った。

 

「ははっ、喰らえい!」

 

 赤、青、緑、白、黒。色とりどりの光が滞空していたカードから放たれる。そのまま光の尾を引いてカードがロレックスに突撃して炸裂する。

 

「……ちぃ。うざってぇ」

 

「ふむ、魔法への抵抗力も強化されているようだな」

 

 爆発によって舞い上がった雪煙が晴れると、ほとんどダメージを負った様子のないロレックスが立っていた。

 

「ヒーリング9」

 

 下級の魔法では埒が開かない。わたしたちは同時にその認識に至り、わたしはロレックスの間合いに入り、ミラクルは詠唱を始める。

 苛烈な連撃を、剣や鎧、ムシたちを駆使して耐え切る。

 

「よくぞ持ち堪えた!シャドウ・チェイン!」

 

 ミラクルが発動したのは強力な破壊力を持つ魔法ではなく、身動きを封じるための魔法だった。

 それはロレックスの身体を戒めていく。いくらパワーがあっても人体の構造上力を込められない場所が存在する。それを熟知した上での拘束だった。

 

 わたしは念の為、蛇の麻痺毒で更に体の自由を奪った上で、ロレックスの汚染を浄化の作業を始めた。

 

「さて、アイゼルよ。余はこの魔法を作ったはいいが解除方法は忘れてしまっているのでな。あとは頼んだぞ」

 

 それは、いつぞやのアテンを交えての乱交での戯れでミラクルが編み出した魔法だった。

 どうやら彼女はそれを更に磨き上げて実戦で使えるまでに仕上げていたらしい。

 

 彼女を辱めるためだけのものであったはずの魔法が、こうしてロレックスを捕えるのに役立った事実を奇妙に感じて、苦笑するのだった。

 




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