ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
今回の一件においてわたしは、魔軍の統率者と革命軍の参加者の二足の草鞋で行動している。
革命軍に関与するのは、この国の行き先をわたしの都合の良いものにするために当然の成り行きと言える。
そして魔人の力を割いてまで魔界に身を置いている理由はいくつかある。
まず第二軍の行動を抑止すること。ヘルマン軍最多の戦力である第二軍の前では革命軍は確実にすり潰されてしまう。
それを抑えるために魔軍による威圧が必要だったが、凶暴な魔物からなる軍勢にただ何もしないで待機を強制させるには、魔人の威光が不可欠だった。
またアムによって第二軍が陥落させられた場合にも、それに対応するために広範囲に洗脳の力を行使出来る魔人としての力が必要だった。
そして、さらに重要なのが法王としての務めをいつでも熟せるようにしておくことだった。
女神ALICEにはわたしは魔人として認識されている。そのため法王として謁見するためには魔人の状態でなければならない。また転移魔法陣によって素早くカイズ地下の女神の部屋に移動するためには行軍を続ける革命軍よりも、一つのところに居座ることの出来る魔軍の方が都合が良かった。
そのため、わたしはバベルの塔が浮上して即座に女神ALICEへの謁見に臨むことが出来ていた。
「闘神都市ね。あれは人類と魔物のパワーバランスを崩しかねないから、封印するように言っておいたと思うのだけど。まあいいわ、エンジェルナイトの軍勢を遣わして破壊するわ」
「お待ちください、ALICE様。あそこにあるのは人類の大国の一つの首都です。ルドラサウム様がお望みの、魔物と人類の闘争劇には欠かすことの出来ない要素です」
「あら、口ごたえするのかしら?」
水平に回転しながら飛来した剣に両眼を切り裂かれる。次に耳と鼻を破壊され、身構えることも出来ずに全身を寸刻みにされる。
そして痛み以外の感覚がなくなった頃、真正面から頭を剣の切先に貫かれ、血と鉄の味わいとともに絶命した。
「わたしの力であれば、汚染の拡散は最小限に抑えられます。ぜひともわたしにお任せください」
「ふうん、便利な力よね。
そして一瞬のうちに肉体が再生し、言葉を続けることが許された。
エンジェルナイトによる殲滅は、これ以上の汚染を抑えるための次善策だ。汚染そのものを浄化出来るのならばそれに越したことはないはずだ。
「ま、いいわ。あいつらの活動の割には汚染魂の数は大して増えていないみたいだし、その功績を信頼して、あなたに今回の事態の解決を任せてあげる」
「ありがとうございます。必ずや、あの暗雲を晴らしてみせます」
こうして最悪の事態は避けることが出来た。
と言ってもこれは時間稼ぎ、神の気の短さを思えば可能な限り迅速に解決する必要があった。
◆ ◆ ◆
灯台下暗しのことわざの通り、バベルの塔は高所から周囲に汚染を拡散するためその直下は汚染の影響を受けない安全圏になる。
そしてバベルの塔の真下にあるのはヘルマンの帝都ラング・バウ。革命の終着点となるはずの場所だった。
アムもこの場所が急所になると理解して聖魔教団の遺産である細胞溶解光を起動し、第三軍を配置して守りを固めている。
この場所を確保し、天に浮かぶバベルの塔に取り掛かるための足掛かりにするべく、強行軍で突撃することとなった。
作戦はシンプル。ラング・バウの本城に至る橋と地下の抜け道の二つ。
ここに部隊を三つに分けて配置する。
まず陽動部隊が橋の上で戦端を開き、地下を囮の部隊が行く。
橋が囮で、地下が本命だと錯覚させ、戦力を分散させた所に本命の部隊が突撃するという作戦だった。
これを瞬間移動によって細胞溶解光を避けて、発生装置の元に向かったハンティが装置を抑えられている間に実行する必要があり、何よりも速さが求められていた。
(地上・陽動部隊)
「帝都を……ヘルマンを守れー!!!」
「いくわ!火丼の術!!」
「いっくぜぇぇぇぇ、おらぁぁぁぁぁっ!!」
「ふっ!はっ!ふふ、やはり戦場は滾るな……!」
陽動部隊は起動力に優れたレンジャーやファイターによって構成し、とにかく派手な立ち回りをして注目を集めることを目的とした編成になっている。
かなみが火丼の術で派手な音と光によって耳目を集め、アルカネーゼが地を割らんばかりの強烈な一撃と咆哮で威圧する。
美しくも妖しい笑みを浮かべ、薙刀を振り回す戦姫はその異様さで敵の目を引きつけていた。
「こういうのは暗殺者の仕事じゃないのだけれどね……!隊長、後ろ取られてるわよ」
「いひひひっ!とっつぁん直伝だぜ!」
「戦姫殿!右に!」
ともすれば集中攻撃を受けてしまいかねない隙の多い動きを、他のメンバーがフォローする。
移動しながら術を放つかなみにはフレイアが追随し、アルカネーゼの振り終わりの硬直をオルオレの投銭が埋める。
そして全体の戦況を軍師の真田透林が把握し、的確な指示と矢にて動かす。
「ピグだぞー!」
「ピグだぞー!」
「ピグだぞー!」
そしてその連携を断とうとする動きは、遊軍のピグが防ぐ。
素早く、背の低い分裂ピグは、兜によって視界を制限されたヘルマン兵には対処しにくい存在だった。
陽動部隊は激しく自己主張をしながらも、慎重に戦っている。
その違和感は、狙い通りに第三軍に陽動の可能性を意識させた。
(地下・囮部隊)
「弐式豪翔波!」
「白色破壊光線!」
直進する斬撃と光線が敵陣を貫く。
囮部隊は本命と錯覚させるには十分な突破力を備えていた。
「デス・プロージョン!」
「いっけー!チューリップ!!」
「くぅ!厄介な……!伝令!援軍を呼んで来い!この戦力……ここが本命で間違いない!」
魔法と科学による爆発の衝撃も兵を竦ませる。
士気と勢いで勝る相手に、第三軍は援軍の要請をせざるを得なかった。
「ふう、作戦通りいきそうですわね」
「ああ、だがそれは我々の負担が増すということだ。目論見がバレないようにしながらも、慎重に戦わなくてはな」
「回復はお任せください」
「ああ、頼りにしている。よし、そろそろ奇襲の効果が消えて勢いが衰える頃合いだ。このタイミングで守りを固めれば不自然さは無いだろう」
突破しようとしていると見せかけながらも、その実は時間を稼ぐために動いている。
そのための攻めと守りのバランス取りをするのは、戦巧者であるピッテンの役目だった。
後衛を守りながらも、チルディとクルックーを最前線のロレックスのフォローに向かわせる。
突出した前衛を守りながら後衛の進軍を待つ。
ピッテンはその動きを利用して、自然な流れでメンバーを一つの塊にして、防御の陣形を整えていた。
こうして囮部隊は、自分たちの存在を第三軍に強烈に意識させることに成功していた。
(地上・本命部隊)
「さて、参りますか」
「はい。アイゼル様」
「行くよ、シィルちゃん。シーラちゃん」
「はい、ランス様!」
橋の兵たちが、地下の抜け道の防衛に数を割かれ、守りが薄くなった瞬間を見計らって、本命部隊の我々は動き出した。
「トーマ・リプトンの息子!ヒューバート・リプトンだ!!お前らはこんな時に何をやっていやがる!!あのぷかぷか浮かぶ塔がどういうもんなのか分かっているだろうが!!!」
「ぐ……、トーマ将軍の息子だと……」
「しかも、先の伝令の話ではあのロレックス将軍までいるらしいぞ……」
「お前ら!ミネバ将軍の命令は死守だ!!我々には帝都守護の使命があることを忘れるな!!」
ヒューバートはJAPANの侍風の変装を解き、黒いヘルマン軍の正装で臨んでいた。
かつての第三軍将軍の息子の言葉と、ヘルマン最強の剣士である第五軍の将軍が革命軍側にいるという事実は、第三軍の士気を確実に削いでいた。
「我が名はパットン!!この国に帰ってきたぜ!さあさあ!皇子のお帰りだ!さっさと道を道を空けてくれ!」
「なっ!?あれがパットン皇子……?」
「だが、あの覇気、闘志、似ても似つかないぞ……」
「面影はある……。それにヒューバート殿が認めているのならば……」
「ええい!やつはとっくの昔に廃嫡された!今のやつはただの反乱軍の首領!討ち取ってしまえ!!」
その動揺を、パットンがさらに大きくする。
成長した彼の声は、強者の風格を確かに宿していた。
天空のバベルの塔の存在に、そもそも自分たちの任務に疑問を持っていたのだろう。
第三軍の士気の低下は如何ともしがたく、そこにランスとリックの突破力が加わり、革命軍はあっさりと本城への突入を果たした。
◆ ◆ ◆
「間に合ったみたいだね……」
「はい!この装置を止めれば良いんですね?」
ハンティとの合流を果たし、細胞溶解光の発生装置にシーラが取り付く。
管理者権限による命令を受け付けて、装置は停止した。
これで細胞溶解光による全滅のリスクは消滅したが、それはラング・バウの本城に外部から第三軍の兵力が突入出来るようになったことも意味している。
何よりも迅速さが求められる状態は変わっていなかった。
ミネバを捕獲し、ラング・バウの本城の頂上に革命軍の旗を掲げる。
それをもって革命の成就を布告する必要があった。
戦力を足止めのために分けながら、ヘルマンの中枢となる玉座のある場所へと向かった。
「はぁ……、やっとのことでこの椅子を手に入れたと思ったのに、こうも早く邪魔が入るとはねぇ」
そこに居たのはやはりというべきか、ミネバ・マーガレットだった。
皇帝の玉座に、我が物顔で座していた。
それは彼女の野望そのものだったが、どこか不満げな顔をしている。
「投降をお勧めします。わたしは力を欲していますから、あなたのような強者は歓迎します」
「ははっ、パットン皇子はまた懲りずに魔人の力を借りたってわけかい?」
「否定はしねぇよ。実際、あのイカれた連中を止めて、そいつらにおかしくされた奴らを助けるには、こいつの力がなきゃ出来なかった」
ミネバの挑発を、パットンはあっさりと受け流す。
かつて自分を利用した挙句に殺そうとした魔人の手を借りることに忸怩たる思いはあるはずだ。
だが、それよりも導く者のもたらす混乱への憤りと、それを食い止めようとする意思の方がよっぽど強いことが、その揺るぎない言葉からは感じられた。
「イカれた連中ね。確かに、あんなに頭のネジが外れてるとは思ってなかったよ。あいつらに上に飛ばれて見下されていちゃあ、せっかくのこの皇帝の椅子も台無しだ。ぶっ飛ばそうっていうなら、協力してやるよ。ヘルマン皇帝としてね」
「ふざけるなよ……!その椅子はお前なんかが座って良いもんじゃねぇんだ!!」
ヘルマンの皇帝を僭称する、第三軍の長としてはあり得ざる暴挙にヒューバートは激怒した。
「あはははははははははっ!!!無謀な戦力で兵をあたら死なせた男や、ステッセルごときに国を良いように食い物にされた小娘には相応しいってかい?だったら力づくで奪ってみるんだね!!さぁ、かかって来なよ。皇帝のあたし自らが直々に処刑してあげるよ!!」
狂気を感じさせる笑い声とともにミネバは立ち上がると、獲物の斧を手に取った。
ここにいたって交渉の余地など初めからない。
ヘルマンを守ろうとする者たちと、ただ己の野心のためだけに生きる者。両者の間に妥協点などあるはずもない。
「はぁぁぁぁっ!!!」
「させるかよっ!」
「てめぇっ!!」
「ははっ!くたばりな!!」
「させないっ!」
ミネバは獣のように突進して、シーラのもとに向かった。
ヒューバートの刀を躱し、パットンの鉄拳を受け流し、シーラの頭を斧でかち割ろうとするもランスに防がれる。
そして、まともな戦闘になったのはそこまでだった。
多勢に無勢に加えて、カラーのクリスタルのような奇策の類も持ち合わせていない。
シィルの不可避の魔法を喰らうたびに動きが鈍っていき、ついにはシーラの投石を躱し損ね、致命的な隙を晒したところをパットンの鉄拳に撃ち抜かれて床へと倒れ伏した。
「く…………!口惜しいねぇ……」
一人きりのミネバは何よりも囲まれることを避けるべく、縦横無尽に玉座の間を駆け回っていた。
なんの因果か、ミネバが倒れたのは玉座の正面だった。
何よりも焦がれた玉座を見上げ、手を伸ばしながらミネバは気を失った。
「死ね、ミネバ……。今その首を叩き落としてやる」
「待ってください。ヒューバートさん」
ヒューバートが振るうのは、父トーマから受け継いだ妖刀不知火。
研ぎ澄まされた切れ味を誇るそれで首を落とそうとするのは、せめてもの慈悲であった。
それを、わたしよりも早く、シーラが止めた。
「シーラ、何故止める。こいつはお前を真っ先に殺そうとしたんだぞ」
「分かっています……。でも、わたしは罪を償って欲しいと、そう思うんです。それに、わたしがもっとちゃんとしていたら、ミネバさんもこんなことをしなかったかもしれません。それなのに、わたしがこの人を殺してしまうのは違うと思うんです」
「ぐっ……!」
「ははっ、お前の負けだなヒュー。なあアイゼル、あんたはミネバのことも戦力として欲しがってたよな。そういう算段があるなら任せてもいいかい?」
「ええ、もちろんです。彼女は強力な戦力ではありますが、独自に行動させては少々問題があるでしょうからね。裏切りなどできないようにしておきます」
「はぁ……。まあ戦争じゃ、罪人だろうと兵士として駆り出すのはよくあることか。パットンの言う、魔物との戦争が本当にあるのなら、そっちの方がよっぽど罰になるだろうさ。マハに免じてここで殺すのは勘弁してやる」
こうして革命は終結した。
だが、いくら元首が変わったところで、民たちに汚染が広まっていては亡国への道は避けられない。
真にヘルマンを救うための戦いはこれからだった。
今回は原作の内容をほとんどなぞる内容になっているかなと思います。
違いはミネバが生存しているくらいです。
そのミネバですがカラーのクリスタルも無く、順当にタコ殴りにされましたが、勝ち目が無いのを承知の上で戦う姿はどうだったでしょうか。
わたしはミネバは野望が叶わないなら野望の途中で死にたいってタイプだと考えていて、それを描いたのがヘルマンの玉座で満足そうに死ぬシーンだと思います。
なので野心を叶える手段を奪われた上で、生かされるのが一番辛い結末なのかもと思います。
その対比として、玉座を見上げながら、無念そうに気絶するミネバを書きました。
原作が原作で、主人公が主人公なので、勧善懲悪は意識しないように書いていますが、野心を持つ者同士がぶつかった結果、片方の野心が砕かれるのは自然な流れではないかなと思います。
革命は終わったものの、ヘルマンを救う戦いはいまだ半ば。
アイゼルとアムの決戦をどうかお楽しみに。