ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「さぁて、空に浮かんでるあそこにどうやって行くか考えようぜ。ハンティ、お前の瞬間移動で俺たちを連れてくってのはできないのか?」
「無理だね。わたしの瞬間移動は、自分の足で歩いて行けるところまでしかいけないんだ。そもそも瞬間移動自体に人間の身ではリスクがある。移動した後に、ランダムな時間経過が肉体に襲いかかるんだ。運が悪ければ、わたしとフリーク以外、しわくちゃのミイラになってお陀仏。なんてことにもなりかねないよ。リーザスからあんたを連れて逃げたときだって結構な賭けだったんだ」
「ふうむ、そのような魔法であれば余が使うのもリスキーであるな。余に使えぬ魔法があるというのは気に食わぬが、致し方あるまい」
黒髪のカラー、ハンティ・カラーは瞬間移動の魔法の使い手だ。
その効果は時間が止まった異空間に入り、その後徒歩で移動。そして再び元の空間に戻って来ることで元の世界からは瞬時に移動したように見える、というものだった。
この異空間は元の空間の地形に準じる上に、何かに触れて動かすことも不可能なために、今回のバベルの塔のように物理的に侵入不可能な場所には移動出来ないという欠点があった。
逆に結界のような非物理的な障壁は障害にならないため、先の戦闘では細胞溶解光を突破することが出来ていた。
「ちなみに余のゲート・コネクトでも向かうことは出来ぬな。どうやら妨害されているらしい」
空間を移動する魔法に詳しい二人の見解によって移動する手段はただ一つに絞られた。
「魔法で行くのが難しいのならば、直接飛んでいくしかないじゃろうな。浮要塞を改造して、直接飛んでいく他ないわ」
フリークは浮力の杖の理論の発案者でもある。
聖魔教団の遺産に対抗するために、彼の力を借りない手はなかった。
「……こうしてる今も、あの塔から得体のしれないなんかが発信されてヘルマンの民がおかしくされちまってる。突貫工事で頼むぜ」
「分かっておるわい」
「それならわたしも手伝えそう。姿勢制御を全部浮力の杖に任せられるなら、単純に上に飛ばすだけのエネルギーならチューリップで補助出来ると思う」
マリアが開発したチューリップはヒララ鉱石から強力なエネルギーを取り出して使用する兵器だ。
彼女が戦闘で使うバズーカの他に、砲台や戦車などにも応用されている。
乱暴な理屈だが、それを推進力に使うことも十分可能なはずだ。
「それでも必要な魔力は莫大なものになるじゃろうな。この城からマナ・バッテリーを発掘せねばなるまい」
「それならわたしがやる。ダンジョン攻略なら任せて」
「……わたしにも手伝わせてください」
ラング・バウは聖魔教団の首都であったデトナ・ルーカの跡地だ。
そのため、地下などには聖魔教団の遺跡が残されている。
アム自身も、浮力の杖のためのパーツはここから発掘したのだろう。
聖魔教団の遺跡ともなれば、人類抹殺の命令を受けた聖骸闘将などが徘徊している。
その攻略はランスのような熟練の冒険者が適任だった。
そして、聖魔教団の魔鉄匠の血を引く、シーラも。
「少しでも質量を減らすために、装甲やら武装やらは軒並み外すぞ。向こうからの攻撃を凌ぐのは人力でやらなきゃならん」
「そちらはわたしが、使徒を動員して向こうからの攻撃を迎撃します」
「ふむ、余の力を貸してやるとしよう」
「わたしもこっちの担当かしら。数発ならバリアーで相殺出来ると思う」
「僕にも手伝わせてください。呪いは消えましたが、レベルアップで強化された分はそのままです」
使徒、ミラクル、志津香、そしてマハが防御を担当する。
魔法的な攻撃であればおよそ心配はいらない面子だと言えた。
「向こうも事情は同じな以上、大した武装は積み込む余裕はないはずですが、召喚魔法によって飛行能力を持つモンスターや下級悪魔を呼び出して来る可能性はあるでしょうね」
「そこはいつも通り、俺らが止めて動力魔球には近づけなければいいんだな」
「この身を盾にしてでも止めてやる」
「おうよ、何が来ようとぶった斬ってやる」
パットン、ヒューバート、ロレックス。ヘルマンの屈強な漢たちは迫り来る決戦に闘志を燃やしていた。
「空中から迫る敵も、撃ち抜いて見せましょうぞ」
「ひひっ、こりゃあ銭を投げ尽くして大赤字になりそうだぜ」
透林の矢やオルオレの投銭も、空中の敵への貴重な迎撃手段になるだろう。
「うむ、では儂は早速改造に取り掛かるぞ。マナバッテリーへの魔力の充填も含めれば一日はかかるじゃろう。それまでに皆、出来る限りの準備をしておいてくれ。……儂らが作ったものの尻拭いに付き合わせてしまってすまない。やはり何も残さず破壊しておけばよかったのかもしれん」
「爺さん。あんたは間違っていないさ。聖魔教団の力は確かに人類に必要になる」
「フリーク、それを言うならわたしだって同罪さ」
「くく、フリーク翁よ。このような高度な魔法技術、無に帰すのはあってはならぬことだろう」
「ありがとうな。この恩には必ず報いさせてくれ」
こうして突入作戦の内容は決まった。
改造工事を手伝うもの、遺跡探索の準備をするもの、魔力を高めるため瞑想を行うもの。
それぞれが決戦に向かって動き始めた。
◆ ◆ ◆
「あんた、何のつもり?」
「何のつもりと言われても、一体何のことでしょう?」
使徒を召喚して、指示を出したわたしのもとに志津香が近寄ってくる。
明らかに憤慨している様子だが、そんな表情も愛らしく、つい火に油を注ぐ真似をしてしまう。
「とぼけないで!ナギのことよ。どうしてあの子が使徒になっているのよ」
予想通り、彼女の怒りの原因は妹であるナギだった。
両親の仇の娘でもある彼女への複雑な思いを飲み込んで、救いたいと願った相手が邪悪な魔人の使徒となっていればそれは怒ることだろう。
「ふむ、あなたとの約束は、ラガールへの復讐に魔人の力を貸すというものだったと記憶していますが?あの男が虐待という形ではあれど、強い執着を持っていた娘が、魔人のものになる。この上ない復讐だとは思いませんか?」
「ナギには酷いことは絶対にするな、とも言ったはずよ」
志津香はあからさまな挑発には乗らずに静かに言葉を重ねる。
だが、その奥底には明らかに憤怒の激情が燃え盛っている。
「確かに。ですがこれは彼女を救うために必要なことでした」
「どういうことよ?」
「わたしが彼女を発見した時には彼女の精神はすでに限界を迎えていました。自分のすべてだった父親を亡くした彼女には、新しい支えが必要になります」
ジェイコプスとの契約の影響か、それともそういう気質なのか、彼女の魂は汚染を浄化しても、自己生産の絶望によって黒く染まり始めていた。
そこに欲望をもって漬け込んで我が物にしたのは確かだが、それによって彼女が命を拾ったのは確かだ。
「それがあんたってこと?」
「ふふ、少なくともラガールよりはマシな庇護者だと自負していますが」
「そんなもの、何の自慢にもならないわ」
「それは確かに」
まだ怒りは収まらないようだが、わたしがしたことに納得はしてもらえたようだった。
ラガールを殺されて以来常に復讐心に取り憑かれていたナギが、使徒としたとは言え心の平穏を取り戻したことは認めざるを得ないのだろう。
「でも、あの子を戦わせるのは反対よ」
「戦わないことが必ずしも安全に繋がるとは限りませんよ。あの子は特に悪魔に憑依されていたためか、魂が黒く染まりやすくなっている。ある意味ではあのバベルの塔が最も安全な場所とも言える」
現時点ではバベルの塔の直下にあるこのラング・バウも安全圏であるとは言える。しかし、元々闘神都市は浮遊したまま移動して転戦するための兵器だ。
ヘルマンの汚染が充分に進み次第移動して、他の地域も汚染し始めることだろう。
当然その時にはここも、バベルの塔の影から外れ、汚染の拡散が及ぶことになる。
「だからって!」
「ふふ、そんなにあの子が心配なら、あなたが守ってあげなさい。そのための力なら惜しみなく貸してあげましょう」
「結局それが狙いなのね。ええ、分かったわ。あなたの望み通りにしてあげる」
わたしと志津香の間の契約。
それはわたしの力と引き換えに、彼女がわたしにその身を捧げるというものだ。
闘神都市の遺構によって彼女が魔法レベル3の力を得たことによって、使徒程度の力は必要とされないこともあったが、他者を守るという目的ならば単純に肉体の性能が向上する使徒の力は、強大な魔力では換えが効かない。
屈辱に身を震わせながらも、妹のために自身を犠牲にする彼女の姿は、わたしの心を震わせてくれるものだった。
今回もわたしは、喜悦の予感を抱きながら、彼女に使徒の力を込めた指輪を授けるのだった。
「もう、お姉様ったら、アイゼル様にあんな態度を取るなんて。わたしのことを心配してくれるのは嬉しいけど、アイゼル様に失礼だわ」
「ふふ、そこが可愛いのです」
わたしと志津香の会話を盗み聞きしていたナギが志津香と入れ替わりでやってくる。
父親と慕うわたしを責める姉に憤りながらも、その理由が自分を心配しているからということで、怒るに怒れない複雑な表情をしている。
過去の改変調教が成功した時点で、彼女には実際の経緯を開示している。
しかし、記憶を改変された上で聞かされたそれは、もはやただの記録だ。
彼女にとってはわたしの娘であり、使徒であることの方がとても重要になっている。
ほとんど過去を生まれ変わったような彼女だが、唯一、姉への執着は愛情に反転した形で引き継いでいる。
「ええ、わたしもそう思います。けれど、わたしはお姉様にも早く、アイゼル様の魅力に気づいてもらって、いっしょにご奉仕したいわ。アイゼル様もそうでしょう?わたしたちが、姉妹同士で睦み合っているところをまとめて抱いてしまいたいと」
「ええ、その通りです」
ナギはわたしの右半身を空けるように、左半身にしなだれかかってくる。
ここに志津香がいることを想像すると、口角が釣り上がってしまうのだった。
◆ ◆ ◆
「アイゼル様、どうされましたか?」
「あなたに少し頼みたいことがあります。付いて来てもらえますか?」
「はい、分かりました。すみません、ランス様。少しの間、離れさせてもらいます」
「こっちの準備はわたしたちがやっておくから大丈夫だよ!」
ラング・バウの地下に広がる聖魔教団の遺跡、その探索の準備をしていたシーラを連れて移動する。
物置か何かと思しき、狭い部屋。少し埃っぽいその部屋に、まるでインテリアのように不動な人型と、男が一人いた。
「我が主の命により、許可なき侵入を禁じる」
「わたしはAL教の法王です。そしてこちらはシーラです。通していただけませんか?」
「ほうおう?ああ、法王か。それにシーラか。ううむ、このわたしが即位したというのに、戴冠式に来なかった法王など会ってやらないつもりだったが、シーラの取り成しがあるならば仕方ない。いいだろう、通してやれ」
「了解した」
不動な人型は闘将バステト。そして男はその主、ステッセルだった。
ステッセルは明らかに正気を失った目で、壊れかけた椅子に腰掛けている。
頭の上に針金を巻いてそこに鉄屑を差し込んだものを載せているのは、どうやら王冠のつもりらしい。
「アイゼル様……、これは……」
「あなたも今まで何度も見たでしょう?魂を汚染された人間です。アムは聖魔教団の遺産を扱うために、彼を利用したのでしょうね」
魂を汚染された人間は、更なる魂の汚染を防ぐために自殺するようになっている。
その防衛機能を無効化して、汚染人間を増やすことが導く者の目的だ。
その方法として、無気力にさせたり、凶暴にさせたりしていたが、彼の場合は魂が汚染された状態で幸福にさせられたらしい。
きっと彼はすべての念願が叶って、人類の王になった世界を見ているのだろう。
「アイゼル様……、ステッセルも、浄化してくださるのですよね?」
「いいえ?ステッセル様、この度はあなたに献上品があります。あなたが求めている不老不死への道、魔血魂です」
「おお!ついにわたしが不老不死になるのだな!」
わたしが取り出したのは赤い球体だが、もちろんのこと魔血魂ではない。
闘将の核となる存在、動力魔球だった。
「ま、待ってください。何をするつもりですか?」
「ステッセルを闘将に改造します。わたしが聖魔教団の遺産を扱うためです」
ステッセルを適当に闘将に改造してやれば、わたし自身が聖魔教団の遺産をある程度好きに扱えるようになるだろう。
魔力への耐性が薄く、魂を持つ闘将ならば洗脳でも操れるが、細胞溶解光発生装置のようなただの物品は不可能だ。それを操作するために魔鉄匠の血を引くステッセルは利用できる。
戦闘能力を持たせる意味は薄いので、バイオメタル化した脳と眼球を埋め込んだ錫杖にでもしよう。
「アイゼル様……、ステッセルには、罰を受けさせるべきだと思います」
「罰というならばこの醜体の時点で、罰になっているのではありませんか?」
「いいえ、違います。これは、ヘルマンの人たちが彼に苦しめられていたように、彼が導く者によって苦しめられているだけです」
確かに、導く者に圧政を敷いたステッセルに罰を下そうというつもりは一切無いだろう。
彼らにとって魂の汚染はむしろ祝福に他ならない。こうして本人も幸せそうにしているのを見るに、因果応報とは言えない。
「ではどうしますか?ここまで魂が汚染されている以上、死という最も相応しい罰を下すことは叶いませんよ?」
「……アイゼル様に浄化していただくことは出来ないのでしょうか?」
「ええ、わたしが導く者に魂を汚染された者を浄化してまわっていたのは、来る魔物界との戦争で人間界を守る者を、一人でも多く確保するためです。彼には魔鉄匠の血以外に何も価値がありませんから、浄化する意味は感じません」
ステッセルは政治レベル1の能力こそあるが、それはすべて権力闘争に特化している。
戦時においてこちらの足を引っ張ってくるような存在に、わざわざ手間を割く意味はない。
最も効果的な活用方法はやはり聖魔教団の遺産を利用するための道具に加工することだった。
「ヘルマンは……、この男のせいで長く苦しめられて来ました。だから、きちんと彼を裁かないとヘルマンは生まれ変わることが出来ないと思います。だから……、アイゼル様、お願いします。ステッセルを正気に戻してやってください。魔鉄匠の血が必要なら、娘のわたしが代わりになります」
「おや、気づいていましたか」
「はい、幼い頃の記憶とわたしが聖魔教団の遺産を扱えることを繋ぎ合わせて気づきました」
ステッセルは権力を握るにあたって皇太后であるパメラ・ヘルマンに取りいった。
親子ほどの歳の差のある夫と、冷たいヘルマンの皇室に、孤独を募らせたパメラはステッセルにいいようにされてしまう。
その結果生まれたのが、シーラ・ヘルマンだった。
「くすくす、父のためにその身を捧げる娘ですか。健気なものですねぇ」
「はい、確かにわたしは父に憐憫と感謝を抱いています。この男のおかげで、皆さんのお役に立てますから。だからせめて人として死なせてあげたいのです。……ダメでしょうか?」
わたしの無遠慮な言葉にも落ち着いて答えるシーラは、自身の出生の事実を受け入れていた。
親愛している前皇帝やパットンと血の繋がりがないこと、代わりに憎むべきステッセルの血が流れていること、そのすべてを受け入れた上で、わたしと相対していた。
この気高さに応えない訳にはいかないだろう。
「わたしのものになるということがどういうことか、分かっていますね?」
「はい……。ご主人様、どうかわたしの処女を受け取ってください」
そう言ってシーラはメイド服のスカートをたくし上げて、下着を見せつける。
その正体も、出生も、すべてを明かしたシーラにもはや隠すことなどない。
よってわたしの【隠し事に気づかれないように、淫らな下着を身につけないといけない】という暗示は意味を失っている。
そのため、彼女が今履いているのは、上品な白のショーツだったが、今までのどのような淫らな下着よりもわたしを興奮させるのだった。
というわけで最後の溜め回です。
次回からはいよいよアムとの決戦が始まります。
そして勝利の暁には、いよいよ……。
どうかお楽しみに!