※この作品はR-18です。

ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜   作:斧池 数馬

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というわけでいよいよ最後の戦いが始まります。


宙船

「出来たぞい!」

 

「科学と魔法の力を組み合わせた、全く新しい空飛ぶ船よ!!」

 

 出来上がったそれはかなり不恰好な物だった。

 本来は装甲によって防御されていたはずの浮要塞の中枢が剥き出しになり、その下に大量のブースターが備え付けられている。

 人が乗り込む部分はそれなりの広さが確保されているが、大小様々なケーブルが這い回っている。

 

 極め付けは巨大なドリルが備え付けられ、全体のバランスがおかしくなっている。

 

「魔力は行きだけでギリギリじゃからのう。あちらさんに接舷したらこいつをぶち込んで固定するんじゃ」

 

「ふふっ、ヒマワリエンジンによる超回転ドリルよ。貫けないものなんてないわ!」

 

 フリークとマリアはやけに興奮した様子で、嬉々として語っている。

 

 何はともかく歪な代物とはいえ、バベルの塔に向かう手段は確保出来た。

 わたしたちは戦闘準備を念入りに行うと、この船に乗り込んだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「バリアー展開!」

 

 アムによって召喚された下級悪魔たちの放つ闇魔法を、魔法使いたちが展開したバリアーが防ぐ。

 魔法自体は初級のものであるアンコクがほとんどだが、船全体を守るべくバリアーを大きく広げているため魔力の消費が増大している。

 

「弐式豪翔波!」

 

「ひひっ。将軍、流石っすね」

 

 その分攻撃に魔力を回すことは出来ないため、飛来する鳥型モンスターの迎撃は他が担うことになる。

 ロレックスの必殺技がまとまった敵を切り刻み、その撃ち漏らしを透林の矢やオルオレの投銭、シーラの投石が的確に撃ち落としていく。

 

「こっちだイカども!」

 

「かかって来い!」

 

 そして何故か召喚されるモンスターの中にはイカマンも混じっていた。

 飛行能力など当然持たないので、ほとんどは狙いを外して地表へと落ちていくが一部は船に乗り込むことに成功する。

 

 軟体生物らしく落下の衝撃を堪え、本能的に暴れようとする彼らをパットンやヒューバートを始めとする戦士たちが挑発し、引き寄せ、撃破していく。

 

「接舷したわね……。いっけー!チューリップ!!」

 

「貫けーーーっ!!!」

 

 バベルの塔の下部に到達し、ドリルが回転を始める。

 高速回転によってバベルの塔の壁に穴を空け、空いた穴からアームが取り付いて船体を固定する。

 更に梯子を穴に挿入すると、身軽なレンジャーが先行してバベルの塔へと踏み込むのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「内部に罠の類は無さそうね」

 

「とはいえ気をつけた方がいいかもね。こっちも突貫工事のはずだし、いつ床が抜けても不思議じゃないわ」

 

「ちょっと志津香、怖いこと言わないでよ」

 

 かなみが先行して、バベルの塔を登っていく。

 バベルの塔の内部は螺旋階段が頂上まで続いていた。

 原作のバベルの塔は、モンスターがひしめき、数階ごとにボスが配置されたダンジョンになっていたが、こちらは無人だった。

 

 上に行くほど広くなっていく構造になっており、屋上はそれなりの広さになっていることが伺えた。

 下から見上げていたときは気づかなかったが、逆三角の形状をしているらしい。

 

「じゃがここに来るまでにマナバッテリーにチャージした魔力はほとんど使ってしまったからの。帰りはこの塔を乗っ取って降りるしかない。手抜き工事はしてないことを祈るしかないの」

 

「こんなものがラング・バウの真上に落っこちて来たら大惨事だしね。浮力の杖を制御して、なるべく穏便に着陸させないと」

 

 フリークとハンティ、聖魔教団の遺物に詳しい二人はそれが主要な役目だった。

 戦闘力の高いハンティは惜しいが、万が一のことを考えるとフリークのガードは万全にしておきたい。

 

「ということは下手に壊しちゃ不味いってことだよなぁ」

 

「パットン、お前は雑だからな。馬鹿力でぶっ壊さないように気をつけろよ」

 

「ふむ、浮力の杖の動力源、アム・イスエル、汚染魂。重要な物や人物をすべて屋上にまとめているのは巻き込みを警戒させるためだろうな。こちらは余を含め強力な魔法使いが揃っているからな」

 

「う……、僕は特に気をつけた方が良さそうですね。強くなりすぎた魔力にまだ慣れてないので……」

 

 パットンのぼやきに、ヒューバートが突っ込む。

 ミラクルの解析に、マハが顔を青くした。

 

「……同士討ちや自滅にも気をつけた方がいいだろうな。あの腹黒コンビ、どっちも他人の頭をおかしくして来やがる」

 

「将軍、いいようにやられちまってましたもんね」

 

「うるせぇ」

 

 アムの話術とリクチェルの呪い。その両方を体験したロレックスが忠告する。

 あの二人の搦手の内容によっては、数の有利を容易にひっくり返されかねない。警戒が必要だった。

 

「呪いの解除であればわたしがやります。ただ強力な呪いには力が及ばないかもしれません。極力、詠唱を阻止してください」

 

 呪いの中には神魔法でもどうしようもないものも存在する。

 リクチェルが使う呪いの中には食らえば即死というものもあり、これも解呪のしようがない呪いの一つだった。

 

「それはわたしと隊長の仕事になるかしら」

 

「あっしも、お手伝いしやすぜ」

 

 幸い詠唱には時間がかかる。手裏剣でも何でも差し込んで、頓挫させることは可能だろう。

 

「精神に関与するものには、汚染の拡散も含めてわたしが対処します」

 

「アイゼル様はぼくたちがお守りします」

 

 リクチェルの方はそれでいいとして、アムの話術にはわたしが直接対処するしかないだろう。

 こちらもある程度の隙が必要になるはずだが、悪魔の力を得たアムがどれだけの力を得ているか予想が付かない。警戒は必要だった。

 

「皆さん、お怪我には気をつけてください」

 

「うん、そうだね。みんなで勝って、みんなで生きて帰ろう。それじゃ、行くよ」

 

「はい、ランス様」

 

 そしてついにわたしたちは螺旋階段を登り切った。

 ヘルマンでは珍しくない、(くろがね)の扉。しかし、その向こうにいる存在の邪気のせいか、その黒は言いようのない不吉な気配を色濃く匂わせていた。

 

「ふふ、いらっしゃい。待っていたわよ」

 

 重い、両開きの扉が開くとそこに、導く者が慈愛のこもった笑みを湛えて佇んでいた。

 

「はぁぁぁあああぁぁぁっ!!!」

 

「あら、いきなりね。少しくらいお話ししたかったのだけれど」

 

「アンコク!」

 

 アムの言葉をすべて無視して突貫する。それを迎撃すべくアムは手元の本を開いて唱えると背後に佇む黒い塊が槍となって飛来し、リクチェルは攻撃の魔法を飛ばす。

 

 汚染の槍は切先を猿の手で弾いて逸らし、魔法には速度を一切緩めずに頭から突っ込む。

 

「無敵結界……。やっぱり厄介ね」

 

「あなたを直接相手にするならば、わたしも全力を出さないわけにはいきませんから」

 

 頭を叩き割らんとする斬撃を、これもまた背後の黒い塊から這い出た触腕が受け止める。

 魔人の渾身の一撃を受け止めるだけの膂力と弾力を、その触腕は備えていた。

 

 ここに来て第二軍の暴走を警戒する必要はない。

 牽制の魔軍の統率はジークを影武者として任せ、わたしは魔人としてこの場所に赴いていた。

 

 決戦が始まった。

 

「やぁぁぁぁあああっ!!」

 

 僅かに遅れてランスもアムに剣を振るう。わたしと同様に触腕に防がれるが、魔剣カオスの切れ味と技能レベルの差か、半ばまで刃が食い込んでいた。

 ともすればむしろ食い込んだ剣を触腕に取られて隙を晒しかねないが、ランスは冷静に剣を引き抜いて構え直した。

 

 他のメンバーも屋上に展開して乱戦が始まった。

 強襲の仕切り直しも兼ねて周囲を観察する。

 

 バベルの塔の屋上は、すり鉢状に周囲に壁が展開している。

 石造の床も相まってまるで闘技場のような形状だが、おかげで落下の心配は必要無さそうだった。

 

 中央にはアム、リクチェル、巨大な黒い塊が浮かんでいる。

 黒い塊は不定形に揺れ動いており、時折その隙間から硬質な水晶のようなものが覗いている。

 どうやらあれが動力魔球のようだった。こうしている今もあの魔導書から溢れ出た黒いオーラが動力魔球にヴェールのようにまとわりついている。

 先ほど汚染の槍や触腕が飛び出して来たように、あれがアムの攻撃の基点になっているようだが、その中に動力魔球があるのならば手出しは出来なかった。

 

 リクチェルは護衛としてかつてオアマ・モトヒーデの研究所で見た、筋肉質な黒いイカマンを引き連れている。

 徹底的に破壊したはずの研究所の産物の存在に訝しんでいたが、即座に疑問が氷解する。

 黒いオーラが凝固して、あのイカマンが出現していた。

 

「それが魔剣カオス……。わたしにちょうだい」

 

 今度は黒いオーラから巨大な眼球が生まれる。その瞳に見つめられたランスの精神が動揺していたので即座に対処する。

 精神防御の魔法を組み上げてランスにかけると、彼女に入り込もうとしていた黒いオーラはあっさりと振り払われた。

 

「断る!」

 

「聞いた話だとあんた、儂と悪魔を合体させようって?そんなの儂ごめんよ」

 

「あら、振られちゃった」

 

 アムの話術は本人にも隙が生じる。それを補うために、悪魔の力を補助に用いたようだったが、魔力による洗脳であればわたしの方が上手だ。

 すでにわたしの影響下にあるものたちを操作するのは、生半可なことでは出来まい。

 

「はっ!!」

 

 再び襲いかかって来た汚染の槍を今度は地面に縫い付けるよう、大きく剣を振り下ろす。

 汚染魂ともなれば物理的に干渉することも可能になる。アムはその性質を利用して変形させ、槍や触腕として動かしているがそれはこちらからも物理的な干渉が可能になるということでもある。

 

 汚染の槍を素手で掴む。その瞬間ドス黒い感情が流れ込んで来るが自己洗脳によって防護しつつ浄化を試みる。

 結果、汚染の槍一本分の質量が浄化される。ただの魂に戻ったそれは天へと帰っていく。

 

「あら、酷いことをするのね。せっかく神の忘却を得て、平穏を得た魂をこの世界の輪廻に返してしまうなんて」

 

「どうとでも言ってください。わたしはわたしのために手段を選ぶつもりなどありません」

 

 天に帰った魂は、また新しい存在として生を受けてこの世界に返ってくる。

 ラブクラフトンの一部だった魂ならば、元は悪魔に魂を売った者だろう。悪魔と取引をするほどにこの世界に絶望していた魂を再びこの苦界に戻すことになるのかもしれないが、わたしにとっては関係のないことだった。

 

 僅かなりともアル・アジフの力を削いだことで、アムの警戒レベルが上がる。わたしに対して、常に複数の触腕や槍が連続して襲うようになる。

 それはわたしに注意を割く分、他が疎かになることでもありランスが肉薄してアムに一撃を見舞う。

 それは不死身の完全汚染人間にとっては戦闘に支障のない範疇だが、ダメージはダメージ。積み重ねれば物理的に肉体を動かすことが難しくなるはずだ。

 

 もちろん、元が高位の悪魔であったアル・アジフをわたし一人ですべて浄化するのは現実的ではないだろう。

 しかし、アムにとっては戦略的な価値以上に、その信仰において一度汚染された魂を元に戻されるのは許すことの出来ない事態だった。

 

「アイゼル。あなたにも神の忘却がありますように」

 

 苛烈になる攻撃を守勢に回って凌ぐ。シーラの回復魔法もあり、そう簡単には崩されることはない。

 その間にアムに痛打を与えられればこちらの勝ちだ。

 

「アムちゃんピンチっぽいね……。じゃ、助けてあげる。食らって狂いな……。拡散モルルン、範囲収束!!」

 

 世界全体に汚染を広げるための拡散モルルン。その範囲を狭めることで、濃度を高める。

 リクチェルには強力な呪いの詠唱を阻害するために常にレンジャーによるマークが付いているが、元より発動していた呪いの範囲を変えるだけの行為はその警戒を掻い潜ることに成功していた。

 

「あはははっ!!さぁ、いい感じに悶え苦しむところを見せてちょうだい!!」

 

 魂を汚染される者たちの苦悶への期待感に、リクチェルが高らかに笑う。

 人が苦しむ様を楽しみたい。リクチェルがアムと手を組んだ理由はただそれだけだった。

 魂の汚染には絶望や苦痛が付き纏う。アムにとってリクチェルは有用であったし、リクチェルにとってアムは喜悦を提供してくれる。

 ある意味、この両者が組むのは当然の成り行きとも言えた。

 

「炎の矢」

 

「デビルビーム!」

 

「あちっ!いたっ!!もう……何なのよ……。何で発狂してないのよ!!」

 

 そんなリクチェルに志津香とナギの魔法が炸裂する。リクチェルはダメージよりも、自身が望む展開になっていないことに激怒する。

 

「ふっふっふ!ティーチしてあげまーす!これこそ!わたしがアイゼル様より賜ったバランス・ブレイカー!リラックス・バストのパワーです!」

 

 魂の汚染に至る絶望や苦痛。その対極となる安らぎをもたらすのがリラックス・バストの力だった。

 サファイアの豊満なバストに宿ったそれは、本来ならば戦闘すら放棄するほどに、強制的な安堵をもたらす。

 しかし、精神操作の魔法によってその効果は限定され、魂の汚染を防ぐ対抗手段として機能していた。

 

「リラックス・バスト……?安心、安らぎ。なにそれ、全然面白くない!!アムちゃん!!こいつら、即死の呪いでぶっ殺す!!そして、一人生き残った魔人をなぶり殺しにしよう!!本当は一人一人、狂うところが見たかったけど……、その分こいつに苦しんで貰う!!」

 

「……分かったわ。詠唱の時間を稼ぐわ」

 

 無差別に発動するリラックス・バストはリクチェルやアムにも効果を発揮している。

 戦闘で用いるためにいくらか効力が封印によって抑えられているが、それでも一定の効果はある。

 しかし、それ自体が激昂のトリガーであるかのように、リラックス・バストによる沈静を振り切って感情を爆発させたリクチェルが詠唱を開始する。

 

 それと同時にアムもまた汚染塊から多くの質量を割いて、改造イカマンの肉壁と黒いオーラの結界を展開してリクチェルをガードする。

 その分、アムに隙が生じているが、そちらに葛っている場合ではなかった。

 

「火爆破!」

 

「死爆!」

 

 動力魔球へのダメージのリスクを覚悟で、強力な魔法で護衛の改造イカマンを志津香とナギが吹き飛ばす。

 

「はぁぁぁああっ!!」

 

「ふんっ!」

 

 そしてそこにリックとロレックスの剣が撃ち込まれるも、結界に阻まれてしまう。

 結界の破壊に手こずるわたしたちを見て、半透明な結界の中にいるリクチェルが口角を釣り上げた。

 

「猿の手に、希う……!」

 

 悪魔の力による結界、破壊するのならば同じ悪魔の力を以てするしかないか。

 悪魔化によって、アル・アジフによる命令権が発動することを警戒して力を抑えていた魔剣の力を解放する。

 求めるのは一足跳びにリクチェルの元に向かう脚力と結界を切り裂く腕力。総じて獣の如き身体能力を猿の手がもたらす。

 

「間に合え……!!」

 

 強烈な踏み込みに床が砕ける。その反動で猿の如く跳ねたわたしはそのまま振りかぶった剣を、全力で叩きつける。

 結界が切先を阻む。両の足を地に付けて、両の腕で力を込めると少しずつ結界に切れ目が生じていく。

 詠唱の終了が近いのか、リクチェルが勝利を確信した、その瞬間だった。

 

「──なっ!?かはっ!」

 

 結界を形成する黒いオーラが泡立つようにして眼球に転じる。

 それは当然、強度に乏しく剣が触れていた範囲はあっさりと切り裂かれリクチェルの体が切り裂かれる。

 不意に対抗が消えたことで剣の軌道は意図せぬものとなり、リクチェルに与えた傷は浅いものだったが、驚愕も相まって詠唱を阻止するには十分だった。

 

 そして切り裂かれなかった無数の目は、同胞を潰された憎悪の籠った視線をわたしに注ぐ。

 全力に近い力を割いて作った結界を、転じさせて作った無数の魔眼。

 その威力は凄まじく、致命的な隙を生じる。

 

「上位の悪魔として命じる。わたしの言葉に耳を傾けて。──この世界は間違っている。アイゼルくん、あなたもそう思うでしょう?」

 

 そして、そこにアムの囁きが耳をくすぐった。

 

「瞬間移動……!」

 

 ハンテイの驚愕の言葉を最後に何も聞き取れなくなる。外界から意識を遮断され、自身の内部への意識が集中する。

 そしてそこに、アム・イスエルが侵入り込んで来た。




アイゼルは一体どうなってしまうのか。
逆転の手は残されているのか、それともアム様ばんじゃーいになってしまうのか、乞うご期待!
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