ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
「──ともかく、ルーンが復活してしまったというのならば、早くその猛威を食い止めなくては。転移魔法陣を敷きます。アテン、転移魔法のジャミングの解除はどのくらいかかりますか?」
アムにしてやられたことに敗北感はあるが、ここは切り替えなくては。
ポジティブに考えるならば、アムが去ってバベルの塔を制圧出来たのは一つの大きな成果だ。
これで上空からの汚染の拡散は阻止できた。
「はい、アイゼル様。アム・イスエルが去ったことで悪魔の力による影響も薄れたようです。残滓を除去するだけならば……30分もあれば可能かと」
30分。それは闘神MMが起動するには充分な時間だろう。そしてかの闘神はマジックポーンの量産という能力により、時間が経てば経つほどにその脅威を増して行く。
初動の対処が重要になる手合いだ。
「仕方ありません。わたしが直接向かいます。幸い、人数制限の都合もあってラング・バウにも戦力が残っています。そちらと連携して食い止めます」
「──っ!アイゼル様、それはっ!」
飛行する手段を持たないわたしが、下に直接向かう手段を察してアテンが抗議しようとする。
それを手を突き出して抑えて指示を続ける。
「アテン、あなたはここに残って転移魔法の開通に専念しなさい。開通後はこちらの防衛に。ガーネット、サファイア、トパーズ。あなたたちはここから魔力を拡散させて、汚染による騒乱の鎮圧をしてください」
「アイゼル様っ!相手は闘神だよ!?」
「わたしたちもトゥゲザーして戦わせてくださいっ!」
「下の人間共など放っておけば良いではありませんかっ!」
わたしを心配する使徒たちの声を無視する。
そこに多少なりとも心が痛むが、同時にそれだけの忠節と思慕を向けられていることに喜びも覚えた。
「時間をかければかけるほどに勝率は下がっていきます。これが一番の安全策です。そして皆さんは転移魔法が開通され次第、参戦を願います。フリーク翁とハンティは予定通り、この浮力の杖の制御を頼みます」
「そりゃもちろん。俺たちの国だし、俺たち人間の世界だ。守るのは当たり前だ。だからこっちから言わせてくれ、頼む。ヘルマンを、人間界を守ってくれ」
「ええ、任されました」
無骨な漢からの無骨な言葉も悪くない。珍しく奮い立つものを感じながら、わたしはバベルの塔から飛び降りた。
◆ ◆ ◆
「怯むな!ヘルマン第三軍、帝都の守護の意地を見せろ!」
ヘルマン第三軍の中隊長、アミトス・アミテージの号令の元、矢の雨がマジックポーンに降り注ぐ。
ヘルマンの誇る重装騎士たちを前衛に並べ、その奥に弓兵を構えた布陣はオーソドックスだが、それゆえに付けいる隙のない鉄壁を誇る。
アミトスは高潔な軍人であったが、それゆえに柔軟性に欠けるところがある。
本人もそれを自覚して、教本通りの防衛戦術を取っていた。
「へっ!ロレックス将軍が上で戦っているんだ。俺らも負けてられっかよ!」
そしてその融通の効かなさをヘルマン第五軍の精鋭たちが補っていた。
ヘルマン最強の剣豪ロレックスが率いる彼らは、白兵戦に優れ建造物の間の細道といった絡め手を潰していく。
幸い敵の一体一体の戦闘力は低い。武装した軍人であれば問題なく仕留めることができる。
故に守勢に徹していればそうそう負けることはないと断言出来る。
だが籠城とは時間を稼いでいれば勝利できる算段があって初めて意味がある。
突如として帝都に出現し、今なお途絶える気配の無い敵軍相手に持ち堪える意味があるか分からない感覚は、アミトスの精神を削っていた。
「くだばりなぁっ!!はぁぁぁぁあああっ!!!」
「なっ!?貴様、ミネバか……!」
そんな最中、両手に斧を携えた女が率いる一団が敵軍を押し退けて迫り来る。
援軍かと思ったアミトスに一瞬安堵の色が浮かぶが、それを率いているのがクーデターを起こして革命軍に敗れ拘束されたはずのミネバだと気づいて驚愕する。
よく見れば彼女が率いているのは、囚人服を着た者たちだった。
帝都の混乱に乗じての脱獄という、新たな問題の発生に、顔を顰めるとミネバがそれを見て意地悪く笑った。
「はっ、そう嫌そうな顔をしないで貰いたいね……。これも刑務作業って奴さ、こんな状況だ、戦える奴は遊ばせておく余裕なんてないだろう?」
「貴様、よくも抜け抜けとそんなことを……!」
「はんっ、別に嘘は吐いちゃいないよ。こいつのせいで今のあたしは
ミネバが自身の首に取り付けられた首輪を見せつける。
マジックアイテムらしきそれは、ミネバが屈辱的なその姿に甘んじている時点で、彼女の行動を縛る何かがあると伺わせていた。
「ヒューバート殿が貴様の釈放を認めたというのか?」
「ははっ、もっと上さ。まあ、そこはどうでもいい。その上からの命令はこうだ。とにかく市民を守って時間を稼げってね。自分が脱出するまでの時間稼ぎかもしれないが、それなら市民を守らせる意味はないから、何かしらの勝算はあるんだろうさ」
「そうか……。何者かは知らないが感謝しよう」
「あたしの言葉を信じるのかい?」
「あの敵が何なのかは知らないが……、寝返りが通じる類には見えん。貴様が腹に何を抱えていようとこの場は戦うしかあるまい」
「くくっ、まあその通りさね」
単純な堅物だと見下していたアミトスに図星を突かれたミネバは苦笑した。
絶対服従魔法で逆らうことはできないが、それが無かったとしてもここで戦わない訳にはいかなかった。
例えどれほど落ちぶれようとも、潔く死ぬなんてつもりは毛頭ない。
「さあて、久々に真面目な殺し合いってやつをやろうじゃないか。野郎共!あたしに続きな!!」
「おうよ!ミネバの姉御ー!!」
「貴様に率いられるのは業腹だが、仕方あるまい……」
率いるのは牢屋にいた傭兵崩れの盗賊に、ミネバやステッセルに抗命しようとして収監された軍人たち。
ミネバと違って絶対服従魔法はかけられていないため、その気になれば逃げることも寝首をかくことも出来る者たちを、ミネバはその強さをもって付き従え、暴れ回る。
攻撃と防御、両方の部隊に指揮官が揃ったことで、第三軍と寄せ集めの兵たちはマジックポーンの進撃を食い止めていた。
◆ ◆ ◆
「今じゃ!縄を引けぇ!」
マジックポーンは几帳面なまでの隊列を組んで進撃してくる。
自分の隣の個体が矢で射抜かれようと、魔法で焼かれようと平然と向かってくる様は、歴戦のヘルマン兵をして恐怖を抱かせる。
だがその性質を逆手に取って対処する者もいた。
体格も歩幅も全く同一の個体で構成された軍隊。それはある種の理想の具現だったが、だからこその欠点も存在していた。
例えば突如として足元に縄を張られたならば、体格も歩幅も全く同一であるが故に、横一列の全個体が同じように脚を取られて、同じように転んでしまうとか。
なまじ密集しているが故に、まるでドミノのようにマジックポーンは倒れていく。
単純な策だったが、数の多い集団を先に抹殺しようとする特性を見抜いた上で、マジックポーンを誘導する部隊と縄を引く部隊を配置出来る場所に布陣し、最大限の効果を発揮するタイミングに号令を行うのは、空から見るような戦況の把握能力が必要だ。
鷹の目を持つと言われるヘルマン随一の名将、レリューコフ・バーコフでなければ出来ない采配だった。
第一軍の兵たちは、先の革命軍との戦闘とその後の魂の汚染による暴走によって負傷した者が多くいた。
それをレリューコフの指揮と、協力者の存在によって補っていた。
「こんな見た目だけど毒は効くようで良かったわ」
「ふん、つまらん敵だ」
「ふははははっ!我が雷の前に散れぇ!!」
風向きを読んで敵軍にのみ毒をばら撒いてその進軍速度を抑える暗殺者、果敢に斬り込んで敵の注意を引き付ける戦士、そして強大な魔法によって殲滅する魔法使い。
アイゼルが、地上に残した生けるバランス・ブレイカー三人。
彼らもまた、主人の命令により、敵を屠り続けていく。
だが、彼らをしてマジックポーンの物量はどうしようもなく。
布陣によって誘導しきれなかった個体が、別の人間たちを襲いに流れていくのを留めることは叶わなかった。
◆ ◆ ◆
「ああもうっ!こんなタダ働きをさせられるなんてっ!」
「アイゼル様ならご褒美を下さると思うのだけれど?」
「そんなもの1Gの価値もないわっ!!」
アイゼルの命令により、ラング・バウに諜報員として滞在していたカチューシャもまた、突如として本城から現れたマジックポーンの軍勢への対応に追われていた。
連れてきた奴隷のうち戦闘の心得があるものを護衛にして迎撃を行い、戦えない奴隷や逃げて来た市民にはバリケードの作成や応急手当てなどを行わせる。
そうした人材の割り振りは、犯罪組織を率いる彼女の本領だった。
恐怖を振り撒くカリスマは少女の肉体に封じられたことで失われたが、その抜け殻に擬似的な魂を入れた人形が補ってくれている。
あてなシリーズの技術で作られた彼女は、カチューシャの肉体と記憶を持っているだけあって暴力に極めて高い適性を持っているが、アイゼルへの忠誠も持ち合わせているのが、カチューシャにとっては苛立ちの種だった。
「ふんっ!……全く、どうせ人形の兵隊を作るのならこういう無駄口を叩かない造りにしておけばいいのよ」
八つ当たりめいて白い不格好の人形の首をへし折る。
ご丁寧にも首の関節までも再現されているため、対人の技がそのまま使える。
のっぺりとした白い体は何で出来ているのか知らないが、強度はそれほどでも無いため足を掛けて転ばせて、思い切り頭を踏みつけることでも十分な損壊を与えられた。
「あら、それじゃあ諜報に使えないじゃない。それに言葉が通じる人間と言葉が通じない怪物じゃあ、相手に与える恐怖の質が違うわ。人の形をしているって重要な要素だと思うけれど」
一方カチューシャの姿をした人形は、両手に一体ずつ白い人形の首を握ると頭と頭をぶつけ合わせて二体同時に処理していた。
女性にしては大柄な体格に鍛え上げられた肉体、そしてアイゼルによる改造によって強化されたこの人形はかつてのカチューシャ以上の戦闘力を誇る。
カチューシャが二手掛けて敵を一体倒す間に、この人形は一手で複数体を仕留めていた。
「このままじゃジリ貧ね……。とにかく敵の数が多すぎる……。アイゼルのやつは何をやっているのよ」
「そうね……。アイゼル様、心配だわ」
「心配なんかすんなっ」
「くすっ、あなたはアイゼル様には心配なんかいらないって思っているのね。その通りだわ、アイゼル様がこの程度の相手に負けるはずが無いもの。だったらわたしたちは、アイゼル様が事態を解決するまで生き延びることだけを考えなきゃ」
「ちーがーうー!!」
声を張り上げたのは図星を突かれたからだった。
精神が肉体の影響を受けて、感情の制御が難しくなっている。
本来ならば思っても無いことを、然も本心であるかのように語れるポーカーフェイスの持ち主だった自分が、素直に感情を曝け出してしまっている。
その弱さがなんとも不快だった。
このか弱い肉体は、迫り来る無機質な軍勢に恐怖すら覚えていた。
言葉が通じない怪物への恐怖。それは交渉の余地がないということだ。
カチューシャが相手にして来たのは裏社会の“人間”たち。彼らには欲があれば目的もあった。ゆえにそれを見抜き、出し抜き、陥れることで彼女は生き延びて来た。
それが通じる余地がない相手には、当然脅威に感じる。
それでもカチューシャ・ボッシュが無様に怯えるなどあってはならないと、矜持を持って戦い続ける決意を決めた瞬間だった。
空から何かが墜落して来た。それは、人形を下敷きにするとゆっくりと立ち上がる。
「ふう、流石に、無敵結界があっても肝が冷えますね……」
「アイゼル様!」
「アイゼル……」
「おや、カチューシャですか。無事で良かった」
そこからは早かった。アイゼルは白蛇と黒蔦を呼び出して人形たちを駆逐していく。そして人形たちの残骸に黒蔦が絡み付いたバリケードで一帯を囲み、即席の安全地帯を作り出した。
アイゼルに助けられて、安堵を覚えた自分の弱さに、カチューシャは悔しさを覚えた。
「さっさとぶっ倒してきてちょうだい」
「くすっ、かしこまりました。ボス」
その安堵を隠すために、アイゼルに強気で命令する。
無論、自分が従属させられている身だと言うのは十分承知している。だからこれはある種の諧謔だった。
どこが琴線に触れたのか、アイゼルは愉快そうに笑うと恭しく礼をして騒乱の中心に向かっていった。
◆ ◆ ◆
「火爆破!!」
「魔人よ……。滅べ!!」
生成されたばかりのマジックポーンの隊列を魔法で吹き飛ばす。
リクチェルの呪いによって強化された爆風は、簡単に彼らを散華せしめた。
これだけの力を持ってしても、戦慄を覚えざるを得ない威容。
同じレベル3の魔法使いであるミラクルや志津香、ハンティすらも比べものにならない魔力量。
ラングバウの本城から溢れ出るマジックポーンを掻き分けて、闘神MMにわたしは見えていた。
ドラゴンと巨人を足し合わせたような巨体を、鋼鉄で容作った人造の神。無機質な黄金の仮面の奥には、人間らしい激情を覗かせている。
宿敵に対する殺意よりも憎悪よりも、強く身を震わせる重苦しい気配。
すでに魂が汚染済みであることは明らかだった。
「あら、久しぶりね」
十年か、百年か、あるいはもっとか。
バベルの塔から地表に激突して、バラバラになった肉体を再構築して、闘神の封印を解いた彼女は、その苦労を微塵も感じさせずに微笑んでいた。
闘神MMの矛より、充填された魔力が放たれる。それと同時にアム・イスエルが汚染の槍を放つ。
「ふっ!」
汚染の槍のみを剣で弾く。闘神MMの攻撃は、無敵結界によって防ぐまでもなく阻まれていた。
「さあ、ルーンよ。かつての敗北の二の舞を演じるがいい」
「滅べ……!!」
わたしの挑発に、闘神MMが更に破壊の魔力を滾らせる。
その分、マジックポーンの生成に使われる魔力は減り、生成される数は先ほどよりも減る。狙い通りの展開だった。
アイゼルの介入によって生き延びたヘルマン軍人たちの奮闘。
トーマ将軍も生きていればとも思いましたが、あの散り様がパットンやヒューバートの覚醒に繋がったのも事実。
その分彼らに頑張ってもらうとしましょう。
そういう意味では一番勿体なかったのはフレッチャー・モーデルかもしれません。
アイゼル・ブートキャンプでダイエットすれば今頃マジックポーンをちぎっては投げちぎっては投げしていたことでしょう。