※この作品はR-18です。

ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜   作:斧池 数馬

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シャングリラ防衛戦

 魔物界から人間界への侵攻を語る上で、欠かすことの出来ない要素が、ゼスのマジノラインとヘルマンの番裏の砦だ。

 二つの大国が多額の予算と労力を費やしているこの要衝が、魔物界から大軍勢を攻め入る際の大きな障害となっている。

 

 そのために魔軍は、少数による工作でこの砦を機能不全に陥らせるか、厳しい自然環境のクリスタルの森やキナニ砂漠を通って迂回するか、あるいは多大な労力をかけてこの二つを攻め落とすかの選択を強いられることになる。

 

 原作における第二次魔人戦争では、広大なキナニ砂漠の中心に存在するシャングリラに前線基地を置き、聖女の子モンスター、地のハウセスナースの力で砂漠を整地して各国に進軍していた。

 

 故に、シャングリラを守ることが出来れば、魔軍の侵攻の出端を挫くことが出来るだろう。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 原作とは異なり、魔人メディウサを失っているため、シャングリラ攻略に派遣された魔軍は、魔物将軍を指揮官としたオーソドックスな編成であった。

 広大な砂漠地帯を、ハウセスナースの力で容易に通過してしまえば、ルチェ・デスココ387世の孤独な王国でしかないシャングリラを落とすには十分すぎる戦力だと言えた。

 

 しかし、そこにはわたしという、彼らの予想だにしない伏兵が潜んでいた。

 

「また、黒い光線が飛んできやがった!こっちの魔法兵は何をしてやがる!」

 

「火力が違いすぎる!」

 

 ガーネット、サファイア、トパーズによる黒色破壊光線が魔軍の隊列を縦に割る。

 その被害を減らすために、魔物将軍は戦力を大きく散らして展開しているが、それが指揮が行き渡らない事態を起こしていた。

 

「さっさと逃げちまおう!」

 

「敵を前に逃げるものは切り捨てるぞ!──ぐはっ!」

 

「さぁ、魔人アイゼルの剣にて討たれる名誉を、求めるもの戦士はいるか!」

 

「ま、魔人だって!?」

 

「ひぃぃ!だったら勝てる訳がねぇ」

 

 小分けにした部隊を指揮する魔物隊長を暗殺し、さらに混乱を助長する。

 あえて高らかに名乗りを上げ、魔人の強大さを知っている魔物兵たちを威圧する。

 もちろんいくら魔人とはいえ、軍勢を相手にすれば無敵結界に干渉しない拘束などの方法によって封殺されることもある。しかし、黒色破壊光線の脅威に晒されているこの状況では、魔人に対する包囲網を作ることなど不可能だった。

 

 敵集団に一撃を加え、名乗りを上げて存在を主張したところで、攻撃魔法で砂煙を起こし、変身魔法で砂漠に適した迷彩衣装に姿を変えて離脱する。

 その繰り返しで、魔軍は神出鬼没の魔人への恐怖によってその士気をへし折られていた。

 

「くぅぅぅ、不味いぞ。ここの攻略に失敗すればケイブリス様からの、罰が……。何としても落とさねば……」

 

「しょ、将軍!ハウセスナースの恋人のイカマンが逃走しました!ハウセスナースも随行しています!!」

 

「な、何だと!ハウセスナースから離れれば、我々は砂漠で枯死してしまう!!ええい!退け!退けぇぇぇぇぇ!!」

 

 魔物将軍はケイブリスへの恐怖により粘っていたが、結局のところ臆病風に吹かれたイカマンの逃走によって、撤退を余儀なくされた。

 

「ふぅ」

 

「お疲れ様です、アイゼル様。本当に、追撃しなくていいのですか?」

 

「イエス、今ならホーリーガールモンスター、ハウセスナースもキャッチブルだと思います」

 

「あの強大な能力がケイブリス派の元にあるのは、とても厄介です。逆に言えば、こちらのものに出来れば大きなアドバンテージになるかと」

 

 ひとまずは順当な勝利に息を吐く。しかし、魔人が派遣されれれば、一転して追い込まれる事態になるだろう。

 シャングリラは大規模な戦力を展開するのに向かない。魔人に加えて、大規模な魔軍が攻め込んでくる事態になれば、勝ちの目はほとんどない。

 それを知っている使徒達は、この勝利から更なる有利を勝ち獲ることを提案していた。

 

「ケイブリス派の魔人を各個撃破するならば、魔軍を人間界全土に散らせなくてはなりません。そのためには、どこかしらに橋頭堡を築かせる必要があります。今回の防衛戦は、それをどこにするのかをこちらで誘導するのと、シャングリラの()()を確保するのが目的です。ここでは欲をかかない方がいいでしょう」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「この、臆病者がぁぁぁ!!」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」

 

「ちょっと!杉本君が怖がってるでしょ!!」

 

 そもそも聖女の子モンスターとは、地上の生命とまぐわい新たなモンスターを産み出すことを役割とする下級の神である。

 モンスターの母ともいえる存在だが、その使命の本質は人間と魔物の争いに彩を添えて、創造神ルドラサウムを楽しませることであり、基本的にはモンスターに偏って与することはないはずだった。

 

 それなのに何故ハウセスナースがその権能を振るい、魔軍の侵攻を援けているのかといえば、彼女の気質が原因だった。

 

 平たく言えば惚れた弱みだった。魔軍の雑兵であるイカマンに惚れたハウセスナースは、彼に頼まれるままにその権能を奮っていた。

 そんな訳で、魔軍への支援はあくまでついでの範疇であり、恋人のイカマンが逃走するとなれば彼らを見捨ててそれについて行くのは当然の流れだった。

 ……彼女の中では。

 

「ええい!貴様ぁ!敵を前に勝手に逃走するなどふざけているのか!!」

 

「何よ、わたしがどうしようと文句を言われる筋合いはないわ。わたしは、あくまで杉本君に頼まれて、あんたたちを手伝ってるだけだもの」

 

「うう……」

 

 激昂する魔物将軍に対しても、ハウセスナースはどこ吹く風といった様子だった。

 魔物将軍の剣幕に、雑魚モンスターであるイカマンの杉本君だけが震えながら身を小さくしている。

 魔軍にとって重要なのはハウセスナースであり、自分はその懐柔に使えることにのみ価値がある。

 ある種不相応な自尊心を持つ彼は、その事実にひどく心を傷付けられているが、ハウセスナースも魔物将軍もそんなことに気づいてすらいなかった。

 

「将軍」

 

「何だ」

 

「ここで手をこまねいているだけでは、ケイブリス様のお叱りは免れません。そんな小物と愚者に、葛っている暇はありません」

 

「そんなことは分かっておる!だが一体どうすればいい!相手は魔人なのだ。儂らが敵う相手ではないのだぞ!」

 

 激憤する魔物将軍に対して、一人の魔物隊長が歩み寄って来る。

 他の魔物隊長は、嵐が過ぎるのを待つとばかりに将軍の天幕に近寄らないでいる。

 そんな中でのこのことやって来た魔物隊長は、当然のように八つ当たりの対象にされた。

 

「はい、魔人アイゼルの撃退は諦め、別の場所に橋頭堡を築くべきだと考えます。我々の役目は威力偵察と人間界侵攻のための橋頭堡の確保。将軍はすでに一つ目を成し遂げておられます。ならば後は橋頭堡さえ確保出来れば問題ありません」

 

「ううむ……」

 

 それはある種の詭弁だった。この指令に際しての並々ならぬケイブリスの熱量からすれば、僅かでも瑕疵があれば激怒するのは間違いないだろう。

 しかし、追い詰められた魔物将軍はそれに縋り付くほかなかった。

 

「しかし、どうするというのだ。この程度の軍勢で人間界に拠点を築くことは困難だろう」

 

「はっ、故にクリスタルの森に攻め込み、カラーの集落を拠点化することを提案します。ある程度森を焼き払って転移魔法陣を敷き、ハウセスナースの力で道を整備すれば兵站として機能させることは不可能ではないと考えます。

 

「ふうむ、なるほど。悪くない手だ。カラーは見た目の良い女揃いだと聞く。ケイブリス様に献上すれば喜んでいただけることだろう」

 

「加えてカラーの持つクリスタルは、強大な力を持ちます。こちらも軍事物資として徴収しましょう」

 

 魔物将軍は、聞けば聞くほどそれしかないと思うようになっていた。

 特にカラーの女達を蹂躙出来るというのが魅力的だった。

 敗走を喫した魔物兵たちの士気は著しく低い。それを奮い立たせて行軍させる上で、鼻先ににんじんをぶら下げるのは極めて有効だった。

 当然、それは魔物将軍個人にも言える。熟慮しているかのように顎を撫でているが、頭の中は楽観に満たされつつあった。

 

「良し、その手で行こう。貴様、名は何という?覚えておいてやろう」

 

「はっ。クージと言います。まねしたの魔物隊長です」

 

 この魔物将軍は配下のことを覚えるということをしていなかった。

 それは魔物将軍が、兵たちの感情など考慮するまでもなく、率いることの出来る特殊能力を持つが故のある種の必然でもあった。

 そのため、クージという名前の魔物隊長が自身の配下にいないことに気づくことが出来なかった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「くううう……!妾の代で、ペンシルカウから落ち延びるはめになるとは……、屈辱じゃ!!」

 

「女王、魔軍の侵攻が始まったのですから、仕方ありません。流離の身になることなく、すぐに次の安住の地を得られるのですから、むしろ幸運だと言うべきでしょう」

 

 一方その頃、カラーの集団がペンシルカウを離れ、ゼスを経由して自由都市地帯を歩いていた。

 非戦闘員含めた全員を連れ、カラーの里の結界の起点になっていた三つの神具までも持ち出しての大移動だった。

 

 その中心人物である、カラーの女王パステル・カラーは幾度目かの癇癪を起こし、副官のサクラ・カラーに宥められていた。

 

「はぁ、ランスのところか。人間が大勢あるのが気に食わぬな」

 

()()()()に会えるのが楽しみ!()()()()もそう思うよね?」

 

「そうじゃのう、リセット」

 

 娘のリセット・カラーがはしゃぐのを見て、パステルは微笑んだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「アイゼル様、帰参致しました」

 

「ジーク、魔軍の誘導、よくやってくれました。これで彼らは、ペンシルカウの跡地を起点に各国に攻め込むことでしょう」

 

 架空の魔物隊長クージに扮していた魔人ジークが、シャングリラに帰還した。

 魔軍の人間界侵攻に際しての前線基地を、ペンシルカウに誘導することが彼女に与えた役目だった。

 

 獲物が居ない空っぽのペンシルカウを見て、魔軍は口惜しい思いをすることだろうが、残った家屋を兵舎として利用することだろう。

 ペンシルカウの周囲には、先日植えた黒い植物達が種を残している。

 地中に埋もれたそれは、地上を焼き払われようとも、わたし意思一つで一斉に芽を出して成長することだろう。

 その際、地面に書かれた転移魔法陣はずたずたに寸断されることになる。

 

 魔軍の前線基地を、いつでも機能不全に出来る。それは戦況を左右する大きな一手になることだろう。

 ならばその前線基地を、わたしにとって都合の良い場所にする。

 それが、わたしのこの戦争における最初の一手であった。




ケイブリス軍との初戦闘……
メディウサを早めに始末出来た効果が出ていますね
加えてジークによる内部工作
まだ小競り合いの段階ですがここからも今までのアイゼルの積み重ねが問われる展開になるかと思います
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