※この作品はR-18です。

ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜   作:斧池 数馬

95 / 130
勇者と魔王

 斥候を挫いたところで魔軍の侵攻は止まらない。

 そのすべてを止めることは不可能であり、またそうするつもりもなかった。

 

 わたしの目的は、最大の強敵である魔人ケイブリス、及び敵対する魔人たちを討伐することにある。

 そのためには魔軍を人間界各地に進軍させることで、その戦力を分散させるということが不可欠だった。

 何より、魔人を討つにあたっては油断や慢心を突くのが上策。ならば彼らには人間を相手に破竹の勢いの快進撃というものをして貰うことも重要な意味を持っていた。

 

 それは魔軍が人間界で繰り広げる狼藉を看過するということでもある。かつて人間の身でありながら、そのことを気に病む心はすでに忘れて久しい。心配するのはかつて抱いた女たちくらいだった。

 もちろん民間人のものや奴隷たちには安全な場所を確保してある。しかし、軍属のものは魔軍に対して対峙する必要があり、そこで命を落とす危険性は十分にあった。

 魔軍の侵攻が確実にあることは各国首脳と軍部に伝え、洗脳によってその備えもさせてある。それが功を奏すことを祈るほかなかった。

 

 今のこの段階では、わたしが防衛に力を貸すというのは出来ない。

 人類が団結するには、このままでは人類が滅びてしまうという危機感が必要だ。そのための生贄として、少なくない人類には犠牲になって貰う。

 

 しかしながら、倫理とは全く別の観点で防衛すべき場所も確かに存在していた。

 それは各国の首都でも、軍事拠点でもない。なんの変哲もない、どこにでもありそうな、リーザス北部の小さな村だった。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「ひぃぃぃぃ!なんだってこんなチンケな村にこんな強え人間がいるんだ!?」

 

 この村を襲うのは、魔物隊長の独断専行だったのだろう。魔物隊長を切り捨てると魔軍の一団は瓦解した。

 このような集団は他にいくらでもあるが、獲物の奪い合いを抑えるためにそれぞれが他の集落を襲っている。

 そこでの暴虐に飽きるまでは、この村が再び襲われることはないだろう。

 

「ありがとう……。君が来なかったらこの村はどうなっていたことか……。名前を教えてくれないか?何もない村だが、お礼をさせてくれ」

 

 斧を手に共に戦っていた赤髪の青年が、感謝を述べる。

 わたしが大部分を受け持ったとはいえ、彼は戦闘用でない斧で何体もの魔物兵を仕留めていた。

 

「何を頼むか、聞かなくていいのですか?そうやってホイホイ人の頼みを聞いてたから勇者期間が時間切れになっちゃったんだと思うんですけど」

 

「くすくす、何もない村とは謙遜ですね。あなたがいるじゃないですか?アリオス・テオマン」

 

 アリオス・テオマン。20才の定年を迎え、その力を失った元勇者が彼だった。

 

「どうして俺の名を……」

 

「謙遜も通り過ぎれば嫌味になりますよ。魔人を、魔王を殺し得る存在の名を、知らないはずがないでしょう。さて。元勇者よ、我が名はアイゼル。魔人にしてAL教の法王、この度はあなたに頼みがあってこの村を訪れました。あなたの村を救ったことに恩義を感じるのならば、この要請に応じて貰えませんか?」

 

「魔人だって、それなのに法王様って一体どういう……。ああ、いや、今はそれは置いておこう。こんな村にまで魔物が攻めて来てるってことは、何かとんでもないことが起こっているんじゃないか?ただの村人の俺に出来ることなら、どんなことでもやらせてくれ」

 

 元勇者らしき、迷いのない快諾に胸を撫で下ろす。本来の歴史では勇者の力をとうに失ったアリオスはこの村を守ることが出来ず、愛する幼馴染のニーナが魔物に凌辱され、惨殺されるという悲劇に見舞われることになる。

 その後、彼は聖女の子モンスター、時のセラクロラスの力により若返り勇者の力を取り戻す。

 人類死亡率に応じて解放される勇者の力を用いて世界を救うべく、彼は人類を率いるランスを殺そうと何度も襲い来ることになる。

 勇者の持つ絶大な力を思えば、その事態を防ぐためにこの村を守ることは何よりも重要だと言えた。

 

 その目的を達成し、更に勇者の力を失ってなおそれなり以上の戦力である彼自身を確保することも出来そうだった。

 

「何を頼むか、聞かなくていいのですか?そうやってホイホイ人の頼みを聞いてたから勇者期間が時間切れになっちゃったんだと思うんですけど」

 

「コーラ!?どうしてここに!?」

 

「エスクードソードを回収にですよ。勇者の従者として、次の勇者を見つけないといけませんから。おっと、はじめまして、魔人アイゼル。勇者の従者コーラです」

 

「お初にお目にかかります。勇者の従者よ。法王、アイゼルです」

 

「魔人のくせに法王とか、マジでめちゃくちゃですね。ま、女神ALICEが良しとしているのだから問題はないのでしょうが。さて、アリオス、エスクードソードはどこにあります?」

 

「ええと、どこにしまったっけ?それにしても久しぶりだなコーラ。飯でも食べていけよ」

 

「そんな暇はありませんね」

 

 勇者の従者によって、次代の勇者は選ばれる。

 その男は、最悪の勇者と言っていい存在であり、大きな災いをもたらすことになるが、それは未来の話だ。今現在の第二次魔人大戦において考慮する要素ではなかった。

 元より神が作った勇者のシステムに介入できる訳もない。

 来る未来の災いに、怖気を覚えながらも勇者の従者が魔人も、魔王も、神すらも殺し得る剣を回収するのを見送る他なかった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「お久しぶりです。魔王リトルプリンセス様、健太郎様」

 

「もう、魔王様はやめてってば、アイゼルさん」

 

「あはは、ぼくも様って呼ばれるのはくすぐったいです」

 

「それは失礼をいたしました。とはいえ魔人として魔王とその恋人に最初から砕けた態度で接するのも憚られますのでどうかご容赦を。お二人とも、何かご不便はありませんか?」

 

 現在の魔王、リトルプリンセス来水美樹とその恋人にして魔人、小川健太郎とはJAPANでの騒動の以来の再会だった。

 ケイブリスの目的が新しい魔王になることが目的な以上、彼女を保護するのはとても重要だ。そのため、わたしは彼女を異次元に存在する、元玄武城、現アイゼル城に匿っていた。

 アテンとミラクルのいたちごっこや悪魔の侵入も経て、幾たびも強化されたセキュリティはわたしが用意出来るなかで最上のものだ。

 

「不便なんて何もないよ。本当にありがとうございます」

 

「うん、本当にお世話になってます」

 

「それは良かった」

 

 魔王に恩を売っておくのはわたしの野望にとっても重要だ。そのため、アテンには彼女たちを丁重にもてなすように命じていた。

 

「さて、美樹様、健太郎君。一つお耳に入れたいことがございます。……お二人を探して、魔人ケイブリスの軍勢が人間界に侵攻しました。複数の魔人が確認されており、我々ホーネット派の魔人や魔剣カオスを持つランスでは手が足りません。恥ずべき頼みですが、魔人を討つことの出来る聖刀日光を持つ健太郎君に助力を願えないでしょうか?」

 

「分かりましたアイゼルさん。ぼくたちのせいで皆さんが大変な目に遭っているなら、隠れていることは出来ません」

 

「健太郎くん……。心配だよぉ」

 

「うん……、だけど美樹ちゃん。ただ隠れているだけじゃ、アイゼルさんたちが負けたらぼくらは見つかってしまうよ。だからアイゼルさんたちを助けるのはぼくら自身が助かる道でもあるんだ」

 

「うん、そうだね。分かった!健太郎くん、怪我だけはしないで」

 

「勇敢な決断に感謝いたします」

 

 これで勇者と魔王の脅威は排除し、元勇者アリオスと聖刀日光を振るう魔人健太郎という戦力を得ることも出来た。

 勇者と魔王に比べれば魔人や魔軍の脅威は大したことのないように思えてしまう。

 しかし、魔人一体一体が非常に強力な存在であり、討つためには死力を尽くさねばならない相手だ。

 そして魔軍の数も、一度不利な状況に陥ればそのまま押し切られ戦力をすり潰されかねないほどに、こちらとの差が開いている。

 

 それを思えば、今なお勝利には奇跡とも言える低い確率を引き当てる必要がある。

 油断など出来るはずもなかった。




勇者アリオスと魔人健太郎
戦争に向けて強力なカードを揃えていきます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。