※この作品はR-18です。

ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜   作:斧池 数馬

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人類軍結成

 魔軍の侵攻。それは瞬く間に各国を蹂躙し、その恐怖は更に早く世界に広まった。

 人類の戦力を質でも量でも上回る魔物兵の軍団に、一体だけでも一国を滅ぼしうる魔人たち。

 その脅威を押し留めることは不可能であり、ジリジリと人類はその版図を失っていった。

 

 しかし、これでもまだまだマシな方だろう。人類の内輪揉めで失われずに済んだ将たちの奮闘とわたしがもたらした魔物界の情報。

 それによって人類は混乱に陥ることなく、魔軍に抵抗することが出来ていた。

 しかし、それは魔軍の脅威への認識を狂わせるものでもあった。

 法王の名のもとに開いた世界会議。その場には油断と楽観の気配が存在していた。

 

「各国の戦線はよく耐えている……。この調子ならば魔軍を退けることも叶うのではないだろうか?」

 

「うむ、魔軍も割りに合わない戦争を続けるほど愚かではないはずだ」

 

 それは魔軍の脅威を直接知らない小国の者たちの言葉だった。

 彼らにとって脅威とは大国の横暴であり、近年もヘルマンによる侵攻があったことから人類全体という枠組みには否定的だった。

 

 それはある種の現実主義ともいえる考えだったが、この状況においては間違っていた。

 魔軍の目的は破壊と殺戮そのものであり、それを率いるケイブリスの狙いは魔王の座を簒奪すること。

 そこに妥協の余地は一切なく、人類の抵抗のすべてをすり潰すまでその進軍は終わらない。

 そしてその先にあるのは魔王ケイブリスによる支配という、ただ虐げられるだけの苦界だ。

 

 よって例え何を犠牲にしても戦い、勝利を掴む他に生き延びる道はないのだが、それを理解しろというのも無理な話だ。

 

 だからこの場で必要なのは理による説得ではない。勢いと熱狂によって戦へと駆り立てる狂奔だった。

 

 議場の中心に立つ。世界中の信徒を束ねる者としてAL教のトップは大国の指導者に匹敵するほどの影響力を持つ。

 しかし、逆に言えば影響力はあれど軍事的な戦力を有している訳ではない。

 テンプルナイツは精強な兵だが、数が足りていない。

 よって周囲は、AL教の法王が何を発言するにしろ、比較的穏当な、各国の協力を呼びかけるようなものになると予想していた。

 

「皆さん。AL教法王、アイゼルです。魔軍による蹂躙により、多くの人々がその命を失いました……。魔物兵たちは、破壊と殺戮を心から楽しみ、男は痛めつけてから殺し、女は犯してから殺しています。この悪行を許せるはずがありません……」

 

 ここで言葉を区切る。

 この演説に嘘はない。確かにわたしは魔人で人間を自分の所有物として思っているが、だからこそそれを破壊するものには怒りを覚える。

 

「よって法王の名の元に、聖戦を布告します!!この宣告に従わない国の民には破門を言い渡します!!」

 

「なっ……!?」

 

「法王が直々にだと……?」

 

「こんな横暴、許されるはずが……」

 

 この世界で最大の宗教であるAL教は、当然各国の国民にも多くの信徒を抱えている。

 それを扇動すれば、国を転覆させるなど容易く行える。

 ムーラテストで各国が法王の候補たちを支援するのは、この特権を振るわせないためでもあった。

 そうでなくとも大国の指導者たちならば、法王の独断を諌められるはずに違いない。そう期待を込めて小国の王たちは視線を向けるが──。

 

「法王の命に従います。ヘルマンを如何様にでもお使いください」

 

「……うちの国も従うわ。ゼスを救ってちょうだい」

 

 大国の指導者たちはとっくの昔にわたしに絶対服従の存在と化している。

 ヘルマンはともかく魔軍の脅威を知る国の者は理の上でも賛成せざるを得なかった。

 

「はーい、リーザスは法王様に着いていきまーす!」

 

「法王の正義に、我らも従おう」

 

 それは強烈なカリスマを放つ両者。世界一の大国であるリーザスを支配する女王、リア・パラパラ・リーザスとJAPANの絶対君主である帝、上杉謙信も同様だった。

 これまでの会議において各国はリーザスに従えと公然といい放っていたリアと、その超然とした佇まいと気配で静かに注目を集めていた謙信の賛同は小国の王たちを驚かせるのには充分だった。

 

「城主ランスよ、来なさい」

 

「はい、法王様」

 

「何故あのような小娘が……?」

 

「この城の主というだけでこの場にいるのだと思っていたが……。何かあるのか?」

 

 最後の仕上げとしてランスを議場の中心に呼び寄せる。

 普段の露出の多い鎧ではなく、全身を覆う白銀の鎧を纏った姿は威厳すら纏っている。

 そして何より、彼女が佩いている魔剣の放つオーラが、彼女をただの冒険者と侮ることを許さなかった。

 

「ランスはこれまで多くの魔人と戦い、勝利を収めて来た英雄です。あなたを聖騎士に任じます。その魔人殺しの魔剣をもって、魔軍に裁きを下しなさい」

 

「はいっ」

 

 儀礼用の剣を抜き、跪いた彼女の両肩を叩く。

 叙任の儀を終えると、魔人の力を僅かに解放して少々の()()()()をする。

 

「皆さん、人類を救うための戦いにどうか力を貸してください!」

 

「はい」

 

「ええ、もちろんよ」

 

「はいはーい。リーザスの魔軍を最初に倒すのがいいと思いまーす!」

 

「ここに人類軍の結成を宣言します」

 

 ランスの宣言に賛同する大国の指導者たち。もはや議場の流れは完全にわたしの手の中にあり、わたしの人類軍結成の宣告に異を唱えられるものはいなかった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「おはようございます。アイゼル様」

 

「おはよう、ウルザ。やはり戦況は思わしくありませんか?」

 

「はい。各国奮闘していますが、やはり戦力差は大きいですね」

 

 人類軍結成から一夜明け、ランス城の一室は軍議の間に早替わりしていた。

 巨大なテーブルの上には大陸の地図が広げられ、彼我の戦力を示す色違いの駒が置かれていた。

 各国の軍人が入れ乱れて、戦況を俯瞰し苦い表情を浮かべている。

 

「JAPANからの援軍である程度改善は望めるのでしょうが……。魔人を倒せなければどうしようもありません。そこは同じ魔人である法王様と魔剣カオスを持つランスさんの活躍に期待する他ありません」

 

「とはいえAL教の法王は人類にとって失うことの出来ない重要な存在です。あなたを失ってしまえば人類軍は瓦解してしまいます。最大限、慎重な戦い方をお願いします」

 

 そこにヘルマンの軍師、クリーム・ガノブレードとリーザスの軍師、アールコート・マリウスも加わる。

 ちなみにここにいる各国の軍人たちにはわたしが魔人であることを明かしてある。そこに反感や動揺を本来は覚えて然るべきなのだろうが、ここランス城に限りそういう感情は無理やりに抑え込められる。

 ゆえに軍師たちはわたしという存在を純粋な戦力として評価し、策に組み込んでいた。

 

「法王様とその直率の精鋭部隊には魔人の討伐に専念していただくべきでしょう。そのためにまずは魔人の所在について確認するべきかと」

 

「まずはヘルマンから。ヘルマンには現在二体の魔人を確認しています。巨大な魔人バボラと闘神を操る魔人レッドアイ……。どちらも大規模な破壊能力を有した危険な存在です。まともな交戦は不可能でヘルマンの国土の縦深を利用した遅延戦術を取っています」

 

 バボラは身体がどんどんと成長していくという体質を発現した魔人であり、その代償として知能は著しく低い。

 レッドアイは寄生した相手を操る能力を持つ魔人で、ひたすらボディを強者のものに取り換えていくという行動原理のみで行動する。

 

 愚鈍なバボラも、狂乱しているレッドアイも、どちらも相手の策の裏をかく発想を持つ手合いでは無い。

 ゆえにヘルマンの取っている遅延戦術は正着だと言えた。

 

「次にリーザス。こちらも魔人が二体いると目されていますが、確証は得られていません。まず魔軍に鬼の集団がいることから彼らに指示を出すことの出来る魔人がいると予想されています。次に砦が一夜にして落とされた異常事件。こちらは強烈な睡魔に襲われたという証言が辛うじて逃げ延びた兵から得られています。こちらも魔人の仕業かと」

 

 ヘルマンとは対照的にリーザスは魔人の正体を確認出来ていないようだった。

 ほぼ確実にその二体の魔人はレキシントンとワーグだろう。

 

 前線で暴れることなく鬼をけしかけているだけのレキシントンの中身は恐らくニミッツ・リークだ。

 魔人復活の素体に選ばれ、なぜか自我の主導権を持つことに成功したただの少女。

 魔人としてはほぼ無力とはいえ鬼の集団と使徒アトランタとジュノーの存在は脅威だ。

 

 周囲の者を強制的に催眠状態に陥れるワーグは抵抗すら許さずに軍勢を崩壊させられる。

 その殲滅速度はなまじ破壊を楽しむ気質のある強力な魔人より高い。

 

「自由都市群については機械の兵団と強力な電撃を使う魔人が確認されています。また一枚岩の国家ではない自由都市群は組織だった抵抗が出来ていないのが現状ですね。人類軍による統制が一番必要な地域です」

 

「それは魔人パイアールと魔人レイでしょう。異常な科学力を持つパイアールと、戦闘を好む武闘派の魔人レイ……。どちらも脅威ですね。統制上の問題は法王の威光が通じることを祈るしかありません」

 

 こちらについては原作と侵攻の顔ぶれは変わっていないようだった。

 機械では無敵結界を突破出来ないとはいえ、過去に魔人から魔血魂の摘出を成した過去を持つパイアールは魔人であっても油断ならない存在だ。

 レイについては単純にその高い戦闘能力が脅威だった。

 

 寄り合い世帯の自由都市群は魔軍の謀略の標的になることもあったが、その仲介役であるDXの会はすでにわたしが握っている。

 絶対的な権力者がおらず、AL教の権威が通じやすいことも踏まえればそちらの対策は難しくないと信じたい。

 

「最後にゼスになりますが、魔人カイトと魔人ガルティア。……そして、魔人ケイブリスが侵攻しています」

 

「ケイブリスが?それは本当ですか?」 

 

 魔人カイトと魔人ガルティア。どちらも強力な魔人だが、それが霞むほどに敵の首魁であるケイブリスの存在は重要だった。

 何せ彼さえ討ってしまえばこの戦争は終結するのだ。その真偽次第で今後の方針がまるっきり変わると言って過言ではない。

 

「はい、六本の腕に角を持った怪物が前線にて暴れています。ガンジー王とアニス沢渡が対処されていますが、予断は許されない状況です。しかし、奇妙なのが戦闘で負傷して撤退したという報告もあることです」

 

「なるほど……」

 

 それはケイブリスの分身だと思われた。恐らくシャングリラを撮り損ねたことで警戒心を強め、転移よりも徒歩での移動に重点を置いているのだろう。

 そのために自分たちの領地と隣接した太い侵攻ルートであるゼスに分身を派遣したと考えれば納得が行く。

 あるいは比較的信頼のおけた魔人メディウサを失ったことで自力でカミーラを救出することを決めたのかもしれない。

 

「邪魔をするぞ!アイゼルはいるか!ホーネット様の命により、魔人サテラが来てやったぞ!」

 

 精鋭を集め、魔人討伐隊を組織する。その基本的な戦略は変わらない。

 ならばどういう順番で各国を巡るか、思索を巡らせているときだった。

 城の外から大声が響く。魔人という聞き捨てならない単語に、にわかに城内が騒がしくなりかけるが、力を使って沈静化する。

 

「ふふ〜ん、驚いたかアイゼル!サテラ()()が助けに来てやったぞ」

 

「いや、驚きました……」

 

「そうだろう!もっと驚いて、サテラたちに感謝するがいい!!」

 

 出迎えに来たわたしに対して威勢よく胸を張るサテラ。そして更にホーネット派の魔人の他の魔人たちまでここに来ていた。

 魔人メガラス、魔人シルキィ、魔人ハウゼル……。盟主ホーネットを除くホーネット派の魔人全員がここに集ったことになる。

 

「ホーネット様がリトルプリンセス様をお守りするためにわたしたちにアイゼルへの援軍を命じたの。人間界での行動ではあなたの指示に従うわ。わたしたちの力、存分に使ってちょうだい」

 

 サテラでは話が進まないと思ったのか、シルキィが事情を詳しく説明してくれた。

 ホーネット派の目的は魔王ガイの遺志を継いで魔王リトルプリンセスを擁立すること。それに即しての参戦だった。

 

「それはとても助かりますが、魔物界の方は大丈夫なのですか?」

 

「はい、魔物界の方はケイブリスが軍勢の多くを連れて人間界に出征しているため拮抗状態を維持出来ています。そのためにホーネット様の負担が大きくなってしまっているのが心配なのですが……」

 

「……ソソソ」

 

「なるほど」

 

 ケイブリスの目的が魔王の座の簒奪である以上、魔物界の戦線の重要度はもはやほとんどないと言っていい。

 ゆえにそこから戦力を引き抜いて人間界に回すのは理にかなっている。とはいえそれを実行に移すことが出来るのは恐ろしい決断力だといえた。

 敵の本陣への牽制のために一人だけ魔物界に残るのも凄まじい胆力だった。

 

 そんな主人の身を、ハウゼルは心配そうにしていた。

 寡黙なメガラスも、言葉にこそしないがそう思っていることが伺えた。

 

「現在わたしは人間の軍勢を率いて魔軍に対抗しています。皆さんにも、人間と共闘とまでは行かなくても互いを害することのない戦い方を要請します。人類が敗走してしまえば敵はリトルプリンセス様の捜索により多くの戦力を割くことが出来る……。それを避けるためです」

 

「それは分かったけれど、大丈夫かしら。わたしたちも同じ魔人として攻撃される可能性は高いんじゃないかしら」

 

「ふふっ、そこはわたしに任せてください。人間の権力者としての顔を持っていますので」

 

 思わぬ援軍。彼らをどう使うかは戦争の行く末を大きく左右することだろう。

 魔人討伐隊の出撃先と、ホーネット派魔人の配置。大いに悩む必要がありそうだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 そうしてほぼ丸一日悩み、軍師たちとも相談して各地域での戦略を決定した。

 まずはホーネット派魔人の布陣。

 

 ヘルマンにはメガラス。これは彼の出身種族であるホルスたちを仲間として取り込むことを期待しての判断だった。

 また強力な魔人であるメガラスならば凶悪な戦闘力を持つレッドアイにも対抗出来るだろう。

 

 リーザスにはシルキィ。高い防御力を持った彼女ならば鬼を相手にして戦線を維持出来るはずだ。

 高位の魔人である彼女ならばワーグの能力にも抵抗出来る。

 

 自由都市にはサテラを置くことにした。ホーネット派の中では戦力として一枚劣るが、ガーディアンの大量生産によってパイアールの機械兵団に対抗出来る。

 芸術家肌の彼女はこだわりのないガーディアンの作成を良しとしないが、すでに奴隷として洗脳済みの彼女ならば無理矢理に言うことを聞かせることが出来る。

 レイに対しては電撃の効かないハニーなどで対策出来るはずだ。

 

 そして最後にゼスにはハウゼルを置くことにする。

 魔人カイトも魔人ガルティアも大量殺戮を生き甲斐とする手合いではない。そして魔人ケイブリスも分身と目されている以上最も脅威なのはケイブリスの親征による大軍勢だ。

 その点高い魔力によって高い殲滅力を誇るハウゼルはうってつけだと言える。

 

 彼女たちには魔軍に勝つための戦いではなく負けないための戦いを要請している。

 ホーネット派として長きに渡り劣勢を戦い抜いて来た彼女たちならば、人類軍の被害を大きく減らしてくれることだろう。

 

 そして出撃先。これについてはまずはヘルマンから出撃することにした。

 理由としてはヘルマンは他地域と異なり戦線の維持すら困難な状況だからだ。

 魔人としての位は低くとも城や砦を物理的に破壊してしまえるバボラの脅威はそれだけ大きい。

 またあの国には聖魔教団の遺産もある。それを活用するためにも、早いうちに魔人を討伐して遺跡の探索を行える状況にする必要もあった。

 




今回が今年最後の更新になります。
来年からはいよいよ本格的な魔軍との戦争が始まります。
果たしてアイゼルはケイブリスを討ち倒し、自分の野望を叶えることが出来るのか?
お楽しみに!

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