ランスが女の世界で魔人アイゼルに転生〜洗脳能力と原作知識で魔王を目指す〜 作:斧池 数馬
ホルス。魔人メガラスの出身種族である彼らはこの大陸の生まれではない。宇宙を旅する船に乗ってやって来た、正真正銘の宇宙人だった。
サムライアリのように他種族を征服し、奴隷として、星から星へとその勢力を広げていく彼らがこの世界では大人しく、その存在すら知られていない理由はいくつか存在する。
まずこの地に降り立った集団が、疲れた人々と呼ばれる征服への意欲を失った個体たちで構成されていたこと。
次にこの地に不時着の際に彼らの船が故障し、技術者にも犠牲者が出てその高度な科学力を使えなくなっていたこと。
そして、最後の理由が、彼らの船の中にホルスを殺すホルス、デスホルスであるジャハルッカスが紛れ込んでしまっていたことだった。
無数にあるコールドスリープ装置のどれに誰が入っているかの記録も失われてしまい、ジャハルッカスがどこで眠っているかが分からず、ゆえに仲間たちのコールドスリープを解除することができないでいた。
「死死死死、死ャアアアアアアっ!!」
「ふんっ!」
「………!!」
言葉が分からなくとも伝わる殺意と敵意に満ちた一撃を剣で受け止める。その隙に超高速で突進したメガラスの一撃がジャハルッカスの腕を捥ぐ。
「猿の手に希う……!死になさい!!」
いくらホルスにとって殺戮の化身たるデスホルスとはいえ魔人二人を相手に勝ちの目はほとんどない。
だというのにジャハルッカスの殺意は衰える気配すら見えない。
今後の関係を思えば、周囲のコールドスリープ装置に被害を出すのは良くない。
早く仕留めるために魔剣の力を解放する。
「殺、殺、殺……」
大上段の一撃が、防ごうとした腕すら両断してジャハルッカスの頭部に炸裂する。
頭部の外骨格が割れて剣がめり込み、片目が弾けて体液が吹き出る。
それでもなお、ジャハルッカスは残ったもう片方の眼でわたしを睨み付けていたが、すぐに力尽きて地に伏した。
「ふう、メガラス。これの死体はわたしが始末しておきましょう。あなたは同胞たちとの再会を果たして来なさい」
「……恩に着る」
こうしてメガラスは同胞のホルスたちと再会を果たした。
彼らの女王であるテラ・ホルスは人類との平和的な共存を目的としている。
また、かつて魔王アベルによって殺戮の憂き目にあったホルスたちは、魔王の脅威にも危機感を持っている。
そういった点を利用すれば彼らとの共闘体制を構築するのは難しくないだろう。
それが今回の戦闘の目的だったが、もう一つがこのジャハルッカスだ。
強力な戦闘能力を持った死体は、いくらでも使い道がある。
それを考えて内心でほくそ笑むのだった。
◆ ◆ ◆
「皆の者!汝らに毘沙門天と、この帝の加護ぞある!力無き民衆を虐殺せんとする非道の輩に、天誅を下せ!!」
「おおー!謙信様ー!!」
「行きなさい!式神たちよ!!」
JAPANからの援軍としてヘルマンには国のトップである帝謙信が自ら軍を率いてやって来ていた。
虐殺を喜びとする魔物大将軍ルメイの組織した特別焼却師団は彼女の怒りを買い、帝の号令を受けた上杉家の兵たちは実力以上の力を発揮して魔物兵たちと互角に渡り合っていた。
「ふん、ノコノコとやってきおって……。ルメイ様の仰る通りだ。適当に人間共を焼いていれば、愚かな人間は怒り狂って突撃してくるとな。罠があるとも知らずに……」
特別焼却師団は突出して虐殺に精を出していると見せかけて、その布陣の左右に兵を潜ませていた。
怒り狂って突撃してくる敵兵を背後から攻撃し、仕留める。
ヘルマン方面軍トップの意向を受けた特別焼却師団は、その分だけ他の軍勢に対しても指示を出せる権限を有している。
今も戦っている軍勢も特別焼却師団のものではなく別の魔物将軍の麾下にある軍勢だった。
「ふふふ、背後から追い立てられたところを焼き殺してやる……。そうすれば手柄はわたしのもの……」
「しょ、将軍!大変です!」
「何だ!?」
「は、はい。左右に潜ませていた軍勢たちが、人間たちの攻撃を受けています!!」
「な、なんだとぉぉぉ!!!」
魔物将軍の戦術は、ヘルマン第一軍将軍、鷹の目を持つと謳われる男、レリューコフ・バーコフによって見破られていた。
歴戦の彼は地形から敵の手を見抜き、JAPANの上杉家と連動して特別焼却師団を討つべく動いたのだ。
即興の連携が上手く行った理由は二つ。JAPANの軍勢同様、アイゼルに支配されている闇の翼が両者の間を取り持ったこと。
そして、無力な民を虐殺せんとするものたちへの怒りを共有していたことだった。
レリューコフと第一軍のカール・オジザンがそれぞれ率いる隊によって、魔軍の別働隊は退けられていた。
この戦果には魔物大将軍ルメイの威を借りて威張っていた特別焼却師団の師団長を務める魔物将軍への反感もあった。
奇襲を受けた状態で戦い続け。犠牲を出してまで特別焼却師団を助けるモチベーションに欠いていたのだ。
「ええい、油と火を用意しろ!!交戦中のところを炎に巻かれてはひとたまりもあるまい!!」
「はっ!」
「仲間すら焼こうとはつくづく非道な輩だ」
「なっ、なんだと……!ぐはっ!」
冷たさすら感じる声色は義憤に燃える帝のものだった。
一太刀の元に周辺の兵たちもろとも魔物将軍の首が飛ぶ。
ひたすらに力押しの突撃。だが高い士気と技量によってそれは敵の防衛策が整う前に刀の切先を喉元に突き付けていた。
帝の特権たる剣戦闘レベル3と日本人への絶対的な命令権。それが元々凄まじかった謙信の戦闘力とカリスマを強化し、闇の翼による偵察によってすでに敵司令部の場所が割れていたことでこの特攻めいた奇襲が成功した。
「ああもう!謙信!JAPANの総大将が単騎で突っ込むなんて何を考えてるのよ!!」
「すまんな、愛。だがどうしてもこやつらを許すことは出来なかったのだ」
「それは同感だけど……。あんまり無謀なことばっかりするならアイゼル様に報告するからね!!」
「む、それは困る……。今、あの方は人類を背負っておられる身だ……。わたしのことに割くような暇はないはずだ……」
「……JAPANの軍勢とそれを率いる帝は、あの方にとっても大事な存在よ。少なくともそれだけは肝に銘じておきなさい」
「分かった。全く、愛には敵わないな」
そこに少し遅れて直江愛が馳せ参じる。
謙信の行動の理由も効果も理解出来てしまう。そこで彼女は彼女たちの主君であるアイゼルの名を持ち出して謙信を嗜めた。
◆ ◆ ◆
「というわけでJAPANの帝と第一軍将軍によって敵の特別焼却師団とやらは討たれたわ。おかげで前線では士気が上がってる。あなたが対魔人戦に専念する余裕は十分あるはずよ」
「それは良かった。わざと悲惨な犠牲を増やそうとする輩は許せませんからね」
「ふうん、革命のときも思ったけどあなたって意外とまともよね」
ジャハルッカスを討ち、ホルスの女王テラとの共闘の約定を取り付けたわたしは闇の翼頭領、フレイア・イズンから敵の特殊部隊が壊滅した報告を受けていた。
魔人討伐対最初の標的は魔人バボラ、巨大な身体を誇る彼はすでにいくつもの町や砦を壊滅させている。
戦力の摩耗を避けるために、いち早く倒さねばならない。
愚鈍な彼はケイブリスに利用されるだけの存在だが、その分他の魔人と異なり言われるがままに前線に出てくる。
敵からすれば悪夢のような巨体も、味方にすれば途轍もなく頼もしいものに映るため彼を慕う魔物兵たちも多くいた。
強大な破壊力を持つ兵器を小回りの効く歩兵が警護する。前世で言うタンクデサントに近い形態は単純が故に隙がない。
原作では魔人バボラが倒れる際に警護する軍勢を下敷きにすることで全滅させていたが、そうでなければ止めを刺し切る前になんらかの妨害を受けてしまっていたことだろう。
彼と彼を警護する軍勢を分断する、あるいは同時に相手取る。どちらも少数精鋭の奇襲にはそぐわない。
わたしが選んだのは、周囲の魔軍がやってくる前に素早く魔人バボラを撃破する策だった。
◆ ◆ ◆
「死死死ャアアア!!!」
「ぎゃあああ!!」
「なんだ、こいつは!?」
「ええい、バボラ様に近づけるなっ!」
まず周囲の魔軍に奇襲を仕掛けて隙を作る。
陽動のこの段階が一番危険が大きいため、ゾンビ兵化したジャハルッカスを用いた。
死霊魔法で操作され分厚いアーマーを装備した彼は、闘将並の戦闘力を発揮して魔物兵たちを切り裂いていく。
そして生前同様の強すぎる殺意が魔軍の注意を存分に引きつけてその布陣に綻びを生んでいく。
「やぁぁあああっ!!」
闇の翼の誘導によって敵の布陣をすり抜けたランスが、魔剣カオスによってバボラの無敵結界を破壊する。
「無敵結界の破壊を確認。合図の準備をしてちょうだい」
「はい!できました!」
フレイヤの指示でかなみが導火線付きの魔球を周囲に設置する。
ランスたちがその場を離れて少しすると魔球が爆発し、周囲に爆音を響かせる。
「なんだこの音は!!まさか、バボラ様への襲撃か?いかん!敵が魔人アイゼルならばバボラ様の無敵結界も通じない!急いでお助けに向かわねば……!!」
それはバボラを護衛する部隊の魔物将軍の元にも届いていた。
彼はすぐにバボラの身に危険が迫っている可能性を危惧して兵を動かした。
その迅速さはバボラに高い忠誠心を持つが故のものだと言え、他の魔物将軍ではもっと行動が遅くなっていたことだろう。
しかし状況はすでに彼にはどうしようも出来ないところまで進んでいた。
「ゆくぞ!黒色破壊光線!!」
「あんたが指示しないでよね!黒色破壊光線!!」
ミラクルが放った黒色破壊光線とガーネット、サファイア、トパーズが三色の破壊光線を融合させて放った黒色破壊光線がバボラの顔面に炸裂する。
何に阻まれることもなく命中した二条の破壊光線はバボラの眉間に風穴を開けた。
「ああもう!あのデカブツ、馬鹿すぎて魔法が効いてないんじゃないの!?」
しかしながら、バボラに目立った異変はなかった。
ダメージへの反応すら無いのはバボラの神経が鈍く、またその巨体ゆえに痛みをバボラが認識するまで時間がかかるせいだが、即死級のダメージを受けていれば起こるはずの魔血魂化もなかった。
「確かに、無敵結界が破れているというのに余の魔力をもってしても仕留められないというのはなかなか屈辱だな。その理由は分かっているが」
次の瞬間、バボラの額に空いた穴から白いものが高速で突入していく。それはメガラスに乗ったアイゼルだった。
バボラの身体にはただ一つだけ巨大化していない部位があった。
それは、脳。その頭蓋骨の中は伽藍とした空洞になっていて、そのどこかに通常サイズの脳が存在している。
黒色破壊光線がなんのダメージも与えることができなかったのは、なんてことはない。何もない空間を素通りしただけのことだった。
唯一巨大化していない部位にして、肉体のすべてを司るもの。
その巨体に見合った生命力を持ったバボラにとって唯一の弱点と言っていいのが脳だった。
もちろんその巨大な頭蓋骨に守られた脳にピンポイントにダメージを与えるのは困難を極めるが、すでに頭蓋骨のガードには綻びが生じている。
「ブラックジェット、解放。……黒の炎、放射!!」
ゆえに後は頭蓋の中すべてに攻撃するだけだった。
黒色破壊光線が貫通して空いた後頭部の穴から、黒の炎が吹き出る。
その炎はちっぽけなバボラの脳も焼き尽くし、当然それが致命的なダメージになってバボラは魔血魂となった。
◆ ◆ ◆
足元が無くなり空へと身を投げ出されるのはやはり不快な感覚だった。
バベルの塔から直接飛び降りたときと違い落下途中でメガラスに拾ってもらい墜落は避けられたとはいえ肝が冷えた。
下を見れば魔軍の混乱に乗じて、ヒューバート率いるヘルマン第三軍が攻め込んでいるのが分かった。
この様子だと魔剣魂の回収に向かう余裕はないだろう。
同時に緑の狼煙が上がる。こちらが魔血魂を回収した上で魔人討伐隊の撤退が完了したという、作戦の完全な成功を意味する物だった。
わたしは作戦の成功に達成感を覚えながら、メガラスと共に魔人討伐隊の本陣へと向かうのだった。
魔人バボラ撃破
魔人たちの中でもあまり強くない部類の魔人なので、このくらいあっさり倒せなくてはこの先を乗り切るのは難しいかなと思います
バボラを倒す上で障害となる彼を慕う魔軍たち、その巨体ゆえのタフさに対して解答を用意した上での勝利でした
感想・評価・お気に入りの登録をいただけますと大変嬉しいです